動物病院業界M&Aの最新動向と事例 :病院グループの統合とファンド・海外資本の参入

動物病院業界M&A・事業承継

(2026年10月更新)

国内の小動物診療施設の届出数はこの10年で1割以上増えた一方、犬の飼育頭数は2021年から2025年にかけても減少しました。この数年の動物病院業界M&Aを見ると、上場する動物病院グループのWOLVES HANDが院長・オーナーから病院を継続的に取得し、2026年9月には上場前からの株主であったファンドが保有株式の全部の売出しを公表しました。ファンドが出資するJapan Animal Care Holdings(JPAC)は、2024年に3グループの経営統合で発足し、2026年6月には専門医療のANCHORSとの持株会社MiraiVets Partnersが始動して、両社で15都道府県・49施設の体制となっています。海外資本では、米国のマースが2019年からVCA Japanとして国内で病院を展開し、消費者分野に特化した投資会社L Cattertonのアジア部門が、事業承継で病院を引き継ぐWithmalに出資しています。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている動物病院のオーナー・親会社の皆様を念頭に、動物病院業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、海外資本の参入と国内企業の海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. 動物病院業界の市場構造 — 施設の増加と再編の要因

市場規模

農林水産省の統計によると、2025年12月31日現在の飼育動物診療施設の開設届出数は17,200施設で、うち犬・猫などを診る「小動物、その他」が13,046施設、産業動物が4,154施設でした(農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況」)。10年前の2015年12月31日現在では、小動物、その他が11,486施設で、10年間で1,560施設(13.6%)増えています。この統計は施設の届出数であり、1つの法人が複数の病院を開設していればそれぞれを数えるため、経営する事業者の数とは一致しません。都道府県別では東京都が2,024施設(産業動物を含む)で最も多くなっています。

診療を担う獣医師は、2024年の届出で39,664人、うち小動物診療に従事する獣医師が16,717人(42.1%)でした(農林水産省「獣医師法第22条の獣医師の届出状況について」)。同省の資料は、小動物診療獣医師は大都市圏に多く分布していると記載しています。

一方、ペットフード協会の推計では、推計方法を改定した2021年以降、犬の飼育頭数は2021年の710.6万頭から2025年の682.0万頭に減少し、猫は2021年の894.6万頭に対し2025年は884.7万頭でした(ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」)。同協会は、2025年の犬の飼育頭数は下げ止まりの傾向、猫は横ばいとしています。同協会の2022年の調査では、平均寿命は犬が14.76歳、猫が15.62歳で、いずれも2010年から延びています。

診療機能別の特性

動物病院は、担う診療の機能によって、患者の来院経路、必要な設備と人材、収益の構造が異なります。M&Aでも、どの機能を持つ病院かによって、買い手の顔ぶれと評価の観点が変わります。

区分担い手の例事業上の特性
一次診療(かかりつけ)個人・法人の地域の動物病院飼い主が直接来院。診療圏の人口と、獣医師・愛玩動物看護師の確保が売上を左右
二次診療(専門・高度医療)日本動物高度医療センター、各グループの中核病院一次診療の病院からの紹介で来院。CT・MRIなどの設備と専門の獣医師が前提で、紹介元の病院との関係が集患の基盤
夜間・救急グループの中核病院、救急専門の施設夜間の人員配置が必要で、地域の一次診療の病院の受け皿となる
付随するサービストリミングサロン、ペットホテル等診療の顧客を共有する。WOLVES HANDではペットサロンの運営が2025年6月期の売上高の8.5%を占めた

業界再編を動かす5つの要因

  1. 施設の増加と飼育頭数の変化 — 小動物、その他の診療施設は10年で13.6%増えた一方、犬の飼育頭数は2021年以降も減少し、猫は横ばいで推移しています。犬・猫の頭数が伸びないなかで施設が増えれば、1施設あたりの頭数は減る計算になり、個々の病院にとって集患の条件は厳しくなります。M&Aでは、事例②の買い手が、既存の病院がある地域での病院どうしの連携を取得の理由に挙げています。
  2. 獣医師の年齢構成と人材の確保 — 年齢別の内訳が示されている2022年の届出では、小動物診療に従事する獣医師(開設者と勤務者を含む)16,541人のうち、60歳以上が3,923人と約24%を占めました(農林水産省「獣医師法第22条の獣医師の届出状況等について」)。新たに小動物診療に就いた獣医師は、2023年3月の獣医系大学の卒業者1,019人のうち454人です。高齢の獣医師が経営する病院では承継先の検討が、各病院では限られた新卒をめぐる採用が課題となり、事例③の持株会社は、採用と人材育成を本部の支援の重点に挙げています。
  3. 高度医療と設備投資 — 二次診療を担う日本動物高度医療センターは、2022年の第三者割当増資による資金を大阪病院の放射線治療棟と機器(4億円)、新病院の用地(3億7,300万円)に充て、2026年4月には川崎本院のMRIを更新しCTを追加しました。M&Aでも、事例④の買い手はCT・MRIを備えた二次診療の病院グループを承継し、事例③では一次診療のグループと専門医療のグループが持株会社のもとで結び付いています。
  4. 株式会社による開設が可能な制度 — 人の医療では、医療法第7条第7項が、営利を目的として病院・診療所を開設しようとする者には許可を与えないことができると定めています。これに対し獣医療法は、診療施設の開設者に開設後10日以内の届出を求め(第3条)、開設者が獣医師でない場合は獣医師に施設を管理させることを求めています(第5条)が、開設者を獣医師や特定の法人に限る規定を置いていません。株式会社が複数の病院を開設・運営できることが、ファンドや事業会社が病院グループに出資し、株式や事業を取得できる前提となっています。
  5. 事業承継 — 中小企業庁は2019年の検討会資料で、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを示していました(中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」)。その2025年を過ぎた現在、上記2の獣医師の年齢構成は、動物病院でも承継の時期が近いことを示しています。また、L Catterton Asiaのパートナーは、多くの動物病院でオーナーが今後10年程度以内の引退を考えているにもかかわらず後継者がいない状況にあると述べています。YCPホールディングスは事業承継による複数の動物病院のグループ化を、アニコムグループは院長のリタイアに際して病院の経営を譲り受ける形態を、それぞれ自社の事業として説明しており、院長・オーナーが病院グループへの株式譲渡や事業譲渡を選んだ案件が開示されています(第3章)。

2. 業界プレイヤー構図

上場の動物病院グループ

会社本社連結売上高拠点・直近の動き
日本動物高度医療センター川崎市高津区61億9,200万円(2026年3月期)紹介制の二次診療。川崎・東京・名古屋・大阪に4病院、福岡に新病院を計画(2027年秋以降の開院を目標)
WOLVES HAND大阪市西区61億5,500万円(2026年6月期)2026年6月末に39拠点。地域ごとに院長・オーナーの病院を取得。2026年9月にファンドが保有株式の売出しを公表

日本動物高度医療センターは、一次診療の病院からの紹介のみで診療を受け付け、紹介料を支払わない運営をとっています。協力病院は2026年3月期末で4,779病院でした。2026年3月期の営業利益は11億5,000万円(前期比59.5%増)です。WOLVES HANDは、高度医療を担う「センター病院」12と、かかりつけを担う「サテライト病院」27を、関西・関東・九州沖縄・北海道で運営しています(2026年6月末)。2026年6月期の営業利益は11億2,700万円(同23.9%増)です。

このほか、シンガポールに本社を置き東証グロース市場に上場するYCPホールディングスが、子会社を通じてライフメイト動物病院グループを運営しています。同社のペットケア領域の売上収益は、2024年12月期に30億5,600万円でした(2025年12月期のセグメント数値は本稿では確認していません)。

大手グループ傘下の病院網

  • VCA Japan — 米国のマースの動物医療部門Mars Veterinary Healthに属し、2026年6月時点で全国48施設、社員約1,200名の体制です。
  • イオンペット — イオングループのペット専門会社で、同社サイト(2026年10月閲覧)によると約50の動物病院と8つのどうぶつ医療センターを展開しています。
  • アニコムグループ — ペット保険のアニコム損害保険を擁し、グループ会社のアニコム先進医療研究所が2026年8月現在で全国51のグループ病院を運営しています。2025年10月には東京都港区で二次診療の「JARVISどうぶつ医療センター Tokyo」を開院し、同年11月から夜間救急を始めました。

病院を運営するアニコムグループと同じペット保険の分野では、第一生命ホールディングスが2022年11月、アイペットホールディングスの完全子会社化を目的とする公開買付けの開始を公表しました(1株3,550円)。第一生命ホールディングスは、約1,100万人の顧客基盤と販売網をペット保険の新たな販売の源泉に挙げています。

ファンドが出資する病院グループ

インテグラルの関連ファンドが持株会社を通じて出資するJPACと、JPACと資本提携したANCHORSは、2026年6月に共同の持株会社MiraiVets Partnersとして始動しました(事例③)。L Catterton Asiaが出資するWithmalは、2024年から2025年にかけて、7件の動物病院の事業譲受を公表しています(事例⑦)。

オーナー系の動物病院

開示資料で売り手が確認できる案件では、WOLVES HANDはバハティーの株式を代表者ら個人から、ヒルズの株式を代表者から取得しており(事例②)、いずれも経営者が株式を保有する会社でした。開示された取得対象の売上高は、1院を運営する会社で1億8,100万円(守山しっぽ動物病院)、2院を運営する会社で1億3,780万円(おかにわ動物病院ほか)、3院を運営する会社で2億9,000万円(そよかぜ動物病院)でした。

関西への集積

本稿で取り上げる企業・病院のうち、WOLVES HAND(大阪市西区)、P&Vホールディングス(大阪市天王寺区)、JPACの母体の一つであるエルザ動物病院グループ(兵庫県)、WOLVES HANDが取得した守山しっぽ動物病院(滋賀県守山市)と安田動物病院(兵庫県西宮市)は関西に所在し、日本動物高度医療センターも大阪府箕面市に大阪病院を置いています。


3. 国内の動物病院業界M&A事例 — 病院グループによる取得、ファンド系グループの統合、海外資本の参入

事例① WOLVES HAND(2019〜2026年)— ファンドの出資から上場、ファンド保有株式の全部の売出しまで

WOLVES HANDは、代表取締役の北井正志氏が2000年1月に大阪市西区で開院した「きたい動物病院」を前身とし、2019年4月に設立されました。同社の有価証券報告書は、動物病院グループのJVCC株式会社グループ、および同グループに出資するファンドを運営するJ-STARとの統合を契機に設立されたと記載しており、2019年中にJVCC株式会社を合併してJVCC病院グループを子会社にしています。設立時のLBO(買収資金の借入れによる取得)に伴うのれんについて、2020年6月期に20億5,430万円の減損損失を計上しました。同社はその後、買収前のリスクと回収可能性の評価、外部専門家によるデューデリジェンス、取締役会での審議といった検討の手続を整えたと説明しています。

同社は2024年6月20日に東証グロース市場に上場し、J-STARが運営するファンドは上場時の売出しで株式の一部を売却しました。2026年9月2日、同社は、J-STARの運営するファンドが保有株式の全部を、北井氏が一部を売り出すと公表しました(計265万3,600株、野村證券の引受け)。目的は株式の流動性の向上と、個人投資家を中心とする株主層の拡大で、同社は本異動による経営体制および業績への影響はないとしています。同月、J-STARが運営するファンドは、保有割合が5%未満に減少したとする変更報告書を提出しました。2026年6月期の売上高は61億5,500万円(前期比12.7%増)、2027年6月期の予想は75億3,500万円です。

本案件は、(i)設立時からファンドが株主であった病院グループで、ファンドが上場とその後の売出しを通じて持分を手放した、(ii)LBOに伴うのれんの減損を経て、病院の取得の検討手続が整えられた、という点を示しています。

事例② WOLVES HAND × そよかぜ・安田動物病院・バハティー・ヒルズ(2024〜2025年)— 院長・オーナーからの病院の取得

WOLVES HANDは上場後、地域ごとに病院を取得しています。

  • 株式会社そよかぜ(2024年8月):さいたま市与野地区で「そよかぜ動物病院」3院を運営。全株式を取得。2023年8月期の売上高は2億9,000万円、営業利益は2,900万円。取得の理由は、埼玉県に基盤を持つ同社を加えることによる「北関東エリア」(同社の表現)への出店拡大と、関東エリアの病院との連携。
  • 安田動物病院(2025年1月):兵庫県西宮市の動物病院事業を事業譲受。対価はDCF法(将来の収益を現在価値に割り引く評価方法)などによる事業価値評価と法務・財務の調査を経て、相手方と協議して決定。理由は、未出店の西宮エリアで病院を増やし関西エリアでの連携と収益を強化すること。
  • 株式会社バハティー(2025年2月):滋賀県守山市で2016年に開院した「守山しっぽ動物病院」を運営。代表者ら個人から全株式を取得。2024年2月期の売上高は1億8,100万円、営業利益は2,800万円。取得価額は3億3,800万円(別にアドバイザリー費用等の概算3,100万円)で、当初は相手方の要請で非開示としていましたが、取得価額がWOLVES HANDの純資産の15%を超えることから開示に改めました。理由は関西エリアの基盤強化とグループ病院との連携。
  • 有限会社ヒルズ(2025年10月):茨城県水戸市の「おかにわ動物病院」と横浜市の「横浜ねこ動物病院」の2院を運営。代表者から全株式を取得。2024年9月期の売上高は1億3,780万円で、営業損失を計上。理由は北関東エリアの収益基盤の強化と関東エリアの病院との連携。

本案件は、(i)上場の病院グループが、1〜3院を運営する院長・オーナーの会社を株式取得で、病院の事業を事業譲受で取得している、(ii)取得の理由はいずれも、既存の病院がある地域での連携か、未出店の地域への進出である、(iii)取得価額は多くが非開示だが、開示されたバハティーでは、株式の取得価額が直前期の営業利益の約12倍(当社計算。対象会社の現預金・借入金は考慮していない)であった、という点を示しています。

事例③ インテグラル × JPAC・ANCHORS(2024〜2026年)— 地域の病院グループの統合と、専門医療グループとの提携

JPACは2024年11月、宮城県のウイル動物病院グループ、茨城県のアイ動物医療センターグループ、兵庫県のエルザ動物病院グループの3グループが経営統合して発足しました。インテグラルとその関連ファンドは、2024年11月29日に持株会社を通じてJPACに出資しました。JPACにはその後、愛知県のダイゴペットクリニック(2025年2月)、埼玉県の長谷川動物病院(2025年7月)、大阪市天王寺区に本社を置き関西を中心に4院を運営するP&Vホールディングス(2026年2月)、東京都と埼玉県で4院を運営し1993年に開設された光が丘動物病院グループ(2026年3月)が、資本提携・資本参加の形で加わりました。

2025年12月には、専門医療に強みを持つANCHORSと、共同で新設した持株会社を通じて資本提携しました。ANCHORSには、2021年3月から2024年5月にかけて、日本どうぶつ先進医療研究所、ベトリード、高度医療CTセンター林宝どうぶつ病院、木俣動物病院、ノースベッツの5社が順次参画していました。両社の持株会社は2026年6月にMiraiVets Partnersとして始動し、15都道府県で49施設(48動物病院、1検査施設)、社員約1,000名の体制となりました。同社は、JPACがかかりつけから地域の中核病院までを、ANCHORSが専門診療を中心に展開しており、診療の強みと展開地域が補完関係にあるとしています。各病院は従来の方針と病院名を維持し、本部が採用・人材育成・経営・デジタル化を支援します。インテグラルは、経営ノウハウや「i-Engine」機能、人的ネットワークを提供して各社の事業運営を支援するとしています。

これらの案件は、(i)ファンドの出資を受けた持株会社が、地域の病院グループを統合し、その後も病院の参画を重ねている、(ii)一次診療を中心とするグループと専門医療を中心とするグループが、持株会社を通じて結び付いた、(iii)参画した病院は病院名と方針を維持し、採用・育成・経営管理を本部が担う形をとっている、という点を示しています。

事例④ YCPホールディングス × アニマルメディカ(2022年)— 二次診療を担う病院グループの承継

YCPホールディングスは2022年7月、株式会社アニマルメディカから、東京都内で練馬・文京・府中・八王子の4病院を運営する動物病院グループを承継しました。同社の説明資料によると、このグループの2021年通期の売上高は15億円で、CT・MRI・ICU装置を備え、二次診療を提供しています。同社は、2022年7〜12月の業績への寄与を売上高7億6,000万円、営業利益6,000万円と見込んでいました。同社は取引の形を「事業承継」と説明しており、株式取得か事業譲受かは資料に示されていません。同社のペットケア領域の売上収益は2024年12月期に30億5,600万円、セグメント利益は1億6,900万円で、同期には東京都北区の動物病院の事業を譲渡しています。

本案件は、(i)上場会社が、CT・MRIを備え二次診療を提供する病院グループを承継した、(ii)同じ買い手が、病院の取得だけでなく個別の病院の事業譲渡も行い、運営する病院を選んでいる、という点を示しています。

事例⑤ 日本動物高度医療センター × KCPエクイティアシスト・サンリツサービス(2022年)— 二次診療の運営会社による資本提携

日本動物高度医療センターは2022年12月、第三者割当増資により、取引金融機関である東京きらぼしフィナンシャルグループ系の投資事業有限責任組合(KCPエクイティアシスト1号)に32万株(増資後の議決権の約11.75%)、同社の臨床検査の一部を担うサンリツセルコバ検査センターの親会社であるサンリツサービスに8万株(同約3.12%)を割り当てました(1株2,028円、手取り概算7億7,320万円。比率は同社資料の記載による)。資金は大阪病院の放射線治療棟と機器、新病院の用地に充てるとしています。同社はこれまでに、MRI・CT画像診断のキャミック(2014年1月)、在宅ケア・酸素ハウスのレンタルを手がけるテルコム(2022年3月)を完全子会社にしています。

本案件は、(i)二次診療の運営会社が、取引金融機関系のファンドと検査の取引先から少数の出資を受け、設備投資の資金を賄った、(ii)病院の取得ではなく、画像診断や在宅ケアなど隣接する機能の取得で事業を広げている、という点を示しています。

事例⑥ マース × VCA(2017年)、VCA Japan(2019年〜)— 海外の動物医療大手による日本での病院展開

米国のマースは2017年1月、北米で動物病院を展開するVCAを、1株93ドルの現金、負債を含め約91億ドルで買収すると発表し、同年9月12日に完了しました。完了時点で、VCAは米国とカナダで800を超える動物病院を運営していました。日本では、2018年12月にVCA Japan合同会社を設立して2019年に事業を始め、同社の説明によると各地の動物病院がグループ病院として加わる形で展開しています(参画の法的な形は公表されていません)。2026年6月時点で全国48施設、社員約1,200名の体制です。

本案件は、(i)海外の動物医療の大手が、日本では既存の病院をグループに迎える形で病院網を築いている、(ii)日本の動物病院のオーナーにとって、海外資本のグループも承継先の候補となっている、という点を示しています。

事例⑦ L Catterton Asia × Withmal(2023年)— 海外の投資会社が、事業承継で病院を引き継ぐグループに出資

L Cattertonは、2016年に米国のCattertonとLVMH、Groupe Arnaultが提携して発足した消費者分野に特化した投資会社で、LVMHとGroupe Arnaultが40%を保有しています。そのアジア部門であるL Catterton Asiaは2023年9月、後継者不足に悩む動物病院を事業承継し経営するWithmalと資本提携しました(出資比率は非開示)。同社のパートナーは、多くの動物病院でオーナーが今後10年程度以内に引退を考えているにもかかわらず、後継者がいないことを指摘しています。Withmalはその後、Willどうぶつ動物病院(2024年3月)、渡辺動物病院(同年4月)、東千葉いこい動物病院(同年10月)、とちのき動物病院(2025年1月)、アル動物病院(同年5月)、マコト動物病院(同年11月)、山内アニマルセンター(同年12月)の事業譲受を公表し、2025年11月には茨城県神栖市に新たに病院を開業しました。

本案件は、(i)海外の投資会社が、院長の後継者不在を投資の前提として国内の病院グループに出資した、(ii)出資を受けたグループは、株式取得ではなく事業譲受で病院を引き継いでいる、という点を示しています。

事例⑧ Virbac × Sasaeah(2024年)、Ceva × 物産アニマルヘルス(2026年)— 隣接する動物用医薬品での海外資本の参入

隣接する動物用医薬品の分野では、フランスのVirbacが2024年、オリックスから動物用医薬品のSasaeahを企業価値約2億8,000万ユーロで取得しました。Sasaeahは、オリックスのもとで藤田製薬と京都微研を統合した会社で、年間の売上高は約7,500万ユーロ、うち約半分がワクチンです。Virbacの最高経営責任者は、日本を世界の動物用医薬品業界の重要な市場と位置づけています。2026年5月には、三井物産が物産アニマルヘルスの株式の60%をフランスのCevaに譲渡し、Ceva Japanと統合した合弁会社「セバ物産アニマルヘルス」を設けると発表しました。

これらの案件は、動物病院ではなく動物用医薬品の取引ですが、(i)海外の動物医療関連の企業が、日本の金融グループや商社が保有する国内企業の取得を通じて、日本に参入し、または日本での事業を広げている、(ii)全株式の取得のほか、売り手が持分を残す合弁の形がとられている、という点を示しています。


4. クロスボーダーの動物病院業界M&A事例 — 国内企業による海外の動物用医薬品への投資

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内企業が海外で何を、どのような狙いで買っているかが、動物医療の分野で投資する企業の顔ぶれと関心を知る材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業・隣接業界の投資の参照例になります。なお、日本企業による海外の動物病院の買収は、本稿の調査の範囲では確認できませんでした。本稿で確認できた国内企業の海外での投資は、隣接する動物用医薬品の案件です。

事例⑨ 三井物産 × Ceva・Ouro Fino(2020年・2022年・2026年)— 海外の動物用医薬品企業への出資と、国内事業との組み合わせ

三井物産は2020年にフランスの動物用医薬品会社Cevaに出資し、2022年9月にはブラジルの動物用医薬品会社Ouro Finoの株式29.44%を取得しました。同社はOuro Finoへの出資にあたり、自社の幅広い事業資産とグローバルなネットワークとの相乗効果を追求するとしています。国内では、2022年12月に住友ファーマから住友ファーマアニマルヘルスの全株式を取得する契約を結び、海外製品の導入と製品・ライセンスの輸出を加速するとしていました。2026年5月には、物産アニマルヘルスの株式の60%をCevaに譲渡して合弁会社とすると同時に、Cevaに追加で出資すると発表しました(事例⑧)。両社は日本の動物用医薬品市場の成長に向けた戦略的なパートナーとして協働するとしています。いずれの案件も、発表では取得価額を示していません。

これらの案件は、(i)国内企業の海外での投資が、動物病院ではなく動物用医薬品で行われている、(ii)買い手が、海外企業への少数出資と、国内事業の取得・合弁化とを組み合わせ、出資先のCevaを日本市場での事業に結び付けている、という点を示しています。


5. 動物病院業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

動物病院のM&Aでは、財務数値に加えて、動物病院に固有の要素が確認されます。事例の買い手と、病院の経営を譲り受けているアニコムグループが公表した取得の理由と運営の方針をもとに、診療機能、人材、地域と紹介の3つに整理します。

  1. 診療機能 — 一次診療か、二次診療・夜間救急を担うか、CT・MRIなどの設備と専門の獣医師を備えるかです。事例④の買い手は、二次診療の設備を持つ病院グループを承継し、事例③では一次診療のグループと専門医療のグループが持株会社のもとで結び付きました。
  2. 人材 — 獣医師・愛玩動物看護師の人数と定着、院長の譲渡後の関与のあり方です。アニコムグループは、譲渡後も院長が社員や業務委託の形で病院の運営に関わることができ、勤務する獣医師や愛玩動物看護師はグループの社員として勤務を続けられるとしています。事例③の持株会社は、採用と人材育成を本部の支援の重点に挙げています。
  3. 地域と紹介 — 病院の立地と診療圏、既存の病院との距離、紹介元・紹介先の病院との関係です。事例②の取得理由は、いずれも既存の病院がある地域での連携か、未出店の地域への進出でした。二次診療の日本動物高度医療センターは、4,779の協力病院からの紹介を診療の基盤としています(第2章)。

6. 動物病院業界の買い手の類型

本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。事例に表れた各類型の特徴は次のとおりです。

  1. 動物病院事業を持つ上場会社 — WOLVES HAND(事例①②)、YCPホールディングス(事例④)。地域ごとの病院の連携を取得の理由に挙げ、二次診療の設備を持つ病院グループも承継しています。
  2. ファンドが出資する病院グループ — インテグラルが出資するJPACとその提携先のANCHORS(事例③)、L Catterton Asiaが出資するWithmal(事例⑦)。事例③の持株会社は、参画した病院の病院名と方針を維持し、採用・育成・経営管理を本部が担う形をとっています。事例①のように、ファンドは上場や株式の売却を通じて持分を手放すことがあるため、譲渡後の株主が将来変わり得ることも、検討の対象になります。
  3. 保険会社グループ・海外の動物医療大手 — 院長のリタイアに際して病院の経営を譲り受けるアニコムグループ、各地の病院がグループ病院として加わるVCA Japan(事例⑥)です。アニコムグループは保険と高度医療を組み合わせた運営を掲げ、VCA JapanはMars Veterinary Healthのグループ会社として運営されています。

7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、動物病院の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

事例の対象先は、院長・オーナーが株式を保有する会社、病院の事業、地域の病院グループに分かれます。WOLVES HANDは、1〜3院を運営する会社の全株式を代表者ら個人や代表者から取得し、病院の事業を事業譲受で取得しています(事例②)。Withmalは、2024年から2025年にかけて7件の病院の事業譲受を公表しました(事例⑦)。YCPホールディングスは東京都内の4病院からなる二次診療の病院グループを承継し(事例④)、JPACは宮城県・茨城県・兵庫県の3つの病院グループの経営統合で発足しました(事例③)。隣接する動物用医薬品では、金融グループや商社が保有する国内企業が、海外の動物医療関連の企業に譲渡されています(事例⑧)。小動物の診療施設の届出は、2025年12月31日現在で13,046施設です。事例の対象先は院長・オーナーが経営する非上場の病院が中心で、公開情報だけでは特定しにくく、取得には院長・オーナーへの直接の打診が必要になります。

買い手は、上場の病院グループ(事例②④)、ファンドが出資する病院グループ(事例③⑦)、海外の動物医療大手の日本法人(事例⑥)です。投資ファンドの関与では、インテグラルとその関連ファンドが持株会社を通じてJPACに出資し、JPACはその後も4つの病院・グループの資本提携・資本参加を重ね、専門医療のANCHORSと共同で持株会社を設けました(事例③)。海外の投資会社のL Catterton Asiaは、事業承継で病院を引き継ぐWithmalに出資しています(事例⑦)。

② 取引の形

事例には、会社の全株式の取得(事例②のそよかぜ・バハティー・ヒルズ)、病院の事業譲受(事例②の安田動物病院、事例⑦)、地域の病院グループの経営統合と、持株会社への資本提携・資本参加(事例③)、二次診療の運営会社への第三者割当増資による少数出資(事例⑤。議決権の約11.75%と約3.12%)があります。獣医療法が開設者を獣医師や特定の法人に限っていないことが、株式会社が複数の病院を開設・運営し、ファンドや事業会社が病院グループに出資し、株式や事業を取得できる前提となっています。価格の水準では、開示されたバハティーの株式の取得価額が、直前期の営業利益の約12倍(当社計算)でした(事例②)。

投資ファンドの出口としては、J-STARが運営するファンドが、WOLVES HANDの上場時の売出しで株式の一部を売却し、2026年9月には保有株式の全部の売出しが公表されました(事例①)。同社は設立時のLBOに伴うのれんについて20億5,430万円の減損損失を計上した後、買収前のリスクと回収可能性の評価、外部専門家によるデューデリジェンス、取締役会での審議といった検討の手続を整えています(事例①)。どの形をとるかは、院長・オーナーや親会社の意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

本稿で取り上げた開示には、院長・オーナーである売り手が述べた譲渡の理由は含まれていません。開示に表れた事実は次のとおりです。バハティーの取得価額は、当初は相手方の要請で非開示とされていました(事例②)。事例③では、参画した病院は従来の方針と病院名を維持しています。アニコムグループは、譲渡後も院長が社員や業務委託の形で病院の運営に関わることができ、勤務する獣医師や愛玩動物看護師はグループの社員として勤務を続けられるとしています。L Catterton Asiaのパートナーは、多くの動物病院でオーナーが今後10年程度以内の引退を考えているにもかかわらず、後継者がいないと述べています(事例⑦)。ファンドが売り手となった事例①では、WOLVES HANDが、売出しによる経営体制および業績への影響はないとしています。

買い手の側が、病院名と方針の維持、院長の関与、勤務者の継続勤務を自らの方針として公表していることからは、これらが院長・オーナーとの協議の論点になっていることがうかがえます。


8. 動物病院のオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

院長・オーナーの病院を取得・承継している先には、第7章①の上場の病院グループ、ファンドが出資する病院グループ、海外の大手に加えて、院長のリタイアに際して病院の経営を譲り受ける保険会社グループ(アニコムグループ)があります。取得の理由は、地域の連携(事例②)、二次診療の設備(事例④)、事業承継の受け皿としての病院網の拡大(事例⑦)とさまざまです。買い手候補は、国内の病院グループに加えて、ファンド系のグループや海外資本のグループまでを対象に、自院の診療機能と地域に補完関係のある先を洗い出すことから検討します。病院グループの側でも、事例④の買い手が東京都北区の動物病院の事業を譲渡しており、個別の病院の事業の譲渡先を検討する場面があります。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(診療機能、人材、地域と紹介)ごとに、自院のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。とくに、勤務する獣医師・愛玩動物看護師が譲渡後も勤務を続けるか、院長自身が譲渡後にどの程度関与するかは、事例③の持株会社が採用・人材育成を本部の支援の重点に挙げ、アニコムグループが勤務者の継続勤務と院長の関与の形を示しているように、協議の中心になります。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、オーナーご自身の引退の時期、病院を会社と個人のいずれで開設しているか、勤務者の処遇、譲渡後の関与の希望によって変わります。譲渡先がファンドの出資を受けている場合は、事例①のように譲渡先の株主が将来入れ替わることがあり、その後の経営方針や勤務者の処遇が誰の判断のもとに置かれるかが、長期保有を前提とする事業会社への譲渡とは異なります。現在の開設者の形態、土地・建物の所有、勤務者との関係を含めて、選択肢を整理しておくことが必要です。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。動物病院・ペット関連の事業を含む国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。動物病院業界M&Aでは、院長が経営する非上場の病院が主な対象となり、隣接する動物用医薬品などでは企業グループ内の事業も対象となるため、公開情報の少ない候補先の調査と、院長・オーナーへの直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の病院グループに限らず、ファンドが出資する病院グループ、保険・小売などの事業会社に加えて、海外の動物医療グループなどの戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の病院グループ、ファンド系のグループ、事業会社、海外の戦略買い手まで、貴院の診療機能と地域に補完関係のある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:診療機能、獣医師・愛玩動物看護師の体制、紹介元・紹介先の病院との関係など、動物病院業界に固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:勤務者の雇用、病院名と診療方針の維持、院長ご自身の譲渡後の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループへの参画、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている院長・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料・報道等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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