SIer業界M&Aの最新動向と事例 :人材・専門領域の獲得と大手グループの資本再編

SIer業界M&A

(2026年10月更新)

国内の情報サービス市場は、売上高の拡大が続いています。この数年のSIer業界M&Aを見ると、大手では、親会社が上場子会社のSIerを完全子会社化する資本再編が相次ぎ、NTTデータグループ、伊藤忠テクノソリューションズ、SCSKが上場を廃止しました。その外側では、企業グループに属していたIT企業がファンドや他のSIerに移り、上場SIerが非上場のオーナー企業を取得する案件が、大阪を含む各地で続いています。アクセンチュアなど海外のITサービス会社による国内企業の取得も相次ぎ、国内大手は海外で、データ・AIや業種向けソフトウェアの会社を取得しています。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されているSIer・ソフトウェア開発会社のオーナー・親会社の皆様を念頭に、SIer業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内大手による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. SIer業界の市場構造 — 拡大する需要と再編の要因

市場規模

情報サービス産業協会(JISA)の「2025年版 情報サービス産業 基本統計調査」によると、回答企業300社(2024年度、単体決算)の売上高合計は10兆6,695億円、従業員数の合計は279,677人で、増収率は加重平均で5.08%でした(JISA 2025年版 情報サービス産業 基本統計調査)。回答企業の本社所在地は、首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)が73.0%、その他の地域が27.0%です。

官公庁の統計では、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」で、2024年の情報サービス業の売上高は17兆9,203億円(前年比5.5%増)でした。業務の種類別では、受注ソフトウェアが11兆430億円(構成比61.6%、前年比7.8%増)で、このうちシステムインテグレーションが7兆3,163億円(同9.7%増)です。受注ソフトウェアと並ぶ区分では、ソフトウェアプロダクトが1兆9,172億円(同4.2%減)、システム等管理運営受託が2兆2,364億円(同3.9%増)でした。同統計は2024年12月分で終了し、2025年1月分からは総務省の「サービス産業動態統計調査」に統合されたため、2025年以降の数値とは系列がつながりません。

調査の範囲が最も広い総務省・経済産業省の「経済構造実態調査」(2025年調査、2024年実績)では、情報サービス業の売上高は43兆5,014億円で、受注ソフトウェアの制作は元請が16兆8,783億円、下請が4兆2,589億円と区分されています(経済構造実態調査 2025年調査の結果)。

3つの統計は対象企業の範囲と集計の方法が異なるため、数値の水準は一致しません。本稿では、業務の種類別の内訳に特定サービス産業動態統計調査、元請・下請の区分に経済構造実態調査、顧客業種別の構成にJISAの調査を用います。

顧客業種別の特性

SIerの事業は、顧客の業種によって、求められる業務知識、案件の規模、取引の形が異なります。M&Aでも、どの業種の顧客基盤と業務知識を持っているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。

顧客業種JISA回答企業の売上構成比事業上の特性(本稿の事例に表れたもの)
金融22.8%勘定系、市場系(債券・デリバティブ)、地方銀行の共同化システムなど、業務知識を持つ技術者が案件の前提となる。事例⑧のエフ、事例⑩のCLIMBが該当
製造20.5%販売・生産管理、CAD/CAM/CAE、外観検査AI、マテリアルハンドリングなど、顧客の業務と設備に合わせた開発。事例⑤⑥⑦⑧の対象会社が該当
サービス15.1%顧客の業態が多様で、デジタルプロダクトの企画・開発も含む
官公庁・自治体14.7%制度改正と国の施策に連動する。自治体の情報システムは標準準拠システムへの移行が進む
通信10.1%通信事業者の課金・顧客管理システムなどの業務システム。海外では事例⑬のCSGが該当
同業者7.0%他のSIer・ソフトウェア会社からの受託。多重下請構造の一部をなす

構成比はJISA「2025年版 情報サービス産業 基本統計調査」の顧客業種別売上高から主な区分を抜粋したものです。

業界再編を動かす5つの要因

  1. 需要の拡大と技術者の制約 — 上記のとおり、システムインテグレーションの売上高は2024年に前年比9.7%増えました。一方、ユーザー企業の側でも人材が不足しています。情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」では、DXを推進する人材の量が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた日本企業は合計85.1%でした(IPA「DX動向2025」)。経済産業省が2019年に公表したIT人材の需給の試算では、2030年の不足は中位の想定で約45万人、高位の想定で約79万人とされています。本稿の事例では、技術者・人材の確保を取得の理由に挙げる買い手が多くあります(第5章)。
  2. 多重下請構造と取引規制の強化 — 経済構造実態調査では、受注ソフトウェアの制作の約2割(4兆2,589億円)が下請の売上です。JISAの回答企業の売上高に対する外注費の比率は、加重平均で33.54%でした。経済産業省は「DXレポート2」(2020年)で、大手ベンダー企業がユーザー企業から業務を請け負い、その一部を下請企業に委託する多重下請構造が取られてきたと指摘しています。公正取引委員会は2022年のソフトウェア業の下請取引に関する実態調査で、業界全体でサプライチェーンのスリム化に向けた取り組みを進めることを求めています。2026年1月1日には改正下請法(中小受託取引適正化法)が施行され、ソフトウェア開発の再委託を含む取引で、協議に応じない一方的な代金決定や手形払いが禁止されました(公正取引委員会 取適法リーフレット)。
  3. 大手グループの資本再編とグループ会社の売却 — 親会社が上場子会社のSIerを完全子会社化する取引が続きました。伊藤忠商事による伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の公開買付け(2023年公表、同年12月に上場廃止)、日本電信電話(NTT)によるNTTデータグループの公開買付け(2025年公表、同年9月に上場廃止)、住友商事によるSCSKの公開買付け(2025年10月公表、2026年3月に上場廃止)です。富士ソフトも2023年に上場子会社4社を公開買付けで完全子会社化し、TISはグループ会社のインテックと2026年7月1日に合併して商号をTISI株式会社に変更しました。NTTと住友商事は、親子上場の利益相反の解消、意思決定の迅速化、成長投資の加速を目的に挙げています。これらはグループ内の再編であり、本稿では再編事例に数えていません。一方で、本業とのシナジーなどを理由に、グループのIT企業を外部に譲渡する例も続いています(事例①⑪、事例⑩のゆめみ)。親会社がグループのIT企業を取り込む取引と手放す取引が、並行して進んでいます。
  4. データ・AI、上流、運用サービスへの事業領域の拡大 — 本稿の事例の買い手は、データ活用(事例⑩のSI&C)、ネットワーク基盤とアプリケーションの組み合わせ(事例③)、人材育成とAI開発(事例⑩のアイデミー)などを取得の理由に挙げています。上流のコンサルティングでは、NSDがコンサルティング会社のTriggerを2022年に子会社化し、SHIFTが2025年にライズ・コンサルティング・グループの32.53%を取得して、上流のコンサルティングと自社の開発体制の結合を狙いに挙げています。海外でも、国内大手がデータ・AIの会社を取得しています(事例⑫)。受託開発の人員を増やすことに加えて、提供できるサービスの範囲を広げる取得が並行して進んでいます。
  5. 事業承継 — 東京商工リサーチの2025年の調査では、後継者不在率は全体で62.60%、情報通信業は77.06%で、10産業のなかで最も高い水準でした。ただし、情報通信業には放送、通信、インターネット附随サービス業なども含まれ、同調査では代表者の年齢が30歳未満で97.01%、70代で32.01%と、不在率は代表者の年齢によって大きく異なります。この数値だけで、SIerのオーナー企業の承継の状況を示すことはできません。中小企業庁は、後継者不在率は低下傾向にあり、事業承継には一定の進展がみられるとしています(中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」)。SIer業界では、個人が株式の大半を保有する企業が上場SIerに譲渡される案件が続いています(事例⑤⑥⑧)。ただし、これらの開示に示されているのは買い手の取得理由であり、売り手が承継を理由に挙げたかどうかは示されていません。

2. 業界プレイヤー構図

大手

会社連結売上高上場・資本関係
NTTデータグループ5兆46億円(2026年3月期)2025年9月に上場廃止。NTTの完全子会社
富士通3兆5,029億円(2026年3月期)。うちサービスソリューション2兆3,469億円東証プライム
NEC3兆5,827億円(2026年3月期)。うちITサービス2兆5,089億円東証プライム
日立製作所10兆5,868億円(2026年3月期)。うちデジタルシステム&サービス約2兆9,400億円東証プライム
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)7,937億円(2026年3月期)2023年12月に上場廃止。伊藤忠商事の完全子会社
SCSK7,803億円(2026年3月期)2026年3月に上場廃止。住友商事の完全子会社

大手のうち3社は、2023年から2026年にかけて親会社の完全子会社となりました。海外では、日立製作所、NEC、富士通、NTTデータグループが買収を続けています(第4章)。

上場の中堅・専業

会社連結売上高主な領域・直近の動き
TISI(旧TIS)5,964億円(2026年3月期)2026年7月にインテックと合併し商号変更。ベトナムのNTQ Solutionに出資(2024年)
BIPROGY4,336億円(2026年3月期)大日本印刷が21.44%を保有(2026年3月末)
日鉄ソリューションズ3,813億円(2026年3月期)日本製鉄の子会社。2025年にインフォコムの取得で合意(事例①)
電通総研1,649億円(2025年12月期)電通グループが61.8%を保有。伊藤忠グループによる公開買付けを予定(事例②)
DTS1,352億円(2026年3月期)仙台の東北システムズ・サポートを取得(2024年)
SHIFT1,298億円(2025年8月期)子会社のALHを通じて小規模の取得を継続(事例⑧)。ライズ・コンサルティング・グループに出資(2025年)
NSD1,178億円(2026年3月期)コンサルティングのTrigger(2022年)、医療系のノーザ(2023年)を取得
クレスコ646億円(2026年3月期)名古屋のオフィスメーションを取得(2026年)

このほか、コアコンセプト・テクノロジー(東証グロース)、シーイーシー、システムインテグレータ、ソルクシーズなどの上場SIerが、非上場のオーナー企業を取得しています(第3章)。

大手グループ傘下のIT企業

製造業、金融、電力・ガスなどの大手企業グループには、親会社の情報システムを担ってきたIT企業が置かれています。上場会社では、日鉄ソリューションズ(日本製鉄の子会社)、電通総研(電通グループが61.8%)、さくらケーシーエス(三井住友銀行29.02%、三井住友ファイナンス&リース17.99%、富士通Japan 14.08%。2026年6月末)があります。非上場では、コベルコシステム(日本IBM 51%、神戸製鋼所49%)、住友電工情報システム(住友電気工業60%)、オージス総研(大阪ガス100%)などがあります。

この数年、グループに属していたIT企業の資本の移動が続いています。帝人の子会社だったインフォコムは、ブラックストーンを経て日鉄ソリューションズに移り(事例①)、電通総研は伊藤忠グループによる公開買付けが予定されています(事例②)。沖電気工業は中国のソフトウェア開発子会社2社の65%をベトナムのFPTに譲渡し(事例⑪)、日本IBMは地方銀行の共同化システムを手がける地銀ITソリューションの完全子会社化を2025年12月に発表しました。

オーナー系の非上場企業

非上場のSIer・ソフトウェア開発会社には、創業者・代表者が株式の大半を保有するオーナー企業が多くあります。本稿の事例では、代表取締役が77.9%を保有していた情報システムサービス(事例⑤)、個人株主1名が80.8%を保有していたシステム開発研究所(事例⑥)、個人1名が全株式を保有していたオフィスメーション(事例⑧)が、上場SIerに譲渡されています。非上場企業は開示される情報が少なく、候補先の特定には公開データベースに頼らない調査が必要です。

関西への集積

JISAの回答企業の73.0%は首都圏に本社を置きますが、関西にも上場・非上場のSIerが本社を置いています。関西に本社を置く主なSIerには、日本システム技術(大阪本社:大阪市北区。東京本社も置く)、ODKソリューションズ(大阪市中央区)、住友電工情報システム(大阪市淀川区)、NTTデータ関西(大阪市北区)、さくらケーシーエス(神戸市中央区)、コベルコシステム(神戸市灘区)があります。2024年から2025年には、大阪市に本社を置く非上場のSIer4社が、東京などの上場SIerに譲渡されました(事例⑤⑥⑦)。


3. 国内のSIer業界M&A事例 — グループからの切り出し、上場会社の統合、オーナー企業の譲渡

事例① 帝人・ブラックストーン・日鉄ソリューションズ × インフォコム(2024〜2025年)— 事業会社の子会社をファンドが取得し、ITサービスを大手SIerに移管

インフォコムは、電子コミック配信などのネットビジネスと、ITサービスの2つの事業を持つ東証プライムの上場会社で、帝人が57.65%を保有していました。2024年6月、米投資ファンドのブラックストーンは、インフォコムに対する公開買付けを1株6,060円で実施すると発表しました。帝人は公開買付けに応募せず、スクイーズアウトの後にインフォコムが帝人の保有株を1株4,231円で自己株式として取得する形を取りました。帝人は売却の理由として、事業ポートフォリオの変革の必要性が高く、インフォコムとのシナジーを見いだせなかったことを挙げています。売却は入札の手続きを経て決まり、インフォコムは2024年10月に上場を廃止しました。ブラックストーンは、非公開化による長期の投資、同社のネットワーク、オフショア開発の資源、M&Aの活用を示していました。

2025年4月、ブラックストーンが保有するインフォコムホールディングスは、インフォコムの全株式を日鉄ソリューションズに譲渡する契約を締結しました。電子コミック事業を運営する子会社は事前にインフォコムホールディングスの傘下に移し、日鉄ソリューションズにはITサービスの事業だけが移ります。譲渡の実行は2025年7月1日の予定と公表され、同日、日鉄ソリューションズ出身の取締役がインフォコムに就任しています。

本案件は、(i)事業会社が、本業とのシナジーを見いだせないことを理由に上場子会社のIT企業を手放した、(ii)性格の異なる2つの事業を持つ会社をファンドが取得し、ITサービスの事業を約1年で大手SIerに移した、(iii)最終的な取得者が、自らも製造業グループに属するSIerであった、という点を示しています。

事例② 伊藤忠グループ × 電通総研(2026年、公開買付け予定)— 親会社が持分を残す形での合弁化

2026年8月、伊藤忠商事が80%を出資する合同会社VICは、電通グループが61.8%を保有する電通総研に対し、1株2,880円で公開買付けを実施する予定と公表しました。開始は2026年11月上旬をめどとしています。電通グループは公開買付けに応募せず保有を続け、成立後、電通総研は上場を廃止したうえで電通グループと伊藤忠グループの合弁会社となる予定です。伊藤忠グループのCTCとの業務提携も予定されています。

本案件は、(i)事業会社グループに属する上場SIerについて、親会社が全株式を手放すのではなく、持分を残したまま別の企業グループを資本に迎える形が選ばれた、(ii)総合商社が、グループのSIer(CTC)との提携を前提に、別のSIerに出資する、という点を示しています。公開買付けは本稿の公開時点で開始前です。

事例③ SCSK × ネットワンシステムズ(2024〜2027年)— ネットワーク基盤とアプリケーションの組み合わせ

SCSKは2024年11月、東証プライム上場のネットワンシステムズに対する公開買付けを1株4,500円で実施すると発表しました。前営業日の終値に対するプレミアムは25.91%、6か月平均に対しては42.14%です。ネットワンシステムズの2024年3月期の連結売上高は2,051億円、営業利益は195億円でした。公開買付けの結果、SCSKは79.69%を約2,849億円で取得し、2024年12月に子会社化しました。ネットワンシステムズは2025年3月に上場を廃止しています。

SCSKは取得の狙いとして、ITインフラとアプリケーションサービスの融合を挙げ、ネットワークとSCSKのサービスの相互展開、インフラ運用のワンストップ化、自治体向けの展開などを施策としています。2026年10月1日には、ネットワンシステムズのマネージドサービス事業をSCSKの運用子会社に統合し、グループのマネージドサービス売上高を2030年度に2,300億円とする目標を示しました。ネットワンシステムズは2027年4月1日にSCSKに吸収合併される予定です。

本案件は、(i)ソフトウェア・SIを主とする会社が、ネットワーク基盤の構築を主とする上場会社を取得し、提供範囲を広げた、(ii)買い手が、子会社化(2024年12月)から運用サービスの統合(2026年10月)、合併(2027年4月予定)へと段階的に進め、統合の目標を売上高で示した、という点を示しています。

事例④ 富士通 × ブレインパッド(2025〜2026年)— データ分析会社の取得

富士通は2025年10月、データ分析・活用の支援を手がけるブレインパッド(東証プライム)と経営統合契約を締結し、1株2,706円で公開買付けを実施すると発表しました。第2位株主のディシプリン、取締役で第3位株主の佐藤清之輔氏、りそなホールディングス、取締役会長の高橋隆史氏、伊藤忠商事が、合計26.37%について応募することに合意していました。ブレインパッドは2026年3月に上場を廃止しています。

本案件は、(i)大手SIerが、データ分析の専門会社を経営統合の形で取得した、(ii)主要株主、経営陣、事業会社の株主が、公開買付けへの応募を事前に合意した、という点を示しています。

事例⑤ シーイーシー × 情報システムサービス(2025年)— 関西の体制強化を目的とするオーナー企業の取得

情報システムサービス(大阪市北区、1991年設立)は、販売管理・生産管理システムの受託開発と自社パッケージを手がける非上場企業で、2024年3月期の売上高は12億9,700万円、営業利益は7,100万円でした。売上高は直近3期で9億800万円、11億1,000万円、12億9,700万円と増加しています。株式は代表取締役が77.9%、ほか個人が保有していました。東証プライム上場のシーイーシーは2025年2月、全株式の取得を決議し、4月1日に取得しました。取得価額は開示されていません。シーイーシーは取得の理由として、システム開発事業の領域の拡大と関西地区の体制強化を挙げ、中期経営計画のM&Aの加速策の一環と位置づけています。

本案件は、(i)首都圏の上場SIerが、関西地区の体制強化を理由にオーナー企業を取得した、(ii)対象会社の売上高は約13億円で、直近3期は増収であった、という点を示しています。

事例⑥ システムインテグレータ × システム開発研究所(2025年)— 業務知識を持つ技術者の取得

システム開発研究所(大阪市中央区、1983年設立)は、ソフトウェアの導入コンサルティングと開発を手がける非上場企業で、2023年12月期の売上高は2億4,700万円、営業利益は3,700万円、純資産は1億8,100万円でした。株式は個人株主1名が80.8%、ほかの個人が残りを保有していました。東証スタンダード上場のシステムインテグレータは2025年1月に取得を決議し、3月に完全子会社化しました。取得価額は開示されていません。同社は取得の理由として、IT技術と生産管理業務の両方に通じた人材の確保と、製造業向け事業の強化を挙げています。

本案件は、(i)売上高2億円台のオーナー企業が上場SIerの取得の対象となった、(ii)買い手が、製造業の業務知識を持つ技術者の確保を取得の理由に挙げた、という点を示しています。

事例⑦ コアコンセプト・テクノロジー × Pro-X・デジタルデザインサービス(2024年)— 同じ日の2社の取得

製造業向けのDX支援を手がけるコアコンセプト・テクノロジー(CCT、東証グロース)は2024年4月16日、大阪市の非上場SIer2社の全株式を取得すると発表し、4月19日に取得しました。

  • Pro-X(取得時の本社は大阪市福島区、2003年設立):物流・商流システムの開発。2023年12月期の売上高6億1,300万円、営業利益5,800万円、純資産1億3,600万円。取得価額は株式4億円とアドバイザリー費用等の約3,100万円の合計で、約4億3,100万円
  • デジタルデザインサービス(取得時の本社は大阪市北区、1998年設立):CAD/CAM/CAEのソリューション。2023年7月期の売上高3億1,000万円、営業利益700万円、純資産5,000万円。取得価額は株式2億円と費用等の約2,100万円の合計で、約2億2,100万円

CCTは同年2月にも、外観検査AIを開発するPros Cons(東京都江東区、2019年設立)を2億8,000万円で取得しており、2026年4月1日に同社を吸収合併しました。

本案件は、(i)上場SIerが、物流と製造業向けという異なる領域の大阪の非上場SIer2社を同じ日に取得した、(ii)売上高3億1,000万円から6億1,300万円の企業が取得の対象となった、(iii)取得価額の開示に、株式の対価と費用が分けて示されている、という点を示しています。

事例⑧ 専門領域と地域拠点を目的とする小規模の取得(2024〜2026年)

上場SIerとそのグループ会社による小規模の取得では、買い手が対象会社の専門領域と所在地を取得の理由として明示する例が続いています。

  • ソルクシーズ × エフ(2024年6月):エフ(東京都中央区、2001年設立)は金融の市場系システムの開発会社で、2024年3月期の売上高は3億1,700万円、営業利益は2,400万円、純資産は1億9,500万円。代表取締役ら3名から約2億5,600万円で取得。ソルクシーズは、債券・デリバティブに精通した人材の確保を理由に挙げています。取得価額は、純資産の約1.3倍、営業利益の約11倍にあたります(当社試算)
  • クレスコ × オフィスメーション(2026年2月):オフィスメーション(名古屋市、1982年設立)は制御系・業務系の開発と自治体向けの開発を手がけ、2025年1月期の売上高は8億8,900万円、営業利益は6,400万円。個人1名が全株式を保有していました。クレスコは、製造分野(マテリアルハンドリング)の拡張と名古屋地区の強化を理由に挙げています
  • SHIFT子会社のALH × データウェイ・システムズ(2025年9月):データウェイ・システムズ(仙台市、1994年設立)の2024年12月期の売上高は2億7,100万円。個人株主7名から1億5,500万円で取得。東北の顧客基盤と採用を理由に挙げています
  • 双日テックイノベーション × ザイナス(2025年11月):ザイナス(大分市、2018年設立、従業員167名)は受託開発と自社製品を手がけます。総合商社系のSIerが、自社のアプリケーション開発と受託開発の連携の強化を目的に全株式を取得しました

これらの案件は、(i)買い手が、金融の市場系、製造分野(マテリアルハンドリング)といった専門領域と、名古屋、東北といった首都圏以外の拠点を、取得の理由として明示している、(ii)売上高が開示された3件では、対象会社の売上高は2億7,100万円から8億8,900万円であった、という点を示しています。

事例⑨ KKR × 富士ソフト(2024〜2025年)— 上場SIerをめぐるファンド間の競合

東証プライム上場の富士ソフトの非公開化は、筆頭株主であった投資会社の3D Investment Partnersが主導したプロセスで進みました。2024年8月、富士ソフトの取締役会は米投資ファンドKKRの公開買付けへの賛同を決議しました。第1回の公開買付け(1株8,800円、2024年9月から11月)でKKR側の所有割合は35.00%となり、続く第2回(2024年11月から2025年2月、価格は9,451円から9,850円に引き上げ)で57.92%に達しました。ベインキャピタルも対抗して買収を提案しましたが、2025年2月17日に公開買付けを実施しないと公表しています。富士ソフトは2025年5月16日に上場を廃止しました。非公開化の後、富士ソフトはオークションサービスのモバオクの全株式を取得し、事例⑥の買い手でもあるシステムインテグレータとクラウドERPの合弁会社を設立するなど、取得と提携を進めています。

本案件は、(i)上場SIerについて、複数のファンドが競って買収を提案した、(ii)価格が2回の公開買付けと競合を経て引き上げられた、(iii)非公開化の後も、買収と提携による事業の拡大が続いている、という点を示しています。

事例⑩ アクセンチュア × CLIMB・ゆめみ・SI&C・アイデミー(2024〜2025年)— 海外のITサービス会社による国内企業の連続的な取得

アクセンチュアは2024年から2025年にかけて、国内のIT企業を相次いで取得しました。

  • CLIMB(2024年4月):前橋市、1989年設立、技術者約200名。SIとインフラ運用、金融機関の勘定系システムを手がけます。アクセンチュアは、金融・官公庁向けのシステムのモダナイゼーションと、地方の人材への投資を理由に挙げています
  • ゆめみ(2025年5月):2000年設立、約400名、デジタルプロダクトの設計・開発を手がけ、顧客は600社超。東証プライム上場のセレスは、連結子会社としていたゆめみの株式49.8%を約37億円(価格調整前)で譲渡しました。アクセンチュアは、企画・開発・運用の分断を解消し、市場投入を速めることを理由に挙げています
  • アイデミー(2025年8月):AI・DXの人材育成とAI開発を手がける東証グロース上場会社。1株1,450円(前営業日終値比34.14%のプレミアム)で公開買付けを実施し、94.08%を取得。買付総額は約55.7億円で、2025年11月に上場を廃止しました
  • SI&C(2025年8月):東京都、1980年設立、グループで約1,500名。受託開発、クラウド、データ、AIを手がけ、金融・公共・製造・流通の顧客を持ちます。アクセンチュアは、日本企業の全社的なデータ活用による変革を加速することを理由に挙げています

本案件は、(i)海外のITサービス会社が、人員200名から1,500名規模の国内企業を、地方の非上場会社、上場会社の子会社、上場会社と、売り手の形が異なる案件で取得している、(ii)取得の理由として、金融・公共の基幹システム、デジタルプロダクト、AI人材育成、データ活用と、領域を分けて示している、という点を示しています。

事例⑪ FPT × NAC・沖電気工業の中国子会社(2024〜2025年)— アジアのITサービス会社による日本事業の拡大

ベトナムのITサービス会社FPTは2024年3月、技術者約300名のNext Advanced Communications(NAC)の全株式を取得しました。FPTにとって日本で初めての買収で、同社は日本の売上高を2027年に10億ドルとする目標を掲げ、高齢化、IT人材の不足、既存システムの刷新の需要を背景に挙げています。2024年12月には、沖電気工業の中国のソフトウェア開発子会社2社の65%を取得することで合意し(2025年4月実行)、沖電気工業は35%を持ち続けています。

本案件は、(i)アジアのITサービス会社が、日本国内の企業を取得して日本での事業を広げている、(ii)日本企業がグループの海外開発子会社を譲渡する際に、持分の一部を残した、という点を示しています。


4. クロスボーダーのSIer業界M&A事例 — 国内SIerによる海外での買収・出資

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内のSIerがどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業大手の投資基準と価格水準の参照例になります。

事例⑫ 日立製作所 × GlobalLogic・synvert(2021年、2025年)— デジタルエンジニアリングの取得と、その会社を受け皿とする追加の取得

日立製作所は2021年3月、米国のデジタルエンジニアリングサービス会社GlobalLogic(14か国で従業員2万人超)を、カナダの年金基金CPPIBとスイスのPartners Groupなどから、企業価値95億ドル(約1兆円)で取得すると発表し、同年7月に取得を完了しました。日立製作所が開示したEV/EBITDA倍率は、2021暦年の予想で37.4倍、2022暦年の予想で29.4倍です。同社は取得の狙いとして、デジタル事業の基盤であるLumadaの成長と、半導体からクラウドまでのデジタルエンジニアリングの取り込みによる市場成長率20%超の領域への移行を挙げ、のれんと無形資産の計上を踏まえ、D/Eレシオ0.5倍未満、Debt/EBITDA 2.0倍未満の水準に数年で戻す目標を示しました。

2025年9月には、GlobalLogicを通じて、ドイツのデータ・AIコンサルティング会社synvert(1991年設立、従業員550名超)を、同国の投資ファンドMaxburgから取得すると発表しました。価格は開示されておらず、完了は2026年3月期中の予定と公表されています(本稿の調査では、完了の公表は確認できていません)。日立製作所は、データ基盤とデータガバナンスの人材の確保、欧州・中東での拠点の拡大を理由に挙げています。

本案件は、(i)国内大手が、市場の成長率が高い領域の海外企業を、EV/EBITDA 37.4倍(2021暦年予想)の水準で取得した、(ii)その会社を受け皿として、ファンドが保有する専門会社を追加で取得している、という点を示しています。

事例⑬ NEC × CSG Systems International(2025〜2026年)— 財務規律を数値で示した上場会社の取得

NECは2025年10月、米国Nasdaq上場で通信事業者向けの課金・顧客管理ソフトウェアを提供するCSG Systems Internationalを、1株80.70ドルの現金で取得すると発表しました。前日終値に対するプレミアムは17.38%、企業価値は約29億ドル(約4,385億円)です。CSGの2024年の売上高は11億9,700万ドルでした。NECは、企業価値は2026年の調整後EBITDA(市場予想)の10.3倍で、シナジーを除いても非GAAPの1株当たり利益が7.7%増えること、シナジーが実現すれば完了後5年以内に投下資本利益率が資本コストを上回る見込みであることを開示しています。NECは、子会社Netcrackerの通信事業者向けソフトウェアと、CSGの米国の通信・ブロードバンド事業者の顧客基盤が補完し合うことを理由に挙げています。取得は2026年5月15日に完了し、Netcrackerが統合を担います。

本案件は、(i)国内大手が、既存事業の顧客基盤を補完する海外の上場ソフトウェア会社を取得した、(ii)買い手が、倍率、1株当たり利益への効果、投下資本利益率の見通しを数値で開示した、という点を示しています。

事例⑭ 富士通 × GK Software(2023年)— 創業者の応募を前提とする上場会社の取得

富士通は2023年3月、小売業向けのクラウド・POSソリューションを手がけるドイツの上場会社GK Softwareに対し、1株190ユーロ(株式価値約4.3億ユーロ)の公開買付けを発表しました。3か月の出来高加重平均株価に対するプレミアムは34.7%です。創業者2名は合計40.65%について応募を確約し、富士通は本社の維持と経営の自律性を約束したうえで、少なくとも2年間は支配契約を締結しないとしました。同年5月に68.03%を取得しています。

本案件は、(i)国内大手が、業種向けのソフトウェア会社を、創業者の応募の確約を得て取得した、(ii)買い手が、本社と経営の独立性の維持を取引条件として示した、という点を示しています。

事例⑮ NTTデータグループ × GHL Systems・専門会社の連続取得(2023〜2026年)

NTTデータは2024年5月、マレーシアの上場会社で決済サービスを手がけるGHL Systems(2023年の売上高4億6,040万リンギット、従業員900名超)の58.7%を主要株主から取得すると発表し、続く公開買付けで保有比率を90%超に高めました。同社は、決済事業の拡充と東南アジアでの地位の強化を理由に挙げています。このほかNTTデータは、英国のSapphire(SAP・ServiceNow、2023年)、インドのNiveus Solutions(Google Cloud、2024年)、英国のAlchemy Technology Services(保険向けGuidewire、2025年)、ノルウェーのThe Cloud People(ServiceNow、2025年)、米国のWinWire(Microsoft Azure・AI、技術者1,000名超、2026年6月完了)など、特定のソフトウェア・クラウド基盤に強い数百名から1,000名規模の会社を、価格を開示せずに取得しています。

本案件は、(i)国内大手が、大型の取得と並行して、特定の技術基盤の専門会社を小規模に重ねて取得している、(ii)取得先には、インドなどにデリバリーの人員を持つ会社が含まれる、という点を示しています。

事例⑯ TIS × NTQ Solution(2024年)— 少数出資による海外開発拠点との提携

TISは2024年12月、ベトナム・ハノイのNTQ Solution(技術者1,300名超、日本企業を含む顧客350社超)と資本業務提携を結び、持分法適用会社としました。出資比率と金額は開示されていません。同社は、東南アジアの連結売上高を2026年度に1,000億円とする目標を背景に挙げています。

本案件は、(i)国内の上場SIerが、海外では全株式の取得ではなく少数出資の形で開発拠点との関係を築いている、(ii)対象会社が日本企業を顧客に持つ開発会社である、という点を示しています。


5. SIer業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

SIerのM&Aでは、財務数値に加えて、業界に固有の要素が確認されます。事例の買い手が公表した取得の理由と統合効果をもとに、人材・デリバリー体制、顧客・業種、技術・サービス領域の3つに整理します。

  1. 人材・デリバリー体制 — 技術者の人数だけでなく、どの業務知識を持つ技術者がいるか、どの拠点で採用と開発ができるかです。事例⑥の買い手は生産管理業務に通じた技術者を、事例⑧のソルクシーズは債券・デリバティブに精通した人材を、ALHは東北での採用を、事例⑩のアクセンチュアは地方の人材を、事例⑤のシーイーシーは関西地区の体制強化を、取得の理由に挙げています。
  2. 顧客・業種 — 顧客の業種と構成、特定の業種での開発の実績です。事例⑩のアクセンチュアはCLIMBの取得で金融・官公庁向けシステムのモダナイゼーションを、事例⑬のNECは米国の通信・ブロードバンド事業者の顧客基盤を、事例⑧のクレスコは製造分野(マテリアルハンドリング)の拡張を、取得の理由に挙げています。
  3. 技術・サービス領域 — データ・AI、クラウド基盤、ネットワーク、運用・保守などのマネージドサービス、業種向けのソフトウェア製品といった、提供できるサービスの範囲です。事例③ではネットワーク基盤とアプリケーションの組み合わせと運用サービスの統合が、事例⑫ではデータ基盤とデータガバナンスの人材が、事例⑮のGHL Systemsでは決済事業の拡充が、取得の目的でした。

6. SIer業界の買い手の類型

本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の理由と対象の規模が異なります。

  1. 国内の上場SIer・ITサービス会社 — SCSK(事例③)、富士通(事例④)、シーイーシー(事例⑤)、システムインテグレータ(事例⑥)、CCT(事例⑦)、ソルクシーズ、クレスコ、SHIFT(事例⑧)など。技術者・業務知識、地域の拠点、提供領域の補完を取得の理由とし、規模は売上高2億円台の企業から上場会社までにわたります。
  2. 海外のITサービス会社 — アクセンチュア(事例⑩)、FPT(事例⑪)など。日本での事業の拡大を目的に、地方の会社から上場会社まで、売り手の形を問わず国内企業を取得しています。
  3. ファンド — KKR(事例⑨)、ブラックストーン(事例①)のように、上場SIerやITサービス会社を非公開化する例があります。2026年には、EQTの投資ファンドが東証上場の豆蔵を公開買付け(1株3,551円)で非公開化し、豆蔵は同年4月に上場を廃止しました。事例①のように、ファンドが取得した会社の事業が、後に事業会社に移る例もあります。

このほか、総合商社とその系列のSIerが、グループ外のIT企業に出資・取得する例があります(事例②、事例⑧の双日テックイノベーション)。


7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、SIer・ソフトウェア開発会社の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

事例の対象先は、大きく3つの所在に分かれます。1つ目は企業グループに属するIT企業で、帝人の上場子会社だったインフォコム(事例①)、電通グループが61.8%を保有する電通総研(事例②)、セレスの連結子会社だったゆめみ(事例⑩)、沖電気工業の中国のソフトウェア開発子会社(事例⑪)が、ファンド、総合商社、海外のITサービス会社に移り、または移る予定です。2つ目は非上場のオーナー企業で、売上高2億円台から約13億円の会社が、上場SIerとそのグループ会社に譲渡されています(事例⑤⑥⑦⑧)。事例⑤⑥⑧では、代表者や個人が株式の大半または全部を保有していました。所在地は、大阪市(事例⑤⑥⑦)、名古屋市、仙台市、大分市(事例⑧)、前橋市(事例⑩のCLIMB)です。3つ目は上場SIerで、ネットワンシステムズ(事例③)、ブレインパッド(事例④)、富士ソフト(事例⑨)、アイデミー(事例⑩)が、事業会社またはファンドに取得されました。

投資ファンドは、グループのIT企業の取得(事例①)と上場SIerの非公開化(事例⑨、EQTによる豆蔵)で買い手となり、事例①では取得から約1年でITサービスの事業を大手SIerに譲渡しています。海外では、日立製作所がファンドの保有するGlobalLogicとsynvertを取得しました(事例⑫)。非公開化後の富士ソフトは、モバオクの全株式の取得や合弁会社の設立を進めており(事例⑨)、ファンドの投資先が買い手となる例もあります。

非上場企業は開示される情報が少なく、候補先の特定には公開データベースに頼らない調査が必要です(第2章)。オーナー企業やグループ傘下の非上場企業の取得には、オーナー・親会社への直接の打診が必要になります。

② 取引の形

グループのIT企業では、親会社が公開買付けに応募せず、非公開化の後に対象会社の自己株式取得で保有株を譲渡する形(事例①。公開買付価格1株6,060円に対し、帝人の保有株は1株4,231円)、ファンドが性格の異なる2つの事業を持つ会社を取得し、電子コミック事業を事前に切り離してITサービスの事業だけを譲渡する形(事例①)、親会社が持分を残して別の企業グループを資本に迎える合弁の形(事例②)、親会社が上場子会社の株式49.8%を譲渡する形(事例⑩のゆめみ)、海外の開発子会社の65%を譲渡して35%を持ち続ける形(事例⑪)がとられました。

上場SIerでは、公開買付けで79.69%を取得し、子会社化から運用サービスの統合、合併へと段階的に進める形(事例③)、主要株主・経営陣・事業会社の株主が合計26.37%の応募を事前に合意した経営統合(事例④)、複数のファンドの競合を経て2回の公開買付けで価格が引き上げられた非公開化(事例⑨)があります。オーナー企業では全株式の取得(事例⑤⑥⑦⑧)が中心で、開示された価格は、事例⑦が株式4億円と2億円(いずれも別に費用)、事例⑧のエフが純資産の約1.3倍・営業利益の約11倍(当社試算)、データウェイ・システムズが1億5,500万円でした。

海外では、EV/EBITDA 37.4倍(事例⑫、2021暦年予想)と10.3倍(事例⑬)での取得、少数出資による提携(事例⑯)があります。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

帝人は、事業ポートフォリオの変革の必要性が高く、インフォコムとのシナジーを見いだせなかったことを売却の理由に挙げ、売却先は入札の手続きを経て決まりました(事例①)。電通グループは公開買付けに応募せず保有を続け(事例②)、沖電気工業は中国子会社の35%を持ち続けています(事例⑪)。富士ソフトの非公開化は、筆頭株主の投資会社が主導したプロセスで進みました(事例⑨)。海外の事例⑭では、創業者2名が合計40.65%について応募を確約し、買い手の富士通は本社の維持と経営の自律性を約束しています。オーナー企業の事例⑤⑥⑧の開示に示されているのは買い手の取得理由で、売り手が承継を理由に挙げたかどうかは示されていません(第1章)。

これらの事実からは、事例の親会社が本業とのシナジーの有無を譲渡の判断の理由とし、持分の一部を残す選択肢も取っていたこと、上場会社の創業者が経営の独立性の維持を応募の前提としていたことがうかがえます。


8. SIerのオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

大阪の非上場SIerは、首都圏の上場SIerが関西地区の体制強化や業務知識を持つ技術者を理由に取得しています(事例⑤⑥)。名古屋、東北の企業も、拠点と専門領域を理由に取得されています(事例⑧)。海外のITサービス会社は、日本での事業の拡大を目的に、規模や売り手の形を問わず国内企業を取得しており(事例⑩⑪)、ファンドも上場SIerの非公開化に動いています(事例⑨)。総合商社とその系列のSIerが、グループ外のIT企業に出資・取得する例もあります(事例②、事例⑧の双日テックイノベーション)。買い手候補は、国内の上場SIer、総合商社系のSIer、海外のITサービス会社、ファンドの中から、自社の人材・顧客・領域と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(人材・デリバリー体制、顧客・業種、技術・サービス領域)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例⑥や事例⑧のように、買い手は技術者の確保に加えて、特定の業務知識や専門領域を持つ技術者を取得の理由に挙げています。元請としての取引の比率、主要顧客への集中度、協力会社への依存度、運用・保守の継続的な契約の比率も、あわせて整理が必要です。2026年1月に施行された改正下請法(中小受託取引適正化法)はソフトウェア開発の再委託を含む取引を対象としており(第1章)、協力会社との取引条件も整理の対象になります。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員と取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。事例③のように、取得後の統合が子会社化から合併まで段階的に進む場合もあるため、譲渡後の経営への関与の希望は、買い手の統合の進め方とあわせて確認することになります。元請や主要顧客との取引関係、協力会社との関係が取引の条件に影響する場合もあるため、現在の資本・取引関係を含めて選択肢を整理しておくことが必要です。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。SIer・ソフトウェア開発を含むITサービスの分野で、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。SIer業界では、公開情報の少ない非上場のオーナー企業や、企業グループに属するIT企業が対象となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内のSIerに限らず、総合商社系の企業、ファンドに加えて、海外のITサービス会社などの戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の上場SIer、総合商社系の企業、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の人材・顧客・領域と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:技術者の業務知識と構成、元請・下請の取引上の位置、顧客業種、運用・保守の継続的な契約など、SIer業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用と処遇、取引先との関係、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料等の公開情報と、官公庁・業界団体の統計に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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