保険代理店業界M&Aの最新動向と事例 :改正保険業法の施行と、保険会社・事業会社による代理店の売却

保険代理店業界M&A

(2026年10月更新)

保険代理店の数は減り続けており、損害保険の代理店実在数は2025年度末で約12.4万店と、10年前の約20.2万店から約39%減りました。この間、大規模な乗合代理店による保険金不正請求事案を契機に保険業法が改正され、2026年6月に施行されました。この数年の保険代理店業界M&Aを見ると、保険会社、銀行・証券会社、製造業などの事業会社が、傘下の代理店や企業内代理店を手放す案件が2024年から2026年にかけて相次ぎ、その受け皿となったのは、国内の大手代理店・上場代理店、海外の保険ブローカー、投資ファンドでした。一方、国内大手の保険グループでは、東京海上ホールディングスが海外で保険代理店や保険総代理店(MGA)を取得しています。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている保険代理店のオーナー・親会社の皆様を念頭に、保険代理店業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内大手による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. 保険代理店業界の市場構造 — 代理店数の減少と規制の強化

市場規模

損害保険では、販売の大半が代理店を経由します。日本損害保険協会によると、2025年度の元受正味保険料(保険会社が契約者から直接引き受けた保険料から解約返戻金等を差し引いたもの。国内会社・外国会社の合計)は11兆1,001億円で、このうち代理店扱が9兆8,823億円(89.0%)、直扱が1兆933億円(9.9%)、保険仲立人扱が1,244億円(1.1%)でした(日本損害保険協会「ファクトブック2026」)。

一方、代理店の数は減り続けています。同協会の統計では、損害保険の代理店実在数は2025年度末で124,024店(前年度末比11.5%減)、募集従事者数は1,736,427人(同2.4%減)でした。10年前の2015年度末は202,148店、2,059,743人であり、10年間で代理店数は約39%、募集従事者数は約16%減っています(日本損害保険協会「2025年度 損害保険代理店統計」)。2025年度末の代理店の内訳は、専業が22,502店(18.1%)、副業(兼業)が101,522店(81.9%)、1社の保険会社と委託契約を結ぶ専属が95,362店(76.9%)、複数社と契約する乗合が28,662店(23.1%)でした。

生命保険では、保険会社の営業職員が主な販売チャネルです。生命保険協会の統計では、2024年度末の登録営業職員数は241,507人で、代理店数は法人代理店31,339店、個人代理店43,959店、代理店使用人数は914,233人でした。法人代理店は9年連続、個人代理店は10年連続、代理店使用人数は7年連続で減少しています(生命保険協会「2025年版 生命保険の動向」)。生命保険文化センターの2024年度の調査では、直近に加入した契約の加入チャネルは、2人以上世帯で「生命保険会社の営業職員」が56.7%、「保険代理店の窓口や営業職員」が15.7%でした。後者は2018年度の調査で17.8%、2021年度の調査で15.3%です(生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」)。

代理店の形態別の特性

保険代理店は、顧客との接点の作り方によって、収益の源泉と経営資源が大きく異なります。M&Aでも、どの形態で何を持っているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。

形態本稿で取り上げる主な例事業上の特性
来店型ショップほけんの窓口、保険見直し本舗、保険クリニック(アイリックコーポレーション)、保険テラス(ETERNAL)複数の保険会社の商品を店舗で比較・提案する。店舗網と集客、店舗運営の仕組みが収益を左右
訪問型マネードクター(FPパートナー)、MFA、ホロスプランニング募集人が顧客を訪問して提案する。募集人の採用・育成と定着が事業の規模を決める
企業内代理店三菱電機保険サービス、ENEOS保険サービス、三菱ケミカルグループのダイヤリックス事業会社のグループ会社として、親会社グループと取引先の保険を扱う。親会社グループのリスク管理と結びつく
地域の専業・兼業代理店損害保険の専属代理店、自動車販売・整備などの兼業代理店損害保険の代理店の81.9%が兼業、76.9%が専属(2025年度末)。地域の個人・法人の顧客との取引関係が基盤
Web・オンライン保険市場(アドバンスクリエイト)比較サイト等での集客とオンライン面談を組み合わせる。提携代理店への送客も行う

形態の区分は本稿での整理です。損害保険代理店の専業・兼業、専属・乗合の比率は日本損害保険協会の統計によります。

業界再編を動かす5つの要因

  1. 規制の強化 — 2023年11月、保険金不正請求事案を受けて、関東財務局は大規模な乗合損害保険代理店の登録を取り消し、金融庁は2023年12月に損害保険大手4社に保険料調整行為(保険会社間で保険料の水準を事前に調整する行為)を理由とする業務改善命令を、2024年1月には損害保険会社1社とその持株会社に代理店管理等を理由とする業務改善命令を出しました。これを受けて改正された保険業法は2025年5月30日に成立し、2026年6月1日に施行されました。改正法は、一定規模以上の乗合損害保険代理店に、法令等遵守責任者の設置、苦情処理、兼業の業務が保険金の支払いに不当な影響を及ぼさないよう監視する体制の整備を義務付け、政令により大規模な乗合生命保険代理店にも同様の体制整備を求めています。保険会社による代理店への過度な便宜供与(代理店やその関係先への物品購入・役務提供などの見返り)、不適切な出向、代理店手数料の算出方法(規模・増収率に偏らず業務品質を重視しているか)については、改正法の施行に先立ち、監督指針の改正が2025年8月28日から適用されています(金融庁「保険業法の一部を改正する法律案 説明資料」、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(2025年8月28日))。さらに、乗合代理店の比較推奨販売(複数の保険会社の商品を比較したうえで特定の商品を推奨する販売)に関する新たな規律は、2028年3月1日に施行・適用されます(金融庁 2026年8月28日公表)。規制の執行も続いており、2025年8月には、上場の訪問型代理店FPパートナーが、推奨販売の適切性を確認する態勢の不備や、保険会社からの便宜供与を重視した推奨商品の選定などを理由に、関東財務局から業務改善命令を受けました。
  2. 代理店の減少と大型化 — 上記のとおり、損害保険の代理店数は10年間で約39%減りました。金融庁の審議会資料によると、2022年度には、所属保険会社15社以上などの基準に該当する規模の大きい損害保険代理店が約450店(代理店全体の0.3%)で、同年度の元受正味保険料の26.5%(約2.5兆円)を扱っていました(金融庁 損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ 第1回 資料3)。乗合代理店の子会社を売却したSBI新生銀行は、売却の背景として、代理店数の減少と大型化による再編が進み、規制の厳格化に伴って保険会社から求められる業務品質の水準が高まっていることを挙げています(第3章 事例⑥)。
  3. 保険会社・金融機関・事業会社による保有の見直し — 2024年から2026年にかけて、生命保険会社(朝日生命、マニュライフ生命、第一生命)、銀行・証券会社(山口フィナンシャルグループ、SBI新生銀行、東海東京フィナンシャル・ホールディングス)、事業会社(三菱ケミカルグループ、三菱電機、三菱マテリアル、ENEOS、コマツ)が、傘下の代理店や企業内代理店の事業を譲渡し、または譲渡を決めました(第3章。コマツの譲渡は2027年1月の完了予定)。三菱電機は保険代理店を取り巻く環境の変化を踏まえて保険サービス事業の位置づけを見直したと説明し、三菱マテリアルは事業の選択と集中を理由に挙げています。
  4. 販売チャネル・顧客接点を目的とする出資 — 生命保険の加入チャネルに占める保険代理店の比率は、2018年度以降の調査で15〜18%で、保険会社の営業職員に次ぐ販売経路です。代理店を販売チャネルとして取り込む出資は以前から行われてきました。日本生命は2015年にライフサロンとライフプラザパートナーズを、2017年に店舗型乗合代理店のほけんの110番(当時89店)を子会社化し、伊藤忠商事は2014年にほけんの窓口グループに資本参加して2019年に連結子会社としました。2025年以降も、三井住友カードとソニー生命が2025年3月に乗合代理店Nexsolの株式を取得し(取得後の出資比率は三井住友カード70%、ソニー生命20%)、松井証券は同年12月に上場代理店エージェントIGホールディングスの筆頭株主となりました(事例⑥)。松井証券は、自社のオンラインサービスでは十分に届かない顧客との接点を作ることを出資の目的に挙げています。
  5. 事業承継 — 中小企業庁は2019年の資料で、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを試算していました(中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」)。保険代理店では、FPパートナーが2024年に契約の譲受を公表した際、後継者不在等で廃業する代理店が増えていると説明しています。同社は同年12月、兵庫県明石市の代理店あんしんプラザ(同社の公表文では創業25年)から、生損保の契約25,462件を従業員とともに譲り受けることで合意しました。

2. 業界プレイヤー構図

保険会社・大手グループ・ファンドの傘下にある大手代理店

会社本社規模資本関係・直近の動き
ほけんの窓口グループ東京都千代田区営業収益469億円(2024年6月期)、707店(2026年3月末)伊藤忠商事が2019年に連結子会社化。住友生命、日本生命も株主。2025年に代理店4社を取得
東京海上日動パートナーズ東京都中央区損害保険の取扱保険料1,191億円(2026年3月時点)東京海上日動の100%子会社。2026年7月に全国8エリアの代理店を一社に統合
LHL東京都新宿区―日本生命の100%子会社。ほけんの110番、ライフプラザパートナーズ等を傘下に置く持株会社(2019年4月に体制を移行)
保険見直し本舗グループ東京都新宿区約350店(2025年9月時点)2025年9月にKKRが取得。2026年3月にかんぽ生命が少数出資

東京海上日動パートナーズの統合は、同じ保険会社の100%出資の代理店同士の合併であり、本稿では再編事例に数えません。ただし、保険会社が出資する代理店でも、拠点と管理機能を集約する動きが進んでいることを示しています。

上場の代理店

会社本社売上高(営業収益)主な形態・直近の動き
FPパートナー東京都台東区321億円(2025年11月期)訪問型(マネードクター)。東証プライム。2024年から2025年にかけて非上場の代理店2社を取得し、契約の譲受を継続。2025年8月に業務改善命令
エージェントIGホールディングス東京都新宿区131億円(2025年12月期、持株会社の第1期)名証メイン(2025年7月上場)。代理店のM&A・事業承継を中核とする。松井証券が約27%を保有
アイリックコーポレーション東京都文京区110億円(2026年6月期)来店型「保険クリニック」と保険比較システム。東証グロース。2025年に他社の店舗事業を相次いで譲受
アドバンスクリエイト大阪市中央区69億円(2025年9月期)比較サイト「保険市場」とオンライン面談。東証プライム。2026年に保有契約の一部をエージェントIGホールディングスのグループ会社へ移管
ブロードマインド東京都渋谷区53億円(2026年3月期)保険代理・住宅ローン代理・金融商品仲介を組み合わせる。東証グロース。2025年に来店型店舗の事業をアイリックコーポレーションへ譲渡

本稿の事例で、外部からの取得を重ねている上場代理店は、FPパートナー、エージェントIGホールディングス、アイリックコーポレーションです。一方で、アドバンスクリエイトは保有契約の一部を、ブロードマインドは2024年に取得した来店型店舗の事業を、それぞれ他社へ移しています。

保険会社・金融機関・事業会社の代理店子会社と企業内代理店

保険会社、銀行・証券会社、事業会社のグループには、代理店子会社や企業内代理店が置かれてきました。前者は保険会社の販売網や金融機関の顧客向けサービスとして、後者は親会社グループと取引先の保険の手配とリスク管理を担う会社として設けられたものです。2024年から2026年にかけて、このうち複数の会社が、代理店、保険ブローカー、ファンド傘下の代理店への譲渡を決めました(第3章 事例①②③⑥⑧⑨)。

オーナー系の非上場企業とファンドの出資先

損害保険の代理店のうち、法人は78,853店(63.6%)、個人は45,171店(36.4%)です(2025年度末)。非上場の代理店には、創業者や地域の経営者が保有する会社が多くあります。FPパートナーが取得したプレステージ(長野市、1990年設立、損保6社・生保12社を取り扱う)やサプライズジャパン(千葉県市原市、1997年設立、損害保険は東京海上日動の専属)は、こうした非上場の代理店の例です。

ファンドの出資を受けた代理店もあります。クレアシオン・キャピタルが管理・運営するファンドは、2023年に訪問型の乗合代理店Jリスクマネージメント(新潟市)に、2024年に来店型の「ほけんのいろは」を運営するゼロナビ(埼玉県上尾市)に資本参加し、両社の持株会社(2023年設立、2025年にLIVIA Holdingsへ商号変更)のもとに置いています。クレアシオン・キャピタルは両社への資本参加の公表文で、株式上場を実現することが最適と考えているとしています。

関西への集積

本稿で取り上げる企業のうち、アドバンスクリエイト(大阪市中央区)、ホロスホールディングス(京都市中京区)、保険テラスを運営するETERNAL(神戸市中央区)、あんしんプラザ(兵庫県明石市)は、関西に本社を置いています。このうち、ホロスホールディングスは海外の保険ブローカーに、ETERNALはファンド傘下の大手代理店に、あんしんプラザの契約は上場代理店に、それぞれ移りました(第3章)。


3. 国内の保険代理店業界M&A事例 — 保険会社・事業会社からの切り出しと、代理店の集約

事例① ほけんの窓口グループ × 保険会社・金融機関の代理店子会社ほか(2025年)— 来店型大手による4社の連続取得

伊藤忠商事の連結子会社で、来店型ショップを682店(2025年7月末)展開するほけんの窓口グループは、2025年5月から8月にかけて、代理店4社の株式の取得を相次いで公表しました。九州で保険ショップを運営するプロテック(福岡市)の全株式、山口フィナンシャルグループが保有する保険ひろば(山口県周南市)の90%、朝日生命が保有するF.L.P(横浜市、保険ショップ「保険相談サロンFLP」「ほけんの扉」を関東・関西中心に運営)の全株式、マニュライフ生命が保有するマニュライフ・ファイナンシャル・アドバイザーズ(東京都、訪問型、全国8拠点、募集人250名以上)の全株式です。マニュライフ・ファイナンシャル・アドバイザーズは2025年9月1日に親会社が変わり、MFAに社名を変更しました。取得価額は4件とも開示されていません。

ほけんの窓口グループは取得の理由として、地域のお客さまとのつながりを広げること、より幅広い層のお客さまとつながることを挙げています。売り手のマニュライフ生命は、MFAの訪問型のアドバイザリーと、ほけんの窓口グループの全国の店舗網を組み合わせることを譲渡の理由に挙げました。ほけんの窓口グループは、取得したプロテック、F.L.P、保険ひろばを吸収合併する予定と公表しています(効力発生日はそれぞれ2025年10月、2025年12月、2026年7月の予定)。

本案件は、(i)生命保険会社と地方銀行グループが、傘下の代理店を、大手代理店に移した、(ii)来店型の大手代理店が、店舗型の地域代理店に加えて、訪問型の代理店も取得し、顧客との接点の形を広げた、(iii)取得した代理店の吸収合併を予定し、運営の一体化を進めている、という点を示しています。

事例② 第一生命 × アセットガーディアン(2025年)— 保険会社の代理店子会社を事業ごとに分けて譲渡

第一生命は2025年11月、100%子会社の代理店アセットガーディアン(2000年設立、保険ショップ「保険 de あんしん館」を運営)の事業を3つに分けて移すと公表しました。保険ショップ事業は上場代理店のアイリックコーポレーションへ、法人向けの事業はホロスプランニングへ、いずれも2025年12月1日に事業譲渡し、残る訪問型代理店事業等はアルファコンサルティングが吸収合併するとしています。アイリックコーポレーションは、2025年12月1日に首都圏の2店舗と既存の保険契約の事業を譲り受け、同月8日に「保険クリニック」の直営店として開店したと開示しました。法人向け事業の譲渡では、主に従業員の雇用が承継されます。

第一生命は、中期経営計画の出資戦略を踏まえ、よりシナジーを創出できる相手に事業を譲渡・合併することが、アセットガーディアンの既存事業の継続・発展にとって最善と判断したと説明しています。

本案件は、(i)保険会社が代理店子会社を1社に売却するのではなく、事業ごとに異なる買い手に移した、(ii)店舗と契約は来店型の上場代理店に、法人向け事業の人員は訪問型の代理店に移るなど、買い手ごとに引き継ぐ経営資源が異なっていた、という点を示しています。

事例③ 三菱マテリアル、コマツ × 国内の代理店(2025〜2026年)— 企業内代理店の事業譲渡

三菱マテリアルは2025年11月、グループ会社の菱光サービスの保険代理店事業を、エムエスティ保険サービス(東京都新宿区)に2026年3月31日付で譲渡する予定と公表しました。理由について、業界最大級の事業規模を持つエムエスティ保険サービスへ譲渡し、事業の選択と集中を進めるとしています。コマツは2026年10月、100%子会社のコマツコーポレートサービスの保険代理店事業を、豊田通商の100%子会社である豊通保険パートナーズ(名古屋市)に譲渡する契約を同年6月に締結したと公表しました。譲渡の完了は2027年1月1日の予定です。コマツは、豊通保険パートナーズの事業基盤のもとで活かしていくことが、安定的かつ質の高い保険サービスの提供に資すると判断したと説明しています。

本案件は、(i)製造業のグループ会社が担ってきた保険代理店事業が、保険の取扱いを本業とする代理店に移されている、(ii)譲渡の形は株式ではなく事業譲渡であり、売り手のグループ会社は残したまま代理店事業だけを移している、という点を示しています。

事例④ FPパートナー × 非上場の代理店(2024〜2025年)— 訪問型の上場代理店による株式取得と契約の譲受

訪問型の乗合代理店FPパートナーは、2024年1月に千葉県市原市のサプライズジャパン(1997年設立、損害保険と生命保険の代理店)の全株式を、2025年9月に長野市のプレステージ(1990年設立)の全株式を取得しました。いずれも理由として、損害保険事業の拡大と生命保険の販売強化を挙げ、取得価額は開示していません。サプライズジャパンは2025年8月に同社に吸収合併されました。同社は株式の取得に加えて、契約の譲受も進めています。2024年7月には、清算されるオリックス生命の100%子会社ライフタイムコンサルティングから27,599件の契約を、2024年12月には、あんしんプラザ(兵庫県明石市)から生損保の契約25,462件を従業員とともに譲り受けることを公表しました。

本案件は、(i)上場代理店が、非上場の代理店の株式の取得と、契約・従業員の譲受の両方を使って規模を広げている、(ii)代理店の譲渡には、会社ごとの売却に加えて、保有契約を移す形がある、(iii)買い手は、訪問型の生命保険の販売に、取得先の損害保険の顧客基盤を組み合わせることを狙っている、という点を示しています。

事例⑤ アイリックコーポレーション × ブロードマインドの来店型店舗(2025年)— 上場代理店間の店舗事業の譲渡

アイリックコーポレーションは2025年7月1日、ブロードマインドが運営する来店型ショップ「マネプロショップ」11店舗と既存の契約の事業を3億2,784万円で譲り受けました。対象事業の2025年3月期の売上高は3億3,593万円、営業損失は1億1,637万円でした。この11店舗は、ブロードマインドが2024年2月にセブン・フィナンシャルサービスから4億8,200万円で譲り受けた「セブン保険ショップ」12店舗に由来します。アイリックコーポレーションは、売り手が来店型店舗の運営に課題を抱え、新規来店者数が伸び悩んでいたことを譲受の背景として挙げ、「保険クリニック」ブランドの直営店に切り替えて収益性を改善するとしています。

本案件は、(i)流通グループから上場代理店に移った来店型店舗が、約1年半後に別の上場代理店に再び移った、(ii)譲受価額は対象事業の売上高とほぼ同水準で、営業損失を計上していた事業でも、店舗網と契約に対価が付いた、(iii)買い手は、自社の店舗運営の仕組みとブランドを当てはめて収益を改善することを取得の根拠としている、という点を示しています。

事例⑥ エージェント・インシュアランス・グループ × ファイナンシャル・ジャパン(2024年)ほか — 代理店の集約を掲げる上場代理店

エージェント・インシュアランス・グループは2024年4月1日、SBI新生銀行から乗合代理店ファイナンシャル・ジャパンの全株式を取得しました。売り手のSBI新生銀行は、代理店数の減少と大型化による再編が進み、規制の厳格化に伴って保険会社からの品質要求が高まっていることを背景に挙げています。同グループの持株会社エージェントIGホールディングスは、保険代理店のM&A・事業承継を中核事業とし、2025年7月に名証メインに上場しました。2025年12月には、松井証券が第三者割当増資と既存株主からの譲受により約27%を取得して筆頭株主となりました。株式を譲り渡した既存株主は東京海上日動と東京海上日動あんしん生命で、東京海上日動の持分は譲渡によりなくなりました。松井証券は、自社のオンラインサービスでは十分に届かない顧客との接点を作ることを出資の目的に挙げています。さらに2026年9月、エージェント・インシュアランス・グループは、アドバンスクリエイトから損害保険と生命保険の一部の契約を譲り受けました。

本案件は、(i)銀行グループが代理店子会社を、代理店の集約を事業とする会社に売却した、(ii)保険会社が保有株式を手放し、証券会社が筆頭株主となるなど、代理店に資本を出す主体が変わっている、(iii)株式の取得と契約の譲受を組み合わせて規模を広げている、という点を示しています。

事例⑦ Howden × ホロスホールディングス(2025年)— 海外の保険ブローカーによる乗合代理店の過半取得

英国の保険ブローカーであるHowden(ハウデン)は2025年7月1日、京都市に本社を置くホロスホールディングスの株式の約68.3%を取得しました。中核子会社のホロスプランニングは2001年設立の乗合代理店で、全国20拠点、募集人400名超を擁し、生命保険を中心に扱っています。ハウデンは日本で、2024年に保険リンク証券の運用会社との資本業務提携、再保険ブローカーの設立、キャプティブ管理会社の買収を行っており、ホロスの取得により、個人、中小企業、大企業、保険会社に全国規模で包括的なサービスを提供できる体制が整うとしています。同社の最高経営責任者は、日本の市場では地域に根ざした高度な専門性が不可欠であると考えてきたと述べています。

本案件は、(i)海外の保険ブローカーが、日本の乗合代理店の過半数を取得して、個人向けの代理店事業に参入した、(ii)買い手は、対象会社の全国の拠点と募集人を、個人から大企業までを対象とする全国規模のサービス提供の基盤と位置づけている、(iii)創業者が設立した関西の代理店が、海外の買い手の日本事業の中核になった、という点を示しています。

事例⑧ Marsh・Aon × 事業会社の企業内代理店(2025〜2026年)— 海外の保険ブローカーへの企業内代理店の譲渡

米国の保険ブローカーであるMarsh(マーシュ)の日本法人マーシュジャパンは、2025年11月に三菱電機保険サービスを取得して完全子会社とし(新社名はMEIS保険サービス)、2026年9月30日にENEOS保険サービスの株式とENEOSマテリアルトレーディングの代理店事業の取得を完了しました(新社名はEMIS保険サービス)。保険ブローカーのAon(エーオン)は、2025年3月1日に三菱ケミカルグループの企業内代理店ダイヤリックスの代理店事業を譲り受け、これにより日本のエーオンに100名が加わりました。三菱ケミカルグループと三菱電機はいずれも、保険代理店を取り巻く環境の変化を譲渡の理由に挙げています。ENEOS側は、最適なパートナーのもとで対象会社の強みと成長の可能性を引き出すと説明しています。

本案件は、(i)大手事業会社の企業内代理店の受け皿として、海外の保険ブローカーが買い手になっている、(ii)マーシュが取得した会社は、社名に旧親会社グループとのつながりを残しつつ、同社の日本事業の一部として運営されている、という点を示しています。

事例⑨ KKR × 保険見直し本舗グループ(2025〜2026年)— ファンド間の売買と、その後の追加取得

米国の投資ファンドKKRは2025年9月16日、アドバンテッジパートナーズが助言するファンドから、来店型ショップ「保険見直し本舗」約350店舗を運営する保険見直し本舗グループの買収を完了しました。同グループは40社以上の保険会社の商品を扱い、店舗、コールセンター、Webを組み合わせて販売しています。2026年3月31日には、保険見直し本舗グループが、東海東京フィナンシャル・ホールディングスから、来店型ショップ「保険テラス」を40店舗以上運営するETERNAL(神戸市)の全株式を取得し、同日、かんぽ生命が同グループに少数出資しました。かんぽ生命は、自社の商品を同グループで販売することを出資の目的とはしないと明記しています。

本案件は、(i)来店型の大手代理店が、ファンドからファンドへ売却された、(ii)ファンドの傘下で、証券グループの代理店子会社を取得して規模を広げている、(iii)保険会社が、自社商品の販売を目的としない少数出資の形で、乗合代理店に資本を入れている、という点を示しています。


4. クロスボーダーの保険代理店業界M&A事例 — 国内大手による海外での買収・出資

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内大手がどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での取得を検討する事業会社・金融機関にとっては、同業大手の投資基準の参照例になります。以下の事例では、買い手は特定の顧客層や分野に特化した代理店を選び、その顧客基盤と販売力、あるいは既存事業と重複しない引受事業を取得の理由に挙げています。

本稿の調査の範囲では、国内の保険代理店が海外の代理店を取得した公表事例は確認できませんでした。本稿の調査で、海外の保険代理店や保険総代理店(MGA:保険会社から引受けの権限を委ねられて商品の設計・販売を行う代理店)の取得を確認できた国内の買い手は、東京海上ホールディングスです。

事例⑩ 東京海上HD × Ignyteのコレクターカー保険代理店事業(2025年10月取得完了)— 米国の専門分野の代理店

東京海上ホールディングスは2025年10月31日、米国子会社のPhiladelphia Insurance Companies(PHLY)を通じて、米Ignyte Insuranceの米国のコレクターカー(製造から25年以上経った車両)向け個人自動車保険の代理店事業を、6億1,500万米ドル(約947億円)で取得しました。対象事業の2024年度の取扱保険料は約1億6,400万米ドル、従業員は約250名で、取得価額は取扱保険料の約3.8倍に当たります(開示値からの当社計算)。売り手のIgnyte Insuranceは、米国の投資ファンドであるカーライルの投資先です。東京海上ホールディングスは、対象事業の優れたマーケティング力と収益性の高い良質な顧客基盤、高齢化するベビーブーマー世代を背景とする市場の成長性、PHLYの既存事業とのシナジーを取得の理由に挙げ、先進国のスペシャルティ保険を中心とするボルトオン型の買収の一つと位置づけています。

本案件は、(i)国内大手の保険グループが、保険会社ではなく、特定の顧客層に特化した保険代理店を取得した、(ii)売り手がファンドであり、ファンドの出口として保険グループが取得した、(iii)買い手は、対象の顧客基盤と販売力を、自社の引受事業と組み合わせることを取得の根拠としている、という点を示しています。

事例⑪ 東京海上HD × Direct Commercial Limited(2026年9月取得完了)— 英国の保険総代理店

東京海上ホールディングスは2026年8月、米国子会社のHCC Insurance Holdings(TMHCC)を通じて、英国の保険総代理店Direct Commercial Limitedを2億6,500万英ポンド(約573億円)で取得すると公表し、同年9月に取得の完了を公表しました。対象会社は、商業用自動車、特に短・中距離の貨物輸送車両の保険に特化しており、取扱う収入保険料は約2億英ポンド(約432億円)、従業員は約200名です。取得価額は収入保険料の約1.3倍に当たります(開示値からの当社計算。事例⑤の倍率は売上高、事例⑩⑪は保険料を基準としており、相互に比較はできません)。東京海上ホールディングスは、TMHCCの既存のポートフォリオと重複しない保険引受ビジネスを取り込み、利益成長と事業の多様化を実現するとしています。

本案件は、(i)国内大手の保険グループが、事例⑩に続き、海外の専門分野の代理店を取得した、(ii)取得の基準として、既存事業と重複しないことと、利益成長への寄与を示している、という点を示しています。

事例⑫ 東京海上HD・住友商事 × bolttech(2022年〜)— 海外の保険販売プラットフォームへの出資

東京海上ホールディングスは2022年10月、シンガポールのインシュアテック企業bolttechと資本業務提携を結びました。bolttechは2020年設立で、約30か国で事業を展開し、通信会社やEC事業者など800社超と提携して、商品やサービスに保険を組み込んで販売する仕組み(エンベデッド・インシュアランス)を提供しています。提携の目的は、エンベデッド・インシュアランスのグローバル展開と、デジタルで完結する保険の加入手続きの実現です。2025年6月には、住友商事が同社のシリーズCの資金調達(調達総額1億4,700万米ドル、評価額21億米ドル)に参加しました。

本案件は、(i)国内の保険グループと総合商社が、海外の保険販売の仕組みに少数出資で関与している、(ii)出資先が、店舗や募集人ではなく、他業種の事業者の顧客接点を通じて保険を販売する事業である、という点を示しています。

国内大手の保険グループは、海外で保険会社本体も取得しています。SOMPOホールディングスは2026年2月にバミューダのAspenを約34.8億米ドルで、日本生命は2025年10月にResolution Lifeの残りの株式(約77%)を約84億米ドルで取得しました。事例⑩⑪の代理店の取得はこれらと比べて規模が小さく、取得の理由は、事例⑩では顧客基盤と販売力、事例⑪では既存事業と重複しない引受事業の追加でした。


5. 保険代理店業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

保険代理店のM&Aでは、財務数値に加えて、保険代理店に固有の要素が確認されます。事例の当事者が公表した取得・譲渡の理由と、規制の内容をもとに、契約・顧客基盤、販売体制・人材、管理体制・保険会社との関係の3つに整理します。

  1. 契約・顧客基盤 — 保有契約の件数と種類、損害保険と生命保険の構成、顧客層と地域、契約の継続状況です。事例④の買い手は、株式の取得とは別に、2万件を超える契約の譲受を重ねています。事例⑩の買い手は、収益性の高い良質な顧客基盤を取得の理由に挙げ、事例⑤の譲渡でも、店舗とあわせて既存の契約が移されました。
  2. 販売体制・人材 — 拠点・店舗の数と立地、募集人の人数と定着、来店型・訪問型・企業内などの販売の形態です。事例①の売り手は、訪問型の代理店と買い手の店舗網を組み合わせることを譲渡の理由に挙げ、事例②の法人向け事業の譲渡では、主に従業員の雇用が承継されました。事例⑦の買い手は、地域に根ざした専門性と全国の拠点・募集人を取得の理由としています。事例⑤の買い手は、店舗の運営方法とブランドを自社のものに切り替えることを収益改善の前提にしています。
  3. 管理体制・保険会社との関係 — 法令等遵守責任者や内部監査などの体制、推奨販売の手続き、苦情処理、顧客情報の管理、所属保険会社との委託契約の内容と構成です。改正保険業法とその内閣府令により、一定規模以上の乗合代理店には、法令等遵守責任者の設置、苦情処理、兼業の監視、内部監査などの体制整備が義務付けられ、比較推奨販売の新たな規律も2028年3月に施行されます(第1章)。事例⑥の売り手は、規制の厳格化に伴う保険会社からの品質要求の高まりを売却の背景に挙げています。

6. 保険代理店業界の買い手の類型

本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、評価の観点、統合の進め方、譲渡後の経営への関与のあり方が異なります。

  1. 国内の代理店 — 大手代理店・上場代理店のほけんの窓口グループ(事例①)、アイリックコーポレーション(事例②⑤)、FPパートナー(事例④)、エージェント・インシュアランス・グループ(事例⑥)と、事業会社の企業内代理店を引き受けたエムエスティ保険サービス、豊田通商グループの豊通保険パートナーズ(事例③)など。事例の買い手は、取得した会社を吸収合併し、あるいは自社のブランドの店舗に切り替えるなど、運営を一体化しています。
  2. 海外の保険ブローカー — ハウデン(事例⑦)、マーシュ、エーオン(事例⑧)。乗合代理店の過半取得により個人向けの代理店事業に参入し、あるいは企業内代理店を取得して法人向けの事業を広げています。
  3. 投資ファンド — KKR(事例⑨)、クレアシオン・キャピタル(第2章)。ファンドの傘下で追加の取得を行い規模を広げる例と、株式上場を目指す例があります。売り手としても、アドバンテッジパートナーズ(事例⑨)、カーライル(事例⑩)が登場しています。

このほか、松井証券(事例⑥、約27%)、かんぽ生命(事例⑨、少数出資)、三井住友カード(Nexsol、70%)のように、金融機関・保険会社が代理店に出資する例があります。海外では、東京海上ホールディングスが代理店・MGAの買い手となっています(事例⑩⑪)。


7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、保険代理店の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

事例の対象先は、保険会社・金融機関の代理店子会社、事業会社の企業内代理店、非上場の代理店、上場代理店の店舗・契約に分かれます。代理店子会社では、生命保険会社3社と銀行・証券グループ3社の傘下にあった代理店(事例①②⑥⑨)が、国内の大手代理店・上場代理店とファンド傘下の代理店に移りました。企業内代理店では、三菱マテリアルとコマツのグループ会社の代理店事業が国内の代理店に(事例③)、三菱電機、ENEOS、三菱ケミカルグループの企業内代理店の株式・事業が海外の保険ブローカーに(事例⑧)譲渡され、または譲渡が決まっています。非上場の代理店では、プレステージとサプライズジャパンが上場代理店に(事例④)、創業者が設立した京都のホロスホールディングスの約68.3%が海外の保険ブローカーに(事例⑦)渡りました。上場代理店の間では、店舗事業(事例⑤)と保有契約の一部(事例⑥)が移されています。

投資ファンドは、買い手と売り手の両方で登場しています。KKRは、アドバンテッジパートナーズが助言するファンドから保険見直し本舗グループを取得し、その傘下で、東海東京フィナンシャル・ホールディングスから代理店子会社のETERNALを取得しました(事例⑨)。クレアシオン・キャピタルのファンドは、訪問型と来店型の代理店2社に資本参加して持株会社のもとに置き、株式上場を最適と考えているとしています(第2章)。海外では、カーライルの投資先であるIgnyte Insuranceの代理店事業を東京海上ホールディングスが取得しており、ファンドの出口として保険グループが買い手となった例です(事例⑩)。

代理店子会社と企業内代理店は親会社グループの判断で譲渡が決まり、非上場の代理店は公開情報が限られるため、取得には親会社やオーナーへの直接の打診が必要になります。

② 取引の形

事例には、全株式の取得(事例①のプロテック・F.L.P・MFA、事例④⑥)、過半数の取得(事例①の保険ひろば90%、事例⑦の約68.3%)、代理店子会社の事業を分けて複数の買い手に移す形(事例②)、売り手のグループ会社を残したまま代理店事業だけを移す事業譲渡(事例③、事例⑧のダイヤリックス)、店舗と契約の事業譲渡(事例⑤)、保有契約を従業員とともに移す形(事例④のあんしんプラザ)、契約の一部のみを移す形(事例⑥のアドバンスクリエイト)、ファンドからファンドへの売却(事例⑨)、少数出資(事例⑥の松井証券は第三者割当増資と既存株主からの譲受で約27%、事例⑨のかんぽ生命)があります。

価格を開示した事例では、営業損失を計上していた店舗事業が、対象事業の売上高とほぼ同水準の3億2,784万円で譲渡されました(事例⑤)。海外では、開示値から算出した参考値で、事例⑩の取得価額は取扱保険料の約3.8倍、事例⑪は収入保険料の約1.3倍です(基準が異なるため、事例⑤とは比較できません)。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

マニュライフ生命は、MFAの訪問型のアドバイザリーと、ほけんの窓口グループの全国の店舗網を組み合わせることを譲渡の理由に挙げ(事例①)、第一生命は、よりシナジーを創出できる相手に事業を譲渡・合併することが、アセットガーディアンの既存事業の継続・発展にとって最善と判断したとしています(事例②)。SBI新生銀行は、代理店の再編と、規制の厳格化に伴う保険会社からの品質要求の高まりを売却の背景に挙げました(事例⑥)。事業会社では、三菱マテリアルが事業の選択と集中を、三菱ケミカルグループと三菱電機が保険代理店を取り巻く環境の変化を理由とし(事例③⑧)、コマツは、豊通保険パートナーズの事業基盤のもとで活かしていくことが、安定的かつ質の高い保険サービスの提供に資すると判断したとしています(事例③)。事例②の法人向け事業の譲渡では、主に従業員の雇用が承継されています。

これらの説明からは、事例の売り手が、譲渡先の事業基盤のもとで保険サービスの提供と事業を継続できるかを、譲渡先の選定の基準としていたことがうかがえます。


8. 保険代理店のオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

事例の買い手は、国内の大手代理店・上場代理店、海外の保険ブローカー、ファンドに分かれます(第7章①)。代理店の形態別に見ると、企業内代理店の買い手は国内の代理店と海外の保険ブローカー(事例③⑧)、来店型の代理店の買い手は国内の大手代理店とファンド(事例①⑤⑨)、関西の訪問型の乗合代理店の買い手は海外の保険ブローカー(事例⑦)でした。FPパートナーは、後継者不在等で廃業する代理店が増えていると説明したうえで、非上場の代理店の株式の取得と契約の譲受を続けています(事例④)。代理店に出資する金融機関もあり、三井住友カードとソニー生命がNexsolに、松井証券がエージェントIGホールディングスに(事例⑥)、かんぽ生命が保険見直し本舗グループに(事例⑨)出資しています。買い手候補は、これらの先の中から、自社の契約・顧客・拠点と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(契約・顧客基盤、販売体制・人材、管理体制・保険会社との関係)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。保有契約の構成と継続状況、募集人の人数と定着、拠点の立地に加えて、改正保険業法と監督指針が求める体制がどこまで整っているかも、買い手が確認する項目です。事例⑤では、営業損失を計上していた店舗事業にも、買い手が自社の運営に組み込んだ後の収益改善を前提に対価を付けました。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、募集人・従業員と顧客との関係、所属保険会社との委託契約、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。時期については、改正保険業法が2026年6月に施行され、比較推奨販売の新たな規律が2028年3月に施行されることを踏まえ、自社の体制整備を単独で進めるのか、買い手の体制のもとで進めるのかを含めて、選択肢を整理しておくことが必要です。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。保険代理店を含む金融サービスの分野で、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での保険代理店の取得・出資を検討される事業会社・金融機関・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。保険代理店業界では、上場代理店に加えて、公開情報の少ない非上場のオーナー企業や、保険会社・事業会社のグループ内の代理店が対象となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の大手代理店・上場代理店に限らず、ファンド、代理店への出資を進める金融機関に加えて、海外の保険ブローカーなどの戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の大手代理店・上場代理店、ファンド、金融機関、海外の戦略買い手まで、貴社の契約・顧客・拠点と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:保有契約の構成、募集人と拠点、所属保険会社との委託契約、改正保険業法に対応した管理体制など、保険代理店業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:募集人・従業員の雇用、顧客への対応の継続、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での取得・出資を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料・官公庁と業界団体の公表資料等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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