本稿は、日本の物流会社、商社、インフラ関連企業などが、ベトナムの物流企業に対する出資・買収・提携を検討する際の参考情報として、代表的な事例と実務上の留意点を整理したものです。

ベトナムは、アジアの中では比較的オープンな投資環境を備えた市場であり、物流分野でも日本企業による出資・買収・合弁の動きが継続的に見られます。 一方で、ベトナム 物流 M&A の現場では、セルサイドFAの起用、競争入札、外資規制の確認、非専属アドバイザリーによる情報断片化など、日本企業が事前に理解しておくべき論点も少なくありません。
なぜ今、ベトナム 物流 M&A に注目が集まっているのか
ベトナムでは、製造業の集積、輸出入の拡大、EC市場の成長、港湾・道路インフラ整備の進展を背景に、物流需要の中長期的な拡大が見込まれています。 港湾ターミナル、倉庫、ICD、フォワーディング、宅配・ラストマイルなど、物流の複数レイヤーで投資機会が存在しており、日本企業にとっても関心を持ちやすい市場です。
制度面でも、ベトナムでは投資法61/2020/QH14により、投資禁止分野と条件付き経営投資分野が整理されており、物流業の一部は条件付き分野に該当する一方、外資出資比率の面では比較的柔軟な整理が見られます。 もっとも、物流の中でも陸運、港湾、船舶、フォワーディング等で扱いが異なる可能性があるため、案件ごとに対象事業とライセンスの確認が不可欠です。
日系企業による代表的な事例3選
1. 住友商事・JOIN・鈴与による Gemadept への出資
住友商事は2019年、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)および鈴与と共に設立した現地合弁企業を通じ、ベトナムの港湾・ロジスティクス大手 GEMADEPT CORPORATION(GMD)に10%出資しました。 GMDは港湾ターミナル、内陸コンテナデポ、倉庫、陸上輸送などを展開する同国のリーディングカンパニーの一つであり、この案件はベトナムの港湾・後背地物流に対する日系出資事例として代表的です。
公表資料によれば、住友商事側はGMDへの出資にあたり業務提携契約を締結し、取締役を派遣することで関係を強化するとしています。 既存のベトナム物流事業や工業団地事業との連携に加え、IoTを活用したスマートロジスティクスの実現も掲げており、単なる金融投資ではなく、事業シナジーを前提とした戦略出資と位置付けられます。
2. SGホールディングスによる Phat Loc Express の買収
佐川急便を傘下に持つSGホールディングスは、ベトナムの宅配会社 Phat Loc Express and Trading Joint Stock Company を買収し、同国におけるデリバリー事業を拡大しました。 同社の沿革資料では、Phat Loc Express の買収を通じてベトナムにおけるデリバリー事業の拡大・強化と顧客基盤の拡大を図ったことが示されています。
また、SGホールディングスはベトナムで100%出資会社の設立や既存事業会社の統合も進めており、Phat Loc Express の買収は単独案件というより、同国での総合物流基盤構築の一環として位置付けられます。 この事例は、ベトナム物流M&Aにおいて、港湾や倉庫だけでなく、宅配・ラストマイルのような成長領域でもローカル企業買収が有効な手段となりうることを示しています。
3. 三菱倉庫による In Do Trans Logistics(ITL)との合弁・出資強化
三菱倉庫は2011年、ベトナムの総合物流企業 In Do Trans Logistics Corporation(ITL)と合弁で、MLC ITL Logistics Company Limited(MLC ITL)を設立しました。 設立時点の出資比率は三菱倉庫51%、ITL49%で、ホーチミンを本社、ハノイを支店とし、倉庫、陸上運送、流通加工、航空・海上の輸出入貨物取扱いを事業目的としています。
その後、三菱倉庫は2022年にITL本体の株式13.63%を取得し、さらに2023年には追加取得により出資比率を20.5%まで引き上げ、ITLを持分法適用会社としました。 ITLはフォワーディング、航空貨物、倉庫、港湾運送、不動産などを展開するベトナム物流企業であり、三菱倉庫の動きは、合弁会社を通じた現地展開に加え、パートナー企業本体への資本参加を深めることで、関与度を段階的に高めていくアプローチとして位置付けられます。
ベトナム物流M&Aで押さえるべき実務論点
セルサイドFAの活用と競争環境
ベトナムはアジアの中では比較的オープンな市場であり、一定規模以上の案件では、売り手側がセルサイドFAや法律事務所を起用してプロセスを整理するケースが比較的見られます。 そのため、優良案件では複数の買い手候補が並ぶ入札・限定競争プロセスになりやすく、初期接触の段階からスピード感のある対応が求められます。
一方で、中堅オーナー企業では、特定アドバイザーと独占契約を結ばず、複数の仲介者やFAに同時に声をかけているケースもあります。 この場合、案件情報が断片化し、アドバイザー側も全体像を把握しきれていないことがあり、買い手としては「誰が正式な窓口か」「どこまでが確定情報か」を慎重に見極める必要があります。
外資規制と対象事業の確認
ベトナムでは、外資による投資可否や出資比率上限は、対象事業の内容によって異なります。 JETROによれば、投資法61/2020/QH14の下で、条件付き経営投資分野に該当する事業については、ベトナムが加盟する国際条約上の市場参入条件を満たす必要があります。
物流分野では、陸運、港湾、船舶、フォワーディング等の区分によって外資規制やライセンス要件が異なる可能性があり、上場企業への出資か、未上場企業への株式取得かによっても必要手続きが変わります。 したがって、案件初期の段階から、対象会社の事業ライセンス、主要売上の帰属事業、株主構成、上場区分を確認し、取得可能比率と必要な承認手続きを整理することが重要です。
持株比率と支配権設計
ベトナム物流案件では、必ずしも過半数取得だけが正解ではありません。 Gemadept 事例のようなマイナー出資でも、取締役派遣や業務提携契約を通じて関係を深めることは可能であり、三菱倉庫のITL事例のように、合弁と本体出資を組み合わせることで、段階的に関与を深める設計も考えられます。
一方、優良案件で競争が激しい場合には、価格だけでなく、クロージング確実性、意思決定の速さ、少数株主保護や将来の追加取得条項を含む契約設計が差別化要因になることがあります。 そのため、「何%取れるか」だけでなく、「どの権限を確保したいのか」「どの段階で関与を深めたいのか」を先に定義することが重要です。
日本企業にとっての示唆
ベトナム 物流 M&A を検討する日本企業にとって重要なのは、まず自社が取りにいきたい物流機能を明確にすることです。港湾・ICD・後背地物流を狙うのか、宅配・ラストマイルを狙うのか、あるいは総合物流企業との提携を通じて幅広い機能を確保したいのかによって、相手先の選定もスキームも変わります。
また、ベトナムは比較的オープンな市場である一方、案件が表に出やすい分、競争環境は厳しくなりがちです。 そのため、案件の有無そのものよりも、初期段階からの関与、情報の質の見極め、セルサイドFAや現地関係者との関係構築、そして社内意思決定のスピードが実務上の差になります。
ベトナムの物流会社との提携・買収をご検討中の方へ
ベトナムの物流会社との提携・買収を検討しているが、候補先の見立てや市場構造の理解が十分ではない、あるいは既に案件情報はあるものの、プロセスの見極めや条件交渉の進め方に不安がある、といったご相談があれば、初回相談(無料)にて現状整理からお手伝いします。
Syntax Partnersでは、候補先探索・初期打診支援、セルサイドFA・現地パートナーとのコミュニケーション設計、資本提携・買収スキームの検討、バリュエーション、条件交渉、クロスボーダーM&Aのエグゼキューション支援まで、案件の状況に応じて柔軟にご支援しています。