
(2026年10月更新)
近年のスペシャリティケミカル業界M&Aを見ると、国内では、AGC、三菱ケミカルグループ、京セラ、JSRといった大手が樹脂・接着剤原料・半導体材料などの事業を切り出し、住友ベークライト、コニシ、日本触媒などの化学メーカーがそれを取得する案件が2024年以降相次いでいます。半導体材料では、JSRによる京都の高純度化学品メーカーの取得や、大阪の専業メーカー同士の資本業務提携がありました。海外からは、韓国の素材メーカーによる香料会社の取得や、米国のファンドによる電子材料メーカーの公開買付けの計画が出ています。一方、国内の化学メーカーや化学商社は、米国・欧州・台湾・中国で、特定の製品と顧客を持つ会社を取得しています。
本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている化学メーカーのオーナー・親会社の皆様を念頭に、スペシャリティケミカル業界の市場構造と業界プレイヤーの構図、国内の再編事例、国内企業による海外での買収事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。
1. スペシャリティケミカル業界の市場構造 — 化学工業の規模と再編の要因
市場規模
スペシャリティケミカルだけを区分した公的な統計はないため、化学工業全体の統計で規模を示します。日本化学工業協会の「グラフでみる日本の化学工業2025」によると、2023年の化学工業の製造品出荷額は、プラスチック製品・ゴム製品を除く化学工業で33.4兆円(製造業の8.9%)、これらを含む広義の化学工業で50.9兆円(同13.6%)でした。広義の化学工業は、出荷額・付加価値額ともに製造業で第2位です。従業者数は狭義で約40万人、広義で約96万人です。2023年度の研究費は狭義で2兆5,686億円となり、製造業全体の研究費の18.5%を占めます。同資料が米国化学工業協会の統計として示す2023年の化学品の出荷額(医薬品を除く)では、日本は1,559億ドルで、中国、米国、ドイツに次ぐ4位です(日本化学工業協会「グラフでみる日本の化学工業2025」)。
半導体材料では、日本企業の存在感が大きい分野があります。経済産業省は、ウエハ、レジスト、CMPスラリー、フォトマスク、ターゲット材、ボンディングワイヤといった主要な半導体部素材で、日本企業の世界シェアが2021年に48%であったと示しています(経済産業省「半導体・デジタル産業戦略について」)。
需要分野別の特性
スペシャリティケミカルは、需要分野によって、顧客、採用の決まり方、販売の経路が大きく異なります。M&Aでも、どの分野で何を持っているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点を左右します。
| 需要分野 | 主な製品 | 事業上の特性 |
|---|---|---|
| 半導体・電子材料 | フォトレジストとその原料、高純度薬品、成膜材料(プリカーサー)、CMPスラリー、封止材、ソルダーレジスト | 顧客の製造工程での評価を経て採用される。微細化に伴い、高純度化と金属不純物の管理が求められる |
| 機能性樹脂・フィルム | ポリカーボネートシート、光学シート、高機能樹脂 | 建材、自動車、電子機器など、用途ごとに品種を持つ。成形・加工の設備と技術が必要 |
| 接着剤・樹脂原料・添加剤 | エマルジョン、粘着付与樹脂、接着剤・シーリング材、樹脂添加剤、インキ、製紙用薬品 | 顧客の配合や工程に合わせて品種を設計する。商社・販売店を通じた販路が販売力を左右 |
| 香料・食品素材・医薬周辺 | 香料、糖アルコール等の食品素材、医薬中間体・原薬 | 食品・医薬の品質基準のもとで製造する。顧客の製品開発と結び付いた用途提案が求められる |
需要分野の区分は、本稿の事例に沿って当社が整理したものです。
業界再編を動かす5つの要因
- 大手化学のポートフォリオの見直し — 住友化学は2024年10月に事業部門を4つに再編し、2025年度からの中期経営計画で事業の選別を進めています。レゾナックは統合報告書で、2025年7月までに15の事業を切り離し、事業の売却により2,000億円超の企業価値を創出したと説明しています。三菱ケミカルグループは2025年7月、化学と医薬の親和性やシナジーの可能性が薄れたことを理由に、田辺三菱製薬を約5,100億円でベインキャピタルに譲渡しました。事業の譲渡にあたり、三菱ケミカルグループは譲渡先を「ベストオーナー」と、AGCは譲渡先への移管が事業の成長にとって最善と説明し、東レは「ベストオーナーの視点」での経営資源の配置を理由に挙げています(第3章)。
- 半導体・電子材料への集中 — レゾナックの2025年12月期の売上収益1兆3,471億円のうち、半導体・電子材料は5,063億円(約38%)で、同社はこの比率を50%超に高めることを目指すとしています。ADEKAは2025年4月に「電子材料本部」を「半導体材料本部」に改称し、半導体材料開発研究所を新設しました。住友化学は、台湾の半導体プロセスケミカル会社の取得にあたり、同分野の売上高を2030年度に2024年度の約2倍にする目標を示しています(第4章)。
- 上場子会社・関連会社株式の見直し — カネカは2022年、上場子会社であったセメダインを株式交換で完全子会社とし、その理由に意思決定の迅速化を挙げました。住友化学は2024年9月、関連会社であった住友ベークライトの株式の一部をシンガポール政府投資公社に譲渡し、議決権比率は22.62%から15.61%に下がりました。周辺領域では、富士通が2025年、上場子会社の新光電気工業(半導体パッケージ基板)を、産業革新投資機構(JIC)のファンドを中心に大日本印刷と三井化学が出資する会社に譲渡しています。上場子会社を取り込む動きと手放す動きの双方があり、手放される会社が新たな株主を迎えています。
- ファンドの関与 — JICは2024年にJSRを、2025年に新光電気工業を非公開化しました。JSRの非公開化の目的は、短期の業績に左右されない環境で構造改革と業界再編を進めることとされています。このほか、カーライルによる星光PMCの取得(2023年)、ベインキャピタルによるT&K TOKAの取得(2024年)、ポラリス・キャピタル・グループによるBフードサイエンスの取得(2025年)、KKRによる太陽ホールディングスの公開買付けの計画(2026年)と、国内外のファンドが化学メーカーの買い手として登場しています(第3章)。
- 事業承継 — 中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人で後継者が未定となることを試算していました(中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性」)。その2025年を過ぎた現在、2026年版の中小企業白書は、後継者不在率は低下傾向にある一方、2025年は60歳以上の経営者が過半数を占めていること、2025年の休廃業・解散が67,949件であったことを示しています(中小企業庁「2026年版 中小企業白書」)。化学業界でも、創業から60年を超える会社で、第三者への全株式の譲渡(1960年創業の山中ヒューテック、第3章)や、創業家による非公開化(1959年創業のヤスハラケミカル、2026年3月に上場廃止)といった資本の選択が具体化しています。
2. 業界プレイヤー構図
総合化学・大手
| 会社 | 本社 | 連結売上高(売上収益) | 主な領域・直近の動き |
|---|---|---|---|
| 三菱ケミカルグループ | 東京 | 3兆7,039億円(2026年3月期) | 田辺三菱製薬をベインキャピタルに譲渡(2025年)。アクリルエマルジョン事業のコニシへの譲渡に合意(2026年) |
| 東レ | 東京 | 2兆5,850億円(2026年3月期) | 機能化成品が売上の34.6%。曽田香料を韓国の三養グループに譲渡(2026年) |
| 信越化学工業 | 東京 | 2兆5,739億円(2026年3月期) | 塩化ビニル樹脂、半導体シリコン |
| 住友化学 | 東京・大阪 | 2兆3,285億円(2026年3月期) | 2024年10月に4部門制へ移行。台湾の半導体プロセスケミカル会社の取得を発表(2025年) |
| AGC | 東京 | 2兆588億円(2025年12月期) | ガラス、化学品、半導体関連材料。ポリカーボネート事業を住友ベークライトに譲渡(2025年) |
| 三井化学 | 東京 | 1兆6,687億円(2026年3月期) | 新光電気工業の取得に5%出資(2025年)。米国の歯科材料メーカーを取得(2026年) |
| レゾナック・ホールディングス | 東京 | 1兆3,471億円(2025年12月期) | 半導体・電子材料が売上の約38%。2025年7月までに15事業を切り離し |
| DIC | 東京 | 1兆521億円(2025年12月期) | 印刷インキ、顔料。星光PMCを売却(2023年)。保有する太陽ホールディングス株式をKKRの買収案件で売却予定 |
JSRは2024年6月に上場を廃止しましたが、有価証券報告書の提出を続けており、2026年3月期の売上収益は4,407億円です。半導体材料で取得を進める一方、エマルジョン事業と診断薬事業を譲渡しています。
上場の中堅・専業メーカー
| 会社 | 本社 | 連結売上高(売上収益) | 主な領域・直近の動き |
|---|---|---|---|
| カネカ | 大阪・東京 | 8,116億円(2026年3月期) | 機能性樹脂、ライフサイエンス。セメダインを完全子会社化(2022年) |
| クラレ | 岡山・東京 | 8,084億円(2025年12月期) | ポバール樹脂等。米国のNelumboの取得を発表(2025年) |
| ダイセル | 大阪・東京 | 5,796億円(2026年3月期) | セルロースアセテート等。1919年に8社のセルロイド会社の合併で設立 |
| ADEKA | 東京 | 4,165億円(2026年3月期) | 樹脂添加剤、半導体材料 |
| 日本ゼオン | 東京 | 4,119億円(2026年3月期) | 合成ゴム、高機能樹脂。傘下の塗料会社トウペの譲渡を決定(2026年) |
| 日本触媒 | 大阪・東京 | 3,998億円(2026年3月期) | 高吸水性樹脂で世界トップシェアと説明。JSRのエマルジョン事業会社を取得(2025年) |
| 住友ベークライト | 東京 | 3,198億円(2026年3月期) | 半導体封止材、機能性樹脂。AGCから事業を取得(2025年)、京セラの事業の取得を決定(2026年10月予定) |
| 日産化学 | 東京 | 2,795億円(2026年3月期) | ディスプレイ材料、半導体材料 |
| 東京応化工業 | 神奈川県川崎市 | 2,370億円(2025年12月期) | フォトレジスト |
| 大阪有機化学工業 | 大阪 | 362億円(2025年11月期) | アクリル系モノマー、ArFレジスト用原料。三宝化学研究所の議決権33.8%を取得(2026年) |
本社欄に2都市を併記した会社は、二本社制、または登記上の本店と本社機能の所在が異なる会社です。
国内外で取得に動いている会社には、住友ベークライト、日本触媒、JSR、大阪有機化学工業、接着剤のコニシ、保土谷化学工業などがあります。住友ベークライトは2025年にAGCから事業を取得し、2026年には資本関係のない京セラからの事業の取得を決めました。JSRは非公開化の手続きと並行して半導体材料の会社を取得し、非公開化の後はエマルジョン事業と診断薬事業を譲渡しており、取得と譲渡の両面で事業の範囲を選んでいます。
大手グループ傘下の会社
大手化学メーカーや商社のグループには、スペシャリティケミカルの会社が置かれてきました。2024年以降、JSRの子会社として1963年に設立されたイーテック、三井物産と日研化学の合弁として1969年に設立されたBフードサイエンス、東レが66%・三井物産が34%を保有していた曽田香料の譲渡が決まり、三菱ケミカルグループ傘下の日本コーティングレジンの事業も譲渡が決まっています。
オーナー系の非上場企業
非上場の化学メーカーには、創業家が経営するオーナー系の企業が多くあります。半導体用の高純度化学品や成膜材料を手がける非上場の山中ヒューテック(京都市、1960年創業)はJSRの完全子会社となりました。有機合成の受託製造を手がける非上場の三宝化学研究所(堺市、1950年創業)では、大阪有機化学工業が株式を取得し、議決権の33.8%を保有する株主となりました。上場会社では、テルペン系樹脂のヤスハラケミカル(広島県府中市、1959年創業)で、創業家の安原禎二社長が全株式を保有する会社による公開買付けが2025年12月に成立し、株式併合を経て2026年3月6日に上場を廃止しました。資本の選択は、第三者への譲渡、少数出資の受け入れ、創業家による非公開化とさまざまです。
関西への集積
本稿で取り上げる企業のうち、カネカ、ダイセル、日本触媒、大阪有機化学工業、コニシは大阪市に、三宝化学研究所は堺市に、山中ヒューテックは京都市に本社を置いています。住友化学と日本ペイントホールディングスは、東京と大阪の二本社制です。関西には、このほかにも次のような上場の中堅メーカーが本社を置いています。
| 会社 | 本社 | 連結売上高 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| 住友精化 | 兵庫県播磨町 | 1,483億円(2026年3月期) | 高吸水性樹脂、ガス、精密化学品 |
| 三洋化成工業 | 京都市 | 1,278億円(2026年3月期) | 界面活性剤などの機能化学品 |
| 大阪ソーダ | 大阪市 | 999億円(2026年3月期) | 基礎化学品、機能化学品 |
| 第一工業製薬 | 京都市 | 828億円(2026年3月期) | 界面活性剤などの工業用薬剤 |
| 荒川化学工業 | 大阪市 | 821億円(2026年3月期) | 製紙用薬品、樹脂 |
| 堺化学工業 | 堺市 | 814億円(2026年3月期) | 無機化学品 |
| 扶桑化学工業 | 大阪市 | 769億円(2026年3月期) | 果実酸、超高純度コロイダルシリカ |
| ステラケミファ | 大阪市 | 367億円(2026年3月期) | 高純度フッ化物 |
3. 国内のスペシャリティケミカル業界M&A事例 — 大手からの事業の切り出しと、非上場メーカーの取得
事例① 住友ベークライト × AGC(2025年)— 大手化学のポリカーボネート事業の切り出し
AGCは2025年7月、同社と子会社のAGCポリカーボネート(愛知県知多郡)が手がけるポリカーボネート事業を、住友ベークライトに譲渡することで合意したと発表しました。対象は建材用途と産業・電子用途の製品で、ポリカーボネートシートの「ツインカーボ」や光学シート材料が含まれます。AGCは、中期経営計画のもとで資産効率・成長性・炭素効率の観点から事業を見直し、高い技術力を持ち、AGCの資産等を有効に活用できる住友ベークライトに移すことが事業の成長にとって最善と判断したと説明しています。
住友ベークライトは有価証券報告書で、2025年10月に事業を譲り受け、統合を進めて建材用途と産業・電子用途の商品力を強化するとしています。取得には同社の戦略的投資の枠を充てました。譲渡価額は開示されていません。
本案件は、(i)大手化学メーカーが、事業の見直しの結果、樹脂事業を同じ分野の専業メーカーに移した、(ii)売り手が、譲渡先の技術力と自社資産の活用の可能性を判断の理由に挙げた、という点を示しています。
事例② 住友ベークライト × 京セラ(2026年、10月取得予定)— 資本関係のない大手からの半導体封止材事業の取得
住友ベークライトは2026年1月、京セラの化学事業の一部(半導体封止用のエポキシ成形材料、半導体用の接着ペースト、産業用樹脂)を取得すると発表しました。京セラは2026年7月に吸収分割で事業を新会社(川崎市)に承継させ、住友ベークライトが同年10月に新会社の全株式を取得する予定と公表されています。対価は300億円(価格調整あり)で、対象事業の2025年3月期の売上高232億円の約1.3倍に当たります。両社の間に資本関係や人的関係はありません。
住友ベークライトは、取得の目的として、情報通信分野での存在感と高付加価値品の技術を強化し、AIデータセンター向けなどの成長市場を取り込むことを挙げています。同社は2026年10月には、中国・蘇州とシンガポールでの先端半導体向け封止材の生産能力の増強も公表しています。
本案件は、(i)事例①に続き、同じ買い手が、今度は資本関係のない大手から事業を取得する、(ii)売り手は事業を会社分割で新会社に移し、その株式を譲渡する形をとった、(iii)買い手の狙いが、既存事業と同じ分野での技術と顧客の上積みにある、という点を示しています。
事例③ コニシ × 三菱ケミカルグループ(2026年、12月譲渡予定)— 接着剤メーカーによるエマルジョン事業の取得
接着剤「ボンド」を製造・販売するコニシ(大阪市)は2026年2月、三菱ケミカルと、その100%子会社である日本コーティングレジンが手がけるアクリルエマルジョン事業と合成樹脂エマルジョン事業を取得する契約を結んだと発表しました。事業は吸収分割で新会社に承継され、2026年12月1日に株式を譲渡する予定です。日本コーティングレジン全体の2025年3月期の売上高は約122億円で、譲渡価額は開示されていません。
コニシは、中期経営計画で掲げる接着剤事業の強化と、商社機能との組み合わせを狙いとし、自社で手薄なアクリルエマルジョンの市場で技術と販路を得るとしています。三菱ケミカルグループは、中期経営計画のもとでのポートフォリオの見直しにより、ベストオーナーのもとでの運営が事業の持続的な成長に資すると判断したと説明しています。
本案件は、(i)大手化学メーカーの原料事業を、それを使う側の接着剤メーカーが取得する、(ii)買い手の目的が、自社に不足する製品分野の技術と販路の獲得にある、という点を示しています。
事例④ 日本触媒 × JSR(2025年)— 非公開化後の事業の整理と、乳化重合の技術の取得
日本触媒は2024年11月、JSRの子会社であるイーテック(三重県四日市市、1963年設立)の全株式を72億円(価格調整あり)で取得する契約を結び、2025年4月1日に取得を完了しました。イーテックは、合成ゴムラテックスやアクリルエマルジョンを使った建築・土木・工業用の材料を手がけ、2024年3月期の単体売上高は133億円でした。日本触媒は、取得の狙いとして、建材用化学品の品揃えの拡充、乳化重合の技術と生産能力の強化、配合技術による提案力の向上を挙げています。
JSRは2025年10月、診断薬・診断薬材料の事業をトクヤマに820億円で譲渡しました。2024年6月に非公開化したJSRは、半導体材料の会社を取得する一方(事例⑤)、それ以外の事業を国内の化学メーカーなどに譲渡しています。
本案件は、(i)非公開化した大手が、半導体材料への集中と並行して、周辺の事業を国内の化学メーカーに譲渡している、(ii)買い手が、製品だけでなく、製造の技術(乳化重合)と生産能力を取得の理由に挙げた、という点を示しています。
事例⑤ JSR × 山中ヒューテック(2024年)— 京都の半導体用高純度化学品メーカーの取得
JSRは2024年5月、山中ヒューテック(京都市、1960年創業)の全株式を取得する契約を結び、同年8月1日に取得を完了しました。山中ヒューテックは、半導体用の高純度化学品と、CVD・ALDといった成膜工程で使われるプリカーサーを手がける非上場の専業メーカーです。取得価額は開示されていません。
JSRは、先端デバイスで重要性が高まる成膜材料を加え、フォトレジストを中心とする製品群を広げることを取得の狙いとしています。そのうえで、山中ヒューテックが60年以上にわたり先端の顧客に供給してきた実績と、JSRの研究開発・品質管理・サプライチェーンを組み合わせるとしています。
本案件は、(i)半導体材料の大手が、非上場の専業メーカーを、製品群を広げる目的で全株式取得した、(ii)買い手が、対象会社の先端顧客への長年の供給実績を評価の理由に挙げた、という点を示しています。
事例⑥ 大阪有機化学工業 × 三宝化学研究所(2026年)— 関西の専業メーカー同士の資本業務提携
大阪有機化学工業は2026年6月、三宝化学研究所(堺市)の株式を取得し、議決権の33.8%を保有する株主となりました。三宝化学研究所は有機合成の受託製造を手がける非上場の会社で、堺、和歌山、静岡(磐田)、佐賀に工場を持ち、従業員は170名、2024年8月期の売上高は約61億円です。2032年8月期に売上高100億円を目指しています。
両社は、半導体のフォトレジスト原料(モノマー、感光剤、溶剤)を一体で設計すること、共同開発、高純度化と金属管理の技術の連携を提携の内容とし、半導体・ディスプレイという共通の市場で互いを補完するとしています。液体を主に扱う大阪有機化学工業と、粉体を扱う三宝化学研究所の違いを、精製・品質管理の高度化に生かすとしています。大阪有機化学工業は2021年にも、三菱ケミカルから毛髪化粧品用アクリル樹脂の事業を譲り受けています。
本案件は、(i)全株式の譲渡ではなく、少数出資による資本業務提携の形をとった、(ii)同じ市場(半導体・ディスプレイ)に向けて、製品の形態が異なる専業メーカー同士が技術を補完する、という点を示しています。
事例⑦ ポラリス・キャピタル・グループ × Bフードサイエンス(2025年)— 商社の子会社のファンドへの譲渡
ポラリス・キャピタル・グループは2025年1月、三井物産の100%子会社であるBフードサイエンス(愛知県知多市)の全株式を、同グループの子会社を通じて取得する契約を結び、Bフードサイエンスは同年に同グループの傘下に入りました。Bフードサイエンスは1969年に日研化学と三井物産の合弁で設立され、糖アルコールを中心とする機能性食品素材や医薬・化学原料の製造と受託製造を手がけています。三井物産は、事業ポートフォリオの再構築の一環と説明しています。譲渡価額は開示されていません。
本案件は、商社が保有してきた機能性素材メーカーの買い手が、事業会社ではなく国内のファンドであったという点で、事業会社の子会社の譲渡先としてファンドが対象となっていることを示しています。
事例⑧ 三養グループ × 曽田香料(2026年)— 韓国の素材メーカーによる大手グループ傘下の香料会社の取得
韓国の三養グループの日本法人は2026年7月、東レが66%、三井物産が34%を保有していた曽田香料(東京、1915年創業)の全株式を取得しました。企業価値は410億円です。東レは、ベストオーナーの視点で経営資源を最適に配置し、資本効率を高めることを譲渡の理由に挙げ、税引後で約80億円の売却益を見込んでいます。三井物産も、ポートフォリオの再編の一環として譲渡しました。三養グループは、基礎素材から香料・スペシャリティ領域への展開と、自社の糖類低減・食物繊維事業との相乗効果を狙いとしています。
本案件は、(i)国内の大手2社が共同で保有してきた会社の買い手が、海外の素材メーカーであった、(ii)海外の買い手の狙いが、日本の会社が持つ製品と技術を自社の事業と組み合わせることにある、という点を示しています。
事例⑨ KKR × 太陽ホールディングス(2026年、公開買付けの開始前)— 海外ファンドの買収への事業会社の出資と創業者親族の再出資
米国のKKRは2026年3月、ソルダーレジスト(プリント配線板の保護材料)を主力とする太陽ホールディングスに対し、1株4,750円での公開買付けを行う計画を発表しました。太陽ホールディングスは、公開買付けが開始された場合には賛同し、応募は株主の判断に委ねる(応募中立)との意見を表明しています。主要株主のうち、DIC(20.19%)と創業者の親族の資産管理会社である光和(6.35%)は公開買付けに応募せず、株式併合の後に太陽ホールディングスによる自己株式の取得に応じて全株を売却し、投資会社のOasis(15.6%)は公開買付けに応募します。光和は売却代金の一部(110億円相当)を買付者の親会社の優先株式に充て、積水化学工業も約319億円を出資して持株会社の10.0%を保有する予定です。
KKRは、生成AI、データセンター、通信インフラによる電子材料の需要の伸びを狙いとし、積水化学工業は自社のエレクトロニクス事業との補完を挙げています。太陽ホールディングスは2026年10月9日、中国の競争法の手続きと日本の投資規制の手続きが残っているため、公開買付けの開始の目標を11月下旬に延ばすと公表しました。
本案件は、(i)海外ファンドの買収に、国内の事業会社が新たに少数株主として参加する、(ii)大手化学(DIC)の持分の売却と、創業者の親族の資産管理会社の売却・再出資が一つの取引で行われる、(iii)本案件では、国内外の当局の手続きが日程を左右している、という点を示しています。
このほか、海外ファンドによる取得では、カーライルによる星光PMCの取得(2023年。DICが保有していた54.51%を含む)、ベインキャピタルによるT&K TOKAの取得(2024年)があります。海外の事業会社では、スイスのシーカが2021年、横浜ゴムの接着剤・シーリング材事業(ハマタイト)を取得しました。横浜ゴムは、自社はタイヤ事業などに集中し、同事業の成長はグローバルなリーダーのもとで図る方がよいと説明しています。
4. クロスボーダーのスペシャリティケミカル業界M&A事例 — 国内企業による海外での買収
国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内の化学メーカーがどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業の投資基準と価格水準の参照例になります。
事例⑩ 日本ペイントホールディングス × AOC(2025年3月取得完了)— ファンドが保有する樹脂の配合設計メーカーの取得
日本ペイントホールディングスは2024年10月、米国テネシー州に本社を置くAOC(不飽和ポリエステルやビニルエステルなど、コーティング剤・接着剤・シーリング材・複合材料向けの樹脂の配合設計・製造)の持株会社の全持分を、米投資ファンドのローンスターから取得すると発表し、2025年3月3日に取得を完了しました。企業価値は43.5億ドル(約6,308億円)で、2023年のEBITDAの約8.2倍です。AOCの2023年の売上高は14.96億ドル、EBITDAは5.28億ドルで、EBITDAマージンは35.3%でした。資金は手元資金と借入で賄い、新株は発行していません。日本ペイントホールディングスは、AOCの強みとして、北米での上位の地位、顧客ごとにカスタマイズした製品、顧客の事業への深い理解と高い技術サービス力に裏打ちされた顧客サービス、設備投資の負担が小さいことによる強いキャッシュの創出力を挙げています。
同社は買収の基準として、(a)シナジーに頼らず買収初年度からEPSに貢献すること、(b)事業リスクの低い優れた企業であること、(c)優れた経営陣がいること、(d)グループのもとでさらに価値を高められることを挙げています。説明会の質疑では、対象の領域・地域・規模は限定しないこと、資本集約的な事業や市況で大きく振れる事業は好まないこと、現地の経営陣の自律を維持すること、ファンドが売却手続きに入る前に自ら打診したことを説明しています。
本案件は、(i)塗料大手が、塗料に隣接するスペシャリティケミカルに事業を広げた、(ii)売り手がファンドであり、ファンドの出口として事業会社が取得した、(iii)買い手が取得の基準と価格水準(EV/EBITDA約8.2倍)を開示している、という点を示しています。
事例⑪ 保土谷化学工業 × Framochem(2026年8月取得完了)— 長年の競合であった欧州の製造会社の取得
保土谷化学工業は2026年3月、ハンガリーのFramochem(1992年設立、米国VanDeMarkの傘下)の全株式を約8,700万ユーロ(約160億円)で取得すると発表し、同年8月に取得を完了しました。Framochemはホスゲンを使った原薬・中間体・ファインケミカルを製造し、2024年度の売上高は約89.7億円、営業利益は約19.4億円です。株式の取得価額は、この営業利益の約8倍、売上高の約1.8倍に当たります。保土谷化学工業は、新しい中期経営計画のスペシャリティ化学品の成長戦略として、日本からの輸出体制を維持しながら欧州に直接の製造拠点を持つことを狙いとし、対象会社は長年の競合であったと説明しています。
本案件は、(i)国内の中堅メーカーが、同じ化学を扱う海外の競合を取得した、(ii)買い手の狙いが、製品の追加ではなく、需要地での製造拠点の確保にある、という点を示しています。
事例⑫ 住友化学 × Asia Union Electronic Chemical(2025年発表)— 台湾の半導体プロセスケミカル会社の取得
住友化学は2025年11月、台湾のAsia Union Electronic Chemical(台北、1998年設立、従業員約200名)の全株式を取得する契約を結んだと発表しました。Asia Union Electronic Chemicalは、高雄と米国ネバダ州に工場を持つ半導体プロセスケミカルの会社です。取得は関係当局の承認などの手続きを経て完了するとしています。取得価額は開示されていません。住友化学は、この取得により同事業で台湾に初めて、米国に2つ目の拠点を得るとし、半導体プロセスケミカルの売上高を2030年度に2024年度の約2倍にするとしています。
化学商社の長瀬産業も2025年3月、米国SACHEMのアジアの半導体用高純度化学品事業(日本・中国・韓国の拠点を含む)を約1.01億ドルで取得する契約を結び、同年6月に取得を完了しました。長瀬産業は、半導体材料メーカーとしての地位の強化と、現像液(TMAH)の回収・再生の技術を環境ソリューションとして取り込むことを狙いとしています。
本案件は、(i)国内の化学メーカー・化学商社が、半導体の製造地にある現地の会社を取得している、(ii)住友化学は取得の目的を特定の製品分野の売上目標と結び付けて、長瀬産業は回収・再生の技術の獲得として説明している、という点を示しています。
事例⑬ 三井化学 × Ultradent Products(2026年8月取得完了)— 創業者が大株主の歯科材料メーカーの取得
三井化学は2026年6月、米国ユタ州の歯科材料メーカーUltradent Products(1978年創業、創業者が大株主)を9億ドルで取得すると発表し、同年8月14日に取得を完了しました。Ultradentの2025年度の売上高は3.721億ドル、営業利益は3,090万ドルで、対価は売上高の約2.4倍に当たります。三井化学は、ホワイトニングと修復材の分野で世界有数の製品と米国での直販の基盤を得て、既存のドイツの子会社Kulzerと補完し、2030年度までに年4,000万ドル超のシナジーを見込むとしています。取得後は、オーラルケア事業のグローバル本社機能を米国に移し、UltradentのCEOがKulzerのCEOを兼ねます。
本案件は化学品そのものではなく、化学メーカーが育てる周辺の材料事業の案件ですが、(i)創業者が大株主の会社を、国内の化学大手が取得した、(ii)取得後に、対象会社の経営者に事業全体の運営を委ねる形をとった、という点を示しています。
このほか、クラレは2025年4月、米国のNelumboの取得を発表しました。Nelumboはフッ素化合物を使わない撥水の表面改質技術を持つ会社で、技術そのものを目的とする取得の例です。
5. スペシャリティケミカル業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素
スペシャリティケミカルのM&Aでは、財務数値に加えて、業界に固有の要素が確認されます。事例の買い手が公表した取得の理由と統合効果をもとに、製品・技術、顧客・販路、生産・拠点の3つに整理します。
- 製品・技術 — どの顧客の、どの工程・製品に採用されているかと、その実績の長さです。事例⑤の買い手は、対象会社が60年以上にわたり先端の顧客に供給してきた実績を挙げました。半導体材料では、高純度化と金属不純物の管理の技術が提携の目的になり(事例⑥)、乳化重合や配合の技術(事例④)、フッ素化合物を使わない表面改質の技術(クラレの事例)も取得の対象です。
- 顧客・販路 — 顧客の構成と、買い手の製品・販路との補完関係です。事例③の買い手は自社で手薄な市場の技術と販路を、事例⑬の買い手は米国での直販の基盤を、事例⑧の買い手は自社の食品素材事業との相乗効果を挙げています。事例⑩の買い手は、顧客ごとにカスタマイズした製品と、顧客の事業への理解に基づく技術サービスを評価しました。
- 生産・拠点 — 工場の立地、需要地への近さ、設備投資の負担です。事例⑪⑫の買い手は、需要地での製造拠点の確保を取得の狙いとしました。事例⑩の買い手は、設備投資の負担が小さくキャッシュの創出力が強いことを評価し、資本集約的な事業は好まないと説明しています。
6. スペシャリティケミカル業界の買い手の類型
本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の狙いが異なります。
- 国内の化学メーカー — 住友ベークライト(事例①②)、コニシ(事例③)、日本触媒(事例④)、JSR(事例⑤)、大阪有機化学工業(事例⑥)など。同じ分野の技術・顧客の上積みや、自社に不足する製品分野の獲得を狙っています。全株式の取得のほか、少数出資による資本業務提携(事例⑥)もあります。
- 海外の事業会社 — 三養グループ(事例⑧)や、ハマタイトを取得したシーカのように、日本の会社の製品・技術や顧客基盤を自社の事業と組み合わせることを狙う会社です。
- ファンド — 国内のファンド(事例⑦のポラリス・キャピタル・グループ)、海外のファンド(事例⑨のKKR、第3章末尾で触れたカーライル、ベインキャピタル)、官民ファンド(JSRと新光電気工業を非公開化したJIC)があります。事例⑨のように、事業会社が少数株主として加わる例もあります。
7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆
本稿の事例から、スペシャリティケミカルのメーカーと事業の買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。
① 対象先の所在
事例の対象先は、大手化学メーカーの事業(事例①②③)と子会社(事例④)、商社や大手グループが保有してきた会社(事例⑦⑧)、非上場のオーナー系の専業メーカー(事例⑤⑥)、上場会社(事例⑨)に分かれます。事例①〜④の買い手は、いずれも国内の化学メーカーでした。住友ベークライトは、AGCに続いて資本関係も人的関係もない京セラから事業を取得しており(事例②)、既存の資本関係がない大手からの取得も成立しています。商社や大手グループが保有してきた会社では、国内のファンド(事例⑦)と韓国の素材メーカー(事例⑧)が買い手となりました。
投資ファンドは、商社の子会社(事例⑦)、DICが54.51%を保有していた星光PMC(第3章末尾)、DICが20.19%を保有する上場会社(事例⑨)の買い手として登場しています。事例⑨では、積水化学工業が持株会社の10.0%を保有する予定で、事業会社がファンドの買収に少数株主として加わる形がとられています。JICが非公開化したJSRは、非公開化の後、イーテック(事例④)と診断薬事業を国内の化学メーカーに譲渡しており、ファンドが保有する会社が事業の売り手となっています。
日本ペイントホールディングスは、ファンドが売却手続きに入る前に自らAOCの取得を打診したと説明しています(事例⑩)。非上場の専業メーカーは公開情報が少なく、対象先の特定と取得の検討には、親会社・オーナー・株主への直接の打診が伴います。
② 取引の形
事例には、事業の譲受け(事例①)、事業を吸収分割で新会社に承継させ、その全株式を取得する形(事例②③)、子会社の全株式の取得(事例④⑦⑧)、非上場のオーナー企業の全株式の取得(事例⑤)、議決権33.8%の取得による資本業務提携(事例⑥)、ファンドの公開買付けに事業会社が出資し、創業者の親族の資産管理会社が売却代金の一部を優先株式で再出資する形(事例⑨)があります。
価格が開示された事例では、対価300億円が対象事業の売上高の約1.3倍(事例②)、取得価額72億円に対し対象会社の単体売上高133億円(事例④)、企業価値410億円(事例⑧)でした。海外では、ファンドが保有する事業を事業会社が全持分で取得した例(事例⑩、EV/EBITDA約8.2倍)があり、投資ファンドにとっては事業会社への売却の参照例になります。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。
③ 売り手が重視する点
親会社の売り手は、自社のポートフォリオの見直しと、譲渡先のもとでの事業の成長の両面から譲渡を説明しています。AGCは、高い技術力を持ち、AGCの資産等を有効に活用できる住友ベークライトに移すことが事業の成長にとって最善と判断したとし(事例①)、三菱ケミカルグループは、ベストオーナーのもとでの運営が事業の持続的な成長に資すると判断したとしています(事例③)。東レは、ベストオーナーの視点で経営資源を最適に配置し、資本効率を高めることを理由に挙げ(事例⑧)、横浜ゴムは、自社はタイヤ事業などに集中し、ハマタイトの成長はグローバルなリーダーのもとで図る方がよいと説明しています(第3章末尾)。これらの発言からは、事例の親会社が、価格に加えて、譲渡先が事業を伸ばす力を持つかどうかを譲渡先の選定の理由としていたことがうかがえます。
オーナー側では、太陽ホールディングスの創業者の親族の資産管理会社が、保有株式を売却したうえで売却代金の一部を買付者の親会社の優先株式に充てます(事例⑨)。三宝化学研究所は、少数出資を受け入れ、2032年8月期に売上高100億円を目指すとしています(事例⑥)。
8. 化学メーカーのオーナー・親会社が検討すべき論点
売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。
① 買い手候補の範囲
事例の多くは大手の事業の切り出しですが、どの買い手が何を求めて取得しているかは、オーナー企業の譲渡先を考えるうえでも参照になります。非上場の専業メーカーの取得(事例⑤⑥)や大手の非中核事業の取得(事例①〜④)では国内の化学メーカーが、商社が保有してきた会社(事例⑦)や上場会社(事例⑨)では国内外のファンドが、大手2社が保有してきた会社(事例⑧)では海外の事業会社が買い手となっています。国内の化学メーカーは、海外でも、創業者が大株主の会社を含め、特定の製品と拠点を持つ会社を取得しています(事例⑩〜⑬)。買い手候補は、これらの先の中から、自社の製品・顧客・拠点と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。
② 自社の資産の整理
第5章の3つの要素(製品・技術、顧客・販路、生産・拠点)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。事例⑤の買い手が先端顧客への長年の供給実績を、事例⑥が高純度化と金属管理の技術を挙げたように、半導体材料では、顧客の工程での採用の実績と品質管理の体制が評価の対象になります。事例⑩の買い手が設備投資の負担の小ささを評価したように、設備投資の負担も整理の対象です。
③ 取引の形と時期
第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員や取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。上場しているオーナー企業では、創業家による非公開化(ヤスハラケミカル)という選択もとられています。
時期については、半導体材料の案件で、当局の手続きが日程を延ばした例があります。JSRの公開買付けは、規制当局の承認を待つため、当初予定の2023年12月から2024年3月の開始に延び、太陽ホールディングスの公開買付けも、中国と日本の手続きのため開始の目標が11月下旬に延びています(事例⑨)。検討の時間軸には、こうした手続きの期間も含めておく必要があります。
9. Syntax Partnersができること
Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。スペシャリティケミカルを含む化学・素材セクターを最重要セクターの一つと位置づけ、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。
買い手側の支援
国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。スペシャリティケミカル業界M&Aでは、大手グループからの事業の切り出しに加えて、公開情報の少ない非上場のオーナー企業が対象となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。
売り手側の支援
売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、隣接業界の事業会社、ファンドに加えて、海外の化学・素材メーカーなどの戦略買い手も対象とします。
- 買い手候補の探索:国内の同業、隣接業界、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の製品・顧客・拠点と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
- 業界理解に基づく取引支援:顧客の工程での採用の実績、品質管理の体制、販路、生産拠点など、スペシャリティケミカル業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
- オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、取引先との関係、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。
事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
本稿は、各社の公式発表・IR資料・報道等の公開情報に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。