医療機器業界M&Aの最新動向と事例 :大手グループの事業再編と販売網の集約

医療機器業界M&A・事業承継

(2026年10月更新)

医療機器の国内出荷金額は、2024年に4兆7,195億円となりました。この数年の医療機器業界M&Aを見ると、国内では、日立製作所、日本電子、帝人、オリンパスといった大手グループが医療機器事業や関連会社を手放し、同業のメーカーやファンドがそれを取得する案件が続いています。販売の側では、上場の医療機器販売会社が地域のディーラーを傘下に収め、医薬品卸が専門領域のメーカーを取得する契約を結んでいます。さらに、海外のファンドによる、医療機器・医療材料の事業を持つ上場企業の非公開化が2025年から2026年にかけて相次ぎ、テルモとオリンパスは海外で医療機器メーカーの買収を続けています。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている医療機器メーカー・医療機器販売会社のオーナー・親会社の皆様を念頭に、医療機器業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内大手による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. 医療機器業界の市場構造 — 輸入品の比重と再編の要因

市場規模

厚生労働省の薬事工業生産動態統計によると、2024年(1〜12月)の医療機器の国内生産金額は2兆6,642億円(前年比0.4%減)、輸入金額は3兆6,056億円(同8.5%増)、輸出金額は1兆1,445億円(同1.7%増)、国内出荷金額は4兆7,195億円(同3.7%増)でした(厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」の概要)。国内出荷金額は、製造販売業者が国内向けに出荷した金額で、国内で製造された製品と輸入品の双方を含みます。輸入金額は、海外で最終の製造工程を経た製品を国内向けに出荷した金額で、厚生労働省は貿易の実態の把握には適さないとしています。

国内生産金額が前年を下回る一方で、輸入金額は8.5%増え、国内生産金額を上回る水準にあります。

製品分野別の特性

医療機器は、製品分野によって、顧客、採用の決まり方、収益の構造が大きく異なります。M&Aでも、どの分野で何を持っているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。

製品分野主な製品事業上の特性
画像診断・生体検査CT、MRI、超音波、内視鏡、生体情報モニタ病院の設備投資に連動。装置の販売後の保守サービスが継続的な収益になる
検体検査血液・生化学等の分析装置と検査試薬装置の設置後に試薬が継続的に販売される。シスメックスの売上高の61.6%は試薬(2026年3月期)
治療・処置カテーテル、ガイドワイヤー、人工関節、手術用器材承認と臨床データが採用の前提。医師の手技や症例に合わせた製品開発が求められる
生体機能補助・在宅透析、輸液、人工臓器、在宅医療機器消耗品の比率が高い。保険償還の価格が収益を左右する
流通・販売医療機器ディーラー、専門商社地域の病院・診療所との取引関係と、専門領域の知識を持つ営業人員が事業の基盤

区分は本稿の整理によるもので、統計上の分類ではありません。

業界再編を動かす5つの要因

  1. 国内生産の減少と輸入の増加 — 上記のとおり、2024年の医療機器の国内生産金額は前年を下回り、輸入金額は8.5%増えて国内生産金額を上回りました。本稿では、この構造を、国内メーカーが製品領域を外部からの取得で補い、海外企業が国内の販売網や承認を持つ企業との提携・取得を検討する背景の一つとみています。テルモとオリンパスは、海外で医療機器メーカーの取得を続けています(第4章)。
  2. 保険償還の価格 — 2026年度の診療報酬改定では、診療報酬本体が2026・2027年度の2年度平均で+3.09%とされた一方、薬価・材料価格は合計で▲0.87%(うち材料価格▲0.01%)とされました(2025年12月の予算大臣折衝)。メディアスホールディングスは2023年10月、地域のディーラーの株式取得の基本合意を発表した際に、償還価格の引下げと競争の激化により利益率が低下していることを背景に挙げ、地域のシェアの拡大と調達力の強化を取得の目的としました(第3章 事例⑤)。
  3. 医療機関の経営 — 厚生労働省の医療経済実態調査(第25回)では、一般病院の損益差額率は2024年度に▲7.3%(2023年度は▲7.5%)でした。手術用キット等を手がけるホギメディカルは2025年、医療機関の経営の悪化、売上高の成長率の鈍化、利益率の低下を背景に、ファンドによる非公開化を選びました(事例⑦)。
  4. 大手グループのポートフォリオ見直し — 日立製作所は画像診断関連事業の譲渡にあたり、業界再編の進展やグローバル競争の激化により事業規模の拡大がますます重要になっていると説明しました(第3章 事例①)。日本電子、帝人、オリンパスも、医療機器事業や関連会社を、その事業に注力する同業やファンドに移しています(事例②③④)。これらの見直しが、本稿で取り上げる切り出し案件の起点になっています。
  5. 事業承継 — 中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを試算していました(中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」)。医療機器業界でも、持株会社を通じてオーナーが保有する1947年設立の地域ディーラー(事例⑤)が2024年に上場グループの完全子会社となり、1910年創業の専門機器メーカー(事例⑥)の全株式を医薬品卸が取得する契約が2026年に結ばれました。いずれの開示も、譲渡の理由として後継者の有無には触れていませんが、オーナー系の企業の株式の受け皿として、上場の販売会社や卸が現れていることを示しています。

2. 業界プレイヤー構図

医療機器の大手

会社連結売上高決算期主な領域・直近の動き
テルモ1兆1,319億円2026年3月期2025年に英国OrganOx(移植用臓器の灌流装置)を取得
オリンパス1兆107億円2026年3月期消化器・泌尿器・呼吸器領域の内視鏡と処置具。2023年に科学事業、2024年に整形外科事業を譲渡し、2026年にイスラエルのBioProtectを取得
ニプロ6,605億円2026年3月期医療関連事業が5,236億円。ほかに医薬、ファーマパッケージング
シスメックス5,000億円2026年3月期検体検査の装置と試薬。海外売上高比率88.3%。2026年に日本電子の医用機器事業を取得
日本光電工業2,351億円2026年3月期医用電子機器

テルモ、オリンパス、シスメックスはIFRSの売上収益、その他の会社は日本基準の売上高です(以下の表も同じ)。このほか、富士フイルムホールディングスとキヤノンが、グループ内に医療機器の事業会社を持っています(後述)。

上場の中堅・専業メーカー

会社連結売上高決算期主な領域
朝日インテック1,454億円2026年6月期カテーテル治療用のガイドワイヤー等
日本ライフライン592億円2026年3月期循環器領域の医療機器(自社製品と輸入品)
マニー300億円2025年8月期手術用縫合針、眼科用ナイフ、歯科用治療器
大研医器103億円2026年3月期(単体)吸引器、携帯型ディスポーザブル注入器、シリンジポンプ。2023年に東証プライムからスタンダードへ移行

医療機器の販売会社

会社連結売上高決算期主な領域・直近の動き
シップヘルスケアホールディングス7,182億円2026年3月期病院の建設・設備の一括請負、医療機器販売、調剤薬局、介護等
メディアスホールディングス3,023億円2026年6月期医療機器販売。2024年に山梨県のマコト医科精機を取得
ヤマシタヘルスケアホールディングス641億円2026年5月期九州を地盤とする医療機器販売。2023年に鹿児島オルソ・メディカルを取得

医薬品卸のアルフレッサホールディングスも、2026年5月に耳鼻咽喉科領域の医療機器メーカーの全株式を取得する契約を締結しました(事例⑥)。

大手グループ傘下の医療機器会社

医療機器業界では、大手電機・化学グループの医療機器事業が、他のグループ、同業、ファンドに移る取引が繰り返されてきました。

  • キヤノンは2016年、東芝から東芝メディカルシステムズの株式を約6,655億円で取得しました。同社の2015年3月期の売上高は2,800億円でした。
  • 富士フイルムは2019年、日立製作所の画像診断関連事業を取得する契約を締結しました(事例①)。
  • 住友ベークライトは2020年、持分法適用会社であった川澄化学工業(当時東証二部)に1株1,700円で公開買付けを行い、所有割合を23.05%から96.31%に引き上げたうえで完全子会社としました。住友ベークライトは、持分法適用会社のままでは独占禁止法上の情報遮断が必要で協業に制約があったことを、完全子会社化の理由の一つに挙げています。川澄化学工業は2021年に住友ベークライトの医療機器事業を承継し、SBカワスミに商号を変更しました。
  • パナソニックヘルスケアは2014年、KKRが80%、パナソニックが20%を保有する体制に移り、その後PHCホールディングスとして2021年に東京証券取引所に上場しました。

オーナー系の非上場企業

非上場の医療機器メーカーと医療機器ディーラーには、創業家や創業者の持株会社が株式を持つオーナー系の企業が多くあります。本稿の事例では、マコト医科精機(山梨県中央市、1947年設立)は取得前に持株会社が99.58%を保有し、永島医科器械(東京都文京区、1910年創業)は、取得の契約の時点で社長が代表を務める持株会社の完全子会社です。オーナー系の企業は開示が限られ、公開データベースだけでは所在や事業内容を把握しにくい層です。

大手グループとオーナー系企業の合弁

帝人ナカシマメディカル(岡山市)は、帝人と非上場のナカシマホールディングスの合弁会社でした(事例④)。帝人の事業の見直しを機に合弁は解消され、同社はナカシマホールディングスの完全子会社となりました。

関西の企業

本稿で取り上げる企業のうち、シスメックス(神戸市中央区)、ニプロ(大阪市北区)、シップヘルスケアホールディングス(大阪府吹田市)、大研医器(大阪府和泉市)は、大阪府または兵庫県に本社を置いています。


3. 国内の医療機器業界M&A事例 — 大手グループからの切り出し、オーナー企業の譲渡、ファンドによる非公開化

事例① 富士フイルム × 日立製作所 画像診断関連事業(2019年契約)— 大手電機グループからの切り出し

富士フイルムホールディングスは2019年12月、日立製作所の画像診断関連事業(CT、MRI、X線診断装置、超音波診断装置、電子カルテ等)を取得する契約を締結しました。日立が新設する会社に会社分割で事業を移し、富士フイルムがその株式の100%を取得する形で、取得価額は事業価値ベースで約1,790億円(運転資本とネット有利子負債で調整)、対象事業の2019年3月期の売上高は1,432億円でした。取得の完了は、2021年3月31日の予定と開示されました。

日立は、業界再編の進展やグローバル競争の激化により事業規模の拡大がますます重要になっていること、補完性の高い販売チャネルや画像処理などの技術を持つ富士フイルムに譲渡することが対象事業の成長と競争力の強化に最適であることを、譲渡の理由に挙げました。富士フイルムは、ヘルスケア事業の基盤の確立を取得の目的としていました。

本案件は、(i)大手電機グループが、規模の拡大を必要とする医療機器事業を、同じ領域で事業を持つ別の大手グループに移した、(ii)事業を会社分割で新会社に切り出し、その株式を譲渡する形をとった、(iii)売り手が取得先を選んだ理由として、販売チャネルと技術の補完性を挙げた、という点を示しています。

事例② シスメックス × 日本電子 医用機器事業(2026年4月完了)— 非中核の医療機器事業を検査機器メーカーが取得

日本電子は2025年9月、1972年から手がけてきた医用機器事業(生化学自動分析装置)をシスメックスに譲渡する契約を締結しました。日本電子が新設した完全子会社に会社分割で事業を移し、その株式の全てをシスメックスに譲渡する取引で、2026年4月1日に譲渡を完了し、新会社はシスメックスBioMajesty(東京都武蔵村山市)として事業を始めました。譲渡価額は公表されていません。日本電子は、検体量と試薬量を少なくできる点を、この事業の装置の特徴としています。

日本電子は譲渡の理由として、シスメックスが臨床検査分野で長年の実績とグローバルなネットワークを持ち、同分野の成長戦略と経営資源があること、研究開発・生産・事業開発で大きなシナジーが見込めることを挙げています。公正取引委員会の審査資料によると、対象事業の自動化学分析装置の国内シェアは2024年に約25%で、公取委はこの取得が競争を実質的に制限することとはならないと判断しました。

シスメックスはこれまで、手術支援ロボットの合弁会社(メディカロイド、川崎重工業と50%ずつ出資)や再生細胞医療での提携など、外部との協業を組み合わせて事業領域を広げてきました。本件は、同社が隣接する検査領域の事業を他社から取得した例です。

本案件は、(i)医療機器を非中核とする分析機器メーカーが、その事業を臨床検査を本業とするメーカーに移した、(ii)事例①と同じく、会社分割で切り出した新会社の株式を譲渡する形をとった、(iii)取引は、公正取引委員会の企業結合審査を経て実行された、という点を示しています。

事例③ ポラリス・キャピタル・グループ × オリンパス 整形外科事業(2024年)— 切り出された事業を国内ファンドが取得

オリンパスは2024年5月、整形外科事業(オリンパステルモバイオマテリアルと仏FH Orthoを中核とする事業部門)を、ポラリス・キャピタル・グループが設立した特別目的会社に譲渡すると発表し、同年7月12日に譲渡を完了しました。譲渡価額は約37億円(契約上の価格調整を含まない金額)です。整形外科事業の2024年3月期の売上高は104億5,700万円で、オリンパスの連結売上高の1.1%にあたり、同期の営業損益は75億2,700万円の損失、同期に計上した減損損失は85億8,800万円でした。

オリンパスは2023年5月に、消化器科、泌尿器科、呼吸器科の領域に注力する経営戦略を公表しており、整形外科事業の譲渡が、グループの企業価値向上と整形外科事業の自律的かつ持続的な成長の実現に最適と判断したと説明しています。同社は2023年4月にも、科学事業(顕微鏡等)をベインキャピタル系の会社に4,276億7,400万円で譲渡しています。

本案件は、(i)大手医療機器メーカーが、注力領域を絞る過程で非中核の事業を手放した、(ii)事業規模が小さく損失を計上していた事業の受け手が、同業ではなく国内のファンドであった、(iii)国内の子会社と海外の子会社をまとめて一つの事業部門として譲渡した、という点を示しています。

事例④ ナカシマホールディングス × 帝人ナカシマメディカル(2025年)— 合弁の解消と非上場の事業会社への集約

帝人ナカシマメディカル(岡山市、従業員399人=2025年4月1日現在)は、人工関節、骨接合材料、脊椎固定用材料などを開発・製造・販売する会社で、帝人と非上場のナカシマホールディングスが50%ずつを保有していました。帝人は2025年5月、保有する全株式をナカシマホールディングスと帝人ナカシマメディカルに譲渡し、同社をナカシマホールディングスの完全子会社とすると発表しました。譲渡価額は公表されていません。同社は2025年6月にナカシマヘルスフォースとして新たな体制に移りました。

帝人は、事業ポートフォリオの変革と事業戦略の見直しに伴って事業の将来像を協議した結果、合弁を解消し、ナカシマの完全子会社として成長を目指すことが最善と判断したと説明しています。なお、同社は2021年に、大塚メディカルデバイスの子会社であったKiSCO(神戸市)の脊椎・外傷事業を会社分割で承継しており、大塚メディカルデバイスはその際、腎・透析・アフェレシスの領域に経営資源を集中するためと説明していました。

本案件は、(i)大手化学グループが、合弁で持っていた医療機器会社から退き、合弁相手の非上場企業がその会社を完全に保有した、(ii)合弁相手と対象会社自身が株式を取得する形をとった、(iii)対象会社が2021年に別の大手グループから承継した事業とあわせて、二つの大手グループの事業見直しの結果がナカシマホールディングスの傘下に集約された、という点を示しています。

事例⑤ メディアスホールディングス × マコト医科精機(2024年)— 地域のディーラーを段階的に完全子会社化

マコト医科精機(山梨県中央市、1947年設立)は、山梨県を地盤とする医療機器ディーラーで、2023年4月期の売上高は71億500万円、持株会社のマコトホールディングスが99.58%を保有していました。医療機器販売を主力とするメディアスホールディングスは、2023年4月に同社と業務提携したうえで、2023年10月に株式取得の基本合意を、2024年2月に株式譲渡契約を締結し、2024年3月1日に65%の株式を現金3億600万円で取得しました。残る35%は簡易株式交換で取得し、2024年4月30日に完全子会社としました。メディアスは同年10月、グループ会社の山梨県の事業を会社分割でマコト医科精機に承継させています。

メディアスは2023年10月の基本合意の発表で、取得の背景として償還価格の引下げと競争の激化により利益率が低下していることを挙げ、一体的な戦略のもとで事業を展開することで、山梨県でのシェアの拡大と調達力の強化を図るとしています。

本案件は、(i)業務提携から株式の過半の取得、株式交換による完全子会社化へと、関係を段階的に深めた、(ii)買い手は、償還価格の引下げという業界共通の事情に対し、地域のシェアと購買の規模で対応しようとした、(iii)対価に現金と買い手の株式の双方を用いた、という点を示しています。

なお、九州を地盤とするヤマシタヘルスケアホールディングスも2023年12月、鹿児島市で整形外科分野の医療機器を扱う鹿児島オルソ・メディカルの全株式を取得しています。

事例⑥ アルフレッサホールディングス × 永島医科器械(2026年5月契約締結)— 医薬品卸による専門領域の医療機器メーカーの取得

永島医科器械(東京都文京区、1910年5月創業)は、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の医療機器を開発・製造・販売するメーカーで、2025年6月期の売上高は26億7,600万円です。大学病院を中心に製品が採用されています。医薬品卸のアルフレッサホールディングスは2026年5月27日、永島医科器械の全株式を、同社の社長が代表を務める持株会社の永島ホールディングスから取得する株式譲渡契約を締結しました。発表時点で取得の完了日は未定とされ、2026年10月15日までに完了の公表は確認できていません。取得価額は公表されていません。発表前から、アルフレッサの子会社は永島医科器械から医療機器を仕入れていました。

アルフレッサは、医療機器を含むメディカル品を成長領域と位置づけ、永島医科器械の製品開発力と専門領域の知見を取り込むことで、医療機器の製造・開発機能の強化、自社製品のラインアップの拡充、医薬品卸事業との連携による診療所等への販売機会の拡大につながると判断したとしています。

本案件は、(i)オーナー系の専門機器メーカーの株式の取得先が、同業のメーカーではなく医薬品卸であった、(ii)買い手は、既存の仕入れ先を取得することで製造・開発の機能を持とうとした、(iii)買い手は、医薬品の販売網を通じた診療所向けの販売を、取得による効果の一つに挙げた、という点を示しています。

事例⑦ カーライル × ホギメディカル(2026年)— 海外ファンドによる上場医療材料メーカーの非公開化

手術用キット製品などの医療材料を手がけるホギメディカル(1955年創業)は、2025年7月から売却のプロセスを進め、6社のファンドが一次の意向表明を出した後、米カーライルが運用するファンドの会社を最終の候補に選びました。カーライル側は2025年12月、1株6,700円での公開買付けを発表し、2026年3月に所有割合87.63%で成立させた後、株式併合を経て、ホギメディカルは2026年5月15日に上場を廃止しました。公開買付価格は、最終の意向表明書の提出前営業日(2025年10月24日)の終値に対して23.39%、非公開化の憶測報道前(2025年7月25日)の終値に対して69.19%のプレミアムでした。大株主のダルトン・グループ(所有割合27.58%)は、事前に公開買付けへの応募に合意していました。

ホギメディカルは、医療機関の経営の悪化、売上高の成長率の鈍化、利益率の低下を背景に挙げ、短期的な株価の評価から離れて中長期の施策を進めるために非公開化を選んだと説明しています。カーライル側は、手術用キットの拡販、調達・サプライチェーンの見直し、手術室の運営支援システムの機能拡張、東南アジアを中心とした海外での売上の拡大を施策に挙げています。

本案件は、(i)上場の医療材料メーカーが、複数のファンドによる入札を経て海外ファンドの傘下に入った、(ii)所有割合27.58%の大株主が、事前に応募に合意していた、(iii)売り手側が、医療機関の経営の悪化を事業環境の変化として明示した、という点を示しています。

海外ファンドによる取得では、このほか、KKRと産業革新投資機構(JIC)傘下のJICキャピタルが2025年、眼科用の診断機器と測量・測位の事業を持つトプコンを、1株3,300円の公開買付けを含むMBOで非公開化し、トプコンは同年12月に上場を廃止しました。医療機器に隣接する診断薬の分野では、GEヘルスケアが2025年3月、住友化学と50%ずつ保有していた日本メジフィジックス(放射性医薬品)について、住友化学の持分を取得して完全子会社としました。


4. クロスボーダーの医療機器業界M&A事例 — 国内大手による海外での買収

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内大手がどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業大手の投資基準の参照例になります。

事例⑧ テルモ × OrganOx(2025年10月取得完了)— 成長期の治療機器メーカーを取得

テルモは2025年8月、英国オックスフォード大学発の医療機器メーカーOrganOxの全株式を、約15億米ドル(キャッシュフリー・デットフリーベース)で取得する契約を締結し、2025年10月30日に取得を完了しました。資金は手元資金と借入で賄います。OrganOxは、移植用の臓器を体外で常温に保ちながら灌流する装置「metra」(肝臓用)を、米国では2022年から販売しており、腎臓用の装置を開発中です。2024年の売上高は7,100万米ドルで、従業員は199人(2025年6月末)でした。

テルモは取得の狙いとして、移植用臓器の不足という満たされていない医療ニーズへの対応、高成長の市場への参入と高収益の事業の獲得、自社の灌流・アフェレシス等の事業とのシナジーを挙げました。業績への影響については、買収に伴う償却と一時費用を除く調整後の営業利益に寄与し、償却前のEPSは2027年3月期から増加に寄与するとしています。

本案件は、(i)国内の大手医療機器メーカーが、2024年の売上高の約21倍にあたる金額で、成長段階の治療機器メーカーを取得した、(ii)取得の狙いとして、医療ニーズ、市場の成長性、収益性、既存事業とのシナジーを並べて示した、(iii)業績への影響を、買収に伴う償却を除いた利益とEPSで示した、という点を示しています。

事例⑨ オリンパス × BioProtect(2026年6月取得完了)— 注力領域の製品を持つ海外企業の取得

オリンパスは2026年5月26日、イスラエルのBioProtectの全株式を2億7,000万米ドル(約433億円)で取得する契約を締結し、6月1日に取得を完了しました。対価の一部は、事業が中断なく運営されることを条件に、一定期間エスクローに留保されます。BioProtectは、前立腺がんの放射線治療の際に直腸を保護する、生分解性のバルーン型スペーサーを開発・製造しています。売上高は2023年12月期の1億700万円から、2024年12月期に12億8,400万円、2025年12月期に23億2,900万円へ伸びた一方、2025年12月期の営業損失は25億8,900万円で、純資産はマイナスでした。

オリンパスは、泌尿器領域を重点分野の一つとし、本取得をがん治療の満たされていないニーズに応える取り組みの強化と位置づけています。同社は事例③のとおり、整形外科事業を国内ファンドに譲渡しており、注力領域の外にある事業を手放しながら、注力領域の製品を海外で取得しています。

本案件は、(i)国内大手が、自社の注力領域に合う単一の製品を持つ海外企業を取得した、(ii)対象会社は売上高が伸びている一方で営業損失を計上しており、買い手は現在の利益よりも製品と成長を評価したとみられる、(iii)対価の一部を事業の継続を条件に留保する形をとった、という点を示しています。

国内大手による海外での取得には、より早い時期の例もあります。旭化成は2012年、救命救急の医療機器を手がける米ZOLL Medicalを1株93ドル、総額約22億1,000万米ドルの公開買付けで取得し、ヘルスケアを成長領域とする方針のもとで、クリティカルケアの領域に参入しました。


5. 医療機器業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

医療機器メーカー・販売会社のM&Aでは、財務数値に加えて、医療機器業界に固有の要素が確認されます。事例の当事者が公表した取得・譲渡の理由と統合効果をもとに、製品と承認、販売と顧客、製造と品質・許認可の体制の3つに整理します。

  1. 製品と承認 — どの製品分野で、どの承認・認証を持ち、どの臨床上の課題に応える製品か。テルモ(事例⑧)とオリンパス(事例⑨)は、満たされていない医療ニーズに応える製品を取得の理由に挙げ、日本電子の事業(事例②)は、検体量と試薬量を少なくできる装置の技術を特徴としていました。装置の設置後に試薬や消耗品、保守が続く製品か、単発の販売かによって、収益の安定性の見方も変わります。
  2. 販売と顧客 — 取引先の病院・診療所の範囲と地域、専門領域の営業人員、買い手の製品・販売網との補完関係です。メディアス(事例⑤)は地域のシェアと調達力を、アルフレッサ(事例⑥)は医薬品の販売網を通じた診療所向けの販売を、日立(事例①)は富士フイルムの販売チャネルとの補完性を、それぞれ挙げています。
  3. 製造と品質・許認可の体制 — 製造販売業の許可、製品の承認、品質管理と安全管理の体制、製造拠点の状態です。医療機器を製造販売するには、クラスに応じて第一種から第三種の製造販売業許可が必要で、許可は3年を下らない政令で定める期間ごとに更新を要します(医薬品医療機器等法第23条の2)。個々の製品の承認については、合併・会社分割や資料等の譲渡によって承認取得者の地位を承継できると定められています(同法第23条の2の11)。株式の取得では許可・承認を持つ法人がそのまま残る一方、事業を会社分割や事業譲渡で移す場合は、受け手が許可を持っていることと、承認の承継の手続きが前提になります。事例①②は、いずれも事業を新会社に切り出してから株式を譲渡する形をとっていました。

6. 医療機器業界の買い手の類型

本稿の国内の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の狙いと対象が異なります。

  1. 医療機器メーカー・大手グループ — 富士フイルム(事例①)、シスメックス(事例②)、ナカシマホールディングス(事例④)、住友ベークライト(第2章)など。事例の買い手は、技術と販売チャネルの補完、研究開発・生産での相乗効果、事業の集約を見込んでいます。
  2. 医療機器・医薬品の販売会社 — メディアスホールディングス(事例⑤)、ヤマシタヘルスケアホールディングス、アルフレッサホールディングス(事例⑥)など。地域のシェアと調達力の拡大に加え、製造・開発の機能を取り込む動きもあります。
  3. ファンド — ポラリス・キャピタル・グループ(事例③)のような国内のファンドと、カーライル(事例⑦)、KKR(トプコン、パナソニックヘルスケア)のような海外のファンドです。大手グループから切り出された事業や、上場企業の非公開化が対象となっています。

海外の医療機器メーカーが国内の医療機器メーカーやディーラーを取得した近年の公表事例は、本稿の調査の範囲では確認できませんでした。隣接する診断薬の分野では、GEヘルスケアが合弁相手の持分を取得して日本メジフィジックスを完全子会社としています(第3章)。


7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、医療機器メーカー・販売会社の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

事例の対象先は、大きく3つの所在に分かれます。1つ目は大手グループの医療機器事業と関連会社で、日立製作所の画像診断関連事業(事例①)、日本電子の医用機器事業(事例②)、オリンパスの整形外科事業(事例③)、帝人が合弁で持っていた帝人ナカシマメディカル(事例④)が譲渡され、買い手は別の大手グループ(富士フイルム)、検査機器メーカー(シスメックス)、国内のファンド(ポラリス・キャピタル・グループ)、合弁相手の非上場企業(ナカシマホールディングス)でした。2つ目はオーナー系の非上場企業で、持株会社が99.58%を保有していた地域のディーラー(事例⑤)を上場の医療機器販売会社が、社長が代表を務める持株会社の完全子会社であった専門機器メーカー(事例⑥)を医薬品卸が取得しています。3つ目は上場企業で、ホギメディカル(事例⑦)とトプコンが、海外のファンドによって非公開化されました。

投資ファンドは、大手グループから切り出された事業(事例③。オリンパスは科学事業もベインキャピタル系の会社に譲渡)と、上場企業の非公開化(事例⑦、トプコン)で買い手となっています。ホギメディカルの売却プロセスでは、6社のファンドが一次の意向表明を出しました(事例⑦)。

オーナー系の企業は開示が限られ、公開データベースだけでは所在や事業内容を把握しにくい層です(第2章)。事例⑤では業務提携が株式の取得に先行し、事例⑥では買い手の子会社が対象会社から医療機器を仕入れていました。対象先の取得には、既存の取引関係を含めて、親会社やオーナーへの直接の打診が必要になります。

② 取引の形

大手グループからの切り出しでは、事業を会社分割で新会社に移し、その株式を譲渡する形(事例①②)、国内と海外の子会社をまとめて一つの事業部門として譲渡する形(事例③)、合弁相手と対象会社自身が売り手の株式を取得する形(事例④)がとられました。開示された価格は、事例①が事業価値ベースで約1,790億円(対象事業の売上高は1,432億円)、事例③が約37億円(対象事業の売上高は104億5,700万円で、営業損失を計上)です。オーナー系の企業では、業務提携の後に65%を現金で、残りの35%を簡易株式交換で取得する形(事例⑤)と、全株式の取得(事例⑥の契約)があります。

上場企業では、ファンドが公開買付けと株式併合で非公開化した例があり、所有割合27.58%の大株主が事前に応募に合意していました(事例⑦。公開買付価格のプレミアムは、最終の意向表明書の提出前営業日の終値に対して23.39%)。パナソニックヘルスケアでは、KKRが80%、パナソニックが20%を保有する体制に移った後、2021年に東京証券取引所に上場しており、売り手が少数の株式を持ち続ける形と、ファンドの出口としての上場の例になります(第2章)。海外では、売上高の約21倍での全株式の取得(事例⑧)や、対価の一部を事業の継続を条件にエスクローに留保する形(事例⑨)があります。

事業を会社分割や事業譲渡で移す場合は、受け手が製造販売業の許可を持っていることと、承認の承継の手続きが前提になります(第5章)。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

大手グループの売り手は、譲渡先を選んだ理由を公表しています。日立は、補完性の高い販売チャネルや技術を持つ富士フイルムに譲渡することが対象事業の成長と競争力の強化に最適であるとし(事例①)、日本電子は、シスメックスが臨床検査分野で実績とグローバルなネットワーク、成長戦略と経営資源を持ち、研究開発・生産・事業開発でシナジーが見込めることを挙げています(事例②)。オリンパスは、ファンドへの譲渡が整形外科事業の自律的かつ持続的な成長の実現に最適と判断したとし(事例③)、帝人は、事業の将来像を協議した結果、ナカシマの完全子会社として成長を目指すことが最善と判断したとしています(事例④)。上場企業では、ホギメディカルが、短期的な株価の評価から離れて中長期の施策を進めるために非公開化を選んだと説明しています(事例⑦)。オーナー系の企業の事例⑤⑥では、開示は譲渡の理由として後継者の有無に触れていません(第1章)。

これらの説明からは、事例の親会社が、価格に加えて、対象事業の成長を担う経営資源と、販売チャネル・技術の補完を、譲渡先を選ぶ理由として示していたことがうかがえます。


8. 医療機器メーカー・販売会社のオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

国内の事例では、医療機器メーカーに加えて、医療機器の販売会社(事例⑤)、医薬品卸(事例⑥)、国内外のファンド(事例③⑦)が買い手となっています。国内大手は、国内での事業の取得(事例①②)に加えて、海外の成長企業の取得も続けています(事例⑧⑨)。海外の医療機器メーカーが国内の医療機器メーカーやディーラーを取得した近年の公表事例は本稿の調査の範囲では確認できませんでしたが、海外のファンド(事例⑦)や、隣接する診断薬の分野の合弁相手(日本メジフィジックス)が国内企業を取得した例があり、海外の事業会社も、製品・販売網の補完が見込める場合には候補となり得ます。買い手候補は、これらの先の中から、自社の製品・顧客・拠点と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(製品と承認、販売と顧客、製造と品質・許認可の体制)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。許可・承認をどの法人が持ち、どの製品の承認がどの法人に帰属しているかは、取引の形を決める前提になるため、一覧にしておくことが必要です。事例⑤⑥のように、業務提携先や既存の仕入れ先との関係が取得に先行する場合もあるため、取引関係も整理の対象になります。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員や取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。株式の取得か事業の譲渡かで許可・承認の手続きが変わるため、現在の資本関係と許認可の帰属を含めて選択肢を整理しておくことが必要です。時期の面では、事例⑤では業務提携から完全子会社化まで約1年をかけ、事例①では契約から取得の完了の予定まで1年余りの期間が置かれていました。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。医療機器を含むヘルスケア分野で、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。医療機器業界では、大手グループからの切り出しに加えて、公開情報の少ない非上場のオーナー企業が対象となるため、候補先の調査とオーナーへの直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、医療機器・医薬品の販売会社、ファンドに加えて、海外の医療機器メーカーなどの戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の同業、販売会社・医薬品卸、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の製品・顧客・拠点と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:製品分野ごとの採用の決まり方、医療機関・販売会社との取引関係、製造販売業の許可と承認の帰属など、医療機器業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、取引先との関係、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料・報道等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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