大阪企業のクロスボーダーM&A事例 ― 東南アジアで成果を上げた5社の戦略を読み解く

大阪 クロスボーダーM&A

はじめに

大阪は、東京に次ぐ日本第二の経済圏として、製造業、消費財、金融、不動産・建設など多様な業種の企業が集積しています。国内市場の成熟を背景に、大阪に本社を置く中堅・大手企業の多くが海外展開を成長戦略の柱に据えており、その手段としてクロスボーダーM&A ―― 海外企業の買収・出資にとどまらず、合弁や事業売却まで含む資本取引 ―― を活用しています。

本稿では、大阪に本社を置く5社(サントリーホールディングス、ダイキン工業、パナソニックホールディングス、オリックス、大和ハウス工業)が東南アジアで実施した資本取引の事実関係を、各社の公表資料・報道に基づいて整理し、そこから読み取れる示唆を当社の見立てとして述べます。

1|事実の整理 ― 大阪企業5社の東南アジアでの資本取引

サントリーホールディングス(大阪市北区)― 買収と合弁による飲料・健康食品の地域展開:傘下のサントリーウエルネスは2024年3月1日、タイ・バンコクに本社を置くNBD Healthcareの全発行済株式を取得しました。NBD社は1999年創業で、サプリメント「VISTRA」、スキンケア「PROVAMED」等のブランドを展開し、タイの美容・ヘルスサプリメント市場でトップクラスのシェアを持つ企業です。サントリー側は、自社の商品・サービス開発力とNBD社のブランド力・流通網を掛け合わせて東南アジアでの事業拡大を図ると公表しています。飲料本体では、2013年からPepsiCoとの合弁会社サントリーペプシコベトナムビバレッジを通じてベトナム飲料市場を展開しており、買収と合弁を市場・目的に応じて使い分けています。

ダイキン工業(大阪市北区)― サービス領域の買収と現地有力企業との合弁:ダイキンは2019年11月、シンガポールのビル管理・制御システム会社BMSエンジニアリング・アンド・トレーディングの全株式を約1,200万シンガポールドル(当時約10億円)で取得しました。報道によれば、シンガポール政府がビルの省エネ化を推進する中、機器販売にとどまらないサービス分野の収益拡大が狙いとされています。さらに2022年には、シンガポール政府系電力会社SPグループと合弁会社の設立契約を締結し、半導体工場向けに冷房を一括供給する地域冷房事業に参画しました。20年間で約500億円規模の売上を見込む事業と報じられており、「モノ売り」から電力会社との協業による「冷熱サービス売り」への展開例といえます。

パナソニックホールディングス(大阪府門真市)― 売却による事業ポートフォリオの再編:パナソニックは2014年、シンガポール・インドネシア・マレーシアの半導体組立3工場をシンガポールの半導体後工程受託大手UTACグループへ譲渡することを公表しました。成長分野へ経営資源を集中させるための構造改革の一環であり、クロスボーダーM&Aが買収だけでなく、事業の切り出し・売却(カーブアウト)という形でも活用されることを示す事例です。

オリックス(本店・大阪市西区)― マイノリティ出資による成長市場への参画:オリックスは2016年9月、シンガポールのUOBベンチャー・マネジメントと共同で、ベトナム民間最大手級の水力発電会社Bitexco Power Corporationの第三者割当増資を引き受けました。出資額は両社それぞれ約2,500万米ドル(合計約5,000万米ドル)で、報道によればオリックスは1割超の株式を取得し、役員を派遣して事業展開への助言も行うとされています。当時のBitexco Powerはベトナム全土で18カ所・総発電容量約970MWの水力発電所を建設・運営しており、電力需要が年10%前後で伸びる市場に、100%買収ではなくマイノリティ出資と経営関与の組み合わせで参画した事例です。

大和ハウス工業(大阪市北区)― 現地有力企業との合弁による物流施設事業:大和ハウスは2018年にベトナム初のマルチテナント型物流施設の開発に着手して以降、同国で物流施設事業を拡大しています。2024年12月に竣工した北部初の物流施設「DPL Vietnam Minh Quang」は、タイの工業団地・物流施設開発最大手WHA Corporationとの合弁会社(大和ハウス51%・WHA49%)を通じて開発されました。単独開発と、現地に基盤を持つパートナーとの合弁を地域特性に応じて使い分けている事例です。

2|この事例から何を読み取るか(当社の見立て)

(1)「買収一択」ではなく、目的に応じて手段を使い分けている

5社の取引を並べると、全株式取得(サントリー、ダイキン)、マイノリティ出資(オリックス)、合弁(サントリー、ダイキン、大和ハウス)、売却(パナソニック)と、資本取引の型は目的に応じて選ばれています。市場のブランド・流通網ごと取り込みたいなら買収、規制業種や現地パートナーの基盤が不可欠な事業なら合弁・出資、経営資源の再配分なら売却という対応関係であり、クロスボーダーM&Aの検討とは「買うかどうか」ではなく「どの型で関与するか」の設計だと当社は考えています。

(2)取得しているのは、自力では時間のかかる現地資産である

サントリーが取得したのはタイでのブランドと流通網、ダイキンが取得したのはサービス収益の基盤と政府系企業との協業関係、オリックスが得たのは成長市場の事業への参画と経営関与です。いずれも、ゼロから構築すれば5年、10年を要する資産であり、東南アジアでのクロスボーダーM&Aの本質的な価値はこの時間の短縮にあります。

(3)マイノリティ出資・合弁では「関与の設計」が価値を左右する

オリックスの役員派遣や大和ハウスの51%合弁のように、100%を取らない取引では、取締役構成、重要事項への関与、情報アクセス、将来の追加取得・売却の選択肢をどう契約に織り込むかが投資の実質的な価値を決めます。持分比率そのものよりも統治の設計が重要だというのが、当社が実務で一貫して見てきた点です。

(4)売却もまた、同じ土俵の経営判断である

パナソニックの事例が示すとおり、海外事業の売却・カーブアウトは撤退や失敗ではなく、経営資源の再配分という点で買収と同じ土俵の戦略判断です。買い手として東南アジアに関与してきた企業も、事業ポートフォリオの見直し局面では売り手になり得ます。売却側に立つ場合こそ、プロセス設計と買い手候補の幅が対価を左右します。

3|実務上のポイントと時間軸

検討にあたっての実務上の要点は、対象選定(財務だけでなく経営陣・企業文化・レピュテーションを含む評価)、デューディリジェンスと価格規律、外資規制・税制への対応を織り込んだ契約設計、為替への備え、そしてPMI(統合)の事前設計に集約されます。加えて強調したいのは時間軸です。シナジーには、販路の相互活用のように短期で成果が出るものと、能力の移植や事業構造の転換のように中期(5〜7年)・長期(10年程度)でしか現れないものが混在します。単一の年限で投資の成否を判断するのではなく、短期・中期・長期のそれぞれの時間軸で検証すべき効果を事前に定義し、時間軸ごとの指標と、追加投資・持分変更・売却まで含めた選択肢をあわせて設計しておくことを推奨します。

4|当社のご支援について

Syntax Partnersは、大阪(梅田)に本社を置くクロスボーダーM&Aアドバイザリーとして、ご依頼主お一方の利益を最大化するFA(ファイナンシャルアドバイザー)の立場で、買収・出資・合弁・売却の別を問わず、戦略に基づく候補先の探索から交渉、デューディリジェンスの統括、クロージング、その後の体制構築までを一気通貫でご支援しています。対象地域は東南アジア・インド・東アジアを軸に、欧米まで対応しています。関西に本社を置く企業の海外展開・資本取引について、近い距離でご相談いただけます。

個別のご相談を希望される場合は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。


関連リンク

参考出典

  • サントリーホールディングス ニュースリリース「サントリーウエルネス(株)によるNBD社株式取得完了について」(2024年3月1日)
  • 日本経済新聞「ダイキン、シンガポールのビル管理会社を10億円で買収」(2019年11月)
  • ダイキン工業・SPグループの合弁に関する各社公表・報道(シンガポールの地域冷房事業、2022年5月)
  • パナソニック 公表資料(シンガポール・インドネシア・マレーシアの半導体組立工場のUTACグループへの譲渡、2014年)
  • オリックス ニュースリリース「ベトナムで民間最大手の水力発電事業会社に出資」(2016年9月2日)および関連報道
  • 大和ハウス工業 公表資料・報道(ベトナムの物流施設開発、DPL Vietnam Minh Quang・WHA Corporationとの合弁、2024〜2025年)