ペットフード・ペット用品業界M&Aの最新動向と事例 :大手グループからの事業移管と海外での買収

ペットフード・ペット用品業界M&A

(2026年10月更新)

国内のペットフードの出荷量は4年続けて前年を下回り、出荷金額の伸びも2025年度には0.6%にとどまりました。2019年以降のペットフード・ペット用品業界M&Aを見ると、国内では、日清製粉グループやフィード・ワンが自社のペットフード事業をペットフード専業に譲渡し、紙製猫砂の大貴はファンドから大王製紙へ引き継がれました。いなば食品は原料メーカーの焼津水産化学工業を公開買付けで取得しています。海外では、2026年にユニ・チャームがブラジルのNutrireの全持分の取得を、Umios(旧マルハニチロ)がマレーシアのPet World Internationalの51%の取得を公表しました。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されているペットフード・ペット用品メーカーのオーナー・親会社の皆様を念頭に、ペットフード・ペット用品業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例と海外資本の参入、国内企業による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. ペットフード・ペット用品業界の市場構造 — 数量の減少と再編の要因

市場規模

ペットフード協会の「ペットフード産業実態調査」によると、2025年度(2025年4月〜2026年3月)のペットフードの出荷金額は4,620億4,300万円(前年度比100.6%)、出荷量は56万6,621トン(同99.8%)でした(ペットフード協会 2025年度ペットフード産業実態調査の結果)。出荷金額は10年連続の増加ですが、2024年度の105.6%、2023年度の112.2%から伸びが大きく鈍りました。出荷量は4年連続の減少で、2021年度の59万4,467トンから約5%減っています。

用途別では、2025年度の出荷金額のうち猫用が2,630億円、犬用が1,867億円で、猫用が犬用を上回っています。犬用の出荷量は10年続けて減少しました。飼育頭数では、同協会の推計で、犬は2021年の710.6万頭から2025年の682.0万頭に減り、猫は2021年の894.6万頭に対し2025年は884.7万頭でした(ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」)。

国産品と輸入品

2025年度の出荷金額のうち、国内生産品は2,205億8,800万円、輸入品は2,414億5,600万円で、輸入品が過半(52.3%)を占めます。出荷量では国内生産品が32万5,813トン(前年度比102.2%)、輸入品が24万808トン(同96.7%)でした。輸入量の上位は、タイ、米国、韓国の順です(ペットフード協会 2025年度ペットフード産業実態調査(集計表))。

製品・流通の区分別の特性

ペットフード・ペット用品は、製品と流通の区分によって、生産の方法、販売の経路、求められる管理が異なります。M&Aでも、どの分野で何を持っているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。

区分主な製品・業態事業上の特性
ドライフード総合栄養食、年齢・体格別の製品2025年度に犬用の出荷金額の54%、猫用の46%を占める。押出成形などの専用設備で大量に生産
ウェットフード・おやつ缶詰、レトルトパウチ、ゼリー、ジャーキー猫用では2025年度の出荷金額の47%がウェット(おやつは別の区分で集計)。缶詰・レトルトなど食品と共通する設備・技術を使う
療法食動物病院で扱う食事療法用の製品動物病院を経由する販路が中心。事例①ではペットラインが動物病院向け製品の販売事業を別途譲り受けている
ペット用品猫砂、トイレシーツ、玩具、犬具、ケア用品製紙・衛生用品・樹脂成形など隣接業界の技術と設備を使う。紙製猫砂では再生原料の利用が事業の基盤(事例③)
流通・小売卸、ペット専門店、ホームセンター、EC国内卸、専門店、量販店、ECで取引先と販売方法が異なる

ドライ・ウェットの構成比はペットフード協会の2025年度調査によります。

業界再編を動かす5つの要因

  1. 国内の数量の減少 — 出荷量は4年連続で減り、犬用は10年続けて減少しました。金額は伸びてきましたが、2025年度の伸びは0.6%にとどまりました。数量が伸びない国内市場で売上を伸ばすには、製品の領域を広げるか、海外に出るかが問われます。2026年に海外での取得を公表したユニ・チャームとUmiosは、いずれも取得の理由に、ブラジル・アジアのペットケア・ペットフード市場の成長を挙げています(第4章)。
  2. 輸入品の比重と生産の場所 — 出荷金額の過半を輸入品が占め、輸入量はタイが最も多くなっています。国内大手も海外の生産拠点を持ち、いなば食品グループは中国とタイに生産拠点を置いています(事例④)。海外での取得でも、ユニ・チャームはブラジルの生産基盤と中南米への輸出網を(事例⑨)、Umiosはマレーシアのドライフードの生産を(事例⑩)取り込んでいます。どこで生産するかの選択が、生産拠点を持つ会社の取得につながっています。
  3. ペットフード安全法による品質管理 — 2007年に米国で起きたペットフードの汚染を機に、ペットフード安全法(愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)が2008年に制定され、2009年6月1日に施行されました。製造業者・輸入業者は事業開始前に地方農政局等へ届け出、製造業者・輸入業者・販売業者(小売を除く)は帳簿を2年間保存し、成分規格・製造方法・表示の基準を守る必要があります。農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の立入検査は事前の通告なしに行われ、収去した製品の検査で違反があれば事業者名とともに公表されます(農林水産省「ペットフード安全法」、同「ペットフード安全法 届出や帳簿に関するマニュアル」)。この制度は許可制ではなく届出制で、事業を承継した場合にも30日以内の届出が求められます。製造・輸入を続けるには届出・帳簿・基準遵守の体制が前提となるため、M&Aでは、承継時の届出と、帳簿・品質管理の体制が確認の対象になります。
  4. 販売経路の多様化 — 2026年4月に東証グロース市場に上場した犬猫生活は、上場時の有価証券報告書によると、2025年4月期の売上高の97.9%をECで得ており、自社ECの注文の約95%が定期購入です。ユニ・チャームも国内でTikTok Shopの開設など従来の販路以外への展開を進めています。一方、ホームセンターを運営するアークランズは2025年、ペット販売・動物病院のペッツファーストホールディングスを取得しました(事例⑥)。販路を持つ会社は、異業種のメーカー(事例⑤)と小売(事例⑥)の双方から取得の対象になっています。
  5. 大手グループの事業の見直しと事業承継 — 日清製粉グループ本社とフィード・ワンは、それぞれのペットフード事業をペットフード専業に譲渡しました(事例①②)。オーナー企業の側でも、ザ・ペット(事例⑤)、ペッツファーストホールディングス(事例⑥)のように、個人が全株式を保有していた会社が上場企業に譲渡されています(いずれも開示資料に譲渡の動機の記載はありません)。全業種を対象とした統計では、中小企業庁が、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを試算していました(中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」)。経営者の高齢化と後継者の不在は、ペットフード・ペット用品業界のオーナー企業にとっても、資本の選択を検討する背景となります。

2. 業界プレイヤー構図

上場企業のペット関連事業

会社本社売上高ペット関連事業・直近の動き
ユニ・チャーム東京都港区(登記上の本店は愛媛県四国中央市)連結9,452億円、うちペットケア1,560億円(2025年12月期)1986年にペットケア事業を開始。第13次中期経営計画(2026〜2030年)でペットケアの売上構成比を約17%から20%に高める目標。2026年にブラジルのNutrireの取得を公表
アサヒペン大阪市鶴見区連結168億円、うちペット用品34億円(2026年3月期)塗料・DIY用品のメーカー。2022年に取得したザ・ペットがペットフード・用品を販売
犬猫生活東京都新宿区44億円(2026年4月期、単体)ペットフードを中心とするD2C。2026年4月に東証グロース市場に上場。製品は委託先が製造

ユニ・チャームのペットケア事業のセグメント利益(コア営業利益)は、2025年12月期に240億円(前期比6.9%減)でした。同社は第13次中期経営計画で、全社で5年間に1,500〜1,600億円をM&Aの待機資金として確保するとしています。

このほか、Umios(旧マルハニチロ。2026年3月に商号変更)はグループのアイシアがキャットフードを、大王製紙は2022年に取得した大貴が紙製猫砂を手がけています。

大手グループ傘下のペットフード会社

  • ペットライン(本店:岐阜県多治見市、本社:横浜市西区) — 2019年の発表時点で、三菱商事の100%子会社である日本農産工業の100%子会社。「メディファス」などに加え、2020年に日清製粉グループから「懐石」「プッチーヌ」などのブランドを譲り受けました(事例①)。
  • アイシア(東京都港区) — 1970年に大洋漁業(現Umios)と米国のラルストン・ピュリナの合弁で発足し、1990年に合弁を解消して大洋漁業の100%出資の会社となりました(事例⑦)。「黒缶」「金缶」「MiawMiaw」などのキャットフードを展開しています。
  • 大貴(東京都港区) — 栃木県真岡市と香川県に工場を持つ紙製猫砂のメーカーで、2022年に大王製紙が全株式を取得しました(事例③)。
  • いなばペットフード — いなば食品グループの中核のペットフード会社で、「CIAOちゅ~る」などを販売しています。いなば食品グループは、2024年の公開買付けの開示によると、子会社27社、2022年度の連結売上高1,088億円の規模でした(事例④)。

オーナー系の非上場企業

非上場のペットフード・ペット用品メーカーには、創業家が経営するオーナー系の企業が多くあります。ドギーマンハヤシやマルカンは、自ら他社を取得する側にも立っています。

  • ドギーマンハヤシ(大阪市東成区) — 1963年創業。2024年3月期の連結売上高は255億6,000万円で、国内卸商社約300社、海外取引先約60社に販売しています。中国、ベトナム、バングラデシュなどに拠点を持ち、2008年にトーアコマース、2024年に高畑食品(三重県いなべ市)の全株式を取得しました。関連会社には、専門店向けの事業を担うペッツルート(大阪府八尾市)があります。
  • マルカン(大阪市淀川区) — 1970年に大阪のペットショップの昆虫販売部門から独立して創業。2005年にニッソーを子会社化して2007年に吸収合併、2008年にサンライズを子会社化して2010年に吸収合併し、2014年にはイッコー産業を吸収合併しました。2011年に鳥取県に新工場を開設しています。
  • ペティオ(東京都港区・大阪市淀川区) — 1973年創業のヤマヒサのペット事業部(1986年発足、2006年にペットケア事業部に改称)を前身とし、2016年10月にヤマヒサのペットケア事業部から分割・独立しました。兵庫県姫路市の工場でおやつの一部を自社生産しています。同事業部は2007年に静岡県浜松市の猫砂工場を継承し、工場を運営する会社は2015年に三ヶ日ガーデンに社名を変えています。
  • ジェックス(大阪府東大阪市) — 1977年創業。観賞魚用品から始まり、小動物用品、2009年に犬猫用品へと領域を広げました。インドネシアに生産子会社を持っています。

関西への集積

本稿で取り上げる企業のうち、ドギーマンハヤシ(大阪市東成区)、マルカン(大阪市淀川区)、ペティオ(大阪本社:大阪市淀川区)、ジェックス(東大阪市)、アサヒペン(大阪市鶴見区)とその子会社のザ・ペット(茨木市)、ドギーマンハヤシの関連会社のペッツルート(八尾市)は、いずれも大阪府に本社を置いています。


3. 国内のペットフード・ペット用品業界M&A事例 — 大手グループからの事業移管、ファンドの出口、非公開化、オーナー企業の譲渡

事例① 日清製粉グループ本社 × ペットライン(2019年発表)— 食品大手のペットフード事業をペットフード専業が承継

日清製粉グループ本社は2019年12月、100%子会社の日清ペットフード(2019年3月期の売上高135億2,000万円)の事業をペットラインに譲渡すると発表しました。日清ペットフードの販売事業等を吸収分割で新会社に承継させ、その新会社の全株式をペットラインに譲渡する方式で、譲渡の実行は2020年3月31日の予定とされました。製造は、円滑な製品供給のため当面は日清ペットフードが続け、その後ペットラインに引き継ぐとしています。日清製粉グループ本社は、ブランドやノウハウ等の価値が承継され、ペットフード業界の発展、拡大に資すると判断したと説明し、高付加価値の製品として「懐石」「プッチーヌ」「和の究み JPスタイル」「JPダイエティクス」を挙げています。ペットラインは、今後の成長のために強力な商品ラインナップを拡充することが必要と考えていたと説明しています。ペットラインは現在、これらのブランドを自社の製品として販売しています(同社サイト、2026年10月閲覧)。

ペットラインは同じ時期に、親会社の日本農産工業から、動物病院向けの療法食「Dr’s Diet」「Dr’s Care」の販売事業も2020年4月1日付で譲り受けました。ペットラインはこれらの製品を発売当初から製造していました。

本案件は、(i)食品大手が、ブランドを持つペットフード事業を、商社グループに属するペットフード専業に移した、(ii)販売事業を会社分割で切り出して株式を譲渡し、製造は一定期間売り手に残してから移す、段階的な方式をとった、(iii)買い手の取得の目的が、ブランドによる品ぞろえの拡充にあった、という点を示しています。

事例② フィード・ワン × 日本ペットフード(2020年発表)— 飼料会社のペットフード事業を、取引のある専業へ譲渡

配合飼料大手のフィード・ワンは2020年11月、小動物・観賞鶏用飼料と、動物園・動物病院向けの飼料を対象とするペットフード事業を、日本ペットフード(東京都品川区、1963年設立)に事業譲渡すると発表しました。譲渡日は2021年3月31日の予定で、価格は開示されていません。両社の間に資本関係・人的関係はなく、日本ペットフードがフィード・ワンからペットフードの半製品の製造を受託する取引関係がありました。フィード・ワンは、業界再編を含めペットフード市場は厳しい環境が続くと見込み、犬猫用や観賞魚用等を手がける日本ペットフードの事業と補完関係にあることを理由に挙げ、事業ポートフォリオの最適化につながると説明しています。日本ペットフードの沿革には、2021年4月1日付で同社から小動物向けペットフード事業を譲り受けたと記載されています。

本案件は、(i)事例①と同じく、ペットフードを主業としない大手が、その事業を専業に移した、(ii)買い手が、売り手の製品の製造を受託していた取引先であり、既存の取引関係が事業の譲渡に先行した、(iii)株式ではなく事業譲渡の方式で、特定の製品分野だけを移した、という点を示しています。

事例③ 丸の内キャピタル・大王製紙 × 大貴(2018年・2022年)— ファンドの出口を隣接業界の事業会社が引き受け

紙製猫砂の大貴は、2018年7月、丸の内キャピタルの第二号ファンドが100%出資する特別目的会社を通じて全株式を取得されました。丸の内キャピタルは投資の理由として、猫の飼育世帯の増加と1頭あたりの支出の増加、衛生志向による紙製猫砂の需要の増加、消臭性と利便性を両立した製品の安定供給、規格外の紙おむつ・衛生用紙・壁紙の生産ロスを原料に再利用する点を挙げています。

大王製紙は2022年8月、このファンドから大貴の全株式(5,011,270株)を約74億円で取得すると発表しました。大貴は、主に国内大手ペット用品メーカーへのOEM供給を通じて紙製猫砂の市場の約40%を供給しており、2022年4月期の売上高は27億1,300万円、営業利益は1億5,200万円、純資産は40億3,700万円でした。譲渡の実行は2022年10月3日の予定とされ、2023年3月期第3四半期から連結するとしていました。大王製紙は取得の理由として、自社の生産ロスを猫砂の原料に転用することで、グループ内でマテリアルリサイクルのモデルを確立できること、ホーム&パーソナルケア事業を強化できることを挙げています。

本案件は、(i)ファンドが4年余り保有した後、事業会社に売却した、(ii)最終的な買い手は、同業のペット用品メーカーではなく、原料と製造技術に共通点を持つ製紙会社であった、(iii)買い手が取得の理由に挙げたのは、対象会社の市場での地位に加えて、自社の生産ロスを原料として使えることであった、という点を示しています。

事例④ いなば食品 × 焼津水産化学工業(2024年)— ペットフード大手による原料メーカーの取得

いなば食品は2024年2月、100%子会社のジャンプライフを通じて、東証スタンダード市場に上場する焼津水産化学工業(静岡県焼津市、1959年創業)に対する公開買付けを発表しました。条件は当初の1株1,350円から1,438円に引き上げられ、2024年3月に議決権の87.86%を取得しました。その後の株式併合を経て、焼津水産化学工業は2024年6月6日に上場廃止となりました。焼津水産化学工業は、みずほ証券を財務アドバイザーとして入札の手続きを行い、事業会社29社とファンド9社に打診しました。関心を示したのは事業会社1社とファンド2社で、特別委員会は、株式価値が最も高く、具体的なシナジーを示したいなばの提案を選んでいます。

いなば食品は取得の目的として、N-アセチルグルコサミンやキトサンなど焼津水産化学工業の機能性素材を、ペットフード事業向けに安定して調達し、共同で製品を開発すること、約75か国の販売網と中国・タイの生産拠点を使って焼津水産化学工業の海外での販売・生産を支援すること等を挙げています。焼津水産化学工業は、国内市場の縮小、水産原料の減少、原材料・エネルギー価格の上昇を背景に、非公開化によって工場・製品開発・海外展開への投資を優先できることを賛同の理由としました。いなば食品はその後も、2025年11月に静岡市清水区の駒越食品(1958年創業)の51%を取得するなど、食品の製造会社をグループに加えています。

本案件は、(i)ペットフード大手が、ペットフードの原料となる機能性素材のメーカーを取得し、調達を内部に取り込んだ、(ii)対象会社が入札の手続きを行い、ファンドを含む候補の中から、価格とシナジーの具体性により事業会社の提案が選ばれた、(iii)買い手が、自社の海外販売網と生産拠点を対象会社の成長に使うことを示した、という点を示しています。

事例⑤ アサヒペン × ザ・ペット(2022年)— 個人株主の卸会社を、異業種の上場企業が取得

ザ・ペット(大阪府茨木市、1984年設立)は、ペットフード・ペット用品の総合卸で、2021年5月期の売上高は38億700万円、営業利益は1億7,600万円でした。塗料・DIY用品メーカーのアサヒペンは2022年4月、個人株主から同社の議決権の100%を取得しました。価格は売主との秘密保持契約により開示されていません。アサヒペンは、中期経営計画で既存の枠組みにとらわれない新規事業の拡大を掲げ、ザ・ペットのペット専門店向けの販路と自社のノウハウ・ネットワーク・インフラを組み合わせて、新たな事業の柱とすることを取得の理由に挙げています。

取得後、アサヒペンはペット用品を報告セグメントの一つとして開示しています。2026年3月期のペット用品事業の売上高は33億7,600万円(前期比22.8%減)、セグメント利益は約5,400万円(同58.0%減)で、同社は、好調だった前期からの販売先の変化を減収の要因としています。

本案件は、(i)個人が全株式を保有するペット用品の卸会社の買い手が、同業ではなく、塗料・DIY用品という異業種の上場企業であった、(ii)買い手が評価したのは、ペット専門店向けという自社にない販路であった、(iii)本件では、取得後の業績が販売先の変化に左右されている、という点を示しています。

事例⑥ アークランズ × ペッツファーストホールディングス(2025年)— 経営者が全株式を持つペット小売グループをホームセンターが取得

ホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」などを運営するアークランズは2025年2月、ペットの販売、販売後のサポート、動物病院の運営を行うペッツファーストホールディングス(東京都目黒区)の全株式を、同社の代表者から取得する契約を結びました。ペッツファーストグループはペットショップと動物病院など約104拠点を持ち、2024年2月期の売上高は147億4,900万円、営業利益は11億2,300万円でした。価格は売主の意向により開示されていません。株式の譲渡は2025年6月6日に完了しています。アークランズは、商品構成と事業基盤の強化、コストの削減、自社のホームセンター網とペッツファーストのペット販売・サプライチェーンのノウハウの組み合わせを理由に挙げ、ホームセンター内への出店、割賦販売や少額短期保険などの金融サービス、トリミング・ペットホテル施設の共有を計画しています。

本案件はペットフード・ペット用品のメーカーではなく小売の事例ですが、(i)経営者が全株式を保有するペット関連の会社の買い手が、ペット用品の売場を持つホームセンターであった、(ii)買い手が、ペットの販売、販売後のサポート、動物病院という顧客接点を一度に取得し、取得後に金融サービスや店舗の共同展開を計画した、という点を示しています。

事例⑦ ラルストン・ピュリナ × 大洋漁業(1970年)— 海外企業との合弁による参入(Out-In)と、その解消

アイシアの沿革によると、同社は1970年、大洋漁業(現Umios)と米国のラルストン・ピュリナの合弁会社「ピュリナ大洋ペットフッド」として設立されました。1977年に発売した缶詰の「ピュリナキャットフード」が、現在の「黒缶」の始まりです。1990年に合弁を解消し、大洋漁業の100%出資の会社となりました。

本案件は、(i)海外のペットフード大手が、日本の水産会社との合弁で国内市場に参入した、(ii)合弁の解消後は、日本側の株主が事業とブランドを引き継いだ、という点を示しています。

本稿の調査の範囲では、海外企業が国内のペットフード・ペット用品メーカーを取得した近年の公表事例は確認できませんでした。隣接する分野では、仏Virbacが2024年にオリックスから動物用医薬品のサスエイを企業価値約2.8億ユーロで取得し、2026年5月には三井物産が物産アニマルヘルスの株式の60%を仏Cevaに譲渡して合弁会社とすることを発表しています。動物病院では、消費者分野に特化した投資会社L Cattertonのアジア部門が2023年、後継者のいない動物病院を引き継ぐWithmalに出資しました(詳細は関連リンクの動物病院業界の記事をご参照ください)。


4. クロスボーダーのペットフード・ペット用品業界M&A事例 — 国内企業による海外での買収

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内大手がどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業大手の投資の形の参照例になります。

事例⑧ ユニ・チャーム × The Hartz Mountain Corporation(2011年)— 商社が保有する米国のペット用品会社に過半出資

米国のHartzは、2004年に住友商事が買収したペット用品の会社です。ユニ・チャームは2011年12月、Hartzの株式の51%を取得しました。ユニ・チャームの2025年12月期の有価証券報告書でも、Hartzは議決権の51.0%を保有するペットケア事業の連結子会社です。ユニ・チャームは2025年12月期の決算短信で、北米のペットケア事業は日本の技術を使った新しいコンセプトの猫用ウェットフードやECチャネル向けの製品で大きく伸長したと説明しています。

本案件は、(i)国内のペットケア大手が、商社の保有する米国のペット用品会社に、全株式ではなく過半の出資で参画した、(ii)取得後、日本で培った製品の技術を海外の子会社の製品に使っている、という点を示しています。

事例⑨ ユニ・チャーム × Nutrire(2026年)— 創業者らが保有するブラジルのペットフードメーカーの全持分を取得

ユニ・チャームは2026年5月、ブラジルの100%子会社を通じて、同国リオグランデ・ド・スル州のペットフードメーカーNutrire(2001年設立)の全持分を、創業者を含む2名の個人から取得する契約を結びました。Nutrireは原料の選定から製造・販売までを手がけ、中南米の近隣国を中心に輸出網を持ちます。2025年12月期の売上高は4億1,600万レアル、純利益は3,900万レアルです。価格は相手先の意向により開示されていません。持分の譲渡は2026年9月の予定とされました。完了の開示は確認できていませんが、ユニ・チャームの関係会社一覧(2026年10月閲覧)にはNutrireがペットケア事業の会社として掲載されています。

ユニ・チャームは取得の目的を、ブラジル市場への本格参入と中長期的な事業基盤の構築としています。同社は、ブラジルのペットケア市場は世界第3位の規模で、年率10%を超える成長が見込まれると説明し、Nutrireの生産基盤と自社のマーケティング・商品開発力を組み合わせて、ブラジルと中南米で事業を広げるとしています。同社は中国でも、2022年にペット用品のJIA PETSと資本提携しています。

本案件は、(i)国内のペットケア大手が、新しい国への参入にあたり、現地の生産と輸出網を持つ創業家の会社を全持分の取得で取り込んだ、(ii)買い手が、対象会社の生産基盤に自社のマーケティングと商品開発を組み合わせる役割分担を示した、という点を示しています。

事例⑩ Umios × Pet World International(2026年)— 水産大手がマレーシアのペットフードメーカーに51%出資

Umiosは2026年6月、マレーシアのセランゴール州に本社を置くPet World International(PWI)の株式の51%を、新設する持株会社を通じて約114億円で取得すると発表しました。売り手は、PWIの51%を保有していたWah Kong Corporationです。Umiosの開示(NielsenIQのデータによる)では、PWIはマレーシアの犬猫用フード市場でシェア2位で、ドライフードを強みとしています。2025年9月期の連結売上高は123億7,700万円、営業利益は11億8,600万円でした。株式の取得は2026年9月の予定とされました。

Umiosは、ペットフード事業を中核事業の一つと位置づけたうえで、ウェットフード中心の自社の製品群にPWIのドライフードを加えること、自社の水産原料をペットフードまで一貫して使うバリューチェーンを作ること、アジアでの展開を加速することを目的に挙げています。同社はペットフード事業で、2028年3月期に営業利益約100億円、ROIC約18%を見込むとしています。

本案件は、(i)水産大手が、ペットフード事業を中核事業の一つと位置づけ、海外のメーカーの過半を取得した、(ii)取得の狙いが、ウェットとドライの製品の補完と、水産原料の調達とのつながりにある、(iii)全株式ではなく51%の取得とした、という点を示しています。


5. ペットフード・ペット用品業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

ペットフード・ペット用品業界M&Aでは、財務数値に加えて、業界に固有の要素が確認されます。事例の当事者が公表した取得・譲渡の理由と、第1章の制度をもとに、製品・ブランド、販売、生産・調達の3つに整理します。

  1. 製品・ブランド — どの製品分野(ドライ、ウェット、おやつ、療法食、用品)で、どのブランドを持っているかです。事例①では、売り手が「懐石」「プッチーヌ」などのブランドを挙げ、買い手は品ぞろえの拡充を目的としていました。事例⑩の買い手は、ウェット中心の製品群へのドライの追加を目的に挙げています。療法食のように動物病院を経由する製品では、ブランドとあわせて販路が確認の対象になります(事例①のDr’s Diet等の販売事業の譲受)。
  2. 販売 — 国内卸、ペット専門店、量販店・ホームセンター、動物病院、ECのどこに、どの取引先を通じて販売しているか、取引先の集中度はどうかです。事例⑤の買い手はペット専門店向けの販路を目的とし、取得後の業績は販売先の変化に左右されました。事例⑥の買い手は、自社のホームセンター網との組み合わせを挙げています。
  3. 生産・調達 — 自社工場か委託生産か、OEM供給の取引先、原料の調達、ペットフード安全法に基づく届出と帳簿・品質管理の体制(第1章)です。事例③では生産ロスを猫砂の原料に転用する仕組みが、事例④では機能性素材の調達が、事例⑩では水産原料とのつながりが、取得の理由に含まれていました。事例①のように、製造を一定期間売り手に残す場合には、移管までの供給体制も確認の対象になります。

6. ペットフード・ペット用品業界の買い手の類型

本稿の国内の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の目的と評価の観点が異なります。

  1. ペットフード・ペット用品の専業・大手 — ペットライン(事例①)、日本ペットフード(事例②)、いなば食品(事例④)など。ブランドによる品ぞろえの拡充、補完関係にある製品分野の取り込み、原料の調達を目的としています。オーナー系のドギーマンハヤシやマルカンも、他社を取得してきました。
  2. 隣接業界・異業種の事業会社 — 製紙の大王製紙(事例③)、塗料・DIY用品のアサヒペン(事例⑤)、ホームセンターのアークランズ(事例⑥)のように、原料・技術や売場・販路に共通点を持つ企業です。自社の既存事業との組み合わせが取得の理由として示されています。
  3. ファンド — 丸の内キャピタルは2018年に大貴を取得し、2022年に大王製紙に売却しました(事例③)。焼津水産化学工業の入札でも、ファンド9社に打診が行われています(事例④)。

海外のペットフード企業が国内のメーカーを取得した近年の公表事例は、本稿の調査の範囲では確認できませんでした。ただし、隣接する動物用医薬品や動物病院の分野では海外企業・海外の投資会社による取得・出資があり(第3章)、国内のメーカーにとっても譲渡先・出資者の候補となり得ます。


7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、ペットフード・ペット用品メーカーの買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

事例の対象先は、大きく3つに分かれます。1つ目は、ペットフードを主業としない大手グループ内の事業で、日清製粉グループ本社の日清ペットフード(事例①)と、フィード・ワンのペットフード事業(事例②)が、ペットフード専業に移りました。2つ目はファンドの保有先と上場会社で、丸の内キャピタルが保有していた大貴(事例③)と、上場していた焼津水産化学工業(事例④)が、事業会社に取得されました。3つ目は個人が全株式を保有していたオーナー企業で、ザ・ペット(大阪府茨木市、事例⑤)とペッツファーストホールディングス(事例⑥)が、異業種の上場企業に譲渡されています。海外では、商社が保有していたHartz(事例⑧)、創業者ら個人が保有していたNutrire(事例⑨)、マレーシアの企業が51%を保有していたPWI(事例⑩)が、国内大手の取得の対象となりました。

投資ファンドは、大貴を2018年に取得し、2022年に大王製紙に売却しました(事例③)。焼津水産化学工業の入札では、ファンド9社に打診が行われ、2社が関心を示しています(事例④)。本稿で取り上げたドギーマンハヤシ、マルカン、ジェックスなどの非上場のオーナー系メーカーは、大阪府に本社を置いています(第2章)。非上場の企業は開示される情報が少なく、候補先の特定には公開データベースに頼らない調査と、オーナーや親会社への直接の打診が必要になります。

② 取引の形

事例には、会社分割で販売事業を切り出して株式を譲渡し、製造は一定期間売り手に残す形(事例①)、特定の製品分野だけの事業譲渡(事例②)、ファンドからの全株式の取得(事例③)、入札を経た上場会社の公開買付けと非公開化(事例④)、個人株主からの全株式・全持分の取得(事例⑤⑥⑨)、過半数の取得(事例⑧⑩、いなば食品による駒越食品の51%の取得)があります。開示された価格は、事例③が約74億円(大貴の純資産は40億3,700万円)、事例⑩が51%で約114億円で、事例⑤⑥⑨では売主または相手先の意向等により開示されていません。事例④では、公開買付価格が1株1,350円から1,438円に引き上げられました。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

日清製粉グループ本社は、ブランドやノウハウ等の価値が承継され、ペットフード業界の発展、拡大に資すると判断したと説明しました(事例①)。フィード・ワンは、買い手の事業との補完関係と、事業ポートフォリオの最適化を理由に挙げています(事例②)。焼津水産化学工業の特別委員会は、株式価値が最も高く、具体的なシナジーを示した提案を選び、非公開化によって工場・製品開発・海外展開への投資を優先できることを賛同の理由としました(事例④)。

これらの事実からは、事例の売り手と対象会社が、価格に加えて、譲渡後の事業とブランドの扱い、買い手の事業との補完関係、譲渡後の投資を重視していたことがうかがえます。


8. ペットフード・ペット用品メーカーのオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

国内の事例では、ペットフード専業(事例①②)やペットフード大手(事例④)に加えて、製紙(事例③)、塗料・DIY用品(事例⑤)、ホームセンター(事例⑥)といった隣接業界・異業種の企業が買い手となり、ファンドも保有者として登場しています(事例③)。海外企業による国内のペットフード・ペット用品メーカーの取得は近年の公表事例を確認できませんでしたが、隣接する動物用医薬品・動物病院では、海外企業・海外の投資会社が日本企業を取得し、あるいは出資しています(第3章)。買い手候補は、これらの先の中から、自社の製品・販路・生産拠点と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(製品・ブランド、販売、生産・調達)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例③の再生原料の利用や事例⑤のペット専門店向けの販路のように、製品そのものではなく、原料の仕組みや販路が買い手の目的になる場合もあります。ペットフード安全法に基づく届出と帳簿・品質管理の体制(第1章)も、整理の対象になります。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員や取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。事例⑤では取得後の業績が販売先の変化に左右されており、販路が評価の中心となる場合は、取引先との関係が譲渡後も続くかが論点になります。既存の取引関係が譲渡に先行した事例②のように、現在の取引先が買い手候補となる場合もあるため、現在の資本・取引関係を含めて選択肢を整理しておくことが必要です。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。食品を含む消費財を重点セクターの一つとし、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。ペットフード・ペット用品業界では、公開情報の少ない非上場のオーナー企業や、大手グループ内の事業が対象となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、隣接業界の事業会社、ファンドに加えて、海外の戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の同業、隣接業界(食品・製紙・日用品・小売等)、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の製品・販路・生産拠点と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:製品分野ごとのブランドと販路、卸・専門店・動物病院・ECとの取引関係、自社工場・委託生産の体制、ペットフード安全法に基づく届出と品質管理の体制など、業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、取引先との関係、ブランドの扱い、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料・報道等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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