【2026年最新】タイ自動車市場:日系シェア7割割れ、中国EV大手の経営破綻——トヨタの中国部品調達のその後

タイ自動車市場

はじめに

2026年も後半に入り、タイ自動車市場では大きな変化が相次いでいます。本稿では、公表された実数に基づいて市場の現在地を整理するとともに、昨年の見立てがどこまで当たり、どこが違ったのかを検証します。当時は想定していなかった動き—中国EV勢に強まる淘汰圧力と、EV優遇策の厳格化—もあわせて取り上げ、日本企業の意思決定に使える形で全体像を示すことが本稿の目的です。

市場シェア:「日系7割割れ」は現実になり、2026年に低下は加速した

まずタイ自動車市場のシェアです。タイ国トヨタ自動車(TMT)の発表(2026年1月30日)によれば、2025年のタイ国内新車販売台数は前年比8.5%増の62万1,166台と、3年ぶりに前年を上回りました。市場全体は回復した一方で、その中身は大きく変わっています。

  • 日系メーカーの合計シェアは76.7%から69.3%へと7.4ポイント低下し、初めて7割を割り込みました。日系で前年実績を上回ったのはトヨタのみで、日系合計の販売台数は2.0%減少しています。
  • 乗用車セグメントでは、日系シェアが64.8%から62.1%に低下する一方、中国系は18.8%から22.1%に上昇しました。なお、この集計における「中国系」は主要ブランドベースであり、集計対象外の中国ブランドが「その他」に含まれるため、中国系の実勢シェアはこの数字を上回るとみられます。
  • 変化がより顕著なのは商用車です。中国系のシェアは7.1%から16.0%へと倍増以上の伸びを示し、裏返しに日系は84.4%から73.8%へと10.6ポイント低下しました。乗用車(2.7ポイント低下)より深い変化が、日系の牙城だった商用車で起きています。ただし、商用車の中核である1トンピックアップトラックに限れば、日系シェアは91.5%から91.2%への微減にとどまっています。

2026年に入ると、この流れは加速しました。ジェトロの集計によれば、2026年3月25日から4月5日に開催されたバンコク国際モーターショーでは、会期中の四輪販売予約13万2,951台のうち、中国系ブランドが68.1%を占め、日系(27.3%)の2倍を超えました(国籍資本別のジェトロ集計ベース)。予約台数のブランド別首位はBYD、2位がトヨタで、出展40ブランドのうち18が中国系という構成でした。

通期・上半期の実数でも同様です。タイ工業連盟(FTI)の発表によれば、2026年上半期の国内新車販売は34万6,966台と前年同期比14.6%増となり、内需は明確に回復しています。他方、時事通信の報道によれば、上半期の日系シェア(登録ベース)は62.8%まで低下し、中国系は26.5%に達しました。2026年1月には、EV3.0補助金の登録期限前の駆け込みという特殊要因を含むものの、月次ベースで中国系のシェアが日系を上回ったと報じられています。

そして、パワートレイン別の「棲み分け」は数字の上で一段と鮮明になりました。ジェトロの集計によれば、2026年1〜6月のBEV(乗用車)新規登録に占める中国メーカーの合計シェアは90.0%、HEV(乗用車)に占める日本メーカーの合計シェアは97.8%です。BEVは中国系、HEV・ピックアップは日系という二層構造が、タイ自動車市場の現在の基本骨格と言えます。

完成車メーカー側の再編も実行段階に移りました。スバルは2024年12月に現地生産を終了し、スズキは2025年末でタイ工場での生産を終えました(跡地は隣接する米フォードが取得したと報じられています)。ホンダの工場集約、日産の生産縮小も継続しています。

小括すると、「日本車の牙城が揺らぐ」という昨年の見立ては数字の上でそのとおりに進み、しかも日系シェアの低下は2025年までの緩やかなペースから、2026年に入って明確に加速しました。一方で一様に崩れているわけではなく、BEV・汎用セグメントでは中国系への置き換えが進む一方、HEVとピックアップという中核領域は依然として堅い、という二層構造が確認できます。

調達網:中国系サプライヤーの集積は進むが、日系の商機には直結していない

次に、調達網の変化です。トヨタが主導したとされるサミット・グループと蕪湖躍飛の合弁は、2028年頃に投入予定の新型車—EV専用ではなく、EV・HVなど複数の動力に対応するマルチパスウェイ・プラットフォーム採用車—への供給を見据えたものです。この件は日本経済新聞の関係者ベースの報道によるもので、現時点で当事者による公式発表はなく、合弁の正式名称・出資比率・工場所在地等は公開情報では確認できません。前史として、躍飛は2024年10月にサミット系のSummit Auto Seats Industryと戦略提携を調印したことを自社サイトで公表しており、現時点は量産に向けた準備段階にあるとみられます。

個別案件の進捗が表に出るのはこれからですが、その背景にある「中国系サプライヤーのタイ集積」は、統計・報道の両面で確認できます。タイ投資委員会(BOI)の2025年の投資奨励申請は件数・金額とも過去最高を記録し、自動車関連の認可プロジェクト200件超の約半数を中国系が占めると報じられています。在タイの中国系部品メーカーは約190社に達し、ジェトロのレポート(2024年12月時点)によれば、電池の国軒高科(Gotion)や蜂巣能源(SVOLT)をはじめとする中国系サプライヤーがラヨーン県・チョンブリ県に相次いで工場を設立しています。

一方で、この集積が日系部品メーカーの商機に直結しているかというと、実態は厳しいものがあります。同じジェトロのレポートが中国系メーカー等にヒアリングした結果によれば、中国系OEMのタイでの現地調達先は主に中国系サプライヤーと地場系サプライヤーであり、日系部品メーカーが採用されているケースは多くありません。「日系OEM向けの販売減を中国系OEM向けでカバーする」という道は、現時点では狭き門にとどまっています。

想定と異なる動き:中国EV勢に強まる淘汰圧力

昨年の時点で当社が想定していなかったのは、攻勢をかける中国勢の側で淘汰圧力が強まり、選別が始まったことです。象徴的な出来事が、NETA(哪吒汽車)の経営破綻でした。

タイ政府データによれば、2025年1〜5月のNETA車の新車登録は前年同期比48.5%減となり、EV登録に占めるシェアは4%まで低下しました。ピーク時の2023年にはタイEV販売の約12%(Counterpoint Research調べ)を占めた有力ブランドの急落です。親会社の合衆新能源汽車(Hozon Auto)は2025年6月、中国・嘉興市中級人民法院で破産重整(再建型の法的整理)の受理決定を受け、手続きは2026年8月時点も継続しています。タイ国内では、現地報道によれば、物品税局が補助金の支払いを停止したうえで既払い分の回収に動き、タイ法人の提訴と資産差押えを目指す方針が伝えられています。補助金の条件だった国内補償生産も義務台数を大きく下回り、ディーラーへの未払い、購入済みオーナーのアフターサービス不安が続いています。

値下げ競争の消耗も、副作用を伴いました。BYDでは2024年、度重なる値下げに対して先に高値で購入した消費者の反発が広がり、当局の調査に発展しました。タイ消費者保護委員会は2024年11月、広告規制違反はなかったとの判断で決着させましたが、価格戦略がブランドと顧客関係に負荷をかけるという消耗戦の副作用を示した事例と言えます。

背景には乱立があります。ロイターの報道によれば、タイの中国EVブランド数は1年で倍増して18に達し(2025年央時点)、前述のとおりモーターショー出展40ブランドの半数近くを中国系が占める状況です。中国国内では、長安汽車の朱華栄会長が2023年の時点で「今後2〜3年で中国の自動車ブランドの6〜7割が淘汰される」との見方を示していましたが、その淘汰の波が、最大の輸出先市場であるタイにも及び始めた構図です。

ただし、現時点で実名で確認できるタイからの実質的な撤退はNETAにとどまり、中国勢の新規参入や現地生産化の動きは続いています。正確に言えば、タイ自動車市場で起きているのは「淘汰の完了」ではなく「淘汰圧力の強まりと選別の始まり」です。そしてこの選別は、消費者の側に「そのブランドは5年後も存続しているか」「アフターサービスは維持されるか」という新しい判断軸を生みました。ブランドの継続性、サービス網、リセールバリューという日系メーカーの伝統的な強みが、価格一辺倒の局面から一歩進んだ市場で再評価される余地が出てきたと考えられます。

1年前の見立てと現在:対比表

1年前の見立てと、2026年8月時点で確認できる事実を対比すると以下のとおりです。

論点2025年8月時点の当社見立て2026年8月時点で確認できる事実
日系シェア約71%まで低下、さらなる低下を懸念2025年通年で69.3%と7割割れ。2026年上半期は登録ベースで62.8%と報じられ、低下が加速
日系の生産再編スズキ閉鎖予定・ホンダ集約方針の段階いずれも実行段階に移行(スズキは2025年末で生産終了、跡地はフォードが取得と報道)
トヨタの中国部品調達2028年新型車に向け合弁設立等に着手当事者の公式発表はなく、量産に向けた仕込み期とみられる
中国勢の動向攻勢の継続を想定攻勢は継続。一方でNETA親会社が破産重整(再建型)入りするなど淘汰圧力が表面化(当時は未想定)
政策環境HVは日系の強みだが長期的にはEVシフト不可避HV物品税6%の2032年までの適用が条件付きで確定。他方、EV優遇は2026年に国産化要件を厳格化(当時は未想定の分岐)

2026年の市場環境:内需回復と輸出減の二極化、そして政策の分岐

先行きを考えるうえで、2026年の市場環境は「内需」と「輸出」で明暗が分かれています。FTIは2026年7月、通年の生産目標を150万台から145万台に下方修正しました。削減分5万台はすべて輸出向け(95万台→90万台)で、国内向け55万台は据え置きです。中東情勢による輸出の急減、米国の通商障壁、輸出市場での中国EVとの競合が理由に挙げられており、上半期の生産実績は71万7,212台(前年同期比1.04%減)でした。なお2025年の生産実績は145万5,569台(0.9%減)です。内需が14.6%増と回復する一方で輸出向け生産が減るという二極化は、輸出比率の高い日系の生産体制に固有の圧力となります。また、与信厳格化を背景にピックアップの販売低迷が続いており、現地調達率の高い車種だけに、タイのサプライチェーン全体の収益への影響が大きい点は留意が必要です。

政策面では、二つの方向の異なる動きが同時に起きています。

一つはHVへの猶予です。HV(低排出の場合)の物品税率6%(CO2排出量100g/km以下。101〜120g/kmは9%)が2026年1月から2032年末まで適用されることが法令化されました。ただし無条件ではなく、報道によれば、2024〜2027年の30億バーツ以上の実投資、ADAS(先進運転支援システム)の搭載、国内部品の使用(段階的にタイ製バッテリーパック等)が条件とされています。つまりHVの政策的猶予は、現地化投資とセットで与えられるものです。

もう一つはEV優遇の厳格化です。輸入バッテリーセルの現地調達額への算入は2026年に縮小されたうえで同年6月末で終了し、EV3.5の補償生産比率は2026年に輸入1台:国内生産2台、2027年には1:3へ引き上げられます。2026年からは輸入EVが補助金の対象外となり、物品税も引き上げられました。「輸入して売る」フェーズは制度的に終わり、現地生産の実体が問われる段階に入っています。

ここからの含意:当社の見立て

以上の事実を踏まえた当社の見立ては次のとおりです。

第一に、日系メーカーの防衛ラインはHVとピックアップであり、その持続力は政策に支えられていますが、猶予は無条件ではありません。物品税6%の適用条件が示すとおり、猶予は現地化投資の実行とセットです。「時間を買った」のではなく「投資を条件に時間を与えられた」と捉えるべきです。

第二に、昨年のレポートで当社は「現地合弁・現地生産の形での中国系の参入は、現地調達要件と両立してしまう」と指摘しましたが、2026年の制度改正を踏まえると、この見方は更新が必要です。制度はむしろ厳格化に向かっており、国産化要件が実質化すれば、中国系サプライヤー・OEMは本格的な現地化投資を迫られます。これを実行できる体力のある企業とない企業の選別が進む一方、電動化の中核部品を現地で供給できる日系サプライヤーには新たな商機が生まれ得ます。実際、日系部品大手がインバーター等の電動化部品の現地生産投資に動く例も報じられています。「制度は防波堤にならない」のではなく、「制度の厳格化が新たな分岐を生む」局面です。

第三に、中国系との提携・受注を検討する場合の選別眼です。NETAの事例が示したのは、シェアの数字だけで相手を判断するリスクにとどまりません。タイ政府が補助金の回収・資産差押えに動いているように、提携先が破綻した場合、その債務処理や生産義務の未達は取引先・合弁相手をも巻き込み得ます。相手の財務体力、親会社の状況、補助金に紐づく義務の履行状況まで含めた確認が、提携の前提条件になります。

第四に、意思決定の時間軸です。当社は、タイに拠点を持つサプライヤーの事業判断は、HV需要と条件付きの政策的猶予が持つ5〜7年程度の中期の時間軸と、EV中心への移行が進む10年程度の長期の時間軸の二段で設計すべきと考えます。5〜7年の猶予は「現状維持でよい期間」ではなく、事業ポートフォリオの転換、拠点の再配置、あるいは事業売却・撤退といった構造的な打ち手を、企業価値が維持されているうちに実行するための期間です。

日本企業への示唆:窓が開いているうちに検討すべき三つの選択肢

以上を踏まえ、タイに拠点を持つ日系サプライヤー・日本企業が検討すべき選択肢を整理します。

1. 現地事業の再点検

自社の製品ポートフォリオがEV移行にどこまで耐えられるか、顧客構成(日系OEM依存度)がどう変化しうるかを、上記の5〜7年・10年の二つの時間軸で棚卸しすることが出発点です。その際、「堅いセグメント」の定義は毎年見直す必要があります。本稿で見たとおり、商用車の日系シェアは1年で10ポイント超低下しました。ピックアップの中核は堅くても、周辺から浸食が進んでいます。

2. 中国系との提携・合弁

サミット・グループと躍飛の事例は、地場・既存プレーヤーが中国系の「受け皿」側に回るという選択肢を示しました。技術・顧客基盤・現地オペレーションを持つ日系サプライヤーにとっても、中国系サプライヤーやOEMとの提携・合弁は検討に値します。重要なのは、淘汰圧力が強まる局面はパートナーを選別できる局面でもあるということです。誰が生き残るのかを、財務・親会社・補助金債務まで見て見極めたうえで、生き残る側と組む—その目利きが提携の成否を分けます。

3. 撤退・売却・カーブアウト

事業の将来性を検討した結果として、撤退や売却、一部事業のカーブアウトが合理的な結論になるケースもあります。ここで強調したいのは、撤退・売却の条件は事業が回っている時期にこそ良い、ということです。受注が細り、赤字が定着してからの売却は、買い手の選択肢も価格も大きく制約されます。

実際、タイ・自動車部品領域では出口の市場が機能し始めています。スズキの工場跡地は隣接するフォードが取得したと報じられ、「撤退=拠点の価値消滅」ではないことを示しました。日系大手による自動車関連事業の譲渡(レゾナックから森六への事業譲渡、ブリヂストンのスチールコード事業のベカルトへの譲渡)も公表されています。さらに2026年2月には、タイ最大の自動車部品メーカーであるタイ・サミット・グループ(本稿で触れたサミット・グループとは、同族から分かれた別の企業グループです)について、創業家が最大20億ドル規模での売却を検討しているとBloombergが報じました。会社側は否定していますが、EVシフトと事業承継を背景に、タイ最大級の部品メーカーですら出口が取り沙汰される局面です。規模を問わず、「持ち続ける」以外の選択肢を検討すること自体が、標準的な経営判断になりつつあります。

いずれの選択肢を取るにせよ、共通するのは「意思決定の窓が開いているうちに検討を始める」ことの重要性です。本稿の検証が示すとおり、タイ自動車市場の構造変化は1年前の想定どおり—シェアの面ではそれ以上の速度で—進んでいます。次に答え合わせをする2〜3年後には、選択肢は今より確実に少なくなっているはずです。

当社について

Syntax Partnersは日本発のアドバイザリーファームとして、東南アジアを中心にアジア全域で、M&A及び海外事業戦略に関する助言・支援を提供しています。主な支援内容は以下の通りです。

  • ASEAN市場でのM&A・資本提携支援
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