【2026年第1四半期】 アジア太平洋クロスボーダーM&A レビュー:インド投資の質的加速とチャイナ+1受け皿の多極化

アジア太平洋クロスボーダーM&A

要旨

2026年第1四半期(1〜3月)、日本企業によるアジア太平洋(APAC)でのクロスボーダー M&A・資本提携の観測件数は合計91件(Syntax Partners調査、観測日ベース。以下同)となった。国・地域別ではシンガポール(18件、19.8%)が最多、中国(12件、13.2%)・タイ(10件、11.0%)・台湾(9件、9.9%)が続き、マレーシア・インド・韓国(各8件、8.8%)が中位を形成した。業界別では金融(12件、13.2%)が最多、化学・素材・電子機器(各11件、12.1%)が続き、消費財・小売(10件、11.0%)・情報通信(9件、9.9%)が上位に並んだ。

取引類型別では買収35件(38.5%)・出資22件(24.2%)・資本提携5件と、投資型が全体の約7割を占めた一方、売却15件(16.5%)・一部譲渡3件など整理型も中国を中心に継続した。年換算では約364件のペースとなり、361件であった2025年通年とほぼ同水準で推移している。

数量の総枠が前年並みである一方、その内訳には明確な構造変化が表れた。第一に、インドは件数こそ8件と通年比でやや低下したものの、観測された全件が投資型で売却はゼロ、かつ金融・ディープテック・消費財・物流テックへと投資領域が拡散しており、量から質への転換を伴って投資が加速している。第二に、2025年通年で2位(42件、11.6%)であったベトナムが5件(5.5%)へと構成比を半減させる一方、マレーシアが5.0%から8.8%へとほぼ倍増し、「チャイナ+1」の受け皿が多極化する兆しがみられた。本稿は、まず集計を確認したうえで、産業別・国別の動向、さらには横断テーマと2026年通年への示唆へと展開する。

M&A案件集計

業界別件数

業界件数構成比
金融1213.2%
化学・素材1112.1%
電子機器1112.1%
消費財・小売1011.0%
情報通信99.9%
娯楽・余暇66.6%
輸送用機器66.6%
専門サービス55.5%
物流55.5%
機械44.4%
その他製造業33.3%
産業サービス33.3%
ヘルスケア22.2%
不動産22.2%
エネルギー・資源22.2%
合計91100.0%

(図1)2026年Q1 APACにおける日本企業のM&A件数(業界別)

国・地域別件数

国・地域件数構成比2025年通年構成比差(pt)
シンガポール1819.8%15.8%+4.0
中国1213.2%13.9%−0.7
タイ1011.0%10.8%+0.2
台湾99.9%6.9%+3.0
マレーシア88.8%5.0%+3.8
インド88.8%10.2%−1.5
韓国88.8%8.6%+0.2
香港66.6%2.8%+3.8
ベトナム55.5%11.6%−6.1
フィリピン33.3%2.5%+0.8
インドネシア22.2%5.8%−3.6
オーストラリア11.1%4.4%−3.3
その他(パキスタン)11.1%1.7%−0.6
合計91100.0%100.0%

(図2)2026年Q1 APACにおける日本企業のM&A件数(国別)。2025年通年構成比は年次総括レビューの集計(361件)に基づく。

1. 産業別動向:主要業界ごとの M&A トレンド

消費財・小売:日本食・専門小売の海外展開と現地ブランドの取り込み

取引件数は10件(11.0%)。うち7件が買収であり、現地市場への本格参入を企図した支配権取得が中心となった。シンガポールではスーパーマーケット「ロピア」を展開するOICグループが日本食専門店運営のGO TO MIRAIをグループ会社化し、フィリピンでは日清食品HDが持分法適用関連会社であったNissin-Universal Robina Corporationの出資比率を70%へ引き上げて子会社化した。タイではニチレイ傘下のニチレイフーズが冷凍チキン加工品生産のSurapon Supreme Foodsを99.9%取得し、現地の食品供給網を内製化した。

一方、インドではDG Daiwa VenturesによるZ世代向けスペシャリティコーヒーのFirst Coffee、ENRISSION INDIA CAPITALによる伝統菓子製造のGoDesiおよびサステナブル子ども服のSmartz Wear Technologyへの出資が相次ぎ、ファンド経由でインドの新興消費ブランドへ接続する動きが顕著であった。現地ブランド力の取り込みと、川上・川中の供給機能の確保という二つの方向が同時に進んだといえる。

金融:暗号資産・資産運用・フィンテックへの選別投資

取引件数は12件(13.2%)。シンガポールに案件が集中し、同国が資金と金融機能の集積地である構図が改めて確認された。SBIホールディングスは大手暗号資産プラットフォーム運営のCoinhakoを買収し、ユーザベースはプライベートマーケットデータベース提供のAlternatives.peを取得。三井住友信託銀行は三菱商事のシンガポール子会社が運営するファンド「AIGF III」に出資し、東洋製缶グループHDらもFoF「Cross Capital I」に参画するなど、運用・ファンド領域への資本配分が目立った。

インドでは、テラモーターズが大手マイクロファイナンス機関AROHANと資本提携し、FinTechスタートアップのアルパカグループが国際金融経済特区(GIFT City)拠点の証券会社Zincmoney IFSCを買収するなど、与信・資本市場インフラへの接続が進んだ。総じて、伝統的な銀行・保険の大型出資よりも、デジタル金融・運用プラットフォームへの選別投資に比重が置かれた四半期であった。

電子機器:半導体・先端材料への大型投資と汎用領域の整理

取引件数は11件(12.1%)。最も象徴的な動きは、キオクシアHDによる台湾のDRAM開発・設計大手Nanya Technologyへの約774億円の出資である。メモリ供給網における戦略的連携を企図したものとみられる。台湾ではグローバル・ブレイン運営ファンドがシリコンフォトニクスのAuthenXに出資し、韓国ではステラケミファが半導体材料大手Soulbrain Holdingsと資本業務提携するなど、半導体・先端材料サプライチェーンへの集中投資が複数確認された。

他方、汎用・成熟領域では整理が進んだ。マクセルは中国子会社Wuxi Maxell Energyの全持分を譲渡し、SUMCOは台湾FORMOSA SUMCO TECHNOLOGYの一部持分を市場で売却した。また、ソニーは香港TCL Electronicsと合弁会社を設立してホームエンタテインメント事業を承継させるなど、事業構造の組み替えも進行。成長分野への資源集中と低収益領域の圧縮という二極化が鮮明であった。

化学・素材:中国からの撤退と資源回収・環境素材への選別投資

取引件数は11件(12.1%)。中国事業の整理が継続する一方、資源安全保障・環境対応を軸とした選別投資が併走した。撤退側では、ヨドコウが中国子会社(高科技鋼板)の持分譲渡で基本合意し、太平洋セメントが中国セメント子会社の全持分を譲渡した。投資側では、マレーシアにおいてJOGMECが太陽鉱工のバナジウム精製事業Taiyo Koko Malaysiaに出資し、日本製鉄子会社の日鉄物産が鋼管・ガードレール製造のLeform Berhadに出資するなど、重要鉱物・素材の供給確保に向けた動きが目立った。

インドでは堀場製作所グループのホリバ・インドが人工ダイヤモンド研究開発のPristine Deeptechを買収し、台湾ではシンギHDが生分解性プラスチックのMinima Technologyに出資するなど、先端素材・環境素材への布石もみられた。化粧品分野でも、日進化学がマレーシアでスキンケアOEM製造のBodibasixs Manufacturingを譲受している。中国依存の段階的な見直しと、高付加価値・経済安保関連素材への再配分という、2025年からのテーマが引き続き作用している。

その他の主要産業:情報通信・娯楽余暇・輸送用機器・物流

情報通信(9件、9.9%)では、海外通信・放送・郵便事業支援機構が住友商事らと共同で日本・マレーシア・シンガポール間の海底ケーブル事業Intra-Asia Marine Networksへ出融資し、通信インフラの整備が進んだ。スカパーJSATは衛星量子暗号通信のSpeQtral(シンガポール)と、伊藤忠商事は法人向けITサービスのシステックス(台湾)と、それぞれ資本業務提携を結んだ。

娯楽・余暇(6件、6.6%)では、コンテンツ・IP領域の越境連携が際立った。U-NEXT HOLDINGSが韓国CJ ENM・TBSホールディングスと合弁会社を設立し、パソナグループが映像制作の韓国VIVE STUDIOSと合弁を組成。メディアドゥは日中韓のマンガ・ライトノベル翻訳出版を手がける米Seven Seas Entertainmentを買収した。韓国を中心とするコンテンツ産業との連携深化は、本四半期の新たな潮流として注目される。

輸送用機器(6件、6.6%)では、ゼロが商船三井グループの自動車輸送会社Auto Carrier(タイ)を買収し、豊田通商が豪州の中古車事業MCT Automotive Groupを取得する一方、フタバ産業は中国子会社の全持分を譲渡するなど、地域最適化と中国整理が併走した。物流(5件、5.5%)では、ENRISSION INDIA CAPITAL運営ファンドがインド発物流テックのHexalog Technologiesに出資し、NIPPON EXPRESSホールディングスがパキスタンのTCS Logisticsの株式を取得するなど、南アジアでのネットワーク拡充がみられた。

2. 国・地域別動向:インド・ベトナム・タイを中心に

インド:売却ゼロ・全件投資型、領域拡散を伴う質的加速

8件(8.8%)。件数の構成比は2025年通年(10.2%)からやや低下したものの、本四半期のインドは観測8件すべてが買収・出資・資本提携の投資型であり、売却・撤退は一件も観測されなかった。これは他の主要国と一線を画す特徴であり、年次総括で指摘した「インドへの傾斜」が、量の拡大というより投資の純度・領域の広がりという形で加速していることを示している。

投資領域の拡散も顕著である。金融では、テラモーターズがマイクロファイナンス機関AROHANと資本提携し、アルパカグループがGIFT City拠点の証券会社Zincmoney IFSCを買収した。ディープテックでは堀場製作所グループが人工ダイヤモンドのPristine Deeptechを、電子機器では伯東がエレクトロニクス卸のRabyte Edgeを買収。消費財ではDG Daiwa VenturesやENRISSION系ファンドがZ世代向け飲食・伝統菓子・サステナブル衣料の新興ブランドへ連続出資し、物流テックではHexalog Technologiesへの出資もみられた。

特筆すべきは、これらの多くがコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)や投資ファンドを通じたマイノリティ出資である点だ。支配権取得に限らず、ファンドを介してインドの成長スタートアップ・エコシステムへ早期に橋頭堡を築く手法が定着しつつある。厚い内需、若年人口、拡張する資本市場を背景に、インドは件数の多寡を超えて、日本企業にとって戦略的な投資先としての重要性を一段と高めている。

ベトナム:「広く浅く」から「狭く深く」への移行と一巡感

5件(5.5%)。2025年通年では42件・11.6%とシンガポールに次ぐ第2位の投資先であったベトナムは、本四半期に構成比をほぼ半減させ、観測対象国の中で最大の低下幅(−6.1pt)を記録した。ただし、これを直ちに後退と解釈するのは早計であり、投資の質的変化として読むのが妥当と考えられる。

本四半期のベトナム5件のうち4件が買収であり、NISSHAによる医療機器メーカーUSM Healthcareの買収(60%取得)、河村電器産業による配電盤メーカーANH THYの買収、ホシザキによる業務用冷凍庫ARICO社の追加取得(99.6%へ)と、いずれも製造業の支配権取得に集中した。2025年に件数を支えていたIT・デジタル・スタートアップ向けの小口出資が薄まり、一件あたりの規模と関与度が高まった結果として、総件数が減少して見える構図である。

背景としては、「チャイナ+1」の主要受け皿として2024〜2025年に投資が集中したことの一巡感が挙げられる。橋頭堡を確保済みの企業が新規ディールよりも既存事業の育成・統合へ軸足を移す局面に入った可能性があり、後述するマレーシア等への投資分散とも表裏の関係にあるとみられる。なお、本四半期は91件の小標本であり、単一四半期の振れには反動・端境期の影響も含まれうる点には留意が必要である。

タイ:裾野の広い製造業を軸に攻守が交錯

10件(11.0%)。構成比は2025年通年(10.8%)とほぼ同水準を維持し、製造業の裾野が広く日本との経済的紐帯が深いタイの安定した位置づけが改めて確認された。攻めと守りの双方が併走した点が特徴である。

攻勢側では、ニチレイフーズが冷凍食品メーカーSurapon Supreme Foodsを買収し、ゼロが自動車輸送のAuto Carrier(Thailand)を74%取得、ロート製薬がウェルネス関連のThann Oryzaを買収するなど、消費財・物流・ヘルスケアで現地基盤を拡充した。一方、整理側では、ブリヂストンがスチールコード製造のタイ・中国子会社事業をベルギー企業へ譲渡し、GMOインターネットがタイのデジタルアセット事業からの撤退を発表、東洋製缶グループHDが現地製缶子会社の一部持分を譲渡した。成長領域への投資と非中核事業の整理が同一市場内で同時進行する、成熟した取引環境がうかがえる。

シンガポール:金融・運用機能とディープテックの集積地

18件(19.8%)で最多を維持し、構成比も通年比+4.0ptと拡大した。金融・運用機能(SBIのCoinhako買収、ユーザベースのAlternatives.pe買収、三井住友信託銀行の「AIGF III」出資をはじめとする複数のファンド参画)とディープテック(SpeQtralの量子暗号、Pyxis MaritimeのEV船舶)の双方で案件が集積した。成長市場へのゲートウェイであると同時に、先端技術・金融機能の獲得拠点としての地位を一層強めた四半期であった。

台湾:半導体・電子部材を軸とした攻めの出資

9件(9.9%)。構成比は2025年通年(6.9%)から+3.0ptと上昇し、上位国の一角に浮上した。最大の象徴はキオクシアHDによるDRAM開発・設計大手Nanya Technologyへの約774億円の出資であり、メモリ供給網における戦略的連携を企図したものとみられる。グローバル・ブレイン運営ファンドはシリコンフォトニクスのAuthenXに、シンギHDは生分解性プラスチックのMinima Technologyに出資し、伊藤忠商事は法人向けITサービスのシステックスと資本業務提携を結んだ。一方、SUMCOがFORMOSA SUMCO TECHNOLOGYの一部持分を市場で売却するなど成熟領域の調整もみられたが、全体としては半導体・先端材料・電子部材を軸とした攻めの姿勢が鮮明であった。

韓国:コンテンツ・エンタメと半導体材料での連携拡大

8件(8.8%)。構成比は2025年通年(8.6%)とほぼ同水準ながら、案件の中身に新たな潮流が表れた。コンテンツ・エンタメ領域での連携が際立ち、U-NEXT HOLDINGSがCJ ENM・TBSホールディングスと、パソナグループが映像制作のVIVE STUDIOSと、それぞれ合弁会社を設立。メディアドゥは日中韓のマンガ・ライトノベル翻訳出版を手がける米Seven Seas Entertainmentを買収した。半導体材料では、ステラケミファが大手Soulbrain Holdingsと資本業務提携し、技術アクセスを拡充。日本のIP資産と韓国の制作・配信機能を結びつける動きと、先端材料での技術連携が併走した。

マレーシア:資源・インフラ安保テーマの台頭と受け皿の多極化

8件(8.8%)。構成比は2025年通年(5.0%)からほぼ倍増(+3.8pt)し、本四半期で最も顕著にプレゼンスを高めた国の一つとなった。増加を牽引したのは資源・インフラ案件である。JOGMECが太陽鉱工のバナジウム精製事業Taiyo Koko Malaysiaに出資し、日本製鉄子会社の日鉄物産が鋼管・ガードレール製造のLeform Berhadに出資、海外通信・放送・郵便事業支援機構が住友商事らと海底ケーブル事業Intra-Asia Marine Networksへ出融資するなど、重要鉱物・通信インフラの供給確保という経済安全保障テーマが具体化した。

あわせて、グリーンハウスがコントラクトフードサービスのSHF Servicesを、GENDAがカラオケ事業のOttotree Entertainmentを買収するなど、裾野産業の現地化も進んだ。マレーシアの増加は、こうした経済安保関連投資の具体化に加え、ベトナム一極集中の緩和に伴う「チャイナ+1」受け皿の多極化という二つの要因が重なった結果と解釈でき、英語環境や法制度の成熟、既存の日系製造基盤を備えた同国の再評価を示すものといえる。

中国:「選択と集中」の継続

12件(13.2%)。観測12件のうち売却・一部譲渡が約半数を占め、「選択と集中」の継続が鮮明であった。マクセル、太平洋セメント、フタバ産業、オリエンタルチエン工業などが現地子会社の持分を譲渡する一方、三菱電機が人型ロボット開発のLumos Robotics Technologyに出資し、中国塗料が大日本塗料の中国塗料子会社を買収するなど、高確度領域への限定的な投資も併走した。撤退基調を保ちつつ、見極めた領域には選別的に資本を投じる「メリハリ運用」が引き続き機能している。

3. 注目トピックとマクロ動向の考察

インド投資の質的転換:CVC・ファンド経由の常態化

本四半期のインドは全件が投資型で、その多くがCVCや投資ファンドを通じたマイノリティ出資であった。支配権取得を急がず、ファンドを介して成長スタートアップへ早期に接続する手法が定着しつつある。自前主義を補完する打ち手として機能し、企業のイノベーション力強化と新興企業の成長が相互に寄与する構図が見て取れる。

「チャイナ+1」受け皿の多極化

ベトナムの構成比半減とマレーシア・タイの相対的上昇は、製造拠点の分散投資が一極集中から多極化へ移行している可能性を示す。英語環境や法制度の成熟、既存の日系製造基盤を持つマレーシアの再評価が、その一端を担っているとみられる。

半導体・先端材料サプライチェーンへの集中投資

キオクシアのNanya出資、ステラケミファのSoulbrain提携、SUMCOの持分調整など、メモリ・半導体材料を巡る連携と再編が台湾・韓国で集中的に進んだ。経済安全保障と供給網強靭化の観点から、先端材料への資本配分が一段と重みを増している。

コンテンツ・IP・エンタメの越境連携

韓国を中心に、映像制作・配信・出版・マンガ翻訳といったコンテンツ領域での合弁・買収が相次いだ。日本のIP資産と現地の制作・配信機能を結びつける動きであり、本四半期に立ち上がった新たな潮流として注視に値する。

4. 2026年通年に向けた示唆

1)インド・ASEANでの先行者利益の獲得

インドでは、件数の多寡を超えて投資の純度と領域の広がりが進んでおり、金融・ディープテック・消費の各分野でファンドを介した早期接続が今後も加速するとみられる。ASEANでは、ベトナム一極から多極化する受け皿構造を見据え、生産機能の移転・増強と現地消費市場の取り込みを一体で設計する企業ほど、立ち上がりの早さと収益化の確度を高めやすい。

2)中国事業の継続的な再定義

規制環境の不確実性と成長鈍化を前提に、低収益領域の段階的な縮小・撤退と、ロボティクスなど高確度領域への限定的投資の併走は、平時運用として今後も続くと考えられる。合弁・持分保有は採算性とリスクの見合いで点検され、ポジションの軽量化を伴う見直しが引き続き選択肢に入るだろう。

3)半導体・先端材料の供給網投資

経済安全保障の潮流を背景に、半導体・先端材料・重要鉱物のサプライチェーンへの投資は通年でさらに増勢を強める可能性が高い。台湾・韓国・マレーシアを軸とした連携・出資が引き続き案件創出の中心となるとみられる。

4)スタートアップ協業の深化

単発のマイノリティ出資から、共同開発や市場共同開拓を含む戦略的提携へと踏み込む動きが広がるものと思われる。インド・シンガポール・韓国・台湾での先端技術・高度人材へのアクセスを自社の事業ロードマップに結びつけることで、提携の質とスピードは一段と高まりやすい。

5)事業ポートフォリオの継続最適化とESGの組み込み

投資と整理を同一市場内で同時に進めるタイのような成熟した取引環境は、今後ほかの主要国にも広がるとみられる。市場規模・競争環境・成長性・資本効率・リスクのバランスを見ながら資産を入れ替える発想は平時運用として定着しつつある。あわせて、資源回収・環境素材・再生可能エネルギー関連の案件は、規制対応の先取りと新たな収益源の開拓を両立するテーマとして引き続き評価されるだろう。

結び

2026年第1四半期のAPACでは、取引の総量こそ前年並みのペースを保ったものの、その内訳には明確な構造変化が表れた。インドは件数を超えた質的加速をみせ、「チャイナ+1」の受け皿はベトナム一極から多極へと広がり、半導体・先端材料やコンテンツIPといった新たな投資テーマが立ち上がった。投資型が約7割を占めつつも、中国を中心とする整理型が一定の比重を保つ構図は、各社が自社の強みに照らして市場選択・技術獲得を丁寧に設計していることの表れといえる。

M&A戦略においては、100%やマジョリティの支配権取得に限定されず、マイノリティ出資やファンドを活用して現地市場で早期に橋頭堡を確立し、ネットワークや人材・技術へのアクセスを確保する手法が、特にインドにおいて実務面で有効に機能している。2026年通年に向けては、各社がどの市場・どの製品やサービスに比重を置き、いかなる勝ち筋を描くのかがいっそう明確に問われる年になるとみられる。その実行手段としてのM&Aは、戦略的重要性をさらに増していくだろう。


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