人材派遣業界M&Aの最新動向と事例 :ファンドによる非公開化と中核領域への集中

人材派遣業界M&A

(2026年10月更新)

国内の労働者派遣事業の年間売上高は、2024年度に約9.9兆円となりました。この数年の人材派遣業界M&Aを見ると、テクノプロ・ホールディングス(テクノプロHD)、アウトソーシング、フォーラムエンジニアリングといった上場の人材会社が、海外の投資ファンドによる公開買付けを経て非公開化しました。並行して、富士通や三菱ケミカルがグループの人材会社を人材大手に売却し、上場の人材会社の間では、事業の交換や、ファンドが非公開化した会社の事業の取得によって、経営資源を中核の領域に寄せる動きが続いています。代表者が保有する株式を同業や異業種の事業会社に譲渡する案件も、2025年から2026年にかけて開示されています。

本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている人材派遣・人材紹介会社のオーナー・親会社の皆様を念頭に、人材派遣業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内大手による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。


1. 人材派遣業界の市場構造 — 拡大する市場と再編の要因

市場規模

厚生労働省の集計によると、2024年度の労働者派遣事業の年間売上高は9兆9,005億円(前年度比9.4%増)、派遣労働者数は約220万人(同3.9%増)でした。派遣労働者のうち、無期雇用は約91万人(同7.9%増)、有期雇用は約129万人(同1.3%増)で、無期雇用の伸びが大きくなっています。事業報告を提出した事業所は43,812、うち派遣の実績があった事業所は33,207です(厚生労働省「労働者派遣事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」)。

同じ集計で、派遣料金の平均(8時間換算、消費税を含む)は26,257円(同3.6%増)、派遣労働者の賃金の平均(同)は16,735円(同3.4%増)でした。料金と賃金の差には、社会保険料の事業主負担、有給休暇の費用、募集・教育等の諸経費、消費税、派遣元の利益が含まれます。

人材紹介では、2024年度の民営職業紹介事業所の手数料収入が約9,835億円(同17.6%増)、常用就職件数が888,993件(同5.3%増)でした。手数料収入のうち常用就職に係る手数料は約9,136億円で、常用就職1件当たりでは約103万円です。事業報告を提出した有料職業紹介事業所は30,561です(厚生労働省「職業紹介事業の令和6年度事業報告の集計結果(速報)」)。

領域別の特性

人材サービスは、扱う職種と顧客によって、人材の採用の方法、法令上の扱い、買い手の顔ぶれが異なります。M&Aでも、どの領域でどのような人材と顧客を持っているかが、買い手の候補と評価の観点を左右します。

領域主な職種・顧客事業上の特性
事務派遣・BPO一般事務、コールセンター、ITヘルプデスク。事業会社、官公庁派遣に加え、業務を一括で受託するBPOの形をとる。事業会社のグループ内でこの機能を担ってきた会社を、人材大手が取得した例がある(事例①)
製造派遣・請負自動車、半導体、電子部品などの工場2025年6月1日時点で製造業務に従事する派遣労働者は約43万人(前年比4.3%増)。日系ブラジル人の採用・管理のノウハウを取得の理由に挙げた例がある(事例⑦)
技術者派遣機械・電気の設計開発、組込み、ITエンジニア技術者を自社で採用・育成し、顧客の開発業務に配置する。上場大手のファンドによる非公開化が続いた(事例⑨)
建設技術者派遣施工管理施工管理技術者の不足を背景に、事業単位の売買が起きている(事例④)
医療・介護・保育看護師、介護職、保育士人材紹介と派遣を組み合わせる会社がある(トライト、事例④)
人材紹介ミドル・ハイクラス、IT、バイリンガル人材採用の成立時に手数料を受け取る。派遣会社が事業の柱を増やす目的で取得する例がある(事例⑫)

領域の区分は本稿による整理です。製造業務の派遣労働者数は厚生労働省「労働者派遣事業の令和7年6月1日現在の状況」によります。

業界再編を動かす5つの要因

  1. 労働力の縮小と採用の難しさ — 2025年の国勢調査では、15〜64歳の人口は7,348万人で、2020年から167万人(2.2%)減りました。ピークの1995年(8,716万人)からは1,368万人の減少です(総務省統計局「令和7年国勢調査 人口等基本集計 結果の概要」)。2025年平均の有効求人倍率は1.22倍でした(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。人材会社にとっては、派遣・紹介する人材の採用が事業の前提であり、採用の網と拠点の規模が問われます。コプロ・ホールディングス(コプロHD)は建設技術者派遣の事業の取得にあたり、デジタル採用力、全国の拠点網、採用・定着の規模効果を理由に挙げています(事例④)。
  2. 法令対応と管理の負担 — 2015年の労働者派遣法改正で、届出制の特定労働者派遣事業が廃止されて許可制に一本化され(旧特定派遣の経過措置は2018年9月29日まで)、派遣期間の制限(事業所単位・個人単位とも原則3年)と、キャリアアップ措置・雇用安定措置が導入されました(厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正法の概要」)。2020年4月1日からは、派遣労働者の待遇を「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」で決めることが、企業規模を問わず求められています。派遣元には、マージン率等をインターネット等で情報提供する義務もあります。許可の要件として、基準資産額が2,000万円に事業所数を乗じた額以上、自己名義の現金・預金が1,500万円に事業所数を乗じた額以上であることが定められています。2026年6月2日には、公正取引委員会が、労働者派遣役務の提供に関して独占禁止法違反の疑いがあるとして、人材派遣大手に立入検査を行いました。パーソルホールディングス(パーソルHD)は、子会社のパーソルテンプスタッフと孫会社2社が対象となったことを開示しています。報道によれば、リクルートスタッフィング、スタッフサービス、アデコ、マンパワーグループを含む5社が対象で、派遣料金の引上げを協議・合意した疑いがあるとされています。本稿執筆時点で、公正取引委員会からの処分等の公表はありません。こうした法令対応と管理の仕組みは、買い手と対象会社の間で共有できる機能であり、フルキャストHDは採用・研修・コンプライアンス・DXの基盤の共有を取得の理由に挙げています(事例⑤)。
  3. AIと人材テクノロジー — パーソルHDは、フランスの人材派遣プラットフォームGojobの取得にあたり、「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への転換と、AIが従来型の派遣を置き換えるリスクへの備えを理由に挙げました(事例⑪)。テクノプロHDを非公開化したブラックストーンはエンジニアリングサービスへのAIの統合を非公開化後の方針に含め、フォーラムエンジニアリングはAIによるスキルマッチングの基盤の強化と、大胆な投資施策を適時に行えることを非公開化の理由に挙げています(事例⑨)。リクルートホールディングス(リクルートHD)は、M&Aの方針を人材テクノロジーを中心とする戦略的な取得としています(事例⑮)。
  4. 大手グループの事業ポートフォリオの見直し — 富士通は、子会社の富士通コミュニケーションサービスの売却を中期経営計画の「事業モデル・ポートフォリオ戦略」の一環と、三菱ケミカルは人材子会社エムシーパートナーズの売却を「人事機能のコア業務への集中」のためと説明しています(事例①②)。人材会社の側でも、UTグループとオープンアップグループが製造派遣と技術者派遣の事業を交換し(事例③)、リクルートはアジアの人材紹介事業をフルキャストホールディングス(フルキャストHD)に売却しました(事例⑫)。
  5. 事業承継 — 中小企業庁は2019年、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となること、このまま廃業が増えれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを試算していました(中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」)。その2025年を過ぎた現在、人材業界でも、代表者が保有する株式を同業や異業種の事業会社に譲渡する案件が開示されています(事例⑤⑥。いずれも開示に譲渡の理由の記載はありません)。

2. 業界プレイヤー構図

総合人材サービスの大手

会社本社連結売上高(売上収益)直近の動き
リクルートHD東京都千代田区3兆6,973億円(2026年3月期)。うち人材派遣セグメント1兆7,034億円(日本8,468億円)人材派遣は日本・欧州・米国・豪州で展開。2026年にアジアの人材紹介事業をフルキャストHDに売却
パーソルHD東京都港区1兆5,558億円(2026年3月期)2025年に富士通コミュニケーションサービスとフランスのGojobを取得。2026年に三菱ケミカルの人材子会社を取得
パソナグループ東京都港区3,085億円(2026年5月期)1976年に大阪市北区で創業。2024年に保有するベネフィット・ワンの全株式を売却

このほか、アデコ、マンパワーグループ、ランスタッドといった海外資本の人材会社が日本で事業を展開しています(ランスタッドとアデコの日本での取得は第3章)。

上場の中堅・専業

会社本社連結売上高(売上収益)主な領域・直近の動き
ワールドHD福岡市・北九州市2,844億円(2025年12月期)製造・技術系を含む人材事業。2023年に日本技術センター(姫路市)を取得。2026年にnmsホールディングスを公開買付けで完全子会社化
オープンアップグループ東京都港区1,675億円(2026年6月期)技術者派遣(機電・IT・建設)。2024年にUTグループと事業を交換し、国内は技術者派遣に特化。2025年に英国子会社を売却
UTグループ東京都品川区1,669億円(2026年3月期)製造派遣。2024年に技術者・建設の派遣事業をオープンアップグループに譲渡。2025年にベトナムの子会社を売却。2026年にトゥエンティファーストの株式75%の取得を決議
ウィルグループ東京都中野区1,469億円(2026年3月期)国内・海外の人材派遣
メイテックグループHD東京都台東区1,377億円(2026年3月期)技術者派遣
NISSO HD横浜市港北区1,114億円(2026年3月期)製造派遣・請負、事務派遣・BPO、介護。2023年に日総工産が持株会社体制に移行
フルキャストHD東京都772億円(2025年12月期)短期人材の紹介・派遣。2026年にエントリーと、リクルートのアジア人材紹介事業を取得
アルプス技研横浜市西区526億円(2025年12月期)技術者派遣・請負
JACリクルートメント東京都461億円(2025年12月期)ミドル・ハイクラスの人材紹介
キャリアリンク東京都新宿区446億円(2026年3月期)事務派遣・BPO(公共向けを含む)、製造派遣
コプロHD名古屋市367億円(2026年3月期)建設技術者派遣。2026年にトライトの建設技術者派遣事業を取得し、2027年3月期の売上高を570億円と予想
クイック大阪市北区・東京都港区339億円(2026年3月期)。うち人材サービス235億円人材紹介・派遣と求人広告。大阪本社と東京本社の2本社制

ファンドと事業会社による非公開化

2024年以降、次の人材会社が公開買付け等を経て非公開化しました。

会社主な領域買い手上場廃止
アウトソーシング製造派遣・技術者派遣ほかベインキャピタル(経営陣によるMBO)2024年6月
トライト医療・介護・保育、建設の人材紹介・派遣カーライル2025年
テクノプロHD技術者派遣ブラックストーン2025年12月
フォーラムエンジニアリング技術者派遣・紹介KKR2026年5月
nmsホールディングス製造派遣、電子機器の受託製造(EMS)ワールドHD(筆頭株主)2026年8月

アウトソーシングは2025年7月に商号をBREXA Nextに変更しています。隣接するITサービスの分野では、売上高の大半をSI事業が占める富士ソフトが、2025年にKKRの公開買付けを経て上場廃止となりました。

大手グループ傘下の人材会社

事業会社のグループには、グループ内外の事務・IT運用・人材派遣を担う人材会社が置かれてきました。パナソニック エクセルスタッフ(2015年にテンプホールディングス(現パーソルHD)が取得)、富士通コミュニケーションサービス(2025年、同)、三菱ケミカルのエムシーパートナーズ(2026年、パーソルテンプスタッフ)は、いずれもグループの外の人材大手に移りました。

オーナー系の非上場企業

労働者派遣事業の報告を提出した事業所は4万を超え(第1章)、上場会社と大手のグループ会社のほかに、多くの非上場の事業者が事業を行っています。開示で売主に代表者が含まれると明記された近年の例として、物流系の短期派遣を手がけるエントリー(2026年)と、派遣・紹介・イベント人材のバンクールプロモーション(2025年)があります(事例⑤⑥)。テクノプロが2017年から2021年にかけて取得したIT・技術者派遣の4社も、売主は個人株主や社長の資産管理会社でした(事例⑧)。

関西の企業

本稿で取り上げる企業のうち、クイックは大阪市北区に本社を置き(大阪と東京の2本社制)、トライトは非公開化の時点で大阪市北区に本社を置いていました。ワールドHDが2023年に取得した日本技術センターは兵庫県姫路市の会社です。パソナグループは1976年に大阪市北区で創業しました(現在の本社は東京都)。


3. 国内の人材派遣業界M&A事例 — 大手グループからの切り出し、事業の入れ替え、オーナー企業の譲渡、ファンドによる非公開化

事例① パーソルHD × 富士通コミュニケーションサービス(2025年)— 事業会社のIT-BPO子会社を人材大手が取得

パーソルHDの子会社であるパーソルビジネスプロセスデザインは2024年12月、富士通の子会社である富士通コミュニケーションサービス(横浜市、1994年設立)の全株式を取得すると発表し、2025年2月に取得を完了しました。同社はITヘルプデスクやシステム運用を中心とするBPOを手がけ、2024年3月期の売上高は238.9億円、純利益は8.45億円、従業員は4,400名でした。取得価額は200億円で、取得後にパーソルコミュニケーションサービスに商号を変更しています。

パーソルHDは、IT-BPOの市場の需要に人材とノウハウの供給が追いついていないとして、IT領域の人材とナレッジの獲得を理由に挙げました。統合効果としては、大規模なIT人材の活用、顧客基盤へのクロスセル、既存事業と組み合わせた提案、拠点の集約による収益性の改善を示しています。富士通は、中期経営計画の「事業モデル・ポートフォリオ戦略」の一環と説明しています。

本案件は、(i)事業会社が、グループのIT運用を担ってきた子会社を、ポートフォリオ戦略の一環として人材大手に売却した、(ii)買い手は、従業員4,400名の同社が持つIT領域の人材とナレッジの獲得を理由とした、(iii)統合効果として、顧客へのクロスセルと拠点の集約が示された、という点を示しています。

事例② パーソルテンプスタッフ × エムシーパートナーズ(2026年)— 化学大手の人材子会社を、売り手が5%を残して譲渡

三菱ケミカルは2025年12月、人材派遣・紹介を手がける子会社のエムシーパートナーズ(東京都千代田区、1988年設立、従業員61名)の株式の95%を、パーソルテンプスタッフに譲渡すると発表しました。三菱ケミカルは5%を引き続き保有します。譲渡は2026年4月1日の予定と公表され、2026年6月のパーソルHDの開示では、エムシーパートナーズは同社の孫会社として記載されています。価格は開示されていません。三菱ケミカルは、譲渡の目的を「人事機能のコア業務への集中」としています。

本案件は、(i)事例①と同じく、事業会社がグループの人材会社を人材大手に移した、(ii)売り手は全株式ではなく95%を譲渡し、5%を持ち続ける形をとった、という点を示しています。

事例③ UTグループ × オープンアップグループ(2024年)— 上場の人材会社どうしの事業の交換

UTグループとオープンアップグループは2023年11月、事業の交換を決議し、2024年4月に実行しました。UTグループはオープンアップグループ傘下の製造派遣会社ビーネックスパートナーズ(25拠点、従業員約2,800名)を取得し、オープンアップグループはUTグループ傘下の技術者派遣・建設派遣の2社(UTテクノロジー、UTコンストラクション)を取得しました。価格は開示されていませんが、UTグループは連結で約63億円の特別利益を見込みました。

UTグループは「中核である製造派遣分野に対して、経営資源を重点的に配分」することを、オープンアップグループは非注力事業である製造派遣を譲渡し、注力事業である技術者派遣を譲り受けて「国内事業は技術者派遣事業に特化」することを理由に挙げています。

本案件は、(i)上場の人材会社どうしが、製造派遣と技術者派遣の事業を交換し、それぞれ中核の領域に集中した、(ii)一方の会社の非注力事業が、他方の会社では中核事業として取得された、という点を示しています。

事例④ カーライル・コプロHD × トライト(2025〜2026年)— ファンドによる非公開化を経た、建設の事業の売却

トライト(大阪市北区)は、医療・介護・保育の人材紹介・派遣を主力とし、建設人材の事業も持つ上場会社でした。2025年、カーライルが運用するファンドが1株880円で公開買付けを行い、7月に成立しました。あわせて、60%を保有していた筆頭株主(EQTが運用するファンドの保有会社)の株式は、株式併合の後に総額522億円で取得する設計としました。

その後、名古屋市に本社を置く建設技術者派遣のコプロHDは2026年1月、建設以外の事業を会社分割で切り離した後のトライト(建設の人材事業を営む会社)の全株式を292億円で取得すると決議しました。取得資金は全額を銀行借入で賄います。取得した事業の中核であるトライトエンジニアリングの売上高は2022年度の131.5億円から2024年度の180.7億円に、営業利益は8.0億円から18.1億円に伸びていました。コプロHDは、施工管理技術者の不足を背景に建設技術者派遣で最大手を目指すとし、デジタル採用力、全国の拠点網、採用・定着の規模効果を理由に挙げています。同社は2026年3月期にトライトエンジニアリング等を連結し、2027年3月期の売上高を570億円(前期比55.5%増)と予想しています。コプロHDは同じ時期に、子会社のIT技術者派遣(SES)事業をジャパニアスに7.3億円で譲渡する予定と公表しています。

本案件は、(i)ファンドが上場の人材会社を非公開化した後、建設の事業を会社分割で切り出したうえで、同じ領域の上場会社に売却した、(ii)買い手は取得資金を全額借入で賄い、取得後の売上高を前期比55.5%増と見込んだ、(iii)買い手は同じ時期に非中核の事業を譲渡し、建設技術者派遣に経営資源を寄せた、という点を示しています。

事例⑤ フルキャストHD × エントリー(2026年)— 代表者等からの全株式の取得

フルキャストHDは2026年1月、物流系の短期派遣と人材紹介を手がけるエントリー(東京都新宿区、2002年設立)の全株式を10.70億円で取得しました。売主は代表者(86.43%)と法人株主(13.57%)です。エントリーの2025年1月期の売上高は111.8億円、営業利益は0.27億円で、前期は営業損失1.28億円でした。

フルキャストHDは、中期経営計画2029で掲げる隣接領域のM&Aと位置づけ、顧客・営業網の共有と、採用・研修・コンプライアンス・DXの基盤の共有による「グループシナジーの最大化」を理由に挙げています。役員報酬や広告費の削減による収益の早期の改善も見込んでいます。

本案件は、(i)代表者が保有する株式を含む全株式が、上場の同業に譲渡された、(ii)対象会社の営業利益が小さい段階での取得で、買い手は管理基盤の共有と費用の削減による収益の改善を見込んだ、という点を示しています。

事例⑥ 鉄人化HD × バンクールプロモーション(2025年)— 異業種の事業会社による取得

カラオケ・飲食を営む鉄人化HDは2025年10月、人材派遣・紹介とイベント人材を手がけるバンクールプロモーション(東京都港区、2006年設立)の株式の80%を4.8億円で取得しました。売主は全株式を保有していた代表者で、譲渡後も同社に残る予定とされています。バンクールプロモーションの2024年12月期の売上高は15.6億円、営業利益は0.76億円でした。鉄人化HDは、「慢性的な人材不足に悩む業態とのシナジー」を理由に挙げています。

本案件は、(i)買い手が人材会社ではなく、人材不足に直面する業態の事業会社であった、(ii)全株式ではなく80%の取得で、代表者は譲渡後も残る予定とされた、という点を示しています。

事例⑦ 地域・人材層に強みを持つ会社の取得(2023〜2026年)— ワールドHD、パーソルテンプスタッフ、UTグループ

ワールドHDは2023年4月、兵庫県姫路市で創業55年の日本技術センター(機械・電気・ソフトウェアの請負と派遣、2022年3月期の売上高67.7億円、営業利益1.63億円)の全株式の取得を決議しました。価格は開示されていません。理由には、技術系の領域の強化と西日本での基盤の拡大を挙げています。

パーソルテンプスタッフは2024年6月、佐賀県武雄市の人材会社ヒューテック(2008年設立)を、その子会社とともに完全子会社化しました。同社を佐賀県に本社を置く人材会社でトップシェアと説明し、同社と自社の事業基盤を組み合わせ、技術人材の育成と地域の雇用の創出を図るとしています。

UTグループは2026年8月、日系ブラジル人を中心とする製造派遣のトゥエンティファースト(東京都渋谷区、1984年設立)の株式の75%を取得すると決議し、譲渡は9月1日の予定と公表しました。同社の技術スタッフは、同社と合併したトランスコーンの分を含めて約650名です。UTグループは、ブラジルを含む自社の採用網と、対象会社の日系ブラジル人の管理のノウハウを組み合わせ、採用・定着・現場管理の質を高めるとしています。

これらの案件は、(i)買い手が、地域の基盤(西日本、佐賀県)や特定の人材層(日系ブラジル人)の採用・管理のノウハウを取得の理由に挙げた、(ii)取得の割合は全株式のほか、75%にとどめる例もある、という点を示しています。

事例⑧ テクノプロ × プロビズモ・エデルタ・テクノライブ・ジーコムネット(2017〜2021年)— 非上場の技術者集団の連続的な取得

技術者派遣のテクノプロ(テクノプロHDの子会社)は、2017年から2021年にかけて、非上場のIT・技術者派遣会社を次のとおり取得しました。

  • エデルタ(東京都新宿区、1984年設立、2017年10月)— 東京・横浜で若手中心のITエンジニア240名超。2017年3月期の売上高19.67億円。売主は個人株主で、全株式を取得。テクノプロの約1,900社の顧客基盤と研修の基盤によるシナジーを理由に挙げた
  • プロビズモ(島根県出雲市、2001年設立、2018年1月)— 東京・島根・鳥取・大阪にエンジニア約120名。2017年3月期の売上高12.72億円、営業利益1.26億円。売主は個人株主で、全株式を約17.55億円で取得。高付加価値の請負へのシフトと、ニアショア開発のノウハウを理由に挙げた
  • テクノライブ(広島市、2009年設立、2018年4月)— 広島・東京にエンジニア約170名で、組込みとCAE解析に強み。売主は社長の資産管理会社で、全株式を取得
  • ジーコムネット(東京都港区、2001年設立、2021年7月)— SAPを中心とするERPの導入コンサルと技術者派遣。売主は個人株主4名で、全株式を取得。取得後にテクノプロを存続会社として吸収合併する予定と公表した。SAPの上流コンサルのノウハウの取り込みを理由に挙げた

本案件群は、(i)売主は個人株主や社長の資産管理会社で、いずれも全株式が取得された、(ii)買い手は、顧客基盤と研修の基盤によるシナジー(エデルタ)、ニアショア開発のノウハウ(プロビズモ)、SAPの上流コンサルのノウハウ(ジーコムネット)といった、自社にない機能や人材層の取り込みを理由とした、(iii)ジーコムネットについては、取得後に買い手と合併する計画が示された、という点を示しています。

事例⑨ ブラックストーン × テクノプロHD(2025年)— 海外ファンドによる技術者派遣大手の非公開化

ブラックストーンが運用するファンドは2025年8月、テクノプロHDに対し1株4,870円で公開買付けを行うと発表しました。買付代金は約5,074億円、2025年5月15日の終値に対するプレミアムは43.70%です。公開買付けは9月に成立し、テクノプロHDは2025年12月9日に上場廃止となりました。テクノプロHDの2025年6月期の売上収益は2,390億円(うち海外238億円)、ブラックストーンの発表では、エンジニアは28,000名超、顧客は2,500社超です。

買い手の選定は、2024年11月に他社から受けた提案を起点に、テクノプロHDが複数の候補者を募る入札で進めました。第1次と第2次の間の絞り込み(第1.5次)の段階で5社、第2次で4社が残り、法的拘束力のある提案は2社から提出されました。ブラックストーンは2025年6月に1株4,850円を提示して独占交渉権を得た後、7月に4,870円へ引き上げています。テクノプロHDの取締役会は公開買付けに賛同し、応募は株主の判断に委ねました。

非公開化後の方針として、再上場を基本方針とすること、現経営陣を維持すること、エンジニアリングサービスへのAIの統合、100億円超のDX投資、ブラックストーンが出資するインドのIT企業とのオフショア開発での協業、1件1,000億円を超えることもあり得るM&Aの資金の提供、従業員への幅広い株式報酬が示されています。

海外ファンドによる人材会社の非公開化は、ほかにも続きました。アウトソーシングは2023年12月、ベインキャピタルと経営陣によるMBOに賛同し、1株1,755円の公開買付け(総額約2,211億円)を経て2024年6月に上場廃止となりました。同社は理由として、株式市場からの短期的な収益改善の圧力に左右されずに、海外子会社のガバナンスの強化等に取り組むことを挙げています。フォーラムエンジニアリングは2025年11月、KKRによる1株1,710円の公開買付けに賛同しました。KKR側は創業家側の株主(51.69%)と応募等に関する契約を結び、公開買付けは議決権の55.89%の応募で成立しました。その後、同社による自己株式の公開買付け(1株1,530円、2026年3月)と株式併合を経て、同年5月13日に上場廃止となりました。KKRによれば、同社のインパクト投資の戦略による日本で初めての投資です。

本案件は、(i)技術者派遣の上場大手の非公開化で、複数の候補者による入札を経て海外ファンドが買い手となった、(ii)買い手は、AI・DXへの投資、海外の投資先との協業、M&Aの資金の提供を非公開化後の方針として示し、再上場を基本方針とした、(iii)2024年から2026年にかけて、海外ファンドによる人材会社の非公開化が相次いだ(アウトソーシング、トライト、フォーラムエンジニアリング)、という点を示しています。

事例⑩ ランスタッド × フジスタッフ(2010年)、アデコ × VSN(2012年)— 海外の人材大手による日本での取得

オランダのランスタッドは2010年8月、フジスタッフホールディングスの創業家から44.6%の株式を1株27,500円で取得することで合意し、あわせて公開買付けを行いました。既に保有していた20.5%と合わせ、10月に経済的持分は95.1%となりました。ランスタッドは、未保有分の対価を約137億円、企業価値を約191億円とし、日本が世界で2番目に大きな人材市場であることと、人口動態と生産性向上の需要による長期の成長を理由に挙げています。

スイスのアデコは2012年1月、技術者派遣のVSNを企業価値9,000万ユーロ(EBITAの6.5倍)で取得すると発表しました。VSNの売上高は1.57億ユーロ、派遣中の技術者は約2,200名で、アデコは日本でのプロフェッショナル人材の派遣事業を倍に広げることを狙いとしました。

これらの案件は、(i)海外の人材大手が、日本の会社の取得で事業を広げ、ランスタッドは日本の人材市場の規模と成長を、アデコはプロフェッショナル人材の派遣事業の拡大を理由とした、(ii)買い手が価格水準(企業価値、EBITA倍率)を開示している、という点を示しています。2020年以降の海外の事業会社による日本の人材会社の大型の取得は、本稿の調査の範囲では確認できませんでした。


4. クロスボーダーの人材派遣業界M&A事例 — 国内大手による海外での買収

国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内大手がどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業大手の投資基準の参照例になります。

事例⑪ パーソルHD × Gojob(2025年)— AIを使う派遣プラットフォームの取得

パーソルHDは2025年10月、フランスのGojob(エクサンプロヴァンス、2015年設立)の株式の85%を215億円で取得しました。Gojobは人材の募集・マッチングにAIを使う人材派遣のプラットフォームで、2021年に米国に進出しています。売上高は2022年度の9,300万ユーロから2024年度の1億5,800万ユーロ(約278億円)に伸びた一方、2024年度のEBITDAは100万ユーロ、営業損益は200万ユーロの損失でした。残りの15%は、2029年3月期までにオプションを通じて取得する計画です。

パーソルHDは、「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への転換、AIが従来型の派遣を置き換えるリスクへの備え、国内外の派遣事業の生産性の向上、欧米への展開を理由に挙げています。2026年3月期には、取得に伴うのれん178億円を計上し、取得日(2025年10月1日)以降のGojobの売上収益217億円と当期損失3.9億円を連結しました。

本案件は、(i)国内の人材大手が、売上高が伸びる一方で営業損失の段階にある海外の人材テクノロジー企業を取得した、(ii)買い手は、自社の派遣事業の生産性の向上とAIによる事業の変化への備えを理由とした、(iii)全株式を一度に取得せず、85%の取得と残りのオプションによる段階的な取得を組み合わせた、という点を示しています。

事例⑫ フルキャストHD × リクルートのアジア人材紹介事業(2026年)— 大手の人材紹介事業を上場の人材会社が取得

フルキャストHDは2026年1月、リクルートから、アジアを中心に人材紹介を行うRGF International Recruitment Holdings(香港)と、バイリンガル人材の紹介を行うRGF Talent Solutions Japan(東京)の2社を取得することで合意し、4月に取得しました。2社を一体で評価した株式価値は12億円とされ、対象会社の現預金相当額を加える価格調整を経て、株式の対価は52.7億円で確定しました。2024年度の売上高は香港の会社が30.2億円(純損失2.64億円)、日本の会社が51.7億円(純利益6.79億円)でした。

フルキャストHDは、短期の人材サービスに次ぐ第二の柱として正社員の紹介を加えること、アジアの人材紹介サービスを自社の国内の顧客基盤に販売すること、自社の外国人雇用のノウハウと対象会社のグローバルなネットワークを組み合わせることを理由に挙げました。リクルートは、これらの事業の成長にはグループ外のパートナーが適すると判断したとしています。

本案件は、(i)国内の人材大手が、香港の会社と国内の会社からなる人材紹介事業をグループ外に売却し、国内の同業が取得した、(ii)買い手は、短期の人材サービスに加えて紹介の事業を持つことと、海外の事業基盤を得ることを理由とした、という点を示しています。

事例⑬ テクノプロHD × Robosoft Technologies(2021年)— インドの開発拠点の取得と、その後の減損

テクノプロHDは2021年8月、インドのソフトウェア受託開発会社Robosoft Technologies(ウドゥピ、技術者800名超、主な顧客は米国と日本)を取得する契約を結びました。80%を2021年に、残る20%を2022年に取得する2段階の方式で、全株式の価格は80億ルピー(約120億円)です。価格は、EBITDAの倍率に純現金を加える方法で算定すると開示されています。2021年3月期の売上高は18.4億ルピー(約28億円)、EBITDAは7.36億ルピー(約11億円)でした。テクノプロHDは、インドのオフショア拠点にデジタル技術とソリューションの機能を加え、先進国の顧客向けのオフショア開発を加速させることを理由に挙げています。

テクノプロHDは2025年8月、Robosoftの売上の約6割を占める北米での新規顧客の獲得の苦戦を理由に、Robosoftに係るのれんのうち50億円を減損しました。Robosoftの経営陣は交代しています。

本案件は、(i)技術者派遣の大手が、海外の開発拠点を取得して先進国の顧客向けのオフショア開発を広げようとした、(ii)価格はEBITDAの倍率を基礎に算定された、(iii)取得の4年後に、北米での顧客の獲得の苦戦によりのれんの一部が減損された、という点を示しています。

事例⑭ パーソルHD × Programmed(2017年)— 豪州の人材・施設管理会社の取得と、その後の見直し

パーソルHDは2017年、豪州証券取引所に上場していたProgrammed Maintenance Services(人材派遣と施設のメンテナンス)を、1株3.02豪ドル、総額7.91億豪ドル(約691億円)で取得しました。Programmedの2017年3月期の売上高は26.91億豪ドル、EBITDAは0.96億豪ドルでした。パーソルHDは、アジア太平洋で最大級の総合人材サービスグループとなることと、Programmedのメンテナンスのノウハウを日本・アジアに展開することを理由に挙げています。

その後、パーソルHDは2019年に豪州の景気の減速を理由に人材派遣事業ののれん125億円を、2023年に施設サービス事業で約83億円を減損しました。2026年3月期のアジア太平洋の事業の売上収益は4,964億円です。2026年6月、Programmedの売却を検討しているとの豪州の報道に対し、同社は事業ポートフォリオの最適化を検討していることは事実としたうえで、決定した事項はないと開示しています。

本案件は、(i)国内の人材大手が、海外の上場人材会社を全株式の取得で傘下に収めた、(ii)取得後に景気の減速等による減損が2度生じ、事業ポートフォリオの見直しの対象となっている、という点を示しています。

事例⑮ リクルートHD × USG People(2015年)— 欧州の上場人材大手の取得

リクルートHDは2015年12月、オランダのUSG Peopleに対し、1株17.50ユーロ、総額14.2億ユーロ(約1,885億円)で公開買付けを行うと決議しました。直前の終値に対するプレミアムは30.6%です。USG Peopleの2014年の売上高は23.55億ユーロ、EBITDAは0.92億ユーロでした。リクルートHDは、人材サービスで世界一となる2020年の目標のもと、ベネルクス・フランス・ドイツの派遣事業の基盤を得ることを理由に挙げています。同社は同じ2015年に、豪州の上場人材会社Chandler Macleodも取得しました。

リクルートHDの人材派遣セグメントの2026年3月期の売上収益は1兆7,034億円で、うち欧州・米国・豪州が8,565億円を占めます。同社は現在、M&Aの方針を人材テクノロジーを中心とする戦略的な取得としています。

本案件は、(i)国内の人材大手が、海外での事業の規模を得るために上場人材会社を取得した、(ii)買い手は公開買付けの価格水準とプレミアムを開示している、(iii)取得の重点はその後、派遣会社から人材テクノロジーに移っている、という点を示しています。


5. 人材派遣業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素

人材会社のM&Aでは、財務数値に加えて、人材サービスに固有の要素が確認されます。事例の買い手が公表した取得の理由と統合効果、および労働者派遣事業の許可の要件をもとに、人材と採用の基盤、顧客と領域、許可・法令対応と管理の基盤の3つに整理します。

  1. 人材と採用の基盤 — 派遣・紹介する人材の人数と職種、無期雇用か有期雇用か、採用の網と拠点、定着の状況です。事例①の買い手はIT領域の人材とナレッジの獲得を、事例④の買い手はデジタル採用力と全国の拠点網を、事例⑦の買い手は日系ブラジル人の採用・管理のノウハウを、事例⑧の買い手は自社の顧客基盤・研修の基盤との組み合わせや対象会社のニアショア開発のノウハウを、取得の理由に挙げています。
  2. 顧客と領域 — 顧客の構成と集中度、扱う職種・領域、買い手の事業との補完関係です。事例①と事例⑤の買い手は、顧客基盤へのクロスセルや顧客・営業網の共有を、事例③の両社は、製造派遣と技術者派遣という領域の入れ替えを、事例⑧の買い手は、SAPの上流コンサルのような専門領域の補完を挙げています。
  3. 許可・法令対応と管理の基盤 — 労働者派遣事業と職業紹介事業の許可、同一労働同一賃金への対応(派遣先均等・均衡方式か労使協定方式か)、派遣期間の管理、マージン率等の情報提供、社会保険の適用の状況です。厚生労働省の手続のマニュアルでは、許可を持たない会社が派遣事業を吸収合併・吸収分割で引き継ぐ場合や、新設分割・事業譲渡の場合には、新たな許可の申請が必要とされています。株式譲渡では、許可を受けた法人そのものは変わりません。事例⑤の買い手は、コンプライアンス・DXの基盤の共有を取得の理由に挙げています。

6. 人材派遣業界の買い手の類型

本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の理由と評価の観点が異なります。

  1. 国内の人材会社 — パーソルHD(事例①②⑦)、UTグループ・オープンアップグループ(事例③⑦)、コプロHD(事例④)、フルキャストHD(事例⑤⑫)、ワールドHD(事例⑦)、テクノプロ(事例⑧)など。事例の買い手は、人材・拠点・顧客の補完と、採用・研修・管理の基盤の共有による効果を見込んでいます。
  2. 人材を必要とする異業種の事業会社 — 鉄人化HD(事例⑥)のように、自社の業態の人材不足への対応を理由に人材会社を取得する事業会社です。本稿の事例では1件ですが、人材会社の買い手が人材業界の内側に限られないことを示しています。
  3. ファンド — ブラックストーン、ベインキャピタル、KKR(事例⑨)、カーライル(事例④)など。本稿の事例では、いずれも上場の人材会社の非公開化で、買い手は非公開化後の投資やM&Aの資金の提供を方針として示しています。カーライルは、非公開化の後に建設の事業を同業に売却しました(事例④)。

このほか、ランスタッドとアデコ(事例⑩)のように、海外の人材大手が日本の人材会社を取得した例がありますが、2020年以降の大型の取得は本稿の調査の範囲では確認できませんでした。


7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆

本稿の事例から、人材会社の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。

① 対象先の所在

事例の対象先は、事業会社のグループ内の人材会社、上場の人材会社とその事業、代表者・個人株主が保有する非上場の会社に分かれます。富士通と三菱ケミカルはグループの人材会社を人材大手に売却し(事例①②)、2015年のパナソニック エクセルスタッフを含め、事業会社のグループ内の人材会社の売却3件の買い手は、いずれもパーソルHDのグループでした。上場の人材会社の間では、事業の交換(事例③)、ファンドが非公開化した会社から切り出された建設の事業の売却(事例④)、リクルートのアジアの人材紹介事業の売却(事例⑫)が行われています。非上場の会社では、代表者が保有する株式を含む全株式の譲渡(事例⑤)、代表者からの80%の譲渡(事例⑥)、個人株主や社長の資産管理会社からの全株式の譲渡(事例⑧)があります。労働者派遣事業の報告を提出した事業所は4万を超えます。事例の非上場の対象先は公開情報だけでは特定しにくく、取得には代表者や親会社への直接の打診が必要になります。

投資ファンドでは、ブラックストーン、ベインキャピタル、KKR、カーライルが、2024年から2026年にかけて上場の人材会社を非公開化しました(事例④⑨)。テクノプロHDの非公開化は、同社が複数の候補者を募る入札で進め、法的拘束力のある提案は2社から提出されています(事例⑨)。ブラックストーンは、1件1,000億円を超えることもあり得るM&Aの資金の提供を非公開化後の方針に含めており(事例⑨)、非公開化した会社が今後の買収の主体になる可能性があります。

② 取引の形

事例には、全株式の取得(事例①⑤⑧)、売り手が5%を持ち続ける95%の譲渡(事例②)、上場会社どうしの事業の交換(事例③)、ファンドが非公開化した会社から建設以外の事業を会社分割で切り離したうえでの全株式の取得(事例④)、代表者が残る予定の80%の取得(事例⑥)、75%の取得(事例⑦のトゥエンティファースト)、取得後に買い手と合併する形(事例⑧のジーコムネット)、公開買付けによる非公開化(事例⑨)があります。海外では、85%の取得と残りのオプションによる段階的な取得(事例⑪)、80%と20%の2段階の取得(事例⑬)がとられています。株式譲渡と、事業譲渡・会社分割とでは、労働者派遣事業の許可の扱いが異なります(第5章)。

投資ファンドにとっては、非公開化されたトライトの建設の事業を同じ領域の上場会社が292億円で取得し、その資金を全額借入で賄った例(事例④)が、事業会社への売却の参照例になります。価格の水準では、テクノプロHDの公開買付けのプレミアムが43.70%(事例⑨)、アデコによるVSNの取得がEBITAの6.5倍(事例⑩)と開示されています。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。

③ 売り手が重視する点

親会社の売り手は、自社の事業の選択を譲渡の理由としています。富士通は中期経営計画の「事業モデル・ポートフォリオ戦略」の一環と、三菱ケミカルは「人事機能のコア業務への集中」と説明し(事例①②)、オープンアップグループは非注力事業である製造派遣を譲渡して国内は技術者派遣に特化するとしました(事例③)。リクルートは、アジアの人材紹介事業の成長にはグループ外のパートナーが適すると判断したとしています(事例⑫)。非公開化を選んだ上場会社では、アウトソーシングが株式市場からの短期的な収益改善の圧力に左右されずに海外子会社のガバナンスの強化等に取り組むことを、フォーラムエンジニアリングがAIによるスキルマッチングの基盤の強化と大胆な投資施策を適時に行えることを、理由に挙げています(事例⑨)。代表者が売り手の事例⑤⑥では、開示に譲渡の理由の記載はなく、事例⑥では代表者が譲渡後も残る予定とされています。

これらの説明からは、大手グループの売り手にとって譲渡は自社の中核の領域を選ぶ判断の一部であり、リクルートの例では、譲渡後の事業の成長を担えるかが譲渡先を選ぶ観点になっていたことがうかがえます。


8. 人材会社のオーナー・親会社が検討すべき論点

売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。

① 買い手候補の範囲

第7章①の国内の人材会社とファンドに加えて、人材不足に直面する異業種の事業会社が人材会社を取得した例があり(事例⑥)、海外の人材大手が日本の会社を取得した例もあります(事例⑩。2020年以降の大型の取得は本稿の調査の範囲では確認できませんでした)。国内の人材会社は、地域の基盤(事例⑦の西日本、佐賀県)、特定の人材層の採用・管理のノウハウ(事例⑦の日系ブラジル人)、自社にない機能や人材層(事例⑧)を取得の理由に挙げています。買い手候補は、国内の人材会社、人材を必要とする事業会社、ファンド、海外の戦略買い手までを対象に、自社の人材・顧客・拠点と補完関係にある先を洗い出すことから検討します。

② 自社の資産の整理

第5章の3つの要素(人材と採用の基盤、顧客と領域、許可・法令対応と管理の基盤)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になり、どの買い手にとって拠点や管理機能の集約の対象になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例③のように、ある会社の非注力事業が別の会社の中核事業として取得されることもあるため、事業ごとに分けて整理することが必要です。

③ 取引の形と時期

第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、オーナーご自身の承継の意向、従業員や派遣スタッフ・取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。株式譲渡と、事業譲渡・会社分割とでは労働者派遣事業の許可の扱いが異なるため(第5章)、取引の形は許可の手続と合わせて検討する必要があります。時期については、事例⑤のように、対象会社の営業利益が小さい段階で、買い手が管理の基盤の共有と費用の削減による収益の改善を見込んで取得した例があります。親会社の側では、事例②のように一部の持分を持ち続ける形もあるため、現在の資本・取引関係を含めて選択肢を整理しておくことが必要です。


9. Syntax Partnersができること

Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。人材派遣・人材紹介を含む人材サービスの分野で、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。

買い手側の支援

国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。人材派遣業界M&Aでは、公開情報の少ない非上場のオーナー企業や、事業会社のグループ内の人材会社が対象となることが多いため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。

売り手側の支援

売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、人材を必要とする異業種の事業会社、ファンドに加えて、海外の人材サービス会社などの戦略買い手も対象とします。

  • 買い手候補の探索:国内の人材会社、異業種の事業会社、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の人材・顧客・拠点と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
  • 業界理解に基づく取引支援:人材と採用の基盤、顧客と領域、許可・法令対応など、人材サービスに固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
  • オーナーの意向を反映した交渉:従業員・派遣スタッフの雇用、取引先との関係、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。

事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。

本稿は、各社の公式発表・IR資料・報道等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。


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