【2026年第3四半期】アジア太平洋クロスボーダーM&Aレビュー:買収・出資の継続と、海外事業の売却・組織再編

アジア太平洋クロスボーダーM&A

要旨

2026年第3四半期(7〜9月)に日本企業が関与したアジア太平洋クロスボーダーM&Aは123件で、前年同期(77件)を大きく上回った(Syntax Partners調査)。四半期別の件数は、2024年が60〜73件、2025年が65〜112件で推移しており、123件は2024年以降で最多である。前年同期からの増加の大半は、中国(11件→23件)、台湾(3件→15件)、韓国(5件→14件)、インド(6件→14件)の4か国・地域による。中国では売却・一部譲渡と組織再編が、台湾・韓国・インドでは電子機器・情報通信の出資・合弁やファンドへの出資が増えた。1〜9月の累計は302件で、前年同期の254件を上回る。

取引類型別にみると、買収・出資・資本提携からなる「投資型」は、第3四半期が65件(前年同期52件)、1〜9月が181件(同161件)と前年を上回って推移している。売却・一部譲渡からなる「整理型」と、完全子会社化やグループ内の事業移管などの組織再編は、上半期の6か月間でそれぞれ33件と6件だったのに対し、第3四半期の3か月間だけで26件と13件に達した。第3四半期の件数増加は、投資型の増加に加え、海外子会社・持分の売却とグループ内の再編が同時期に集中したことによる。

国・地域別では、整理型が投資型を上回るのは中国だけであり、この状況は2024年から続いている。中国の件数に占める整理型の割合は、2024年が36件中19件、2025年が50件中33件、2026年1〜9月が46件中24件である。第3四半期も中国は23件で国・地域別の最多となり、その内訳は売却・一部譲渡11件、組織再編4件に対し、投資型は3件にとどまった。一方、シンガポール(21件中16件)、韓国(14件中10件)、インド(14件中10件)では投資型が中心だった。業界別では、ファンドへの出資や組成・募集完了などのファンド関連案件(金融(ファンド))が1〜9月で17件となり、同じ基準で再集計した前年同期の1件から大きく増えた。台湾・韓国における電子機器・情報通信の案件も、1〜9月で前年同期の2倍に増えた。

M&A案件集計(2026年7月1日〜9月30日、観測日ベース)

国・地域別件数

国・地域7〜9月 件数構成比1〜9月累計 件数構成比
中国2318.7%4615.2%
シンガポール2117.1%6019.9%
台湾1512.2%3110.3%
韓国1411.4%3210.6%
インド1411.4%3110.3%
タイ97.3%217.0%
インドネシア75.7%155.0%
オーストラリア75.7%103.3%
ベトナム64.9%175.6%
マレーシア43.3%186.0%
フィリピン21.6%93.0%
香港10.8%113.6%
パキスタン00.0%10.3%
合計123100.0%302100.0%

(表1)国・地域別件数

業界別件数

業界7〜9月 件数構成比1〜9月累計 件数構成比
情報通信1512.2%3411.3%
電子機器129.8%3110.3%
消費財118.9%206.6%
化学・素材108.1%278.9%
専門サービス108.1%227.3%
金融(ファンド)108.1%175.6%
ヘルスケア75.7%124.0%
卸売・小売64.9%196.3%
機械64.9%124.0%
金融(事業)54.1%196.3%
輸送用機器54.1%155.0%
エネルギー・資源54.1%124.0%
不動産54.1%124.0%
娯楽・余暇43.3%155.0%
物流43.3%144.6%
その他製造業43.3%72.3%
産業サービス32.4%113.6%
公共インフラ10.8%31.0%
合計123100.0%302100.0%

(表2)業界別件数

取引類型別件数

取引類型7〜9月 件数構成比1〜9月累計 件数構成比
買収2822.8%8728.8%
出資3125.2%7926.2%
資本提携64.9%155.0%
売却2016.3%4815.9%
一部譲渡64.9%113.6%
合弁75.7%144.6%
合併21.6%72.3%
資金調達43.3%103.3%
組織再編1310.6%196.3%
その他64.9%124.0%
合計123100.0%302100.0%

(表3)取引類型別件数。投資型は7〜9月65件(52.8%)、1〜9月181件(59.9%)。整理型は7〜9月26件(21.1%)、1〜9月59件(19.5%)。

1. 国・地域別動向

台湾とインドについては、3章の横断テーマで取り上げる。

中国:製造拠点・関連会社の譲渡と、現地市場向け事業への投資

中国は、整理型が投資型を上回る唯一の国・地域であり、整理型が過半を占める状況は2024年(36件中19件)、2025年(50件中33件)から続いている(いずれも各年の事例集の計上による)。2026年1〜9月も46件のうち24件が整理型である。第3四半期は23件で国・地域別の最多となり、内訳は売却9件、一部譲渡2件、組織再編4件に対し、投資型は3件だった。

整理型の業界をみると、2024年・2025年は化学・素材が最も多く、2026年1〜9月は電子機器が7件、化学・素材が5件である。第3四半期の譲渡には、建機(加藤製作所)、農機(タカキタ)、光ファイバー材料(フジクラ)、新素材(戸田工業)、印刷版材(富士フイルムHD)など、製造事業に関係する子会社・持分の売却が多い。組織再編では、豊田自動織機が中国子会社のコンプレッサー生産機能を別の拠点に集約し、アキレスが中国子会社の生産を終了した。

米中対立などを背景に輸出管理の強化が続き、一部のレアアースについては対日輸出の停滞が報じられている。ただし、中国の整理型を四半期別にみると、2025年は3件、11件、7件、12件、2026年は6件、7件、11件であり、明確な急増はみられない。

日本貿易振興機構(JETRO)の調査(2025年8〜9月実施)では、中国で事業を「拡大」するとした日系企業は21.3%で、調査開始以降で最低だった。拡大すると答えた企業の約7割は、理由に現地市場ニーズの拡大を挙げている。第3四半期には、伊藤忠商事によるアウトドアブランドの企画・生産販売会社の持分法適用会社化、豊田通商グループのネクスティエレクトロニクスによる車載ソフトウェア開発会社への出資があった一方、明治HDやヤマダHDは中国の消費者向け事業を売却した。中国の現地市場向け事業についても、投資と売却の双方の案件がみられる。

シンガポール:サービス会社の買収と、ファンド関連の出資

シンガポールは第3四半期に21件で、うち投資型が16件、整理型は0件だった。1〜9月累計は60件で国・地域別の最多であり、前年同期(41件)を上回る。

第3四半期の内訳は、買収7件、出資8件などである。買収7件のうち4件は、清掃・環境衛生、給食・ケータリング、建設コンサルティング、DXコンサルティングを手掛ける専門サービス会社の取得だった。このほか、たけびしは、シンガポールとマレーシアを中心にASEANの4か国で電子部品・半導体部品を販売するGennex Groupの7社を買収した。出資8件のうち5件は、ファンドの組成・募集完了、ファンドへの出資、またはCVCファンドなどを通じた企業への出資に関する案件である。

韓国:娯楽・消費分野と電子機器・情報通信が増加

韓国は第3四半期に14件で、うち投資型が10件だった。1〜9月累計は32件で、前年同期(19件)を上回る。1〜9月の業界別では娯楽・余暇と情報通信が各6件、電子機器が4件、消費財と卸売・小売が各3件である。第3四半期には、アミューズによるファンダムプラットフォーム運営会社への出資、フジシンと韓国COSMAXグループによる化粧品の合弁会社の設立、東京計器による油空圧機器メーカーなど持分法適用関連会社2社の子会社化などがあった。電子機器・情報通信の案件は3-2で取り上げる。

ASEAN(シンガポールを除く):タイで整理型が増加

タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピンの5か国は、第3四半期に計28件だった。

タイは9件である。1〜9月の整理型は8件で、前年同期(6件)を上回った。第3四半期の整理型には、イオンによるタイ子会社の売却、住友商事によるガス火力発電事業の持分15%の四国電力への譲渡などがある。投資型では、レンゴーのタイ合弁会社による段ボールメーカーの株式90%の取得、Umiosによる大手水産食品メーカーとの資本業務提携があった。

インドネシアは7件で、SBIホールディングスによるAjaibグループの株式20%の取得、ヤマイチエステートによる不動産会社の子会社化などがある。マレーシアは第3四半期に4件、1〜9月累計で18件だった。フィリピンは2件、ベトナムは6件である。

オーストラリア:案件が複数の業界に分散

オーストラリアは第3四半期に7件で、1〜6月の3件から増えた。1〜9月累計は10件で、前年同期(13件)を下回る。2024年は通年21件のうち8件がエネルギー・資源だったが、第3四半期は不動産、公共インフラ、金融などに案件が分散した。積水化学工業によるクイーンズランド州の宅地開発・住宅建設会社オースビルドグループなど2社の約370億円での買収、カナデビア子会社による上下水処理プラントの設計・建設会社の買収、JERAによるカーボンクレジット創出ファンドへの2,500万豪ドルの出資などである。

2. 業界別動向:電子機器、消費財と卸売・小売、金融(ファンド)が増加

情報通信:件数は前年同期を下回り、AI関連の出資・合弁が目立つ

情報通信は第3四半期は15件で、業界別では最多だった。1〜9月累計も34件で最多だが、前年同期(51件)は下回った。

第3四半期は、AIを中核事業とする企業への出資や、AI関連の合弁会社設立が目立った。SMBC Asia Rising FundによるシンガポールのfileAIへの出資、アセットマネジメントOneとシンガポールのBlue Fire AIとの資本業務提携、GlobaliveとシンガポールのIntentBridgesによる合弁会社の設立がこれにあたる。整理型では、キューブシステムが中国子会社を、ジェイ・エスコムHDが韓国の孫会社を売却した。

電子機器:取得と中国拠点の譲渡がともに増加

電子機器は第3四半期に12件、1〜9月累計で31件で、前年同期(12件)の2.5倍を超えた。投資型は前年同期の4件から15件に、整理型は5件から9件に増えており、増加は取得と譲渡の双方による。売却9件のうち7件は中国拠点の譲渡である。

第3四半期の取得では、台湾・韓国の案件(3-2)に加え、ASEANとインドで電子部品商社の買収があった。たけびしはASEANで電子部品・半導体部品を販売するGennex Groupの7社を、マクニカHD子会社のマクニカはインドのElektronika Salesを買収した。RS Technologiesは、中国子会社を通じてエピタキシャルウェーハの製造会社を買収した。整理型では、フジクラが中国の光ファイバー材料の合弁持分を、大崎電気工業がマレーシアの孫会社を売却した。

消費財:1〜9月は前年同期の約2倍

消費財は第3四半期に11件、1〜9月累計で20件で、前年同期(11件)の約2倍となった。

第3四半期は、サッポロHDとデンマークのCarlsbergによる、東南アジア・香港での「サッポロ」ブランド事業を担う合弁会社の設立(シンガポール)、フジシンと韓国COSMAXグループによる化粧品の合弁会社の設立、伊藤忠商事による中国のアウトドアブランド企画・生産販売会社の持分法適用会社化、MOON-Xによる韓国のペットケアブランド運営会社の買収などがあった。整理型は3件で、明治HDによる中国の牛乳・ヨーグルト事業などの子会社3社の売却、亀田製菓によるインドの合弁会社の全持分の譲渡、アドバンテッジパートナーズによる台湾の鶏卵生産会社Shih An Farmの売却である。

卸売・小売:1〜9月は前年同期の2倍超

卸売・小売は第3四半期に6件、1〜9月累計で19件で、前年同期(8件)の2倍を超えた。

第3四半期は、整理型が2件で、イオンがタイ子会社を、ヤマダHDが中国子会社を、いずれも現地企業に譲渡した。投資型では、ヨネックスによるインドのスポーツ用品販売会社の株式50%の取得、Trailhead Global Holdingsによる台湾のラーメン店運営事業の譲受があった。このほか、スギHDがシンガポール政府系ファンドのGICを割当予定先とする第三者割当増資を決議した。

金融(ファンド):1〜9月は17件と前年同期から大幅に増加

ファンドへの出資、ファンドの組成・募集完了などからなる金融(ファンド)は、第3四半期に10件、1〜9月累計で17件だった。同じ基準で再集計した前年同期は1件、2024年1〜9月は7件である。17件には、同じファンドへの複数社の出資が含まれる(Cross Capital関連4件、Next Bharat Venture Fund-2関連3件)。

第3四半期は、スズキのインド子会社Next Bharat Venturesが運営するファンドに、スズキ、兼松、豊田通商が出資した。七十七銀行は三菱商事のシンガポール子会社が運営する「AIGF III」に出資し、シンガポールのCross Capitalと、日本企業のみを出資者とするUntroD Capital Asiaの「Real Tech Global Fund 2」は、それぞれ募集を完了した。JERAによるカーボンクレジット創出ファンドへの出資、河合塾グループのKJホールディングスによるベトナムのVCファンドへの出資もある。出資者には、事業会社(スズキ、兼松、豊田通商、JERA、KJホールディングス)と金融機関・VCの双方が含まれる。

金融(事業):前年同期をやや下回る

銀行・保険・資産運用・フィンテックなどの会社を対象とする金融(事業)は、第3四半期に5件、1〜9月累計で19件となり、前年同期の21件をやや下回った。第3四半期は、アモーヴァ・アセットマネジメントによるマレーシアの資産運用会社AHAM Asset Managementの買収完了、SBIホールディングスによるインドネシアのAjaibグループの株式20%の取得や、シンガポールのステーブルコイン決済会社dtcpayへの出資があった。

専門サービス:シンガポールのサービス会社の買収が目立つ

専門サービスは第3四半期に10件、1〜9月累計で22件で、前年同期(15件)を上回った。第3四半期の10件のうち5件が買収である。博報堂グループによるインドのデジタルマーケティング会社の買収のほか、アース製薬子会社による清掃・環境衛生サービス会社、メーキューによる給食・ケータリング会社、ジェコスによる建設コンサルタント、マクニカによるDXコンサルティング会社の買収があり、この4件はいずれもシンガポールの会社が対象である。

化学・素材:投資型と整理型が各4件

化学・素材は第3四半期に10件、1〜9月累計で27件で、前年同期(34件)を下回った。第3四半期の10件は、買収3件、売却・一部譲渡4件、組織再編2件、出資1件である。買収には、東洋紡によるタイの合弁会社の完全子会社化、信越ポリマーによるマレーシアの精密プラスチック製品会社の買収などがある。譲渡には、戸田工業、富士フイルムHD、東レ、新日本理化による中国・インドネシア・マレーシアの持分や子会社の売却がある。

ヘルスケア:台湾との出資・資本業務提携が3件

ヘルスケアは第3四半期に7件、1〜9月累計で12件で、前年同期(21件)を下回った。第3四半期には、松風による台湾の矯正歯科製品会社への出資、タウンズとNANOホールディングスによる台湾企業との資本業務提携がある。このほか、ロート製薬の豪州子会社による外用鎮痛剤ブランド事業の譲受、小林製薬による中国の孫会社の売却がある。

3. 横断テーマ

3-1. 第3四半期の件数増加:投資型の増加と、売却・組織再編の集中

1〜9月の302件を取引類型別に前年同期と比べると、投資型は181件(前年同期161件)、合弁・合併・資金調達・その他は43件(同22件)、整理型は59件(同53件)、組織再編は19件(同18件)である。1〜9月の累計でみた前年同期との差は、主に投資型と、合弁・合併・資金調達・その他による。

四半期別にみると、投資型は2026年に56件、60件、65件と推移した。これに対し、整理型は18件、15件、26件、組織再編は2件、4件、13件と、第3四半期に集中して増えた。前年の第3四半期は、投資型52件、整理型12件、組織再編6件だった。

整理型を過年度と比べると、1〜9月の件数は2024年28件、2025年53件、2026年59件であり、2025年に増えた水準が2026年も続いている。

組織再編は、1〜9月の19件のうち13件が第3四半期だった。そのうち3件は既存子会社の完全子会社化(ジャパンマテリアルのシンガポール子会社、シャープ子会社のベトナムの太陽光発電関連会社、MS-Japanの豪州子会社)、4件は子会社への増資・DES(共和レザー、オプトラン、イオンファンタジー、アミタHD)、6件は生産機能やグループ会社の集約・移管(豊田自動織機、アキレス、ワイズHD、オーハシテクニカ、プラスの2件)である。

日本企業は、投資型案件を前年同期より増やす一方で、第3四半期には既存の海外子会社・持分の売却、完全子会社化、拠点の集約を集中して進めた。

3-2. 台湾・韓国の電子機器・情報通信案件が倍増

台湾と韓国における電子機器・情報通信の案件は、1〜9月で計22件と、前年同期(11件)の2倍となった。内訳は台湾12件(前年同期6件)、韓国10件(同5件)である。台湾全体の件数も、1〜9月で31件と前年同期(14件)の2倍強に増えた。

台湾では、半導体の主要企業が関与する出資・合弁が続いた。1〜3月にはキオクシアHDがDRAM開発・設計のNanya Technologyに約774億円を出資し、第3四半期にはソニーセミコンダクタソリューションズがTSMCと次世代イメージセンサーの合弁会社を設立した。半導体材料・電池では、エア・ウォーターが台湾国喬石化と共同で半導体用特殊ガスメーカー宏廣新技の株式を各35%取得し、九州電力は次世代リチウムセラミック電池開発のプロロジウムテクノロジーに資本参加した。IT分野では、伊藤忠商事が2月に台湾のITサービス会社SYSTEXと資本業務提携し、8月には伊藤忠テクノソリューションズがSYSTEXと合弁会社「CTC-SYSTEX」を設立した。GMOサイバーセキュリティ byイエラエによるサイバーセキュリティ企業TRAPA Securityへの出資もある。

韓国でも、半導体材料、光計測機器、低圧電気機器など、電子機器分野の提携や買収がみられた。ステラケミファは2月に半導体材料メーカーSoulbrain Holdingsと資本業務提携し、第3四半期には立花エレテックがコシダテックの韓国法人から半導体関連事業を譲り受けるほか、santec Holdingsが光計測機器メーカーを、河村電器産業が低圧電気機器メーカーDaeryukを買収した。IT分野では、Z Venture Capitalによる広告効果計測のAB180への出資、NE KoreaによるEC事業者向け受注管理システム「Next Engine」運営事業の譲受などがある。

3-3. 新興アジア:インドで案件数が増加、ベトナムでは減少

インドは2024年通年の17件から2025年通年には37件へと2倍以上に増え、2026年も1〜9月で31件と前年同期(23件)を上回った。1〜9月の31件のうち投資型が24件と、8割近くを占める。

第3四半期の14件は、出資7件、買収3件、組織再編2件、合弁1件、一部譲渡1件である。出資7件のうち3件は、スズキの現地子会社が運営するファンド(Next Bharat Venture Fund-2)への、スズキ、兼松、豊田通商による出資である。残る4件は現地企業への少数出資で、出資先は教育サービス会社(CPAエクセレントパートナーズ)、設置サービス会社(パーソルHD)、サプライチェーン会社(山九)、スポーツ用品販売会社(ヨネックス、株式50%)である。買収では、博報堂グループによるデジタルマーケティング会社の買収、SBSホールディングスの現地子会社による3PL事業の譲受、マクニカによる半導体・電子部品商社の株式66.6%の取得がある。

2026年7月2日の日印首脳会談では、対印民間投資10兆円の目標のもと、既に2兆円規模の投資が決定していることが示され、日印企業間の協力文書約120件が発表された。あわせて発出された「経済安全保障協力に関する日印共同宣言」では、半導体、重要鉱物、情報通信技術、クリーンエネルギー、医薬品が優先分野とされた。

ベトナムは2024年通年31件、2025年通年42件に対し、2026年は1〜9月で17件と、前年同期(30件)を下回った。第3四半期には、日本精機子会社による車載組込ソフトウェア事業のFPTグループ傘下への譲渡、NISSHAによるベトナム子会社の全株式の譲渡があった。NISSHAは同社を2026年1月に買収しており、同年中に全株式を譲渡した。

3-4. アジア太平洋からの対日M&A:同業・周辺業界による取得と金融投資

アジア太平洋の企業・投資家が日本国内の企業・事業に出資・買収する案件(アウトイン)は、2024年4件、2025年10件、2026年1〜9月12件と、件数は少ないが増えている。

アウトイン案件には、アジアの事業会社が、同業または近接する業界の日本企業・事業を取得する例が複数みられる。台湾YAGEO Corporationによる芝浦電子のTOB(2025年10月成立)、台湾Innolux Corporationによるパイオニアの買収(2025年6月)、韓国サムヤンコーポレーション子会社による曽田香料の買収(2026年6月)、インドGujarat Themis Biosynによる日本マイクロバイオファーマの買収(2026年5月)、中国杭州丙甲科技によるのむら産業子会社パックウェルの買収(2026年8月)がこれにあたる。このほか、韓国ヨギオテカンパニーによる「Relux」運営のLoco Partnersの買収のような日本市場への参入案件や、シンガポール政府系ファンドGICによるサザビーリーグ、スギHDへの出資のような金融投資家の案件がある。

売り手をみると、曽田香料は東レと三井物産、日本マイクロバイオファーマはティーキャピタルパートナーズが保有しており、パイオニアはEQTの投資先、パックウェルはのむら産業の子会社であった。日本の事業会社やファンドが保有する企業・事業の売却先として、アジアの同業・周辺業界の事業会社が買い手となる例がみられる。

4. 2026年通年に向けた示唆

第3四半期までのアジア太平洋クロスボーダーM&Aのデータから、通年に向けた示唆を5点挙げる。

  1. 関与形態の多様化:1〜9月の投資型は181件と前年同期(161件)を上回り、合弁・合併・資金調達・その他も22件から43件(うち合弁14件、合併7件、資金調達10件)とほぼ倍になった。業界別では、ファンドへの出資やファンドの組成・募集完了などの金融(ファンド)が前年同期の1件から17件に増えた。日本企業のアジア太平洋への関与は、過半数の取得や少数出資に加え、ファンドへの出資や合弁といった形態に広がっている。
  2. 中国における整理の継続:整理型が投資型を上回る国・地域は中国のみであり、中国の件数に占める整理型の割合は、2024年が36件中19件、2025年が50件中33件、2026年1〜9月が46件中24件と、3年続けて過半を占めている。中国の整理型は四半期ごとに6件、7件、11件と急増はしておらず、対象は電子機器、化学・素材などの製造拠点や関連会社が中心である。第3四半期の売却・一部譲渡11件のうち10件は、中国企業または現地企業が買い手だった。中国では、製造拠点の売却・集約が3年にわたって続いており、日本企業が売却する事業の主な買い手は中国国内の企業である。
  3. 中国以外への広がり:中国以外の整理型は、1〜9月で2024年13件、2025年32件、2026年35件と増えている。第3四半期には、タイ(イオン、住友商事、GMOインターネット)、マレーシア(大崎電気工業、新日本理化)、ベトナム(日本精機、NISSHA)、インド(亀田製菓)など10の国・地域で15件あった。組織再編も第3四半期に13件と、1〜9月の19件の大半を占めた。既存の海外事業の売却と、完全子会社化・拠点集約による再編は、中国以外の国・業界でも並行して進んでいる。
  4. 取得・出資の向かう先:取得・出資は、台湾・韓国の電子機器・情報通信(前年同期11件→22件)、インド(23件→31件、うち投資型24件)、シンガポール(41件→60件)で前年同期を上回った。形態は国ごとに異なり、台湾では半導体の主要企業との合弁・出資、インドではファンドや少数出資、シンガポールでは専門サービス会社の買収とファンド関連の出資が中心である。売却が製造拠点に多いのに対し、取得・出資は半導体・IT・サービスの分野に集まっている。
  5. 日本の事業の買い手としてのアジア企業:アジア太平洋の企業・投資家による日本企業・事業の取得は、2024年4件、2025年10件、2026年1〜9月12件と増えている。台湾のYAGEO(芝浦電子)、Innolux(パイオニア)、韓国サムヤン(曽田香料)、インドGujarat Themis Biosyn(日本マイクロバイオファーマ)など、同業・周辺業界の事業会社が、日本の事業会社やファンドの保有する企業・事業を取得している。日本企業やファンドが事業や子会社を売却する際には、国内の買い手に加え、アジアの同業・周辺業界の事業会社も買い手候補となる。

第3四半期までのアジア太平洋クロスボーダーM&Aのデータは、日本企業のアジア太平洋でのM&Aが、中国を中心とする製造拠点の売却・再編と、成長分野・市場での取得・出資の両面で進んでいることを示している。

案件ごとの詳細データは次ページをご参照ください。


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