塗料業界M&Aの最新動向と事例 :大手化学の切り出しと世界的な再編

塗料業界M&A

(2026年10月更新)

国内の塗料需要は、数量ベースで縮小が続いています。この数年の塗料業界M&Aを見ると、国内では、住友化学、AGC、日本ゼオンといった大手化学メーカーが傘下・関連の塗料会社を手放し、大日本塗料やナトコなどの塗料専業メーカーがそれを取得する案件が2025年から2026年にかけて相次ぎました。一方、日本ペイントHDと関西ペイントの近年の買収は海外が中心で、2026年には世界の塗料大手の統合をめぐって、日本ペイントHDが買収提案の当事者となっています。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている塗料メーカーのオーナー・親会社の皆様を念頭に、塗料業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内大手による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. 塗料業界の市場構造 — 縮小する国内需要と再編の要因

市場規模

日本塗料工業会の統計によると、2024年の塗料の販売数量は約147万トン(前年比96.5%)、販売金額は約7,304億円(同99.0%)でした(いずれもシンナーを含む。日本塗料工業会 2024年 塗料生産・出荷・在庫数量及び平均単価表)。同会の要因分解では、販売金額の前年比のうち、数量の減少が▲3.5ポイント、単価の上昇が+3.1ポイントでした。数量が減るなかで、値上げにより金額をほぼ維持している状況です。

需要分野別の特性

塗料は用途によって、顧客、採用の決まり方、流通の経路が大きく異なります。M&Aでも、どの需要分野で何を持っているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。

需要分野主な用途事業上の特性
建築住宅・ビルの新築と塗り替え、仕上塗材、防水新築は住宅着工に、塗り替えは建物ストックの規模に連動。販売店・塗装業者を経由する流通網が販売力を左右
自動車新車ラインと補修新車用は自動車メーカーとの共同開発と採用実績が前提。補修用は板金・塗装工場向けの流通網
船舶・構造物船舶、橋梁、プラント等の防食長期の耐久性が求められ、発注者の仕様と施工実績が採用の条件
電気・機械・金属家電、機械、金属製品の工業塗装顧客の塗装ラインに合わせた設計。有機溶剤を使わない粉体塗料への切り替えが進む領域
木工家具、木製建材用途・顧客が細分化

需要分野の区分は日本塗料工業会の業況観測アンケートによります。

業界再編を動かす5つの要因

  1. 国内需要の縮小と価格転嫁 — 新設住宅着工戸数は2024年に約79万戸となり、80万戸を下回りました(国土交通省「建築着工統計調査」)。塗料の販売数量も前年割れが続き、各社は値上げで金額を維持しています。2026年には中東情勢を受けて、原料の供給と価格に対する懸念も強まりました。数量が伸びない市場で収益を維持するには、価格転嫁の力と、購買・生産の規模が問われます。
  2. 塗装現場の担い手不足と粉体化 — 関西ペイントは、工場塗装の熟練工や担い手の減少が深刻さを増していると述べ、塗装工程の省人化が図れる粉体塗料を重要な拡大分野と位置づけています。同社は粉体塗料の国内市場を約300億円、年2〜3%の成長と推計しています。関西ペイントと大日本塗料は、いずれも粉体塗料の生産体制をグループ内で集約しており、その過程では両社の粉体塗料の合弁会社の解消と、子会社の統合が行われました。
  3. 環境規制への対応 — 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制は、大気汚染防止法の規制と業界の自主的な取り組みの双方で進められてきました。水性化・粉体化・無溶剤化には、製品開発と生産設備の投資が伴います。神東塗料が大日本塗料の第三者割当増資で調達した資金の使途も、電着塗料等の生産性向上に係る設備でした。こうした設備投資の負担は、事例①のように、資本提携先からの出資で賄われる場合があります。
  4. 大手化学メーカーのポートフォリオ見直し — 住友化学は神東塗料の株式の譲渡にあたり、国内の塗料市場が成熟期に入るなかで同社の位置づけを検討し、塗料事業での提携により販売機会の拡大、コスト削減、設備投資による生産性向上が見込める大日本塗料を「ベストオーナー」と判断したと説明しています。AGCによるAGCコーテックの譲渡、日本ゼオンによるトウペの譲渡も、同じく大手化学メーカーが傘下の塗料会社を塗料専業に移す取引です(第3章)。
  5. 事業承継 — 中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを試算していました(中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」)。その2025年を過ぎた現在、塗料業界でも、1949年創業の荒川塗料工業がオーナーから隣接業界の企業へ譲渡され(第3章)、1952年に発足したロックペイントが創業家によるMBOで非公開化するなど、オーナー企業の資本の選択が具体化しています。

2. 業界プレイヤー構図

総合塗料の大手2社

会社本社連結売上高直近の動き
日本ペイントHD東京・大阪1兆7,742億円(2025年12月期)2021年からシンガポールのWuthelamグループが親会社。米国AOCの取得(2025年)、アクゾノーベルへの買収提案(2026年)など海外で大型案件を継続
関西ペイント大阪市北区5,898億円(2026年3月期)欧州・インド・アフリカで展開。第18次中期経営計画の期間中は大型M&Aを実施しない方針。国内ではグループ会社の統合を推進

国内上位の2社の近年の買収は、海外が中心です。国内では、関西ペイントが粉体塗料を担う子会社の久保孝ペイントを2026年4月1日付で関西ペイント販売に吸収合併するなど、グループ内の集約を進めています。

上場の中堅・専業メーカー

会社本社連結売上高主な領域・直近の動き
中国塗料東京・広島1,311億円(2025年3月期)船舶用塗料が主力。2026年に大日本塗料の中国子会社を取得、完全子会社の神戸ペイントを2027年4月に吸収合併予定
エスケー化研大阪府茨木市1,097億円(2026年3月期)建築仕上塗材の大手
大日本塗料大阪市中央区920億円(2025年度予想、神東塗料の連結後)構造物・重防食に強み。2025年に神東塗料とAGCコーテックを取得
川上塗料兵庫県尼崎市59億円(2025年11月期)1945年設立。東証スタンダード・名証メイン上場

このほか、工業用塗料を主力とするナトコ(愛知県みよし市)、大日本塗料の連結子会社となった神東塗料(兵庫県尼崎市)などが上場しています。

国内で外部からの取得に動いているのは、大日本塗料とナトコです。大日本塗料は2026中期経営計画(2024〜2026年度)で連結売上高800億円、連結営業利益80億円を目標に掲げ、M&Aも視野に入れて塗料事業の基盤を拡大するとしています。一方で同社は、中国子会社を中国塗料に譲渡しており、取得と譲渡の両面で事業の範囲を選んでいます。

大手化学グループ傘下の塗料会社

大手化学メーカーのグループには、塗料会社が置かれてきました。神東塗料は1938年から住友化学と資本・技術提携の関係にあり、AGCコーテックはAGCと大日本塗料の合弁会社、トウペは2013年に日本ゼオンが公開買付けで子会社化した塗料会社です。2025年から2026年にかけて、この3社はいずれも塗料専業メーカーへの譲渡が決まりました。

オーナー系の非上場企業

非上場の塗料メーカーには、創業家が経営するオーナー系の企業が多くあります。資本の選択はさまざまで、荒川塗料工業はオーナーが全株式を隣接業界の企業に譲渡し、ロックペイント(大阪市西淀川区)は2023年、創業家の資産管理会社が設立した会社によるMBOで非公開化し、独立を維持しています。

関西への集積

本稿で取り上げる企業のうち、日本ペイントHD(大阪・東京)、関西ペイント、大日本塗料、エスケー化研、神東塗料、川上塗料、トウペ(堺市)、ロックペイントは、大阪府または兵庫県に本社を置いています。


3. 国内の塗料業界M&A事例 — 大手化学からの切り出しと、オーナー企業の譲渡

事例① 大日本塗料 × 神東塗料(2025年)— 大手化学の関連会社を塗料専業が取得

大日本塗料は2025年2月、住友化学の持分法適用関連会社であった神東塗料(兵庫県尼崎市、1907年創業)に対する公開買付けを発表しました。住友化学が保有する45.16%の株式を1株90円の公開買付けで取得し、あわせて神東塗料が実施する第三者割当増資(1株127円、約3.9億円)を引き受けて、所有割合を50.1%とする取引です。増資の資金は電着塗料等の生産性向上に係る設備に充てられます。大日本塗料は発表時点で、公開買付け後も神東塗料の上場を維持するとしており、神東塗料の取締役会は公開買付けに賛同しつつ、価格の妥当性については意見を留保しました。

大日本塗料は、デューデリジェンス時の試算として、原料の共同購買で3億円、生産で7億円、人材で5億円程度の年間効果を見込み、最大効果の到達時期をFY27〜FY29としています。連結後の2025年度業績予想は、売上高920億円、営業利益50億円です。

本案件は、(i)大手化学メーカーが、長年の関連会社を同業の塗料専業に移した、(ii)買い手が既存株主から株式を取得するだけでなく、増資を引き受けて対象会社の設備投資を賄った、(iii)全株式ではなく過半数の取得で上場を維持し、統合効果を購買・生産・人材の項目別に、時期を分けて示した、という点を示しています。

事例② 大日本塗料 × AGCコーテック(2025年)— 合弁相手による完全子会社化

AGCコーテック(東京都千代田区)は、AGCが90%、大日本塗料が10%を保有する合弁会社で、40年以上にわたりフッ素樹脂塗料とフッ素樹脂コーティング材を製造・販売してきました。大日本塗料は2025年8月、AGCが保有する全株式を取得する株式譲渡契約を締結し、譲渡の完了は2025年12月下旬の予定と公表しました。AGCは、AGCコーテックと既に取引関係があり10%を保有する大日本塗料に移すことが、同社の成長にとって最適と判断したとしています。大日本塗料は取得の理由として、AGCコーテックの技術を取り込み、自社の既存技術と組み合わせて技術優位性の高い製品を開発することを挙げています。

本案件は、(i)事例①と同じく、大手化学メーカーの非中核の塗料会社を塗料専業が取得した、(ii)買い手は10%を保有する合弁相手で、既存の資本・取引関係が全株式の取得に先行した、(iii)取得の目的が、フッ素樹脂塗料という特定の技術の獲得にある、という点を示しています。

事例③ ナトコ × トウペ(2026年、11月譲渡予定)— 生産拠点を目的とする塗料専業同士の統合

工業用塗料を主力とするナトコは2026年5月、日本ゼオン傘下の総合塗料メーカーであるトウペ(堺市)の全株式を21億9,000万円で取得すると発表しました。株式譲渡は2026年11月2日の予定です。発表時点では、トウペが手がけるアクリルゴム事業は対象外とし、株式譲渡の前に会社分割で切り離すとしていました。

ナトコは取得の狙いとして、塗料事業の領域拡大に加え、生産・物流体制の再構築を挙げています。ナトコの主力拠点である愛知県みよし市の本社工場は竣工から50〜60年が経ち、敷地内に余剰がなく、近隣での代替地の確保も難しいとされます。トウペは三重工場(約9万6,000平方メートル)と茨城工場(約7万平方メートル)を持ち、福岡や北海道にも倉庫や調色工場があります。両社は工業用塗料や粉体塗料で一部重複する一方、建材、防食、道路、皮革向けなどでは補完関係にあるとしています。

本案件は、(i)事例①②に続き、大手化学メーカーが傘下の塗料会社を塗料専業に移した、(ii)塗料以外の事業(アクリルゴム)を切り離したうえで塗料事業だけを譲渡した、(iii)買い手の狙いに、製品の補完だけでなく、工場の用地や調色・物流の拠点が含まれていた、という点を示しています。

事例④ 東京インキ × 荒川塗料工業(2021年)— 隣接業界によるオーナー企業の取得

荒川塗料工業(埼玉県さいたま市、1949年創業)は、紙加工用塗料や建築用塗料を製造・販売する非上場企業で、2020年2月期の売上高は12億8,200万円、代表取締役社長が全株式を保有していました。印刷インキメーカーの東京インキは2021年1月、同氏から全株式を取得しました。東京インキは取得の理由として、販売・生産・技術の事業要素が共通し、互いの製品領域が競合しないこと、生産・技術のノウハウを共有して新製品の開発体制を作ることを挙げています。取得価額は、第三者によるデューデリジェンスを経て双方の協議で決めたとしています。

本案件は、(i)オーナーが全株式を保有する塗料メーカーの買い手が、塗料メーカーではなく隣接業界のインキメーカーであった、(ii)買い手が評価したのは、製品の競合がない一方で、生産・技術・販売に共通点があることであった、という点を示しています。

事例⑤ Wuthelamグループ × 日本ペイントHD(2021年)— 売上高で国内首位の塗料メーカーに海外資本が過半出資

日本ペイントHDは2021年1月、シンガポールのWuthelamグループを割当先とする約1.3兆円の第三者割当増資を実施し、その対価として、同グループと1962年から運営してきたアジアの合弁事業とインドネシア事業の持分を取得しました。この結果、Wuthelamグループの保有比率は39.6%から58.7%に上がり、同グループが日本ペイントHDの親会社となりました。日本ペイントHDは当時、経営陣の交代を伴わないことから、買収ではなく成長資本の調達と位置づけていました。

本案件は、(i)売上高で国内首位の塗料メーカーが、長年の合弁相手である海外資本の過半出資を受け入れた、(ii)合弁事業の持分の取り込みと資本の受け入れを一体で行った、という点を示しています。オーナー企業の譲渡とは規模も目的も異なりますが、海外の塗料資本が日本企業の過半を保有する形は、業界の最上位で既に成立しています。

オーナー企業のOut-Inでは、隣接する建築用シーリング材の分野で、ベルギーのSoudalが2025年、大阪に本社を置くシャープ化学工業(1960年に村上家と宮田家が創業、現在は2代目が経営)の過半数の株式を取得しました。Soudalはシャープ化学工業の社名とブランドを維持すると公表しています。


4. クロスボーダーの塗料業界M&A事例 — 国内大手による海外での買収

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内大手がどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業大手の投資基準の参照例になります。

事例⑥ 日本ペイントHD × AOC(2025年3月取得完了)— ファンド保有の特殊樹脂メーカーを取得

日本ペイントHDは2024年10月、米国のAOC(複合材料用樹脂やコーティング周辺材料の配合設計・製造)の全持分を、米投資ファンドのローンスターから取得すると発表し、2025年3月に取得を完了しました。発表時の対価は株式価値ベースで約3,341億円(23億400万ドル)、企業価値ベースで約6,308億円、EV/EBITDAは約8.2倍とされています。同社の開示によれば、AOCの2023年の売上高は約15億ドル、EBITDAは約5.3億ドルで、EBITDAマージンは約35%です。同社は買収の基準として、買収初年度からEPSにプラスの貢献があること、事業リスクの低い優れた企業であることを挙げています。

本案件は、(i)売上高で国内首位の塗料メーカーが、塗料そのものではなく周辺のスペシャルティ材料に事業を広げた、(ii)売り手がファンドであり、ファンドの出口として事業会社が取得した、(iii)買い手が取得の基準(EPSへの貢献、事業リスク)と価格水準を開示している、という点を示しています。

事例⑦ 関西ペイント × WEILBURGER Coatings(2024年5月取得完了)— 欧州での工業用塗料の積み上げ

関西ペイントは、2017年に取得した欧州子会社のKansai Heliosを通じて、2022年にドイツのCWSグループを、2024年に同じくドイツのWEILBURGER Coatings(鉄道車両用塗料、耐熱塗料、ノンスティックコーティング等)を取得しました。同社は第18次中期経営計画の期間中は大型M&Aを実施しない方針を示しており、欧州での取得は、特定用途の工業用塗料メーカーを順に加える形で進めています。

本案件は、(i)売上高で国内2位の塗料メーカーが、海外では大型案件ではなく中規模の買収で用途と地域を補っている、(ii)取得対象が鉄道車両用など用途の特定された工業用塗料である、という点を示しています。

事例⑧ 日本ペイントHD・シャーウィン・ウィリアムズ × アクゾノーベル(2026年、提案段階)— 世界大手の統合をめぐる買収提案

オランダのアクゾノーベルは2025年11月、米国のアクサルタとの対等合併を発表しました。これに対し、日本ペイントHDと米国のシャーウィン・ウィリアムズは2026年4月、アクゾノーベルの全株式を1株73ユーロの現金で取得する共同提案を行い、日本ペイントHDが建築用・工業用を、シャーウィン・ウィリアムズが自動車補修用・船舶用・粉体塗料などを引き継ぐ構想を示しました。アクゾノーベルはこの提案を拒否し、アクサルタとの合併を進める方針を維持しています。日本ペイントHDはその後、アクゾノーベルの建築用塗料事業を企業価値75億ユーロで取得する提案を単独で行っていることを認めましたが、2026年7月時点で具体的に決定した事項はないとしています。

本案件は、(i)世界の塗料大手の間で統合の動きがあり、日本の塗料メーカーがその当事者になっている、(ii)全社の買収ではなく、事業ごとに分けて取得する構想が示された、という点を示しています。


5. 塗料業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

塗料メーカーのM&Aでは、財務数値に加えて、塗料業界に固有の要素が確認されます。事例の買い手が公表した取得の理由と統合効果をもとに、製品・技術、販売、生産の3つに整理します。

  1. 製品・技術 — どの需要分野で、どの顧客の仕様に採用されているか。防食や自動車用のように、発注者の仕様と施工・採用の実績が参入条件となる分野では、その実績自体が資産になります。配合・調色の技術とそれを担う技術者、フッ素樹脂塗料のような特定技術(事例②)、水性・粉体などの環境対応製品の比率も確認の対象です。
  2. 販売 — 販売店・塗装業者を経由する流通網、顧客の構成と集中度、買い手の製品との補完関係です。事例④の買い手は、製品の領域が競合しない一方で販売の要素が共通することを、事例③の買い手は、建材、防食、道路、皮革向けでの補完を挙げています。
  3. 生産 — 工場の立地と用地、設備の状態、調色・物流の拠点、原料の購買規模です。事例③では、買い手の本社工場の老朽化と用地の制約に対し、対象会社の工場用地と調色拠点が取得の狙いに含まれていました。事例①では、原料の共同購買と生産の効率化が統合効果の中心でした。

6. 塗料業界の買い手の類型

本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、評価の観点、統合の進め方、譲渡後の経営への関与のあり方が異なります。

  1. 国内の塗料メーカー — 大日本塗料(事例①②)、ナトコ(事例③)、中国塗料(大日本塗料の中国子会社の取得)など。事例の買い手は、購買・生産・人材の重複の解消や、拠点の再配置による効果を見込んでいます。
  2. 隣接業界の事業会社 — 東京インキ(事例④)のように、インキ、化学、建材など、生産・技術・販売に共通点を持ちながら製品が競合しない企業です。製品領域の拡大と技術の相互活用が狙いとなります。
  3. 海外の塗料・建設化学品メーカー — 日本ペイントHDの過半を保有するWuthelamグループ(事例⑤)や、日本での事業基盤としてシャープ化学工業を取得したSoudalのように、日本企業に出資し、あるいは取得する海外企業です。Soudalのように、取得後も社名とブランドを維持する例があります。

このほか、ファンドは事例⑥のAOCで売り手として登場しています。国内の塗料メーカーをファンドが取得した公表事例は、本稿の調査の範囲では確認できませんでしたが、隣接する化学・素材の分野では、ポラリス・キャピタル・グループによるBフードサイエンス(機能性素材)の取得のように、ファンドが買い手となる例があり、塗料メーカーの譲渡先としても対象となり得ます。


7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、塗料メーカーの買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

2025年から2026年にかけて、3つの大手化学グループが傘下・関連の塗料会社の譲渡を決め、いずれも国内の塗料専業が取得しました(事例①②③)。オーナー企業は、隣接業界の国内企業(事例④)や欧州の建設化学品メーカー(事例⑤の後段)に譲渡されています。事例の対象先は、大手化学グループ内の塗料会社か、オーナーが保有する非上場企業のいずれかで、大手化学からの切り出し3件の買い手はいずれも事業会社でした。こうした対象先は公開情報だけでは特定しにくく、取得には親会社やオーナーへの直接の打診が必要になります。

② 取引の形

事例には、過半数の取得で対象会社の上場を維持する形(事例①)、合弁の持分を経て全株式を取得する形(事例②)、塗料以外の事業を切り離したうえで塗料事業だけを取得する形(事例③)、過半数を取得して社名とブランドを維持する形(事例⑤の後段)があります。海外では、投資ファンドが保有する事業を事業会社が全持分で取得した例(事例⑥。発表時のEV/EBITDAは約8.2倍)もあり、投資ファンドにとっては事業会社への売却の参照例になります。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

親会社の売り手は、事業の将来の観点から譲渡先を選んだと説明しています。住友化学は大日本塗料を「ベストオーナー」と判断したとし、AGCは大日本塗料への譲渡がAGCコーテックの成長にとって最適と判断したとしています。オーナー企業では、シャープ化学工業の会長が家業の将来を託せる相手を得た旨を述べ、Soudalは社名とブランドの維持を公表しています。これらの発言からは、事例の売り手が、価格に加えて、事業の成長と継続の計画を買い手に求めていたことがうかがえます。


8. 塗料メーカーのオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

国内の塗料専業(事例①②③)に加え、隣接業界の事業会社(事例④)や海外の建設化学品メーカー(事例⑤の後段)も買い手となっています。一方、国内上位の2社の近年の買収は海外が中心です(事例⑥⑦⑧)。買い手候補は、これらの先の中から、自社の製品・顧客・拠点と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(製品・技術、販売、生産)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になり、どの買い手にとって重複の解消になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例③のように、工場の用地や調色拠点が買い手の目的になる場合もあります。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員や取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。既存の取引先や合弁相手との資本関係が将来の選択肢を左右する場合もあるため、現在の資本・取引関係を含めて選択肢を整理しておくことが必要です。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。塗料・コーティング業界を含む化学・素材セクターを最重要セクターの一つと位置づけ、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。塗料業界では、大手化学グループからの切り出しに加えて、公開情報の少ない非上場のオーナー企業が対象となるため、候補先の調査とオーナーへの直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、隣接業界の事業会社、ファンドに加えて、海外の塗料・建設化学品メーカーなどの戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の同業、隣接業界(化学・素材・建材)、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の製品・顧客・拠点と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:需要分野ごとの採用の決まり方、販売店・塗装業者との取引関係、生産・調色拠点など、塗料業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、取引先との関係、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料・報道等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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