海外M&Aの買収候補 は自ら組成する — 米国実務に学ぶ、買い手起点のディールソーシング

エグゼクティブサマリー

海外M&Aの買収候補

M&Aを海外成長の手段として明確に位置づけている。対象領域も、求める機能も、社内では共有されている。それでも実行に至らないまま時間が経過する。海外M&Aを担う経営企画部門にとって、これは例外ではなく、むしろ標準的な状態です。

原因は資金でも、意思決定の胆力でも、価格でもありません。海外M&Aの買収候補が、そもそも検討に足る数だけ手元に届いていないことにあります。証券会社・銀行・現地アドバイザーから持ち込まれる案件を待つ限り、手元に来るのは「売りに出た会社」であって「買いたい会社」ではありません。しかもその案件は、同時に複数の買い手候補に配られています。

この構造は変えられます。答えは、案件が回ってくるのを待つことをやめ、自社の戦略から逆算して候補を特定し、公開プロセスが存在しない段階で意思決定者に直接接触する——すなわち能動的な候補探索です。海外M&Aのソーシングを、他者が組成した案件の受け手であることから、自社が設計する業務へと組み替えるということです。

そしてこれは、当社が独自に提唱する手法ではありません。M&Aの実務が最も蓄積した米国では、案件の64.6%が買い手起点で始まっており、PEファームですら成約案件の3分の1しか投資銀行経由で得ていません。 支援機関が増え、PEを含む買い手ユニバースが広がるという、日本市場が今まさに通過している局面を先に経験した市場が、たどり着いた実務がこれです。

本稿では、米国の到達点を実証研究から確認したうえで、日本企業の海外M&Aが「戦略はあるが案件がない」状態に陥る構造を整理し、当社が3か月で稼働中のパイプラインを構築するために用いている進め方を説明します。

「良い案件がない」のではなく、買収候補が並んでいない

海外M&Aを1年以上検討してきた企業に、実際に検討した案件の数を尋ねると、返ってくる答えはたいてい「数件」です。しかもその多くは、社内の投資基準に照らして早々に見送られています。

ここで多くの議論が取り違えるのは、問題を「案件の質」だと診断してしまう点です。実際には、質の前に量が足りていません。戦略に合致する候補が、選べるだけの数だけ並んだことが一度もないというのが、多くの企業の実情です。

この状態が続くと、社内には特有の結論が形成されます。曰く、「アジアには買えるものがない」「良い会社は売りに出ない」「価格が合わない」。いずれも、限られた母数から導かれた誤った一般化です。母数が足りないのであって、市場に会社がないわけではありません。

そして持ち込まれる案件がどのようなものかについても、冷静である必要があります。現地のアドバイザーが組成した売却案件が日本企業に届くとき、それはすでに現地・域内の買い手候補を一巡した後であることが少なくありません。情報は広く出回り、経営陣は疲弊し、価格の目線は動いています。「なぜこれがまだ残っているのか」という問いが、最初の面談から交渉全体に影を落とすことになります。

問題の本質は主導権です。受け身の姿勢でいる限り、どの会社が、どの順番で、誰に紹介されるかを決めるのは他者です。能動的な候補探索は、この流れを反転させます。どの会社と話すかを決めるのは買い手自身であり、その対象には、正式に売りに出たことが一度もなく、どのような仲介プロセスにも現れなかった企業が含まれます。

米国はこの局面を、数十年早く通過している

日本のM&A市場では、仲介・アドバイザリー業者の数が急増し、同時に事業会社・PEファンド・サーチファンドと買い手の類型も広がりました。ひとつの案件をめぐる比較競争は、必然的に激しくなっています。

この局面を先に経験したのが米国です。そして米国の実務は、その過程を経てある一点に収斂しました。買い手が自ら候補の母集団を設計し、接触するという進め方です。先進的な手法ではなく、多数派の標準として定着しています。米国の事業会社では、この探索を担う専任機能がCorp Dev(Corporate Development)として社内に置かれており、日本では経営企画部門が兼務で担っている業務が、独立した職能として確立しています。

案件の6割超は買い手が起こしている。 米国のM&Aについて、どちらの当事者が最初に動いたかを分類した研究では、64.6%が買い手起点、残る35.4%が売り手起点という結果が得られています(Masulis & Simsir, Journal of Financial and Quantitative Analysis, 2018)。

投資銀行からの持ち込みは3分の1にすぎない。 運用資産合計7,500億ドル超のPEファーム79社を対象とした調査では、成約案件のうち約36%が自ら能動的に組成したもの、33%が投資銀行経由、残りが経営陣や自社のネットワーク経由でした(Gompers, Kaplan & Mukharlyamov, Journal of Financial Economics, 2016)。競争の激しい市場で、プロの買い手が持ち込みへの依存を3分の1まで下げている。この事実自体が答えになっています。

探索の体制を持つ投資家は成績が良い。 PE・VC150社超への詳細な聞き取りに基づく研究では、能動的な組成戦略を採るファンドが一貫して高いリターンを上げており、その要因は流入する投資機会の量と適合度の双方にあると結論づけられています。専門のソーシングチームを備えた投資家は、ステージ・ビンテージ・セクターを問わずほぼ全てが上位四分位に入るとも報告されています(Teten & Farmer, Journal of Private Equity, 2010)。探索は属人的な才覚ではなく、投下する資源に比例する機能である——これが米国市場の到達点です。

相対交渉は例外ではなく半分。 公開前の私的なプロセスまで含めて分析した研究では、対象企業の半分が複数の買い手による入札にかけられた一方、残る半分は単独の買い手との相対交渉で売却されていました(Boone & Mulherin, Journal of Finance, 2007)。「良い会社は必ず入札になる」というのは、事実ではありません。

探索そのものが投資モデルになっている。 スタンフォード大学経営大学院は、1984年以降に米国・カナダで組成された862本のサーチファンド——買収する会社を「探すため」に先に資金を集める仕組み——を追跡しています。最新の調査では、その数は増加を続け、リターンはS&P500を一貫して上回り、約6割が実際に企業を取得しています(Stanford Graduate School of Business, 2026 Search Fund Study)。

日本の買い手への示唆

米国の経験から読み取れることは、三点に整理できます。

第一に、支援機関が増え、買い手が増えるほど、持ち込みを待つ戦略の相対的な価値は下がります。 米国のプロの買い手が投資銀行経由への依存を3分の1に抑えているのは、市場が未熟だからではなく、成熟した結果です。

第二に、探索は組織的な機能であって、人脈や偶然ではありません。 自社で体制を持つか、外部に委託するかという資源配分の選択に還元される問題です。

第三に、相対で決まる取引が半分を占めるという事実は、入口の設計次第で競争の外に立てることを意味します。 「良い会社は結局オークションになる」という実感は、自らの探索方法が生んだ観測にすぎない可能性があります。

そして海外M&Aの場合、これらに固有の事情が加わります。日本企業が交渉する相手方も、その相手方に助言する現地のアドバイザーも、この前提のもとで動いているということです。持ち込みを待つ側に立ち続けることは、同じ市場で異なるルールを採用することを意味します。

以下では、この示唆を踏まえ、なぜ 海外M&Aの買収候補 は待っていても出てこないのかを4つの構造から整理します。

なぜ 海外M&Aの買収候補 は待っていても出てこないのか — 4つの構造

「売り案件」を待つアプローチとの対比において、買い手起点の能動的探索の優位性は4つの構造に整理されます。

1. 供給の構造 — 「待っても出てこない」

売主起点案件の偏在。 投資銀行・M&Aアドバイザリーが売主側で扱う案件は、事業承継や資金調達のニーズが顕在化した先に集中します。これは供給側の合理的な行動の結果であって、案件の質の問題ではありません。しかし帰結は明確です——戦略的提携には応じ得るが、売却課題を抱えているわけではない企業は、このチャネルにほぼ乗りません。 買い手が本当に組みたい相手ほど、この網から外れています。

この偏りは、実証研究でも裏づけられています。米国のM&Aを対象とした分析では、売り手側から持ち込まれた案件の主要な動機が、対象企業の経済的な弱さ、資金制約、経済全体の下押しであったと報告されています(Masulis & Simsir, Journal of Financial and Quantitative Analysis, 2018)。持ち込みのチャネルは、企業の魅力度ではなく必要性でふるいにかけられているということです。

これに加えて、クロスボーダー特有の制約が働きます。売手側のアドバイザーは限られた時間のなかで「確度が高く、速く、価格が出る買い手」から順に打診します。当社の実務上の観察では、日本企業はこのうち「速さ」で不利に評価されることが多く、社内稟議・取締役会日程・本社と現地法人の合意形成に要する時間が、初期打診の段階で織り込まれています。結果として、日本企業は後半の打診先に回るか、一巡した後に打診されることになります。

経済産業省も、海外M&Aについて「制度・言語・文化面の違いをはじめとして難度が高い側面があり、期待された成果を十分挙げられていない事例も少なくない」と整理しています(経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会」報告書/2018年3月)。この難度は買収後だけでなく、案件に到達する前の段階から働いています。

候補は、その助言者が受託できた先に限られる。 案件を持ち込む側が提示できるのは、自社が売却マンデートを獲得した先だけです。買い手から見れば、示される候補群は「自社にとって最適な相手」を母集団として選ばれたものではなく、その助言者が契約を取れた先という在庫にすぎません。

日本国内では、この制約はさらに強く働きます。売り手と買い手の双方から手数料を得る仲介の形態では、買い手に提示できる候補は、買い手にとって最適な相手である前に、自社と仲介契約を締結してくれた先である必要があるためです。いずれの場合も、これはサプライヤーの論理——手元の在庫を売る構造であって、買い手の戦略から逆算して母集団全体を探索する構造ではありません。

買い手側専任のアドバイザー(FA)には、この構造的な利益対立も契約上の縛りもありません。探索の対象は、受託できた先ではなく、買い手の要件に合致し得る企業の全体です。

母集団の希少性。 技術・製品領域が特異な業界では、そもそも候補企業の数自体が限定的です。ここに前述の低い売却顕在化率が掛かります。少数母集団 × 低い売却顕在化率——出物を待つことの期待値は、計算するまでもなく非常に低い。 汎用的な業界であれば待つことにも一定の合理性がありますが、買い手が特定の技術・顧客基盤・許認可を求めるほど、待機戦略の期待値は下がります。

オーナーの行動特性。 アジアの中堅企業の多くは非公開のオーナー系・ファミリー系企業です。こうした企業のオーナーは、自ら売却プロセスに乗ることには慎重である一方、「誰と、どう組むか」次第では相対での検討に応じます。「市場に出ない」は「動かせない」を意味しません。相対でのみ開く扉があります。

ただし、これらの企業は買収の可否そのものに事前検証を要します。実質的な株主が誰か、名義上の株主と実質支配者が一致しているか、創業家の承継の議論がどの段階にあるか、当該国の外資規制上そもそも過半数取得が可能か。タイの外国人事業法のように、外国資本の事業運営を規制し、名義借り(ノミニー)を禁じる制度がある国では、この確認は交渉以前の前提条件です。机上のスクリーニングでは埋まらず、現地での確認を要します。

2. 戦略との適合 — 「出物では目的を達せない」

戦略起点の選定順序。 出物ベースの検討は、「出てきた案件が戦略的に合致するかを判断する」という逆順の作業です。能動的探索は、戦略 → 要件定義 → 対象特定・打診の順で進むため、検討の手戻りが構造的に少なくなります。

経済産業省が「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」で掲げる項目のうち、行動3が「入念な準備に『時間をかける』」、行動4が「買収ありきでない成長のための判断軸」であり、その前提として「M&A戦略ストーリーの構想力」——中長期の目指す姿から逆算して主体的・戦略的に検討・準備を行うこと——が置かれている点は示唆的です(経済産業省/2019年3月)。政府自身が、案件起点ではなく戦略起点であるべきだと整理しているわけです。そして戦略起点であるということは、論理的に一つの帰結を伴います。戦略から逆算した候補は、持ち込みでは揃わないということです。

ストラクチャーの柔軟性。 これはアジアにおいて特に重要な論点です。戦略的手段としてのM&Aにおける最適解は、100%の買収に限られません。マジョリティ、マイノリティ、合弁——現地オーナーの継続関与を前提とする設計や、段階的に持分を引き上げる設計が最適となる場面は数多くあります。外資規制上100%取得が想定しにくい国では、そもそも非100%以外の選択肢がないこともあります。

こうした個別事情に応じた取引設計は、売却ありきのプロセスからは生まれません。 売却プロセスは通常、売主が売りたい持分を売りたい形で提示するところから始まります。買い手の戦略に合わせて持分比率や関与の形を組み替えられるのは、相対交渉においてのみです。

社内合意形成との整合。 戦略仮説と要件から出発するため、本社・地域統括への説明や稟議のロジックと、検討プロセスがそもそも一致します。持ち込み案件に対応する場合に必要となる「なぜこの会社か」の後付け説明が、構造的に不要になります。網羅的な母集団から一定の基準で絞り込んだ過程そのものが、取締役会に対する説明資料になります。

3. 実行上の制約 — 「自分では当たれない」

匿名性と関係維持の両立。 第三者が間に立つことで、初期段階では社名を開示せずに意向を確認できます。これにより、幅広い打診と、見送りとなった場合の事業上の関係毀損の回避が両立します。取引先・同業・サプライヤーが候補に含まれる場合、この機能なしに接触することは実務上ほぼ不可能です。現地でプレゼンスのある企業ほど、直接アプローチの制約は大きくなります。

複数候補打診による最適な候補の選定。 複数の候補先を同時並行で検討することにより、戦略への適合度に加えて、ストラクチャー(取得可能な比率等)と経済条件(価格等)を踏まえた最適な候補選定が可能になります。一社ずつ順に当たる進め方では、比較の基準が手元にないまま判断することになります。

4. 競争環境 — 「入札か、相対か」

売却案件はオークション構造になりやすく、競合の存在が前提として組み込まれています。検討を開始した時点で、すでに比較競争のなかにいるということです。

ここで注意すべきは、この問題を「価格が高くつく」という話に単純化しないことです。米国の上場企業を対象とした研究では、入札と相対交渉とで対象企業株主の富の効果は同程度であったと報告されています。実際に入札にならなくとも、潜在的な競争の存在が価格に織り込まれるためです(Boone & Mulherin, Journal of Finance, 2007)。

買い手起点の相対打診がもたらす優位は、価格そのものよりも、交渉と設計の自由度にあります。競合の存在を前提とした期限に追われず、取得比率や関与の形を相手方の事情に合わせて組み替えられ、初期段階から関係を構築できる。前述のストラクチャーの柔軟性が現実に機能するのは、この環境においてのみです。買い手が本当に手に入れたいのは案件そのものではなく、入札に晒されない対話の入口です。

戦略があっても、探索がなければ実行されない

ここまで述べた4つの構造がもたらす帰結は、一つの現象に集約されます。M&Aを活用した成長戦略が社内に存在するにもかかわらず、対象候補を探索できないために、戦略そのものが実行されないという状態です。

この状態は、資金の不足でも、意思決定の不在でもありません。方針は決まっており、社内の期待も形成されている。それでも案件が生まれない。欠けているのは、戦略と案件の間をつなぐ探索の実行体制です。

現れ方は企業によって異なります。上場企業であれば、中期経営計画に掲げた投資枠が消化されないまま計画期間が進行するという形をとります。非上場のオーナー企業であれば、「いい会社があれば」と言い続けたまま数年が経過するという形をとります。事業部門であれば、地域戦略の議論が毎年同じ場所に戻ってくるという形をとります。いずれも同じ問題の異なる現れ方であり、共通するのは、戦略に合致する 海外M&Aの買収候補 が、選べるだけの数だけ並んだことが一度もないという点です。

ジェトロの調査も、この構図と整合的です。2025年度の海外進出日系企業実態調査では、今後1〜2年で事業を「拡大」する理由として「現地市場ニーズの拡大」が66.6%と最多である一方、拡大する機能は「販売」が68.7%と突出しています(日本貿易振興機構「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」/2025年11月)。現地需要を取りに行く意思は明確でありながら、その手段は自社機能の漸進的な拡張に偏っている、という読み方ができます。

同じ調査では、現地市場で最も競合する相手として、非製造業では地場企業が48.3%、製造業では中国企業が34.2%を占めています(同調査ASEAN6カ国比較/2026年1月)。競争相手が地場に根を張った企業である以上、自社の販売機能を積み上げる速度で追いつけるかは、事業ごとに冷静な検証を要します。買収は、その時間を短縮するための手段として選択肢に載るべきものです。そして選択肢に載せるためには、候補が手元になければなりません。

解決策:海外M&Aの買収候補を、戦略から逆算して探す

Syntax Partnersは、日本を拠点とする独立系のクロスボーダーM&Aアドバイザリーファームです。取引規模はUSD 10〜100百万(概ね15億〜150億円)を中心とするミッドマーケットを対象とし、日本およびアジア太平洋地域での実行に軸足を置いています。

当社は、いかなる取引においても一方の当事者のみに助言し、双方から報酬を受けることはありません。買い手のための探索業務は、買い手の利益のみに整合した業務として設計されます。

この形態を取ることの実務上の意味は、報酬の受け取り方そのものよりも、探索の対象範囲に制約がかからない点にあります。相手方と契約を結ぶ必要がないため、候補は「当社が受託できた先」ではなく、買い手の要件に合致し得る企業の全体から選定されます。

そのうえで、当社の特徴は、売却案件が回ってくるのを待たない点にあります。買い手一社の戦略に基づいて候補探索のプログラムを設計・実行し、流通している案件に反応するのではなく、機会そのものを組成します。日本企業の海外M&Aにおいて、この進め方を有効にする前提は次の3点です。

買収基準を、探索の前に文書として確定させます。 規模、収益性、対象国、取得比率、許容倍率、シナジー仮説を数値と文章で定義し、経営会議・取締役会に対する説明可能性をこの段階で確保します。網羅的な母集団から候補を絞り込んだ過程そのものが、後の意思決定を支えるガバナンス文書になります。

日本企業からの打診であることを、最初の接触から開示します。 交渉が進んでから買い手の属性が明らかになる進め方は、相手方の期待値との齟齬を生み、多くの案件を静かに頓挫させます。国籍と意図を最初に示すことは、信用の獲得において不利ではなく有利に働きます。

現地の意思決定者に、現地の言語と商習慣で直接届きます。 当社は15か国・50名を超える海外パートナー網を有し、現地パートナーと当社が二層で接触します。オーナー、CEO、会長といった意思決定者本人に届くかどうかが、丁重に見送られる打診と、実際の対話が始まる打診とを分けます。

取引の形を、買い手の戦略に合わせて設計します。 100%取得、マジョリティ、マイノリティ、合弁——当社は取得比率を所与とせず、戦略目的と現地の規制・オーナーの意向から逆算して設計します。オーナーの継続関与を前提とする設計や段階的な持分引き上げは、売却プロセスからは生まれず、相対交渉においてのみ組成可能です。

関与はソーシングで終わりません。 戦略の言語化から候補探索、エグゼキューション、そしてPMIまで一貫して関与します。クロスボーダー案件の成否が問われるのは署名の後であり、買収の効果は5〜7年の中期、事業基盤としての意味は10年の時間軸で評価されるべきものだと考えています。

これは機会主義的な案件拾いではありません。構造化されたプログラムであり、当社は3か月を標準的な期間として運営しています。

3か月のプログラム

以下の時間軸は、保証ではなく、当社の経験に基づく標準的な設計です。限られた期間内に目に見える進捗と、そして何より選択肢を生み出すことを目的としています。

第1か月 — 買収基準の確定とロングリスト

経営企画部門とともに、中期経営計画と事業計画から「なぜこの領域か」を再構成し、買収基準を文書として確定します。同時に、対象国の業界構造をマッピングし、網羅的なロングリストを構築します。対象には、非公開のオーナー系企業、多国籍企業の現地子会社やカーブアウト候補、上場企業の非中核事業など、「売り物」として現れることのない企業群を含めます。

その後、社内スクリーニングを経て、クライアントとの構造化されたレビューセッションで絞り込みを行います。戦略適合、規模、地域、規制上の取得可能性、オーナーの状況といった軸で一社ずつ検証し、機会がどこに存在するのかについて、社内で合意された見解を得ることが第1か月の成果物です。

第2か月 — ショートリストと直接打診

ロングリストを優先順位付きのショートリストへ絞り込み、当社と現地パートナーが二層で接触を開始します。接触の相手は、アドバイザーではなく意思決定者本人です。公開入札に参加するのではなく、相対の対話を組成します。

関心が確認された先とは速やかにNDAを締結し、初期情報の入手に進みます。並行して、実質株主の構成、創業家の承継の状況、外資規制上の取得可能性といった実態確認を進めます。「案件がない」状態が「進行中の対話」に変わるのが、この段階です。

第3か月 — パイプラインと Plan A / Plan B

第3か月末の目標は、定義したセグメントと地域における候補企業を一通り「触った」状態にすること、そして複数の対話を並行して走らせている状態を作ることです。

この並行性は意図的なものであり、当社はこれをプログラムの最大の成果と位置づけています。効果は二つあります。

一つは交渉ポジションの確保です。第一候補(Plan A)と、それに代わり得る候補(Plan B)を同時に確保することで、単一の相手方の日程、交渉姿勢、あるいは心変わりによって自社の戦略が人質に取られる状況を回避できます。

もう一つは選定そのものの質です。複数の候補先を同時並行で検討することにより、戦略への適合度に加え、ストラクチャー(取得可能な比率等)と経済条件(価格等)を踏まえたうえで最適な候補を選べます。一社ずつ順に当たる進め方では、目の前の一社が良いのか悪いのかを判断する基準が手元にありません。

成果物は一本の有望な糸ではなく、選択肢そのものです。

3か月を経て、成長戦略は「実行できない方針」から「意思決定の対象」へと変わります。

よくあるご質問

  • なぜ日本企業には海外M&Aの買収候補が回ってこないのですか。 現地の売手側アドバイザーは、確度・速度・価格の観点から打診順を決めます。当社の実務上の観察では、日本企業は社内の意思決定に要する時間から後半の打診先に回ることが多く、届く案件はすでに現地・域内の買い手を一巡した後のものになりがちです。加えて、アジアの優良な中堅企業の多くは非公開のオーナー系企業であり、そもそも売却プロセスに乗りません。
  • 海外M&Aのソーシングを能動的に行うことは、持ち込み案件の検討と何が違うのですか。 出発点が異なります。持ち込み案件は「売りに出た会社」から選ぶ進め方であり、能動的な候補探索は自社の戦略から候補を定義して接触する進め方です。後者では、正式に売却を検討していない企業も対象に含まれ、複数の買い手が競合する状況を避けて相対で対話を始められます。
  • アドバイザーに買収ニーズを伝えておけば、候補を探してもらえるのではないですか。 探してはもらえますが、探索の範囲に構造的な制約がかかります。案件を持ち込む側が提示できるのは、自社が売却マンデートを受託した先に限られます。国内の仲介の形態では、双方から手数料を得るモデルであるため、候補は買い手にとって最適な相手である前に自社と契約した先である必要があり、制約はさらに強く働きます。買い手側専任のアドバイザーにはこの縛りがなく、候補は買い手の要件に合致し得る企業の全体から選定されます。
  • まだ買収基準が固まっていない段階でも相談できますか。 むしろその段階からの関与を想定しています。規模・地域・収益性・取得比率・許容倍率を文書として確定させる作業は、探索の前提であると同時に、社内の合意形成と取締役会への説明可能性を確保する作業でもあります。当社のプログラムの第1か月は、この言語化に充てられています。
  • 100%の買収でなくてもよいのですが、対応できますか。 むしろ、取得比率を所与としないことが能動的探索の利点の一つです。戦略的手段としてのM&Aの最適解は100%取得に限られず、マジョリティ、マイノリティ、合弁が最適解となる場面は数多くあります。特に外資規制のある国や、オーナーの継続関与が事業価値の源泉となっている企業では、非100%の設計が現実的な解となります。こうした個別事情に応じた取引設計は、売却ありきのプロセスからは生まれず、相対交渉においてのみ組成できます。
  • プログラムはどのくらいの期間を要しますか。 当社は3か月を標準としています。第1か月で買収基準の確定とロングリスト、第2か月でショートリストと直接打診、第3か月で並行協議とPlan A / Plan Bの確保です。これは保証ではなく、経験に基づく標準的な設計です。

おわりに:案件を待つのではなく、探索を発注する

海外M&Aに本気で取り組む企業の選択肢は、実のところ単純です。

一つは、これまで通り持ち込みを待つこと。限られた案件数、一巡した後の案件、そして「順番が最後に回ってくる」感覚を受け入れることを意味します。

もう一つは、自社の戦略から出発して市場に働きかける探索を発注すること。どのようなプロセスにも現れなかったオーナーに、こちらから届くことを意味します。

アジアに買える会社がないのではありません。既定の流通経路が、日本企業の戦略に合わせて設計されていないだけです。そして、待つことによってこの状況が変わることはありません。自社の戦略から設計され、現地の言語で実行され、3か月でPlan AとPlan Bを伴うパイプラインをつくる——これが、アジアで一件を拾うのではなく事業基盤を築こうとする企業にとって、現実的な方法だと当社は考えています。

海外M&Aのソーシングについて、貴社の戦略に基づいたプログラムの設計をご検討される場合は、秘密保持のうえでご相談を承ります。

関連リンク


出典

  • 経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(2018年3月)
  • 経済産業省「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」(2019年3月)
  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(2025年11月)
  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)「2025年度 海外進出日系企業実態調査 ASEAN6カ国の比較」(2026年1月)
  • Masulis, R. W. & Simsir, S. A., “Deal Initiation in Mergers and Acquisitions,” Journal of Financial and Quantitative Analysis, Vol. 53, No. 6 (2018)
  • Gompers, P., Kaplan, S. N. & Mukharlyamov, V., “What Do Private Equity Firms Say They Do?” Journal of Financial Economics, Vol. 121, No. 3 (2016)
  • Teten, D. & Farmer, C., “Where Are the Deals? Private Equity and Venture Capital Funds’ Best Practices in Sourcing New Investments,” Journal of Private Equity, Vol. 14, No. 1 (2010)
  • Boone, A. L. & Mulherin, J. H., “How Are Firms Sold?” Journal of Finance, Vol. 62, No. 2 (2007)
  • Stanford Graduate School of Business, “2026 Search Fund Study: Selected Observations”(2026年)