
(2026年10月更新)
設備工事(電気工事、空調・衛生などの管工事、電気通信工事等)の需要は、民間の非住宅建築を中心に増えています。一方で、施工を担う技術者・技能者の確保が、各社の受注と施工の制約になっています。この数年の設備工事業界M&Aを見ると、住友電気工業が住友電設を大和ハウス工業に、三菱電機が北弘電社と弘電社をきんでんに譲渡するなど、大手グループが傘下の設備工事会社を外部に移す案件が2025年から2026年にかけて続きました。買い手の開示には、施工体制と人材の確保が取得の理由として繰り返し挙げられています。
本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている設備工事会社のオーナー・親会社の皆様を念頭に、設備工事業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内の設備工事会社による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。
1. 設備工事業界の市場構造 — 民間建築の需要と施工人材の制約
市場規模
国土交通省の令和8年度建設投資見通し(2026年8月公表)によると、2026年度の建設投資は81兆4,700億円(前年度比2.9%増)の見通しで、うち政府投資が26兆6,000億円(同0.6%増)、民間投資が54兆8,700億円(同4.1%増)です。建築のうち非住宅は17兆1,800億円(同6.2%増)で、民間の非住宅は12兆3,200億円(同8.6%増)と、建設投資全体を上回る伸びが見込まれています。同じ資料で、2025年度の建設投資は79兆1,800億円の見込みとされています(国土交通省「令和8年度 建設投資見通し」)。
設備工事業の規模は、国土交通省の建設工事施工統計調査で確認できます。2024年度の完成工事高は、建設業全体の154兆5,000億円に対し、設備工事業が38兆500億円(前年度比2.3%増)で、全体の約4分の1を占めました。主な内訳は、電気工事業が11兆9,600億円、管工事業が10兆3,200億円、電気通信工事業が3兆5,100億円、機械器具設置工事業が9兆4,500億円です(国土交通省「建設工事施工統計調査報告(令和6年度実績)」。業者をその主たる業種で分類した推計値)。
受注の動きでは、日本電設工業協会の会員131社による2025年度の電気工事の受注高が3兆9,922億円(前年度比10.6%増)で、うち建物・工場等の内線工事が3兆328億円(同14.5%増)、内線工事のうち民間が2兆7,383億円(同13.6%増)でした(日本電設工業協会「電気工事業の受注調査」)。電気・管・計装の各業界団体の主要20社を対象とする国土交通省の「設備工事業に係る受注高調査」でも、2026年4月から7月の受注高の累計は2兆1,648億円(前年同期比15.8%増)でした(国土交通省「設備工事業に係る受注高調査」)。
工種別の特性
設備工事は工種によって、必要な資格、主な発注者、担い手となる会社の顔ぶれが異なります。M&Aでも、どの工種で、どの発注者向けの施工実績と施工体制を持つかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。
| 工種 | 主な工事 | 許可業者数(2026年3月末) | 完成工事高(2024年度) | 事業上の特性 |
|---|---|---|---|---|
| 電気工事 | 建物・工場の受変電・幹線・動力・照明、配電線 | 66,534 | 11兆9,600億円 | 一般用電気工作物等の電気工事の作業には、電気工事士法により電気工事士の資格が必要。電力会社系の各社は配電線工事も主力の一つ |
| 管工事 | 空調、給排水衛生、クリーンルーム等の産業空調 | 91,168 | 10兆3,200億円 | 建物の空調・衛生に加え、半導体・医薬品工場向けのクリーンルームを手がける会社がある |
| 電気通信工事 | 通信設備、LAN・データセンター内の配線 | 16,764 | 3兆5,100億円 | 上場のエクシオグループやコムシスホールディングスは、NTTを主要顧客とする |
許可業者数は国土交通省「建設業許可業者数調査」によります(令和8年3月末現在)。業種ごとの数であり、複数の業種の許可を持つ業者は業種ごとに重複して数えられます。建設業の許可業者数の総数は48万3,823業者で、ピークだった2000年3月末の60万980業者を19.5%下回る一方、電気工事業・管工事業・電気通信工事業の許可業者数は、いずれもその時点の数(それぞれ5万3,743業者、8万8,534業者、1万847業者)を上回っています。
再編の背景にある5つの要因
- 民間の非住宅建築とデータセンター・半導体関連の需要 — 上記のとおり、2026年度の民間の非住宅投資は前年度比8.6%増の見通しです。国土交通省の建築着工統計では、2025年の情報通信業用の建築物の工事費予定額が4,365億円(前年比36.8%増)となりました(同統計は建築主の産業で分類するため、データセンターの全体を示す数値ではありません)。買い手の開示でも、大和ハウス工業はデータセンターや半導体工場等の建設・開発の推進を、きんでんは半導体関連工事を、取得の理由の中で挙げています(第3章)。需要が伸びる分野の施工体制を持つ設備工事会社が、同業・異業種の買い手の取得対象になっています。
- 技術者・技能者の不足と高齢化 — 建設業の就業者数は2025年平均で478万人と、ピークの1997年(685万人)から約3割減りました。2025年の就業者のうち55歳以上が36.6%、29歳以下が11.9%です(総務省「労働力調査」をもとに国土交通省が作成)。2026年8月の有効求人倍率(原数値、常用・パートを含む)は、職業計の1.06倍に対し、電気工事従事者が3.23倍、建設従事者(建設躯体工事従事者を除く)が4.37倍でした(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。きんでんは弘電社の取得にあたり、中長期的に技術力のある人材が減ることで需給ギャップが生じる可能性を背景に挙げています。人材と施工体制の確保は、買い手の取得理由の中心になっています。
- 時間外労働の上限規制 — 2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時間以内、休日労働を含めて単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内とされ、災害の復旧・復興の事業には一部の例外があります(厚生労働省「建設業の時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)。一人当たりの労働時間に上限があるなかで施工量を維持・拡大するには、人員の確保が前提となります。きんでんは弘電社の取得で、繁閑に応じた施工人員の相互補完を見込んでいます。
- 大手グループと大株主による資本関係の見直し — 住友電気工業は上場子会社の住友電設を、三菱電機は北弘電社と上場子会社の弘電社を、2025年から2026年にかけて譲渡しました。三菱電機は弘電社の譲渡を、重点成長分野への集中投資と関係会社の再編・統合の一環と位置づけています。親会社が保有の意義を見直した設備工事会社が、同業・異業種への譲渡の対象になっています。譲渡には至らないものの、東京電力パワーグリッドは2026年に関電工の株式の一部を売却し、議決権比率は46.6%から34.8%(2026年3月末)に下がりました。売却の理由は「保有資産の効率的な運用」とされています。
- 事業承継 — 中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを試算していました(中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」)。設備工事業界では、オーナーが全株式を保有する電気・通信工事会社の建物保全の上場会社への譲渡が2026年に決まり(第3章)、京葉銀行が組成した事業承継ファンドが、後継者不在の解消を目的に千葉県の空調・衛生設備会社(2024年)と配管工事会社(2026年)に出資するなど、オーナー企業の資本の選択が具体化している例があります。
2. 業界プレイヤー構図
電力会社系の電気工事会社
| 会社 | 本社 | 連結売上高 | 資本系列・直近の動き |
|---|---|---|---|
| きんでん | 大阪市北区 | 7,507億円(2026年3月期) | 関西電力系。2025年に北弘電社、2026年に弘電社を取得 |
| 関電工 | 東京都港区 | 7,420億円(2026年3月期) | 東京電力系。2026年に東京電力パワーグリッドが保有株式の一部を売却 |
| クラフティア | 福岡市中央区 | 4,761億円(2026年3月期) | 九州電力系。2025年10月に九電工から商号変更 |
| トーエネック | 名古屋市中区 | 2,725億円(2026年3月期) | 中部電力系。2024年にタイの関連会社を子会社化 |
| ユアテック | 仙台市宮城野区 | 2,523億円(2026年3月期) | 東北電力系 |
| 中電工 | 広島市中区 | 2,279億円(2026年3月期) | 中国電力系 |
| 四電工 | 香川県高松市 | 994億円(2026年3月期) | 四国電力系 |
| 北海電工 | 札幌市白石区 | 724億円(2026年3月期) | 北海道電力系。2024年10月に北海電気工事から商号変更 |
| 北陸電気工事 | 富山市 | 610億円(2026年3月期) | 北陸電力系。2023年に日建(横浜市)を取得 |
各社は地域の電力会社の配電線工事を担うとともに、建物・工場の電気工事、空調・衛生工事を手がけています。中期経営計画では、きんでんが事業出資・M&A等に200億円規模(2025年1月公表)、クラフティアが「VISION2029」でデータセンター・蓄電・都市インフラ等を対象に成長投資・M&A投資800億円程度を掲げ、中電工は施工体制の強化に向けたM&Aの推進を方針に置いています。
独立系の空調・総合設備会社
電力会社やメーカーを親会社に持たない上場の空調・総合設備会社には、次の各社があります。
| 会社 | 本社 | 連結売上高 | 主な領域・直近の動き |
|---|---|---|---|
| 高砂熱学工業 | 東京都新宿区 | 4,239億円(2026年3月期) | 空調。2025年にタイで3社を取得 |
| 大気社 | 東京都 | 2,861億円(2026年3月期) | 塗装システム、ビル・産業空調。中期経営計画で北米の事業拠点の獲得に70億円を計画 |
| ダイダン | 大阪市西区(本店) | 2,562億円(2026年3月期) | 電気・空調・衛生。2024年にシンガポールの関連会社を子会社化 |
| 三機工業 | 東京都中央区 | 2,547億円(2026年3月期) | 空調衛生、機械システム |
| 新日本空調 | 東京都 | 1,549億円(2026年3月期) | 空調 |
| 朝日工業社 | 東京都港区 | 1,048億円(2026年3月期) | 空調衛生 |
| テクノ菱和 | 東京都港区 | 987億円(2026年3月期) | 空調(クリーンルーム) |
| 日比谷総合設備 | 東京都港区 | 941億円(2026年3月期) | 空調・電気・衛生。売上の多くをNTTグループに依存 |
通信・鉄道の設備工事会社
通信工事ではエクシオグループ(7,877億円)、コムシスホールディングス(6,307億円)、ミライト・ワン(6,024億円)、鉄道の電気工事ではJR東日本系の日本電設工業(2,292億円)が上場しています(いずれも2026年3月期の連結売上高)。エクシオグループは2026年5月に公表した中期経営計画で、M&A・VC等の事業成長・拡大投資に1,000億円程度を計画しています。
大手グループ傘下の設備工事会社
素材・電機メーカーのグループには、設備工事会社が置かれてきました。住友電設は住友電気工業が50.66%を保有する上場子会社、弘電社は三菱電機が51.36%を保有する上場子会社、北弘電社は三菱電機の持分法適用会社(2024年に完全子会社化)でした。2025年から2026年にかけて、この3社はいずれもグループの外の事業会社への譲渡が決まり、住友電設と弘電社は買い手の完全子会社となりました(第3章)。
一方、富士電機は2025年2月、46%余りを保有する連結子会社の富士古河E&Cを株式交換で完全子会社とし、上場を廃止しました。開示では、親子上場の解消によるコーポレートガバナンスの向上と、データセンター向け事業の拡大等を目的としています。これはグループ内の再編であり、本稿の再編事例には含めません。
オーナー系の非上場企業
設備工事業の担い手の多くは、非上場の中堅・中小企業です。2026年3月末の許可業者数は、電気工事業が6万6,534業者、管工事業が9万1,168業者、電気通信工事業が1万6,764業者でした。非上場の会社は公開情報が限られますが、第3章の事例⑦のように、オーナーが全株式を保有する会社の譲渡が上場買い手の開示で確認できる例があります。
関西への集積
本稿で取り上げる企業のうち、設備工事会社では、きんでん(大阪市北区)、ダイダン(本店・大阪本社は大阪市西区)、住友電設(本店は大阪市西区)、インフォテック(大阪府藤井寺市)が、大阪府に本社または本店を置いています。事例①の買い手の大和ハウス工業(大阪市北区)と売り手の住友電気工業(大阪市中央区)も大阪に本社を置いており、事例①は大阪に本社を置く3社の間の取引でした。
3. 国内の設備工事業界M&A事例 — 大手グループからの切り出し、同業による取得、オーナー企業の譲渡
事例① 大和ハウス工業 × 住友電設(2025〜2026年)— 素材メーカーの上場子会社を住宅・建設会社が取得
大和ハウス工業は2025年10月、住友電気工業が50.66%を保有する住友電設(本店は大阪市西区、電気・情報通信工事等)の完全子会社化を目的とする公開買付けを発表しました。公開買付価格は1株9,760円(2025年10月23日の終値に対し35.74%のプレミアム)、買付期間は2025年10月31日から12月15日までで、応募株式数は所有割合で40.89%でした。住友電気工業は公開買付けに応募しない契約を結び、株式併合の後、住友電設による自己株式取得(開示された1株当たりの価格は6,877円)に応じて保有株式の全てを譲渡しました。住友電設は2026年3月3日に上場を廃止し、3月24日に大和ハウス工業の完全子会社となりました。公開買付価格での少数株主分の取得額と自己株式取得の額を合わせると、約2,920億円です(開示値からの当社試算)。
大和ハウス工業は取得の理由として、注力領域である電気工事事業と情報通信事業の拡大、東南アジアを中心とする海外事業の成長を挙げ、自社がデータセンターや半導体工場等の建設・開発を進めると同時に、住友電設が情報通信工事を担うとしています。住友電気工業は、大和ハウス工業との統合が住友電設の企業価値の向上に資すると説明し、同じ日に、別の上場子会社である住友理工の完全子会社化に向けた公開買付けも発表しました。
本案件は、(i)素材メーカーが上場子会社の設備工事会社を手放し、建設・不動産開発を手がける異業種の事業会社が取得した、(ii)親会社は公開買付けに応募せず、対象会社の自己株式取得で持分を譲渡し、少数株主と親会社で1株当たりの対価が異なる形がとられた、(iii)買い手が、自社の建設・開発事業の中で対象会社が担う工事の領域(情報通信工事)を取得の理由に明示した、という点を示しています。
事例② きんでん × 弘電社(2026年)— 電機メーカーが入札で選んだ売却先
弘電社(東京都中央区、東証スタンダード上場、2026年3月期の連結売上高442億円)は、三菱電機が51.36%を保有する連結子会社でした。三菱電機は2025年11月下旬に第一次入札を始め、14社から第一次意向表明書を受け取り、2026年2月に4社に第二次入札への参加を打診し、4月に3社から受け取った最終提案書をもとに、きんでんを売却先に選びました。選定にあたっては、株式価値の評価額に加え、取引後の事業戦略、シナジーとディスシナジー、従業員の処遇とガバナンス体制、資金調達力、少数株主の利益等を総合的に検討したとしています。
きんでんは2026年5月、1株11,501円(5月22日の終値7,510円に対し53.14%のプレミアム)の公開買付けを発表し、7月6日までの買付期間で議決権の42.53%を取得しました。三菱電機は応募せず、株式併合の後、弘電社の自己株式取得に応じて保有株式の全てを譲渡する(譲渡価額は361億5,000万円の予定)方式です。弘電社は2026年9月25日に上場を廃止し、9月30日にきんでんの完全子会社となりました。
きんでんは取得の理由として、両社の顧客基盤・施工管理力・技術力の組み合わせ、自社が相対的に手薄とする特別高圧の受変電・発変電設備などの強電工事、年次点検、半導体関連工事での対象会社の知見の活用、首都圏の施工体制の強化、繁閑に応じた施工人員の相互補完、採用ノウハウの共有などを挙げています。
本案件は、(i)親会社が入札で売却先を選び、価格に加えて従業員の処遇や取引後の事業戦略を選定の基準とした、(ii)電力会社系の電気工事会社が、自社の手薄な工事領域と首都圏の施工体制を補う目的で同業を取得した、(iii)事例①と同じく、親会社の持分は対象会社の自己株式取得で譲渡された、という点を示しています。
事例③ きんでん × 北弘電社(2025年)— 経営支援を経た子会社の同業への譲渡
北弘電社(北海道)は2022年から三菱電機に経営支援を要請し、2023年3月期には債務超過となっていました。三菱電機は2024年1月、持分法適用会社として27.53%を保有していた北弘電社を簡易株式交換で完全子会社化すると発表し、同年4月に完全子会社としました。その上で三菱電機は2025年3月、北弘電社の全株式をきんでんに譲渡すると発表し、譲渡予定日を2025年4月1日としました。譲渡価額は開示されていません。
三菱電機は、工事会社であるきんでんと一体となって事業を運営することが北弘電社の事業発展に寄与するとし、きんでんは取得の目的を北海道エリアにおける事業基盤の強化としています。
本案件は、(i)電機メーカーが、経営支援のために完全子会社とした設備工事会社を、1年後に同業の工事会社に譲渡した、(ii)買い手の目的が、特定の地域(北海道)の事業基盤であった、(iii)事例②と合わせ、同じ買い手が同じ売り手から2社を順に取得した、という点を示しています。
事例④ 住友電設 × インフォテック(2025年)— 施工の前段を担う調査・設計会社の取得
住友電設は2025年5月、インフォテック(大阪府藤井寺市)の全株式を取得する株式譲渡契約を締結し、譲渡日を2025年6月18日の予定としました。インフォテックは、再生可能エネルギー発電所の系統連系用の自営線と、電力会社向けの管路土木の調査・設計・監理を手がけています。取得価額は開示されていません。
住友電設は取得の理由として、拡大する再生可能エネルギー関連のプロジェクトに一貫して対応できる体制を充実させること、担い手の確保と品質の向上を挙げています。
本案件は、(i)上場の設備工事会社が、施工の前段にあたる調査・設計の会社を取得した、(ii)取得の理由が、特定分野(再生可能エネルギー)の工事に調査から施工まで対応する体制と担い手の確保であった、という点を示しています。買い手の住友電設自身は、この取得の公表から約5か月後に事例①の公開買付けの対象となりました。
事例⑤ 北陸電気工事 × 日建(2023年)— 地域外の管工事会社の取得
北陸電力系の北陸電気工事(富山市)は2023年12月、管工事業の日建(横浜市、1981年設立、2023年3月期の売上高62億5,700万円)の全株式を取得しました。取得の対価は現金29億9,900万円で、15億5,500万円が暫定ののれんとして計上されました。北陸電気工事は取得の理由として、関東方面での商圏の拡大と、2025年3月期に連結売上高600億円(2023年3月期は448億円)を目指す中期経営計画「アクションプラン2024」の達成への寄与を挙げていました。2025年3月期の連結売上高は556億円でした。
本案件は、(i)地域の電力会社系の電気工事会社が、本拠の外(関東)で、電気工事ではなく管工事の会社を取得した、(ii)取得の対価の約半分が暫定ののれんとして計上された、という点を示しています。
事例⑥ 東京エネシス × アラキ総産・扶桑(2026年)— 専門技術者の確保を明示した取得
上場の設備工事会社である東京エネシス(東証プライム)は2026年8月、アラキ総産(千葉県市原市、1989年創業。電力・一般プラントの機械器具設置、鍛冶・溶接・配管工事、工事監督者の派遣等)の株式の70%を取得して、2026年11月30日に子会社化する予定と発表しました。同年9月には、扶桑(茨城県那珂郡東海村、1983年創業。原子力発電所等のメンテナンスに携わる人材の派遣)の全株式を取得したことを開示しました。いずれも取得価額は開示されていません。扶桑の事業(プラントの保守要員の派遣)は、設備工事に隣接する分野です。
東京エネシスは両社の取得の理由として、優れた専門技術を有する人材の確保と、グループの施工体制・収益力の強化を挙げています。
本案件は、(i)買い手が取得の理由の筆頭に、専門技術者の確保を挙げた、(ii)同じ買い手の取得でも、取得比率が70%の案件と100%の案件があった、という点を示しています。
事例⑦ エムティジェネックス × ネクスト(2026年)— オーナーが全株を保有する電気・通信工事会社の譲渡
ネクスト(東京都品川区、1994年設立)は電気・通信工事業を営む非上場企業で、取締役会長が全株式を保有していました。建物の保全管理を手がける上場会社のエムティジェネックスは2026年7月、同氏から全株式を取得すると発表し、株式譲渡の実行日を7月31日の予定としました。取得価額は17億7,100万円(アドバイザリー費用等を含めて概算18億4,400万円)です。ネクストの2025年10月期の業績は、売上高16億700万円、営業利益1億2,500万円、当期純利益1億2,900万円、純資産10億3,200万円でした。
エムティジェネックスは、M&Aを重要な成長戦略と位置づけ、ネクストの電気・通信設備の整備・保守の事業を取り込んで、グループの事業領域を広げることを取得の理由としています。
本案件は、(i)オーナーが全株式を保有する電気・通信工事会社の買い手が、設備工事会社ではなく建物の保全管理会社であった、(ii)開示された数値から算出すると、取得価額は直前期の当期純利益の約14倍、純資産の約1.7倍であった(当社試算)、という点を示しています。
事例⑧ ALSOK・カーライル × 日本ドライケミカル(2026年)— 海外ファンドと国内事業会社による共同取得(隣接業界:消防設備)
ALSOKと米国の投資ファンドであるカーライルが50%ずつ出資するTCG2511は2026年5月、日本ドライケミカル(東証スタンダード上場、1955年創業)に対し、1株3,730円(5月12日の終値に対し19.94%のプレミアム)の公開買付けを発表し、議決権の52.81%を取得しました。買付予定の全株式を取得した場合の総額は、約836億円とされていました。日本ドライケミカルは消火器から始まり、消火設備へと事業を広げた防災の会社で、建物やプラントの防災設備のエンジニアリングと保守・点検を手がけ、大規模再開発、データセンター、プラントなどの新築工事に注力しています。発表時点では、残りの株式を株式併合で取得して非公開化し、TCG2511と日本ドライケミカルの合併と新たな中間持株会社の設置を経て、ALSOKが約51%、カーライルが約49%を保有する構成とし、上場廃止は2026年10月上旬から11月上旬を予定するとしていました。
ALSOKは取得の理由として、大規模再開発、データセンター、半導体関連の投資の拡大による防災市場の需要の変化を挙げ、日本ドライケミカルの成長をALSOKの人材供給・顧客基盤と、カーライルのコーポレート機能、M&A、海外展開の知見で支えるとしています。
本案件は、(i)海外のファンドが国内の事業会社と共同で、防災設備のエンジニアリングと保守・点検を手がける上場会社を取得した、(ii)取得後の出資比率を事業会社が過半、ファンドが半分弱とする構成が示された、(iii)取得の理由に、設備工事と同じデータセンター・半導体関連の需要が挙げられた、という点を示しています。
参考:隣接分野(空調機器)での海外の事業会社による取得
設備工事に隣接する空調機器の分野では、日立グループとジョンソンコントロールズが2015年に設立した空調事業の合弁会社(出資比率はジョンソンコントロールズ60%、日立グループ40%)について、日立が2024年7月、ドイツのボッシュに持分40%を14億ドルで譲渡し、ボッシュが合弁会社の全持分を取得することを発表しています。日立は、空調業界で再編が進むなか、ボッシュの欧州での事業基盤と暖房機器の実績を評価したと説明しています。
4. クロスボーダーの設備工事業界M&A事例 — 国内の設備工事会社による海外での買収
国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内の設備工事会社が海外で取得の理由に挙げた要素(ライセンス、顧客分野、拠点網)と、開示された価格水準が、同じ会社が買い手となる場合に何を評価するかを考える参考になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業の投資基準の参照例になります。
事例⑨ ダイダン × Presico Engineering(2023〜2024年)— 現地の高位のライセンスを持つ会社の段階的な取得
ダイダン(本店は大阪市西区)は2023年2月、シンガポールで電気設備工事・機械設備工事を手がけるPresico Engineering(2009年設立)の株式の40.0%を取得して持分法適用会社とし、2024年10月に30.0%を追加取得して、議決権比率70.0%の連結子会社としました。Presicoの2023年12月期の売上高は9,193万シンガポールドルです。取得価額は開示されていません。
ダイダンは、Presicoがシンガポール建築建設庁(BCA)の登録で、空調工事(ME01)や電気工事(ME05)など複数の区分において高位のライセンス(開示資料の表記では「grade1」)を保有していることを挙げ、Presicoの経営の自主性とブランド力を維持しつつ、実績、技術力、商圏等の相乗効果で事業を拡大するとしています。2024年10月の追加取得は、海外事業をグループの成長を牽引する事業と位置づけた2024年5月の中期経営計画を受けたものとしています。
本案件は、(i)買い手が、現地の公的な登録制度における高位のライセンスと施工実績を取得の理由に挙げた、(ii)少数持分から始めて1年半余り後に過半数に引き上げる段階的な取得であった、(iii)取得後も対象会社の経営の自主性とブランドを維持する方針が示された、という点を示しています。
事例⑩ 高砂熱学工業 × ICLEAN、タイ3社(2017年、2025年)— 医薬向けクリーンルームと現地パートナーの会社
高砂熱学工業は、インドのハイデラバードで医薬品会社・病院向けのクリーンルーム機器・内装材の製造・販売・施工を手がけるICLEANを2015年に持分法適用会社とし、2017年11月に27.46%を追加取得して、保有比率を32.54%から60.0%に引き上げ、連結子会社としました。追加取得の価額は21億8,800万円(諸費用を含め概算22億5,300万円)で、ICLEANの2017年3月期の業績は、売上高56億5,100万円、営業利益6億7,700万円、当期純利益4億3,200万円、純資産26億5,000万円でした。追加取得の価額から100%の株式価値を換算すると約80億円で、当期純利益の約18倍、純資産の約3.0倍にあたります(当社試算)。同社は取得の理由として、ICLEANの機動的な組織力と医薬分野の知見・ノウハウの活用を挙げています。
同社は2025年6月には、タイで空調の設計・施工と設備保守を手がける3社(THS Innovationsの60%、Prompt Techno Serviceの60%、THS Developmentの40%)を取得しました。3社は、同社のタイ子会社のパートナーであるTHSグループが創業した会社です。
これらの案件は、(i)国内の空調大手が、医薬品工場という特定の顧客分野に強い現地企業を、持分法適用会社を経て連結化した、(ii)開示値から算出される価格水準は、純利益の約18倍、純資産の約3倍であった、(iii)タイでは、既存の現地パートナーが創業した会社を取得した、という点を示しています。
事例⑪ トーエネック × Tri-En TOENEC(2024年)— 海外の関連会社の増資の引受けによる子会社化
中部電力系のトーエネックは、タイのバンコクでコンドミニアムやホテル向けの電気機械・空調管・衛生設備の設計・施工・保守を手がけるTri-En TOENEC(2002年設立)の株式を2019年に30%取得していました。2024年5月、同社の第三者割当増資を引き受けて議決権比率を49.0%に引き上げ、取締役の過半をトーエネックが指名する契約を他の株主と結んで、子会社化しました。出資額は7億9,200万円(アドバイザリー費用等を含め概算8億1,200万円)です。Tri-Enの2023年12月期は、売上高16億9,900万バーツに対し当期純損失5億4,500万バーツで、純資産はマイナス1億3,600万バーツでした(法定監査前の数値)。トーエネックは、同社の経営管理の強化を目的に、資本の増強を他の株主と合意したとしています。
本案件は、(i)国内の電気工事会社が、業績の悪化した海外の関連会社に対し、増資の引受けと取締役の指名権で支配を強めた、(ii)過半数の株式を持たずに、取締役の過半の指名により子会社とする形がとられた、という点を示しています。
事例⑫ ミライトHD × Lantrovision(2016年)— アジア13か国・地域の配線工事会社の取得
通信工事のミライト・ホールディングス(現ミライト・ワン)は2016年6月、シンガポール証券取引所に上場していたLantrovisionの全株式を、シンガポール法に基づくスキーム・オブ・アレンジメントにより取得しました。Lantrovisionは、LAN配線等の設計・施工・保守を手がけ、アジア13か国・地域の28都市に拠点を持ち、金融機関やデータセンターを保有する企業を主要顧客としていました。取得価額は、アドバイザリー費用等を含めて約1億8,000万シンガポールドル(開示資料の換算で約153億円)で、2015年6月期の業績は、売上高1億5,500万シンガポールドル、当期純利益1,100万シンガポールドル、純資産1億2,000万シンガポールドルでした。アドバイザリー費用等を含む取得価額は、当期純利益の約16倍、純資産の約1.5倍にあたります(当社試算)。同社は取得の理由として、グローバルな事業展開力の強化と企業価値の向上を挙げ、その後もLantrovisionを通じて、シンガポールの電気工事会社などを追加で取得しています。
本案件は、(i)国内の通信工事会社が、データセンター等の多国籍企業を顧客に持つ海外の上場会社を全株取得した、(ii)取得した会社を、その後の海外での追加取得の受け皿とした、という点を示しています。
5. 設備工事業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素
設備工事会社のM&Aでは、財務数値に加えて、設備工事業界に固有の要素が確認されます。事例の買い手が公表した取得の理由をもとに、人材・施工体制、顧客・地域、工事領域・技術の3つに整理し、それぞれで確認される項目を示します。
- 人材・施工体制 — 資格を持つ技術者・技能者の数と年齢構成、施工管理の体制、協力会社との関係です。事例⑥の買い手は専門技術者の確保を、事例②の買い手は繁閑に応じた施工人員の相互補完と採用ノウハウの共有を、事例④の買い手は担い手の確保を、取得の理由に挙げています。海外では、事例⑨の買い手が現地の公的な登録制度における高位のライセンスを挙げました。
- 顧客・地域 — 発注者の構成と特定顧客への依存度、施工を担う地域です。事例③の買い手は北海道、事例⑤の買い手は関東、事例②の買い手は首都圏の施工体制を、取得の目的に挙げています。
- 工事領域・技術 — どの工種と分野(データセンター、半導体工場、再生可能エネルギー、医薬品工場等)で施工実績を持つかです。事例②の買い手は特別高圧の受変電・発変電設備や半導体関連工事を、事例④の買い手は再生可能エネルギーの系統連系に関わる調査・設計を、事例①の買い手は情報通信工事を、事例⑩の買い手は医薬分野のクリーンルームの知見を、事例⑦の買い手は電気・通信設備の整備・保守の事業を挙げています。
6. 設備工事業界の買い手の類型
本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の狙いが異なります。
- 同業の設備工事会社 — きんでん(事例②③)、北陸電気工事(事例⑤)、住友電設(事例④)、東京エネシス(事例⑥)など、電力会社系や上場の設備工事会社です。事例の買い手は、地域の補完、手薄な工事領域の補完、施工人員の確保を見込んでいます。
- 異業種の事業会社 — 大和ハウス工業(事例①)、エムティジェネックス(事例⑦)、ALSOK(事例⑧)のように、建設・不動産開発、建物の保全管理、警備など、設備工事の発注・保守の側に立つ企業です。自社の事業の中で対象会社が担う工事・保守の領域が、取得の狙いとなっています。
- ファンド — 事例⑧のカーライルは、国内の事業会社と共同で上場会社を取得しました。地方銀行の事業承継ファンドが、後継者不在の解消を目的に、千葉県の空調・衛生設備会社(2024年)や配管工事会社(2026年)に出資した例もあります。
設備工事会社そのものを海外の事業会社が取得した公表事例は、本稿の調査の範囲では確認できませんでしたが、隣接する空調機器の分野では、ボッシュによる日立グループとの合弁会社の持分の取得(第3章の参考)のように、海外の事業会社が日本企業の関わる事業を取得する例があります。
7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆
本稿の事例から、設備工事会社の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。
① 対象先の所在
2025年から2026年にかけて、住友電気工業と三菱電機の2つの大手グループが、傘下の設備工事会社3社をグループの外の事業会社に譲渡しました(事例①②③)。住友電設と弘電社は上場子会社、北弘電社は三菱電機が経営支援を経て完全子会社とした会社で、買い手は同業のきんでん(事例②③)と、建設・不動産開発を手がける大和ハウス工業(事例①)でした。オーナー企業では、取締役会長が全株式を保有していた電気・通信工事会社が、建物の保全管理を手がける上場会社に譲渡されています(事例⑦)。上場の設備工事会社による取得の対象には、非上場の調査・設計会社(事例④)、本拠の外の管工事会社(事例⑤)、プラントの工事と保守要員の派遣を手がける会社(事例⑥)がありました。
投資ファンドの関与では、隣接する消防設備の分野で、カーライルがALSOKと共同で上場会社を取得し(事例⑧)、地方銀行が組成した事業承継ファンドが千葉県の空調・衛生設備会社と配管工事会社に出資しています(第1章)。
上場子会社の譲渡では、親会社が入札で売却先を選んだ例があり、三菱電機の第一次入札には14社が意向表明書を提出しました(事例②)。非上場の子会社や、公開情報が限られるオーナー企業は、公開情報だけでは特定しにくく、取得には親会社やオーナーへの直接の打診が必要になります。
② 取引の形
上場子会社の完全子会社化では、少数株主からは公開買付けで、親会社の持分は対象会社の自己株式取得で取得し、1株当たりの対価が両者で異なる形がとられました(事例①②)。公開買付価格のプレミアムは、事例①で35.74%、事例②で53.14%です。非上場会社では、全株式の取得(事例③④⑤⑦)のほか、70%の取得(事例⑥のアラキ総産)があり、同じ買い手が別の会社では全株式を取得しています(事例⑥の扶桑)。事業会社とファンドが共同で取得し、取得後の出資比率を事業会社約51%、ファンド約49%とする構成も示されており(事例⑧)、投資ファンドにとっては事業会社との共同取得の参照例になります。海外では、少数持分から過半数への段階的な取得(事例⑨⑩)、増資の引受けと取締役の過半の指名による子会社化(事例⑪)、上場会社の全株式の取得(事例⑫)があります。
開示値から算出した価格水準(当社試算)は、事例⑦が直前期の当期純利益の約14倍・純資産の約1.7倍、事例⑩が約18倍・約3.0倍、事例⑫が約16倍・約1.5倍で、事例⑤では取得の対価の約半分が暫定ののれんとして計上されました。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。
③ 売り手が重視する点
親会社の売り手は、譲渡の理由として対象会社の事業の将来を挙げています。住友電気工業は、大和ハウス工業との統合が住友電設の企業価値の向上に資すると説明し(事例①)、三菱電機は、きんでんと一体となって事業を運営することが北弘電社の事業発展に寄与するとしています(事例③)。弘電社の入札では、三菱電機は株式価値の評価額に加え、取引後の事業戦略、シナジーとディスシナジー、従業員の処遇とガバナンス体制、資金調達力、少数株主の利益等を総合的に検討して売却先を選んだとしています(事例②)。
譲渡の背景として、三菱電機は弘電社の譲渡を重点成長分野への集中投資と関係会社の再編・統合の一環と位置づけ、東京電力パワーグリッドは関電工の株式の一部売却の理由を「保有資産の効率的な運用」としています(第1章)。オーナー企業の側では、地方銀行の事業承継ファンドが、後継者不在の解消を出資の目的としています(第1章)。
これらの説明からは、事例の親会社が、価格に加えて、譲渡後の対象会社の事業の運営と従業員の処遇を、譲渡先を選ぶ基準としていたことがうかがえます。
8. 設備工事会社のオーナー・親会社が検討すべき論点
売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。
① 買い手候補の範囲
国内の同業の設備工事会社(事例②③④⑤⑥)に加え、建設・不動産開発や建物の保全管理など、設備工事の発注・保守の側に立つ異業種の事業会社(事例①⑦)が買い手となっています。ファンドでは、事業承継ファンドの出資や、事業会社との共同取得(事例⑧)の例があります。電力会社系・通信工事の上場会社には、中期経営計画でM&A等への投資の規模を示している会社もあります(きんでんの200億円規模、クラフティアの800億円程度、エクシオグループの1,000億円程度。第2章)。設備工事会社そのものを海外の事業会社が取得した公表事例は本稿の調査の範囲では確認できませんでしたが、隣接する空調機器の分野では海外の事業会社による取得の例があります(第3章の参考)。買い手候補は、これらの先の中から、自社の人材・顧客・工事領域と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。
② 自社の資産の整理
第5章の3つの要素(人材・施工体制、顧客・地域、工事領域・技術)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例⑥のように専門技術者そのものが取得の目的となる場合や、事例③⑤のように特定の地域の施工体制が目的となる場合があるため、資格者の構成と年齢、協力会社との関係、施工実績の分野と地域を整理しておくことが必要です。
③ 取引の形と時期
第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員や協力会社との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。親会社が売り手となる場合には、入札で売却先を選ぶ形(事例②)もとられています。時期については、買い手が評価する技術者の年齢構成や主要顧客との取引関係が年を追って変わるため、それらを評価の根拠として示せるうちに、現在の人材・顧客・資本関係を含めて選択肢を整理しておくことが必要です。
9. Syntax Partnersができること
Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。設備工事業界M&Aについて、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。
買い手側の支援
国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。設備工事業界では、大手グループ傘下の会社に加えて、公開情報の少ない非上場のオーナー企業が対象となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。
売り手側の支援
売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、異業種の事業会社、ファンドに加えて、海外の設備工事会社・建物設備関連企業などの戦略買い手も対象とします。
- 買い手候補の探索:国内の同業、発注・保守の側に立つ異業種の事業会社、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の人材・顧客・工事領域と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
- 業界理解に基づく取引支援:資格者と施工体制、協力会社との関係、発注者の構成、工種・分野ごとの施工実績など、設備工事業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
- オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、協力会社・取引先との関係、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。
事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
本稿は、各社の公式発表・IR資料、官公庁・業界団体の統計等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。