
(2026年10月更新)
化粧品OEMは、ブランドを持つ化粧品メーカーの依頼を受けて化粧品を製造する事業です。処方や製品の開発から受託する形はODMと呼ばれ、本稿では両者を合わせて受託製造と呼びます。この数年の化粧品OEM業界M&Aを見ると、国内では、投資ファンドが出資していたトキワを日本コルマーホールディングス(TOAの持株会社)が2024年に取得し、上場OEMの日本色材工業研究所がブランドメーカーのハーバーから工場を買い取るなど、受託製造の担い手の統合と生産能力の取得が続いています。容器メーカーのグループから切り出された受託製造会社を、英国上場の消費財企業の日本法人が取得した例もあります。海外では、国内のOEM、総合商社、容器メーカーが、米国、欧州、中国、東南アジアで受託製造会社や生産拠点を取得しています。
本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている化粧品OEMのオーナー・親会社の皆様を念頭に、化粧品OEM業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内企業による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。
1. 化粧品OEM業界の市場構造 — コロナ前を下回る国内出荷と輸出入の変化
市場規模
日本化粧品工業会が経済産業省の生産動態統計をもとにまとめた資料によると、2025年の化粧品の国内出荷額は1兆3,907億円(前年比1.2%増)で、2023年以降3年連続で増加しました(日本化粧品工業会「化粧品出荷」)。同会によれば、出荷単価は2022年を底に3年連続で上昇しています。一方、経済産業省の化粧品産業競争力強化検討会の中間報告書(2026年6月)は、同じ生産動態統計をもとに、2024年の国内出荷額は約1.4兆円で、新型コロナウイルス感染症の流行前の約1.8兆円を下回っていると記載しています(経済産業省「化粧品産業競争力強化検討会 中間報告書」)。
輸出入では、財務省貿易統計による輸出額が2021年に7,906億円でピークを付けた後に減少し、2024年に底を打って2025年に増加へ転じました。輸出先は2020年以降、総輸出額の約50%を中国向けが占め、2025年の中国向けは2,836億円でした。輸入額は一貫して増加しており、韓国からの輸入は2022年に国別で1位となって以降その順位を維持し、2025年には1,418億円に達しました(日本化粧品工業会「化粧品の輸出入」)。
受託製造の制度上の位置づけ
医薬品医療機器等法(薬機法)では、化粧品を市場に出す責任は製造販売業の許可を持つ事業者(多くはブランドを持つ会社)が負い、製造は製造業の許可を持つ事業者が担います。製造業の許可は製造所ごとに与えられ、製造工程の全部または一部を行う区分と、包装・表示・保管のみを行う区分があります。2025年3月末の許可件数は、化粧品製造販売業が4,432件、化粧品製造業が4,398件で、いずれも増加傾向にあります(日本化粧品工業会「化粧品製造販売及び製造業態数」、厚生労働省調べ)。製造業の件数は製造所の数であり、事業者の数ではありません。
経済産業省の中間報告書は、日本の化粧品業界では大手・中堅の製造販売事業者を中心に企画・開発・製造・販売を自社内で担う垂直統合型のモデルが採られている一方、韓国では大手ODM(開発・設計から製造までを受託する事業者)が開発・生産の中核を担う水平分業型の構造にあると整理しています。そのうえで、製造機能を外部に委ねるファブレス型のベンチャー企業の参入など、日本でも産業構造に変化の兆しがあるとし、自社製造の強みを生かしつつ外部のODMと連携する生産を今後の方向として挙げています。
製品区分別の特性
化粧品は製品区分によって、剤形、製造設備、顧客の求める開発の内容が異なります。M&Aでも、どの製品区分で何を製造できるかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。
| 製品区分 | 出荷額構成比(2025年) | 主な製品 | 受託製造での特性 |
|---|---|---|---|
| 皮膚用 | 45.2% | 化粧水、乳液、美容液、クリーム、洗顔料 | 液状・乳化品の調製と充填。2025年の品目別出荷額では美容液(1,219億円)が化粧水を抜いて1位 |
| 頭髪用 | 26.9% | シャンプー、ヘアトリートメント、整髪料 | 液状品の調製と充填。容量の大きい製品では製造釜と充填ラインの能力が供給量を決める |
| 仕上用 | 20.2% | ファンデーション、口紅、アイメイク | 粉体・油性固形の成形と色の調整。成形・充填の設備が製品の形状によって異なる |
| 特殊用途 | 7.0% | 日焼け止め等 | — |
| 香水・オーデコロン | 0.7% | 香水、オーデコロン | — |
出荷額構成比は日本化粧品工業会の資料によります。
業界再編を動かす4つの要因
- コロナ前を下回る国内出荷と輸入品との競合 — 国内出荷額は2023年以降増加しているものの、中間報告書はコロナ前の水準を下回っていると記載しています。輸出は中国向けの比重が高く、輸入では2022年以降、韓国が国別で1位です。こうしたなかで、海外メーカーからの製造ニーズへの対応を取得の目的に挙げた同業の取得が行われています(第3章事例③)。
- ブランドメーカーによる生産体制の見直し — コーセーは2017年に中国の生産子会社を日本コルマーホールディングスに譲渡する契約を結んで2019年3月期中に譲渡を完了し、譲渡後は同グループから現地ブランド品の供給を受けるとしました(第4章)。ハーバーの小諸工場は2026年に日本色材工業研究所が取得しました(第3章)。中間報告書も、外部のODMとの連携を今後の方向として挙げています。ブランドメーカーが生産拠点を手放す場合、その工場や生産子会社は受託製造会社にとって取得の対象になります。
- 生産能力の確保 — TOAは2025年3月に結城工場を稼働させて国内8工場体制とし、日本色材工業研究所は「M&Aや工場資産購入による生産能力拡大の機会を模索」していたとして小諸工場を取得しました。ベイコスメティックスは充填・包装を専門とする会社を取得して充填ラインを7ラインとしました(第3章)。新設と並んで、他社の工場や会社の取得が生産能力を確保する手段として使われています。
- 投資ファンドの関与 — カーライルは2019年にトキワと資本提携し、約5年後の2024年に、他の株主とともに日本コルマーホールディングスへ全株式を譲渡しました(第3章事例①)。この事例では、投資ファンドが非上場の受託製造会社の出資者となり、その後の譲渡では売り手となっています。ファンドの出資は、オーナー企業にとって、同業への譲渡の前に資本を受け入れる選択肢の一つになります。
2. 業界プレイヤー構図
大手の受託製造会社
| 会社 | 本社(本店) | 従業員数 | 資本関係・直近の動き |
|---|---|---|---|
| TOA(旧 日本コルマー) | 大阪市中央区 | 2,448名(2026年3月末) | 日本コルマーホールディングスの100%子会社。2024年6月に日本コルマーから社名変更。2025年3月に結城工場が稼働し国内8工場 |
| トキワ | 岐阜県中津川市(本店) | 1,017名(2026年3月末) | 2019〜2024年はカーライルが出資。2024年7月から日本コルマーホールディングスのグループ会社 |
| 東洋ビューティ | 大阪市中央区 | 921名(2025年12月) | 1941年創業。三重、栃木、佐賀に工場 |
従業員数の時点は各社の会社概要の記載によります。TOA単体の2026年3月期の売上高は696億円です。同社は1912年に大阪で創業した化粧品会社で、戦災で工場を焼失した後、受託製造に特化して再出発しました。1968年に米国のコルマーラボラトリーズ社と業務提携し、1972年に日本コルマーへ社名を変更しています。同社の沿革によると、海外では1990年に韓国で合弁会社を、1997年に中国・蘇州で、2018年に中国・杭州とベトナムで会社を設立しています。トキワと東洋ビューティは売上高を公表していません。
上場の受託製造会社
| 会社 | 本社 | 連結売上高 | 主な領域・直近の動き |
|---|---|---|---|
| 日本色材工業研究所 | 東京都港区 | 166億円(2026年2月期) | 1930年創業。東証スタンダード上場。フランスに子会社2社。2026年3月にハーバーの小諸工場を取得 |
本稿で取り上げる受託製造会社のうち、東京証券取引所に上場しているのは日本色材工業研究所です。同社の2026年2月期の連結売上高は前期比5.6%減、営業利益は1億8,000万円でした。
企業グループ傘下の受託製造会社
受託製造会社には、事業会社のグループに属する会社があります。エア・ウォーター・リアライズは、エアゾール製品と化粧品の受託製造を手がけるエア・ウォーターのグループ会社で、2023年4月にエア・ウォーター・ゾルから社名を変更し、2024年2月にはナノエッグの一般消費者向け化粧品事業を譲り受けました。コスメテックジャパン(大阪本社、岡山工場)は桃谷順天館のグループ会社で、同社の会社概要に記載されたグループ年商は182億円です。ベイコスメティックス(大阪府泉佐野市)はマーケティング支援会社の株式会社MDの100%子会社として2023年12月に設立されました。コスメサイエンス(東京都北区)は、2013年に容器メーカーのホッカンホールディングスのグループ会社となりましたが、2024年に英国上場のSilverwood Brandsの日本法人に譲渡されました(第3章)。
非上場の受託製造会社と工程専門の事業者
非上場の受託製造会社の多くは株主構成を開示しておらず、オーナー系の会社を公開情報だけで特定することは困難です。化粧品製造業の許可は4,398件(製造所の数)にのぼり、そこには包装・表示・保管のみを行う製造所の許可も含まれます。第3章の事例③で取得された合同会社sanpack(大阪府岸和田市)は、化粧品・医薬部外品の充填・包装工程を専門とし、化粧品メーカーとOEM会社の双方を顧客としていました。受託製造会社の下で特定の工程を担う事業者も、M&Aの対象になっています。
関西への集積
2025年3月末の化粧品製造業の許可件数を都道府県別に見ると、大阪府は703件で、東京都(766件)に次いで多く、大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、和歌山県、滋賀県の合計は1,116件と全国の約25%を占めます。本稿で取り上げる企業のうち、日本コルマーホールディングスとTOA、東洋ビューティ、コスメテックジャパン、ベイコスメティックス、sanpackは大阪府に本社を置き、TOAは大阪府内に八尾工場と柏原工場を持っています。
3. 国内の化粧品OEM業界M&A事例 — ファンドの出口、工場の取得、工程専門会社の取得、グループからの切り出し
事例① カーライル、日本コルマーホールディングス × トキワ(2019年・2024年)— ファンドの出資を経て国内同業が全株式を取得
トキワ(本店 岐阜県中津川市、1948年設立)は、メイクアップ製品を中心とする化粧品の研究開発・製造会社で、米国、中国(昆山)、フィリピンに子会社を持ちます。2019年3月、米国の投資会社カーライル・グループは、日本向けのバイアウト・ファンド「カーライル・ジャパン・パートナーズIII」の資金でトキワと戦略的業務資本提携を行うことに合意しました。出資比率と取得の方法は開示されていません。カーライルは、現経営陣による経営執行を支援しながら、マーケティング能力の強化と海外進出のための経営基盤の構築を進めると説明していました。
2024年6月、TOAの持株会社である日本コルマーホールディングスは、カーライルのファンドほかの株主から、トキワの親会社であるトキワ・コスメティクス・グループの全株式を株式譲渡により取得することで合意しました。取得価額は開示されていません。実行は独占禁止法に基づく許認可等の取得を条件とし、2024年7月にトキワは同グループの会社となりました。日本コルマーホールディングスは、両社が「極めて補完性が高い」こと、国内だけでなく世界の市場で競争力のある生産体制の整備を進めることを取得の目的に挙げ、トキワについては国内外で400以上の特許を持ち、特にメイクアップ分野で世界の有名ブランドに製品を供給していると説明しています。TOAとトキワは取得後も別会社として事業を続け、2025年4月には、フルラインナップの化粧品OEM/ODMとしてグループで取り組みを進めると公表しました。
これらの案件は、(i)非上場の受託製造会社に投資ファンドが出資者として入り、約5年後にはそのファンドが国内の同業への譲渡の売り手となった、(ii)受託製造会社の持株会社が同業を取得する際、両社の補完性と海外を含む生産体制の整備が取得の目的とされた、(iii)取得後も対象会社を別会社として残し、グループとして製品の品ぞろえをそろえる形がとられた、という点を示しています。
事例② 日本色材工業研究所 × ハーバー小諸工場(2025〜2026年)— ブランドメーカーの工場を受託製造会社が資産として取得
日本色材工業研究所は2025年12月、ハーバー株式会社が長野県小諸市に持つ工場の土地と建物を約6億5,000万円で取得することを決議しました。株式ではなく固定資産の取得で、2026年3月25日に引き渡しを受け、確定した取得価額は6億5,516万円、土地は4,927.82平方メートル、建物は1,424.30平方メートルでした。同社は取得の理由として、さらなる成長のためにM&Aや工場資産購入による生産能力拡大の機会を模索していたことを挙げています。2026年5月に提出した有価証券報告書では、小諸工場を充填・包装の生産拠点とし、2027年2月期の下期の稼働開始を目指して生産ラインを1ラインずつ立ち上げるとしています。
本案件は、(i)ブランドメーカーが持っていた工場を、受託製造会社が会社ではなく土地・建物として取得した、(ii)取得の目的は工程のうち充填・包装の能力の確保にあり、稼働までは取得後に段階的な立ち上げ期間を要する、という点を示しています。
事例③ ベイコスメティックス × 合同会社sanpack(2025年)— 充填・包装の専門会社の取得
ベイコスメティックス(大阪府泉佐野市)は、2025年9月30日付で、化粧品・医薬部外品の充填・包装工程を専門とする合同会社sanpack(大阪府岸和田市)の全持分を取得し、完全子会社としました。同社は、取得によりグループの充填ラインが7ライン、生産能力が月産130万本になるとし、製造釜と自動充填ラインへの投資で2026年6月までに月産200万本、年間約2,400万本の供給体制を目指すと公表しました(2025年10月の公表時点の計画)。取得の目的には、企画から製造、充填、包装までをグループ内で一貫して行う体制の強化と、海外メーカーからの製造ニーズへの対応を挙げています。sanpackの既存の顧客には化粧品メーカーとOEM会社が含まれていました。
本案件は、(i)設立から2年に満たない受託製造会社が、地域の工程専門会社を取得して生産能力を確保した、(ii)取得の対象は、OEM会社からも工程を受託していた充填・包装の専門会社であった、(iii)取引の形は、合同会社の全持分の取得であった、という点を示しています。
事例④ Sonotas(Silverwood Brands)× コスメサイエンス(2024年)— 容器メーカーグループからの切り出しを海外資本が取得
コスメサイエンス(東京都北区、1984年設立)は、化粧品の開発・受託製造を行う会社で、敏感肌向けブランド「ドクターベルツ」を展開する子会社の株式会社ドクターベルツを持ちます。2013年に容器メーカーのホッカンホールディングスの子会社・北海製罐が株式を取得し、譲渡の時点では北海製罐が全株式を保有していました。ホッカンホールディングスは2024年3月、中期経営計画の「国内事業の再編」に沿って事業ポートフォリオを見直すなかで、化粧品事業のマーケティングに強みを持つSonotasから打診を受け、Sonotasが経営権を持って成長戦略を進める方が望ましいと判断したとして、北海製罐が保有する全株式の譲渡を決めました。株式譲渡は2024年3月29日に完了しました。
Sonotas(東京都港区)は、保湿クリーム「スチームクリーム」などのブランドを持つ会社で、英国のAquis市場に上場するSilverwood Brandsの日本法人です。Silverwood Brandsの開示によると、対価は株式について名目上の1円と、コスメサイエンスがホッカンホールディングスに負っていた債務10億円の買い取りで、資金は日本での借入れで賄いました。コスメサイエンスと株式会社ドクターベルツの2023年3月期の合算の売上高は16億800万円、EBITDAは1億2,300万円でした。Silverwood Brandsは、日本市場での研究開発・製造能力を強化する一歩であり、ドクターベルツのブランドの市場拡大も見込むと説明しています。
本案件は、(i)容器メーカーのグループが、非中核となった化粧品の受託製造会社を手放した、(ii)買い手は海外上場の消費財企業の日本法人で、自社ブランドの製造能力の確保を目的とし、取引は買い手からの打診で始まった、(iii)対価は株式の名目額と、旧親会社グループ(ホッカンホールディングス)に対する債務の買い取りで構成された、という点を示しています。株式と債務の取得額の合計10億円は、同期の合算EBITDAの約8倍に当たります(債務の買い取りを含む取得額をEBITDAで割った当社計算。事例⑧の倍率とは基準が異なります)。
海外の受託製造会社の日本参入
オーナー企業の取得ではありませんが、海外の受託製造会社が日本市場に関心を示した例もあります。住友商事と住商ファーマインターナショナルは2018年2月、イタリアの化粧品ODM会社Intercosと日本で化粧品ODM事業に参入すると発表し、発表時点では共同で事業会社と研究施設を立ち上げる計画としていました。住友商事は2024年の自社の記事で、この取り組みをIntercosとの業務提携と記載しています。また、前述のとおり、日本コルマー(現TOA)は1968年に米国のコルマーラボラトリーズ社と業務提携しており、海外の受託製造会社との関係は業界の早い段階からありました。
4. クロスボーダーの化粧品OEM業界M&A事例 — 国内企業による海外での取得
国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内企業が海外でどのような受託製造会社を、どのような理由と価格水準で取得しているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業や隣接業界の投資の参照例になります。
事例⑤ 日本コルマーホールディングス × コーセーの中国生産子会社(2017〜2019年)— ブランドメーカーの海外工場を受託製造会社が取得
コーセーは2017年10月、中国・杭州の生産子会社である高絲化粧品有限公司(1988年設立)の全持分を日本コルマーホールディングスに譲渡する契約を結びました。コーセーは、経営資源を集中して販売事業に専念することが最善と判断したと説明し、譲渡後は現地ブランド品の生産供給を日本コルマーグループから受け、販売は自社の販売子会社を通じて続けるとしました。譲渡価額は開示されていません。譲渡は2019年3月期中に完了し、コーセーは関係会社株式売却益9億2,500万円を計上しました。
本案件は、(i)ブランドメーカーが海外の生産子会社を受託製造会社に譲渡し、譲渡後も譲受先のグループから製品の供給を受ける取引関係を残した、(ii)受託製造会社は、生産拠点とともに、譲渡元のブランドメーカーへの供給を得た、という点を示しています。
事例⑥ 日本色材工業研究所 × テプニエ、オルレアン・コスメティックス(2000年・2017年)— フランスの受託製造会社の段階的な取得
日本色材工業研究所は2000年2月、フランスで医薬品と化粧品の受託製造を行うテプニエ社の株式を取得しました。同社は取得の理由として、海外での販売拡大と競争力の強化を挙げています。2017年1月には、テプニエ社を通じて同じくフランスの化粧品製造会社オルレアン・コスメティックスの議決権の80%を約120万ユーロで取得し、製品領域の拡大、生産能力の増強、研究開発の強化を理由に挙げました。日本色材工業研究所の2026年2月期のフランスのセグメントの売上高は50億4,300万円でした。
これらの案件は、(i)国内の受託製造会社が欧州の受託製造会社を取得し、日本とフランスの2か国で生産する体制を作った、(ii)2件目の取得は、既存の海外子会社を通じた過半数の取得であった、という点を示しています。
事例⑦ 三井物産 × Dermaceutical Laboratories(2023年)— 総合商社による米国の受託製造会社の取得
三井物産は2023年8月、米国ニュージャージー州のDermaceutical Laboratories(D-LAB、2001年設立、従業員84名)の全株式を取得することで合意したと発表しました。D-LABは米国内外のブランドオーナー向けに、スキンケア、カラーコスメ、一般用医薬品の開発・製造を受託するODM事業者です。三井物産は、米国のスキンケア市場の成長と、ミレニアル世代・Z世代の購買力の増加を背景に新興ブランドを含めてODM事業者へのニーズが高まっていることを挙げ、D-LABを米州の美容・パーソナルケア事業の中核と位置づけたうえで、日本のコンセプトや機能性素材、同社の素材調達力を生かす方針を示しました。取得価額は開示されていません。
本案件は、(i)素材の調達力を持つ総合商社が受託製造会社を取得し、自社の素材や日本の技術の提案に生かす方針を示した、(ii)取得の理由として、新興ブランドを含むODM事業者へのニーズの高まりという顧客側の変化を挙げた、という点を示しています。
事例⑧ 東洋製罐グループホールディングス × Premier Centre Group(2024年)— 容器メーカーによるマレーシアの受託充填会社の取得
東洋製罐グループホールディングスは2024年2月、マレーシアでホームケア製品やパーソナルケア製品の受託充填(OEM・ODM)を行うPremier Centre Group(1972年設立)の全株式を、7,500万米ドル(約110億6,600万円、価格調整あり)で取得する契約を結び、2024年8月に取得を完了しました。売主はマレーシアの持株会社です。対象会社の2022年12月期の売上高は3億2,471万リンギット(約101億円)、営業利益は3,806万リンギット(約11億9,000万円)でした。同社は取得の理由として、アジアでの充填事業の拡大、マレーシアの人口増加を背景とする市場の成長、自社の容器の製造・開発技術と対象会社の内容物の調液・充填技術の組み合わせを挙げています。
本案件は、(i)容器メーカーが、容器の供給先の工程である調液・充填の受託会社を取得した、(ii)取得価額は、開示された2022年12月期の売上高の約1.1倍、営業利益の約9.3倍であった(株式の取得価額を各数値で割った当社計算。純有利子負債を含まないため、企業価値ベースの倍率とは異なります)、という点を示しています。事例④のホッカンホールディングスが国内の受託製造会社を手放したのに対し、本案件は同じ容器業界の会社が海外で受託充填会社を取得した例です。
5. 化粧品OEM業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素
化粧品OEMのM&Aでは、財務数値に加えて、受託製造に固有の要素が確認されます。事例の買い手・売り手が公表した理由と方針、および制度上の要件をもとに、製品・処方技術、顧客・取引関係、生産体制・許可の3つに整理します。
- 製品・処方技術 — どの製品区分(皮膚用、頭髪用、仕上用等)に対応し、どのような処方・加工の技術を持つか。事例①の買い手は両社の補完性を取得の目的に挙げ、対象会社の特許とメイクアップ分野での供給実績を説明しました。事例⑥の買い手は製品領域の拡大を、事例⑧の買い手は内容物の調液・充填技術を挙げています。
- 顧客・取引関係 — 顧客の構成と、取引が譲渡後も続くかどうか。事例⑤では、譲渡後もブランドメーカーが譲受先のグループから供給を受ける関係が残りました。事例③の対象会社は化粧品メーカーとOEM会社の双方を顧客としており、事例⑦の買い手は新興ブランドからの受託需要を取得の理由に挙げました。事例④の対象会社は自社ブランドも持っていました。
- 生産体制・許可 — 工場・ラインの能力と立地、製造所ごとの許可、輸出先の規制への対応です。事例②では工場の土地・建物が、事例③では充填ラインの能力が取得の目的でした。事例⑥の買い手は日本とフランスで生産できる体制を作りました。規制の面では、米国の化粧品規制近代化法(MoCRA、2022年成立)により、米国で流通する化粧品を製造・加工する施設は、国外の施設を含めて米国食品医薬品局(FDA)への登録が必要です。中国の化粧品監督管理条例(2021年1月施行)やEUの化粧品規則に基づく登録・届出は主にブランド側の義務ですが、米国向けの製品を受託する製造所では、施設の登録が顧客との取引の前提になります。
6. 化粧品OEM業界の買い手の類型
本稿の国内の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の目的と、取得後の対象会社との関係が異なります。
- 国内の受託製造会社とその持株会社 — 日本コルマーホールディングス(事例①)、日本色材工業研究所(事例②)、ベイコスメティックス(事例③)。両社の補完性、生産能力の確保、工程の一貫化を取得の目的に挙げています。会社の取得のほか、工場の資産だけを取得する例(事例②)もあります。
- 投資ファンド — カーライル(事例①の前段)。出資時には経営陣による経営の継続を支援するとし、約5年後に国内の同業へ全株式を譲渡しました。ファンドは買い手であると同時に、その後の売り手にもなります。
- 海外の消費財企業 — Silverwood Brandsの日本法人Sonotas(事例④)。自社ブランドの製造能力の確保を目的とし、売主のグループに買い手側から打診しました。
このほか、総合商社(事例⑦)と容器メーカー(事例⑧)は海外で受託製造会社を取得しています。容器メーカーには、北海製罐が2013年に国内でコスメサイエンスを取得し、2024年に手放した例があります(事例④)。総合商社が国内の受託製造会社を取得した公表事例は、本稿の調査の範囲では確認できませんでしたが、住友商事は国内で海外のODM会社と提携しています。ブランドメーカーは、事例②と事例⑤では工場や生産子会社の売り手として登場しています。
7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆
本稿の事例から、化粧品の受託製造会社の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。
① 対象先の所在
事例の対象先は、投資ファンドが出資していた非上場の受託製造会社(事例①のトキワ)、ブランドメーカーの工場と海外の生産子会社(事例②のハーバー小諸工場、事例⑤のコーセーの中国生産子会社)、地域の充填・包装の専門会社(事例③のsanpack)、容器メーカーのグループ傘下の受託製造会社(事例④のコスメサイエンス)でした。売り手は、投資ファンドとその他の株主、ブランドメーカー、容器メーカーのグループで、買い手は国内の受託製造会社とその持株会社(事例①②③⑤)と、海外上場の消費財企業の日本法人(事例④)です。
このほか、エア・ウォーター、桃谷順天館、マーケティング支援会社のMDのように、事業会社のグループに属する受託製造会社もあります(第2章)。化粧品製造業の許可件数(製造所の数)では、大阪府が703件で東京都に次ぎ、関西の2府4県で全国の約25%を占めます(第2章)。
非上場の受託製造会社の多くは株主構成を開示しておらず、オーナー系の会社を公開情報だけで特定することは困難です(第2章)。事例④の取引は買い手から売り手のグループへの打診で始まっており、対象先の取得には、親会社やオーナーへの直接の打診が必要になります。
② 取引の形
事例の取引の形は、何を取得するか、対価をどう構成するか、取得の前後にどのような関係を置くか、の3点で異なります。
取得の対象には、株式の全部(事例①の後段、事例④⑦⑧)、合同会社の全持分(事例③)、工場の土地・建物(事例②。確定した取得価額は6億5,516万円)、海外の生産子会社の全持分(事例⑤)、既存の海外子会社を通じた議決権の80%(事例⑥)があります。対価の構成では、株式の名目額1円と、旧親会社グループに対する債務10億円の買い取りを組み合わせた例があり、取得額の合計は同期の合算EBITDAの約8倍に当たります(事例④。当社計算)。海外の事例⑧では、株式の取得価額が売上高の約1.1倍、営業利益の約9.3倍でした(当社計算)。
取得の前後の関係には、投資ファンドの出資を受けた後に国内の同業へ全株式を譲渡し、取得後も別会社として事業を続ける形(事例①)、譲渡後も譲渡元のブランドメーカーが譲受先のグループから製品の供給を受ける形(事例⑤)があります。投資ファンドにとっては、事例①が、出資から約5年後に国内の同業の持株会社へ譲渡した出口の参照例になります。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。
③ 売り手が重視する点
ホッカンホールディングスは、中期経営計画の「国内事業の再編」に沿って事業ポートフォリオを見直すなかで、Sonotasから打診を受け、Sonotasが経営権を持って成長戦略を進める方が望ましいと判断して、コスメサイエンスの全株式の譲渡を決めたとしています(事例④)。コーセーは、経営資源を集中して販売事業に専念することが最善と判断したと説明し、譲渡後も日本コルマーグループから現地ブランド品の供給を受けるとしました(事例⑤)。投資ファンドのカーライルは、出資の時点で、現経営陣による経営執行を支援すると説明しており、同業への譲渡の後も、トキワは別会社として事業を続けています(事例①)。
これらの説明からは、事例の売り手が、価格に加えて、譲渡後に対象会社の成長を担う買い手であるかどうかや、譲渡後の自社との供給関係を、譲渡の判断の要素としていたことがうかがえます。
8. 化粧品OEMのオーナー・親会社が検討すべき論点
売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。
① 買い手候補の範囲
国内では、受託製造会社とその持株会社による同業の取得(事例①③)や工場の取得(事例②)に加え、投資ファンド(事例①の前段)や海外の消費財企業(事例④)が買い手となっています。海外では、総合商社や容器メーカーが受託製造会社を取得しています(事例⑦⑧)。総合商社が国内の受託製造会社を取得した公表事例は本稿の調査の範囲では確認できませんでしたが、住友商事は国内で海外のODM会社と提携しています(第3章)。工場や生産子会社を手放すブランドメーカーの側では、受託製造会社が譲渡先となった例があります(事例②⑤)。買い手候補は、これらの先の中から、自社の製品区分・顧客・工程と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。
② 自社の資産の整理
第5章の3つの要素(製品・処方技術、顧客・取引関係、生産体制・許可)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例②のように工場そのものが取得の対象になる場合や、事例③のように特定の工程の能力が取得の目的になる場合もあるため、製品と顧客に加えて、工程と設備、製造所ごとの許可を含めて整理しておくことが必要です。
③ 取引の形と時期
第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員や顧客との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。時期の面では、事例①ではファンドの出資から同業への譲渡まで約5年を要し、同業への譲渡は独占禁止法上の許認可の取得を実行の条件としていました。事例②では工場の取得決議から稼働開始の目標(2027年2月期の下期)まで1年前後の期間が置かれ、事例⑤では契約の時点で、譲渡の完了時期は当局の承認次第で未定とされていました。許認可や設備の立ち上げの期間を見込んで計画を立てるとともに、事業の継続に直結する顧客との取引関係と製造所の許可を含めて、選択肢を整理しておくことが必要です。
9. Syntax Partnersができること
Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。化粧品OEM業界を含め、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。
買い手側の支援
国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。化粧品OEM業界では、株主構成を開示していない非上場の受託製造会社や、事業会社のグループに属する受託製造会社が対象となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。
売り手側の支援
売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、投資ファンド、隣接業界の事業会社に加えて、海外の消費財企業などの戦略買い手も対象とします。
- 買い手候補の探索:国内の受託製造会社、投資ファンド、商社・容器などの隣接業界、海外の戦略買い手まで、貴社の製品区分・顧客・工程と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
- 業界理解に基づく取引支援:製品区分ごとの処方・設備、顧客との取引関係、製造所ごとの許可や輸出先の規制への対応など、化粧品OEM業界に固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
- オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、顧客との取引の継続、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。
事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
本稿は、各社の公式発表・IR資料、官公庁・業界団体の統計等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。