M&Aの”買収候補の探し方” — ティーザーを待つ側から、母集団を設計する側へ

買収候補の探し方

エグゼクティブサマリー

「買いたいと思う会社ほど、売りに出てこない」——事業会社の経営企画部門、そしてPEファンドの投資担当者から、最もよく聞く言葉です。

多くの企業にとって、M&Aの買収候補の探し方は「待つ」ことと同義になっています。取引金融機関、仲介会社、会計事務所、証券会社からティーザーが届き、その中から検討に値するものを選ぶ。これが国内M&Aの標準的な進め方です。

しかし、この進め方には三つの構造的な制約があります。第一に、届く案件は「売りに出た会社」であって「自社が買いたい会社」ではありません。第二に、双方から手数料を得るモデルの下では、提示され得る候補はあらかじめその仲介会社と契約した先に限定されます。第三に、その案件は同時に複数の買い手候補に配られており、検討を始めた時点ですでに比較競争のなかにいます。

この三つは、支援機関の増加と買い手の多様化が同時に進む現在の日本市場において、いずれも強まる方向にあります。そして、同じ局面を数十年早く通過した市場が存在します。米国です。 本稿では、日本市場で起きている変化を制度と統計から整理し、米国の実務がその過程で何に収斂したのかを実証研究から確認したうえで、日本の買い手にとっての具体的な示唆を導きます。

日本市場で同時に進む二つの変化

支援機関の急増と、流通経路の寡占

日本の中小M&A市場では、支援機関の数がこの数年で大きく増加しました。中小企業庁によれば、2021年8月に運用が始まったM&A支援機関登録制度において、2026年3月時点で仲介・FAといったM&A専門業者約1,200者を中心に、約3,400者の支援機関が登録されています(中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」/2026年3月)。

この数字が意味するのは、売り手との接点をめぐる競争が極めて激しくなったという事実です。そして買い手にとって重要なのは、その競争の勝者が案件の流通経路を握るという点です。買い手は、その経路の末端に位置しています。

配分にも偏りがあります。中小企業庁の集計では、M&Aアドバイザーの約85%が三大都市圏に集中しており、地方には約15%しか存在しません(中小企業庁/2025年6月、2023年度実績報告に基づく集計)。地方に所在する優良な中堅企業ほど、専門業者の網の目から外れやすい構造にあります。

買い手ユニバースの拡大

同時に、買い手の側も大きく広がりました。事業会社に加え、国内独立系のバイアウトファンド、金融機関系・商社系のファンド、地域特化ファンド、そして経営者候補が自ら会社を探して買うサーチファンドまで、買い手の類型は多様化しています。国内PE市場では投資機会が拡大し、国内ファームのファンドサイズも上昇傾向にあります(一般社団法人日本プライベート・エクイティ協会「日本におけるプライベート・エクイティ市場の概観」/2025年6月)。

買い手にとって、これは単純な事実を意味します。同じティーザーを受け取る相手が増えたということです。供給側の数が増え、買い手側の数も増えれば、ひとつの案件をめぐる比較競争は当然に激化します。

結果として何が起きるか

流通経路は支援機関に握られ、その経路に乗る案件を、増え続ける買い手が奪い合う。この構造の下で買い手企業に届く案件がどのようなものになるかは、ほぼ機械的に決まります。待つという選択肢の期待値は、市場が成熟するほど下がっていくというのが、日本市場の現在地です。

米国はこの局面を、数十年早く通過している

日本で今起きている変化——仲介・アドバイザリー業者の急増と、PEを含む買い手ユニバースの拡大——は、米国が先に経験したものです。そして米国の実務は、その過程を経て、ある一点に収斂しました。買い手が自ら候補の母集団を設計し、接触するという進め方です。これは先進的な手法ではなく、多数派の標準です。米国の事業会社では、この探索を担う専任機能がCorp Dev(Corporate Development)として社内に置かれており、日本では経営企画部門が兼務で担っている業務が、独立した職能として確立しています。

案件の6割超は買い手が起こしている。 米国のM&Aについて、どちらの当事者が最初に動いたかを分類した研究では、64.6%が買い手起点、残る35.4%が売り手起点という結果が得られています(Masulis & Simsir, Journal of Financial and Quantitative Analysis, 2018)。

投資銀行からの持ち込みは3分の1にすぎない。 運用資産合計7,500億ドル超のPEファーム79社を対象とした調査では、成約案件のうち約36%が自ら能動的に組成したもの、33%が投資銀行経由、残りが経営陣や自社のネットワーク経由でした(Gompers, Kaplan & Mukharlyamov, Journal of Financial Economics, 2016)。競争が激化した市場で、プロの買い手が持ち込みへの依存を3分の1まで下げているという事実は、それ自体が答えになっています。

探索の体制を持つ投資家は成績が良い。 PE・VC150社超への詳細な聞き取りに基づく研究では、能動的な組成戦略を採るファンドが一貫して高いリターンを上げており、その要因は流入する投資機会の量と適合度の双方にあると結論づけられています。専門のソーシングチームを備えた投資家は、ステージ・ビンテージ・セクターを問わずほぼ全てが上位四分位に入るとも報告されています(Teten & Farmer, Journal of Private Equity, 2010)。探索は属人的な才覚ではなく、投下する資源に比例する機能である——これが米国市場の到達点です。

相対交渉は例外ではなく半分。 公開前の私的なプロセスまで含めて分析した研究では、対象企業の半分が複数の買い手による入札にかけられた一方、残る半分は単独の買い手との相対交渉で売却されていました(Boone & Mulherin, Journal of Finance, 2007)。「良い会社は必ず入札になる」というのは、事実ではありません。

探索そのものが投資モデルになっている。 スタンフォード大学経営大学院は、1984年以降に米国・カナダで組成された862本のサーチファンド——買収する会社を「探すため」に先に資金を集める仕組み——を追跡しています。最新の調査では、その数は増加を続け、リターンはS&P500を一貫して上回り、約6割が実際に企業を取得しています(Stanford Graduate School of Business, 2026 Search Fund Study)。日本でも同種のファンドが組成され始めていますが、米国では40年の検証データを持つ資産クラスになっています。

日本の買い手への示唆

米国の経験から読み取れることは、三点に整理できます。

第一に、支援機関が増え、買い手が増えるほど、持ち込みを待つ戦略の相対的な価値は下がります。 米国のプロの買い手が投資銀行経由への依存を3分の1に抑えているのは、市場が未熟だからではなく、成熟した結果です。

第二に、探索は組織的な機能であって、人脈や偶然ではありません。 専門の体制を持つ投資家が一貫して上位に入るという事実は、探索が投資対象であることを示しています。日本の買い手にとって、これは自社で体制を持つか、外部に委託するかという選択の問題になります。

第三に、相対で決まる取引が半分を占めるという事実は、入口の設計次第で競争の外に立てることを意味します。 日本の買い手が「良い会社は結局オークションになる」と考えているとすれば、それは自らの探索方法が生んだ観測にすぎない可能性があります。

以下では、この示唆を日本の実務に引き直し、なぜ待っていても買いたい会社が出てこないのかを4つの構造から整理します。

なぜ買いたい会社は売りに出ないのか — 4つの構造

「売り案件」を待つアプローチとの対比において、買い手起点の能動的探索の優位性は4つの構造に整理されます。

1. 供給の構造 — 「待っても出てこない」

売主起点案件の偏在。 仲介会社・アドバイザリー会社が売主側で扱う案件は、事業承継や資金調達のニーズが顕在化した先に集中します。これは供給側として合理的な行動であり、案件の質の問題ではありません。しかし帰結は明確です——戦略的な提携には応じ得るが、売却課題を抱えているわけではない企業は、このチャネルにほぼ乗りません。

買い手が本当に組みたい相手は、多くの場合この後者です。安定して収益を上げ、顧客基盤も技術も持っている。だからこそ、売り急ぐ理由がない。売却の必要に迫られた企業ばかりが流通する構造の中では、買い手の第一希望は原理的に現れにくいということになります。

この偏りは、実証研究でも裏づけられています。米国のM&Aを対象とした分析では、売り手側から持ち込まれた案件の主要な動機が、対象企業の経済的な弱さ、資金制約、経済全体の下押しであったと報告されています。さらに同研究は、売り手起点の案件では買収プレミアムもEBITDA倍率も有意に低く、それは売り手の財務状況だけでは説明できないことを示しています(Masulis & Simsir, Journal of Financial and Quantitative Analysis, 2018)。

向こうから来る案件が「安く見える」ことがあるとすれば、それは対象企業の状態を織り込んだ結果である可能性が高いということです。持ち込みのチャネルは、企業の魅力度ではなく必要性でふるいにかけられています。

候補が「契約の取れた先」に限られる。 さらに根本的な制約があります。仲介は売り手・買い手の双方から手数料を得るビジネスモデルであるため、買い手に提示できる候補は、買い手にとって最適な相手である前に、自社と仲介契約を締結してくれた先でなければならないという構造を持ちます。

これはサプライヤーの論理です。手元にある在庫を売るという構造であって、買い手の戦略から逆算して母集団全体を探索するという構造ではありません。そしてこの制約は、担当者の能力や誠実さとは無関係に働きます。どれほど優秀な担当者であっても、契約のない会社を候補として提示することはできないからです。

買い手側専任のM&Aアドバイザー(FA)には、この構造的な利益対立も、契約上の縛りもありません。探索の対象は、契約が取れた先ではなく、買い手にとって最適な相手が存在し得る母集団の全体です。 誰と組むべきかを、在庫の制約から切り離して検討できることが、起用形態を選ぶ実務上の意味になります。

母集団の希少性。 技術・製品領域が特異な業界では、そもそも候補企業の数自体が限定的です。ここに前述の低い売却顕在化率が掛かります。少数母集団 × 低い売却顕在化率——出物を待つことの期待値は、計算するまでもなく非常に低い。 中期経営計画で対象領域を具体的に定めている企業ほど、合致する案件が偶然回ってくる確率は下がります。方針が明確なのに実行が進まないという状態は、意思の問題ではなく確率の問題です。

オーナーの行動特性。 オーナー企業の経営者は、自ら売却プロセスに乗ることには慎重である一方、「誰と、どう組むか」次第では相対での検討に応じます。取引銀行や顧問税理士に相談すれば話が動き出してしまうという警戒があり、仲介会社からの打診には身構える。しかし、相手と条件が具体的であれば話を聞く用意はある。「市場に出ない」は「動かせない」を意味しません。相対でのみ開く扉があります。

2. 戦略との適合 — 「出物では目的を達せない」

戦略起点の選定順序。 出物ベースの検討は、「出てきた案件が戦略的に合致するかを判断する」という逆順の作業です。持ち込まれる案件は売り手側の事情から組成されるため、それが買い手の戦略と一致するかどうかは偶然に依存します。能動的探索は、戦略 → 要件定義 → 対象特定・打診の順で進むため、検討の手戻りが構造的に少なくなります。

ストラクチャーの柔軟性。 戦略的手段としてのM&Aにおける最適解は、100%の買収に限られません。マジョリティ、マイノリティ、合弁——現オーナーに一定期間の継続関与を求める設計や、段階的に持分を引き上げる設計が最適となる場面は数多くあります。事業価値が特定の人物の関係性や技術に依存している中堅企業では、むしろこちらが標準的な解になります。

こうした個別事情に応じた取引設計は、売却ありきのプロセスからは生まれません。 売却プロセスは通常、売主が売りたい持分を売りたい形で提示するところから始まります。買い手の戦略に合わせて持分比率や関与の形を組み替えられるのは、相対交渉においてのみです。

社内合意形成との整合。 戦略仮説と要件から出発するため、経営会議・取締役会への説明や稟議のロジックと、検討プロセスがそもそも一致します。持ち込み案件に対応する場合に必要となる「なぜこの会社か」の後付け説明が、構造的に不要になります。網羅的な母集団から一定の基準で絞り込み、複数の候補に接触したうえで一社を選んだという過程は、そのまま説明資料になります。選ばなかった会社の存在を示せることが、選んだ理由の説得力を支えます。

3. 実行上の制約 — 「自分では当たれない」

匿名性と関係維持の両立。 第三者が間に立つことで、初期段階では社名を開示せずに意向を確認できます。これにより、幅広い打診と、見送りとなった場合の事業上の関係毀損の回避が両立します。

自社の名前で取引先・同業者・サプライヤーに買収を打診することの代償は大きすぎます。断られた後の取引関係は元に戻らず、社内で情報が広がり、相手方の価格期待は跳ね上がります。業界内でプレゼンスのある企業ほど、直接アプローチの制約は大きくなります。

複数候補打診による最適な候補の選定。 複数の候補先を同時並行で検討することにより、戦略への適合度に加えて、ストラクチャー(取得可能な比率等)と経済条件(価格等)を踏まえた最適な候補選定が可能になります。一社ずつ順に当たる進め方では、目の前の一社が良いのか悪いのかを判断する基準が手元にありません。

4. 競争環境 — 「入札か、相対か」

ティーザーは、通常、複数の買い手候補に同時または短い間隔で送付されます。成約確度を高めるには複数の買い手を並べることが確実であるため、これも供給側として合理的な行動です。

買い手側から見ると、これは検討開始の瞬間から相対交渉ではなく比較競争に置かれることを意味します。条件交渉の余地は狭まり、勝率は候補社数で割られます。

ここで注意すべきは、この問題を「価格が高くつく」という話に単純化しないことです。米国の上場企業を対象とした研究では、入札と相対交渉とで対象企業株主の富の効果は同程度であったと報告されています。実際に入札にならなくとも、潜在的な競争の存在が価格に織り込まれるためです(Boone & Mulherin, Journal of Finance, 2007)。

買い手起点の相対打診がもたらす優位は、価格そのものよりも、交渉と設計の自由度にあります。競合を前提とした期限に追われず、取得比率や現オーナーの関与の形を相手方の事情に合わせて組み替えられ、初期段階から関係を構築できる。前述のストラクチャーの柔軟性が現実に機能するのは、この環境においてのみです。買い手が本当に手に入れたいのは案件そのものではなく、入札に晒されない対話の入口です。 そしてこの入口は、待っている限り手に入りません。

助言者の立場をどう選ぶか

以上の4つの構造とは別に、買い手として起用する助言者の立場を正確に理解しておくことも実務上重要です。

国内の中小M&Aでは、売り手と買い手の双方に関与し、双方から報酬を受ける仲介の形態が広く用いられています。これは制度上認められた形態であり、それ自体が問題であるという趣旨ではありません。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は2024年8月に第3版へ改訂され、契約締結前に手数料の算定方法や最低報酬額といった重要事項を書面で説明することが求められるとともに、仲介の場合には利益相反防止の観点から、一方当事者の意向が反映されやすいバリュエーションやデューデリジェンス等の結論を決定しないことが明記されました。ガイドライン違反があった場合には登録取消しや氏名公表もあり得る制度設計となっています(中小企業庁/2024年8月改訂)。さらに同庁の検討会では、支援の質を担保するための中小M&A資格試験の概要も公表されています(中小企業庁/2026年3月)。

制度がこうした整備を進めているという事実自体が、取引の両側に立つ構造には固有の論点があると公的にも認識されていることを示しています。

もっとも、買い手にとってより実務的な論点は、価格やデューデリジェンスの局面よりも前——候補の母集団がどう決まるかにあります。構造1で述べたとおり、双方から手数料を得るモデルの下では、提示され得る候補はあらかじめ契約の取れた先に限定されます。買い手としては、自社の側にのみ立つ助言者を確保するのか、双方に関与する助言者に委ねるのかを、この点を踏まえて意識的に選択すべき場面です。

買収候補の探し方 を変えなければ、同じ層にしか届かない

国内で買い手が求める会社——地域に根ざした顧客基盤、特定用途の技術、許認可、熟練した現場を持つ中堅企業——の多くは、非公開のオーナー企業です。

事業承継の課題があること自体は、統計が示す通りです。帝国データバンクの調査では、2025年の後継者不在率は50.1%と過去最低水準まで改善したものの、中小企業では51.2%、小規模企業では57.3%と、規模が小さいほど高い水準が続いています(帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」/2025年)。

しかし、承継の課題を抱えていることと、売却プロセスに乗っていることは、まったく別の話です。

これらの企業の多くは、売却を検討していないのではなく、検討する相手を持っていません。取引銀行や顧問税理士に相談すれば話が動き出してしまうという警戒があり、仲介会社からの打診には身構える。結果として、意思決定は先送りされ、あるいは長年の取引関係のなかで静かに決着します。ティーザーが作成される段階に至る企業は、この母集団のごく一部にすぎません。

裏を返せば、買い手にとって最も価値のある候補は、待っていても決して現れない層に集中しているということです。

当社の考え方 — 買い手側のM&Aアドバイザー

Syntax Partnersは、日本を拠点とする独立系のM&Aアドバイザリーファームです。当社は、いかなる取引においても一方の当事者のみに助言し、双方から報酬を受けることはありません。買い手のための業務は、買い手の利益のみに整合した業務として設計されます。

この形態を取ることの実務上の意味は、報酬の受け取り方そのものよりも、探索の対象範囲に制約がかからない点にあります。相手方と契約を結ぶ必要がないため、候補は「当社が受託できた先」ではなく、買い手の要件に合致し得る企業の全体から選定されます。

当社の実務上の特徴は、業界単位の母集団(ユニバース)を一次情報から構築することにあります。業界団体の会員名簿、公的統計、各社の一次資料を突き合わせ、対象業界に属する企業を網羅的に把握したうえで、資本構成、規模、事業内容、オーナーの状況を一社ずつ確認していきます。上場企業の子会社や外資系グループの傘下企業を機械的に除外し、実際に打診し得る先だけを残す作業です。

そのうえで、クライアントの経営企画部門と絞り込みの基準を共有したうえで、残った企業の意思決定者に対し、個別に書状をお送りしています。既製の文面を大量に送るのではなく、なぜその一社なのかを説明できる先にのみ、その理由を書いて送るという運用です。中小M&Aガイドライン第3版および業界団体の自主規制が、実在しない買い手候補の存在を示唆するような勧誘を禁じている以上、この運用は制度対応としても必然的なものだと当社は考えています。

買収候補の探し方を実務に落とす — 3か月のプログラム

以下は保証ではなく、当社の経験に基づく標準的な設計です。

第1か月 — 買収基準の確定とユニバースの構築

中期経営計画から「なぜこの領域か」を再構成し、規模、収益性、地域、事業モデル、取得比率、許容倍率、シナジー仮説を文書として確定します。この作業は探索の前提であると同時に、社内の合意形成と取締役会への説明可能性を確保する作業でもあります。

並行して、対象業界の母集団を一次情報から構築します。対象には、非公開のオーナー企業、上場企業の非中核事業やカーブアウト候補、親会社の方針転換の影響を受け得るグループ会社を含めます。

第2か月 — ショートリストと個別打診

母集団を優先順位付きのショートリストへ絞り込み、意思決定者への打診を開始します。相手方の側にアドバイザーが不在であることが通常であるため、初期段階では相手方が社内・親族内で検討するための時間と情報を用意することが実務の中心になります。

関心が確認された先とはNDAを締結し、初期情報の入手に進みます。この段階で「案件がない」状態が「進行中の対話」に変わります。

第3か月 — パイプラインと Plan A / Plan B

定義したセグメントと地域の候補を一通り「触った」状態にし、複数の対話を並行して走らせます。効果は二つあります。

一つは交渉ポジションの確保です。第一候補(Plan A)とそれに代わり得る候補(Plan B)を同時に確保することで、単一の相手方の日程や交渉姿勢によって自社の戦略が左右される状況を回避できます。

もう一つは選定そのものの質です。戦略適合度に加え、取得可能な比率と価格条件を横並びで比較したうえで最適な候補を選べます。

成果物は一件の案件ではなく、選択肢です。

よくあるご質問

  • 仲介会社から案件を紹介してもらうのと、買い手側のM&Aアドバイザーを起用するのは何が違うのですか。 出発点が異なります。前者は「売りに出た会社」から選ぶ進め方であり、通常は複数の買い手候補に同時に打診されています。後者は自社の戦略から候補を定義し、売却プロセスに乗っていない企業を含めて接触する進め方です。相対での対話を組成できる点と、選ばなかった候補を含めた検討過程が残る点が実務上の違いになります。
  • 仲介会社に買収ニーズを伝えておけば、候補を探してもらえるのではないですか。 探してはもらえますが、探索の範囲に構造的な制約がかかります。仲介は売り手・買い手の双方から手数料を得るモデルであるため、買い手に提示できる候補は、買い手にとって最適な相手である前に、自社と仲介契約を締結してくれた先である必要があります。担当者の能力とは無関係に、契約のない会社は候補として出てきません。買い手側専任のアドバイザーにはこの縛りがなく、候補は買い手の要件に合致し得る企業の全体から選定されます。
  • 自社で候補企業に直接連絡するのでは駄目なのですか。 取引先や同業者に自社名で買収の打診を行うことは、断られた場合の関係悪化、社内外への情報の広がり、相手方の価格期待の上昇という代償を伴い、いずれも回復が困難です。匿名で関心の有無を確認し、成立しなければ何事もなかったこととして終えられる機能は、第三者にしか果たせません。
  • 売りに出ていない会社に打診して、意味があるのですか。 後継者不在率は2025年時点で中小企業51.2%、小規模企業57.3%という水準にあります(帝国データバンク)。承継の課題を抱えていることと、売却プロセスに乗っていることは別であり、相談相手を持たないまま先送りされている企業が相当数存在します。打診の目的は即座の売却提案ではなく、検討の入口を用意することです。
  • 100%の取得でなくてもよいのですが、対応できますか。 むしろ、取得比率を所与としないことが能動的探索の利点の一つです。事業価値が現オーナーの関係性や技術に依存している中堅企業では、マジョリティ取得に留めて一定期間の継続関与を求める設計や、段階的に持分を引き上げる設計が現実的な解となる場面が数多くあります。こうした個別事情に応じた取引設計は、売却ありきのプロセスからは生まれず、相対交渉においてのみ組成できます。
  • まだ買収基準が固まっていない段階でも相談できますか。 その段階からの関与を想定しています。規模・地域・収益性・取得比率・許容倍率を文書として定義する作業がなければ、案件が届いても判断ができず、検討に時間を要したうえで見送るという循環が繰り返されます。当社のプログラムの第1か月は、この言語化に充てられています。

おわりに:買収候補の探し方を、待つことから定義することへ

国内M&Aで買い手が選べるのは、実のところ二つの進め方だけです。

一つは、これまで通り持ち込みを待つこと。案件数の制約、戦略との偶然の一致に依存すること、そして検討開始の時点ですでに比較競争のなかにいることを受け入れることを意味します。

もう一つは、自社の戦略から候補を定義し、売却プロセスに乗っていない企業に働きかけること。どのような仲介プロセスにも現れなかったオーナーに、こちらから届くことを意味します。

買える会社がないのではありません。既存の流通経路が、買い手の戦略に合わせて設計されていないだけです。買い手側のM&Aアドバイザーの役割は、案件を紹介することではなく、この経路そのものを自社の戦略に合わせて作り直すことにあります。

国内M&Aにおける候補探索のプログラム設計をご検討される場合は、秘密保持のうえでご相談を承ります。

関連リンク


出典

  • 中小企業庁「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(2025年5月、2025年6月、2026年3月)
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂)
  • 帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」(2025年)
  • 一般社団法人日本プライベート・エクイティ協会「日本におけるプライベート・エクイティ市場の概観」(2025年6月)
  • Masulis, R. W. & Simsir, S. A., “Deal Initiation in Mergers and Acquisitions,” Journal of Financial and Quantitative Analysis, Vol. 53, No. 6 (2018)
  • Gompers, P., Kaplan, S. N. & Mukharlyamov, V., “What Do Private Equity Firms Say They Do?” Journal of Financial Economics, Vol. 121, No. 3 (2016)
  • Teten, D. & Farmer, C., “Where Are the Deals? Private Equity and Venture Capital Funds’ Best Practices in Sourcing New Investments,” Journal of Private Equity, Vol. 14, No. 1 (2010)
  • Boone, A. L. & Mulherin, J. H., “How Are Firms Sold?” Journal of Finance, Vol. 62, No. 2 (2007)
  • Stanford Graduate School of Business, “2026 Search Fund Study: Selected Observations”(2026年)