
(2026年10月更新)
プレス、鋳造、鍛造、ダイカストなど素形材の主要7業種の事業所は、2012年から2021年に約4割減りました。減ったのは主に小規模な事業所で、従業者数はほぼ横ばいです。この数年の金属加工・素形材業界M&Aを見ると、東大阪市のねじメーカーが京都の上場同業に譲渡され、製造業の事業承継を目的とする持株会社が全国で金属加工会社を取得しています。ファンドが統合した自動車部品のダイカスト・焼結の2社は2025年に上場会社に引き継がれ、2026年には大阪で創業した鍛造メーカーに対するファンドの公開買付けが、成立に至りませんでした。八尾市のダイカストメーカーは、マレーシアで同業を取得しています。
本稿では、国内外での買収・提携を検討される事業会社の経営企画・事業投資部門、投資ファンドのご担当者、および事業承継や資本政策を検討されている金属加工・素形材メーカーのオーナー・親会社の皆様を念頭に、金属加工・素形材業界の市場構造と、東大阪・八尾を中心とする業界プレイヤーの構図、国内の再編事例と海外資本の関与、国内企業による海外での取得事例を整理し、買い手が確認する業界固有の要素と、買収・売却それぞれの論点をまとめます。
1. 金属加工・素形材業界の市場構造 — 小規模事業所の減少と再編の要因
市場規模
経済産業省の「素形材産業ビジョン」(2025年3月)の参考資料によると、素形材産業の国内出荷額は9.7兆円、従業者は41万人、事業所は約1.8万です(2022年)。主要7業種(鋳造、ダイカスト、鍛造、金属プレス、粉末冶金、金属熱処理、金型)の事業所数は2012年の19,585から2021年の11,511へ41.2%減った一方、従業者数は28万6,728人から28万2,786人とほぼ横ばいでした。規模別では、従業者9人以下の事業所が約4割減り、100人以上の事業所は約2割増えています。素形材企業(経済産業省企業活動基本調査の対象)のうち売上高100億円を超える企業は51社で、素形材企業の平均営業利益率は2.7%と、製造業全体の4.9%を下回ります(経済産業省 素形材産業ビジョン 参考資料集)。
素形材に限らない金属製品製造業は、2024年の経済構造実態調査で製造業の事業所数の13.7%を占め、業種別で最も多くなっています(経済産業省 2024年経済構造実態調査 製造業事業所調査 結果の概要)。
東大阪・八尾の集積
大阪府の東大阪市と八尾市は、金属加工の事業所が集まる地域です。2023年経済構造実態調査(個人経営を除く)では、東大阪市の製造業は2,499事業所、従業者4万6,769人、製造品出荷額等は約1兆2,762億円で、大阪府の事業所の13.4%を占めます(事業所・従業者は2023年6月1日時点、製造品出荷額等は2022年の値)。八尾市は1,273事業所、従業者2万7,429人、製造品出荷額等は約9,286億円です(八尾市 経済構造実態調査(製造業事業所調査)大阪府下市町村別表)。東大阪市は、事業所数が全国5位(2016年経済センサス)、工場密度が全国1位であるとしています(東大阪市 モノづくりのまち東大阪のご紹介)。
業種では、東大阪市の従業者4人以上の事業所の27.3%(659事業所、2020年)、八尾市の26.8%(292事業所、2022年)が金属製品製造業で、いずれも業種別で最多です(東大阪市統計書 工業、八尾市 経済構造実態調査 結果の概要)。八尾市の従業者4人以上の事業所は、1990年の2,717から2022年の1,090へ約6割減りました。
加工の類型別の特性
金属加工・素形材の企業は、加工の方法によって設備、顧客、技能の性格が異なります。M&Aでも、どの加工をどの設備で手がけているかが、買い手の顔ぶれと評価の観点に関わります。
| 加工の類型 | 出荷額・従業者(2022年) | 事業上の特性(本稿の事例に表れたもの) |
|---|---|---|
| 金属プレス | 2.0兆円・8.5万人 | 金型と量産設備が基盤。事例⑨のアルコニックスは、電池部品の高精度・高速プレス技術と量産体制を取得の理由に挙げた |
| 鋳造・ダイカスト | 鋳造1.2兆円・4.8万人、ダイカスト0.7兆円・2.6万人 | 溶解・鋳造の設備と、後工程の機械加工の一貫生産。事例⑪のSTGはダイカスト部門の生産余力を海外取得の理由の一つとした |
| 鍛造 | 0.8兆円・2.1万人 | 自動車・建設機械向けの部品が中心。事例②のメタルアートは、内燃機関部品からの転換期にあることを非公開化の検討の背景に挙げた |
| 粉末冶金・熱処理 | 粉末冶金0.3兆円・1.3万人、熱処理0.3兆円・1.7万人 | 自動車向けの焼結部品など。事例⑦では、焼結部品のダイヤメットがダイカスト・鍛造の柳河精機とともにファンドから上場会社に移った |
| ねじ・切削・その他の金属製品 | — | 製品の品ぞろえと販路の補完が取得の理由になる(事例①)。切削の会社は事業承継型の持株会社の取得の対象となっている(事例⑥) |
出荷額・従業者は、経済産業省「素形材産業ビジョン」参考資料集の業種別の値です。
業界再編を動かす5つの要因
- 小規模事業所の減少と規模の拡大 — 上記のとおり、素形材の事業所は約4割減り、小規模な事業所で減少率が大きくなっています。経済産業省の素形材産業ビジョンは、高付加価値分野への進出を可能にする手段として「企業規模の拡大(M&A、ホールディングス化等)」を挙げ、2040年に高付加価値分野の需要先比率と海外展開比率をいずれも3割から5割に高める目標を示しています(経済産業省 素形材産業ビジョン 概要)。
- 経営者の年齢と後継者 — 東大阪市が2024年に実施した調査(回答538社、うち金属製品39.4%)では、経営者の年齢は60代が24.2%、70代が16.9%、80歳以上が4.5%でした。3〜5年後の見通しとして「事業の譲渡」を挙げた企業は5.0%で、不足している人材として「後継者候補となるマネジメント人材」を挙げた企業は33.2%です(東大阪市製造業に関する実態・ニーズ調査 報告書)。事業承継型の持株会社は、後継者のいない製造業の引き継ぎを取得の理由に掲げています(事例⑥)。
- 自動車への依存と電動化 — 素形材産業ビジョンの本文は、需要先の約7割を自動車に依存しているとしています(経済産業省 素形材産業ビジョン)。事例②のメタルアートは内燃機関部品からの転換期にあることを、事例⑨のアルコニックスはEV向けの電池部品の成長性を、事例⑪のSTGは電動化とサプライチェーンの再編を、それぞれ取引の理由に挙げました。
- 取引の適正化と価格転嫁 — 2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(改正下請法)は、協議に応じない一方的な代金の決定と手形による支払いを禁じ、製造委託の対象に金型以外の型を加えました(公正取引委員会 取適法リーフレット)。中小企業庁の2026年3月の価格交渉促進月間のフォローアップ調査では、「金属」の業種の価格転嫁率は55.8%でした(中小企業庁 価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果)。取引条件の見直しは、受注側の収益と、買い手が確認する取引条件の両方に関わります。
- 大手グループと上場会社の再編 — 2024年にツバキ・ナカシマ(奈良県葛城市)がボールねじ事業をミネベアミツミに譲渡し(事例④)、2026年には神戸製鋼所が上場子会社の神鋼鋼線工業(兵庫県尼崎市)を株式交換で完全子会社化すると発表しました(事例③)。上場会社の資本の見直しは、事業の切り出しと、親会社による取り込みの双方の形をとっています。
2. 業界プレイヤー構図
本稿に登場する主な上場企業
| 会社 | 連結売上高(決算期) | 金属加工の事業・直近の動き |
|---|---|---|
| アルコニックス | 2,197億円(2026年3月期) | 非鉄金属の商社と製造の会社群。ソーデナガノ、ジュピター工業などを取得(事例⑨) |
| 児玉化学工業 | 827億円(2026年3月期) | 樹脂加工。2025年にメプロホールディングス(柳河精機・ダイヤメット)を取得(事例⑦) |
| セレンディップ・ホールディングス | 512億円(2026年3月期) | 製造業の事業承継と経営支援。傘下の佐藤工業とイワヰが2025年に合併(事例⑥) |
| 日東精工 | 502億円(2025年12月期) | 京都府綾部市のねじ・ファスナーのメーカー。東大阪市のケーエム精工、インドのVulcan Forgeを取得(事例①⑫) |
| メタルアート | 453億円(2026年3月期) | 滋賀県草津市の精密鍛造のメーカー。1916年に大阪で創業。2026年のファンドの公開買付けは不成立(事例②) |
| 神鋼鋼線工業 | 331億円(2026年3月期) | 兵庫県尼崎市の特殊鋼線・ワイヤロープのメーカー。2026年に神戸製鋼所が株式交換による完全子会社化を発表(事例③) |
| 技術承継機構 | 150億円(2025年12月期) | 製造業の会社を続けて譲り受ける持株会社。2025年12月期に9社が新たに連結に加わった(事例⑥) |
| STG | 68億円(2026年3月期) | 大阪府八尾市のマグネシウム・アルミのダイカストのメーカー。マレーシアで同業を取得(事例⑪) |
大手グループ・ファンドが関わる企業
柳河精機(三重県亀山市、アルミダイカスト・鍛造)とダイヤメット(新潟市、焼結部品)は、エンデバー・ユナイテッドのファンドの傘下で持株会社のメプロホールディングスにまとめられ、2025年に児玉化学工業に移りました(事例⑦)。スマートフォンのカメラ向けの板ばねなどをフォトエッチングでつくるユナイテッド・プレシジョン・テクノロジーズは、アドバンテッジパートナーズのファンドからインテグラルに移っています(事例⑧)。
オーナー系の非上場企業
東大阪市・八尾市の製造業の多くは、オーナーが経営する非上場の企業です。東大阪市の2024年の調査では、回答企業の40.5%が2代目、38.8%が3代目以降の経営者でした。事例①のケーエム精工は、創業家の親族が全株式を保有していました。非上場の企業は開示される情報が少なく、候補先の特定には公開データベースに頼らない調査が必要です。
本稿の事例に登場する関西の企業
本稿で取り上げる企業のうち、ケーエム精工(東大阪市)、STG(八尾市)、京和精工(大阪府高槻市)、太平工材(兵庫県姫路市)、神鋼鋼線工業(兵庫県尼崎市)、ツバキ・ナカシマ(奈良県葛城市)、日東精工(京都府綾部市)、メタルアート(滋賀県草津市)は、関西に本社を置いています。オージックグループの取得の主体である株式会社オージックも東大阪市の会社で、富山県・岐阜県の金属加工会社を取得しています(事例⑥)。八尾市は、市・八尾商工会議所・大阪シティ信用金庫の協定に基づく相談窓口の相談項目に、M&A(買収・合併・事業譲渡)の仲介を挙げています(八尾市 産業振興連携相談窓口)。
3. 国内の金属加工・素形材業界M&A事例 — オーナー企業の譲渡、上場会社の再編、事業承継型の持株会社とファンド、海外ファンドによる取得
事例① 日東精工 × ケーエム精工・ピニング(2022年)— 東大阪のねじメーカーを京都の上場同業が取得
京都府綾部市のねじメーカーである日東精工は2022年2月、東大阪市吉田本町でねじ・ナットを設計・製造・販売するケーエム精工の全株式を取得すると発表し、4月1日に取得しました。ケーエム精工の2021年9月期の売上高は32億9,200万円、営業利益は4億1,500万円、純資産は17億1,400万円です。同じ所在地でねじの輸出入・販売を担う子会社のピニング(2021年11月期の売上高6億1,600万円)も、あわせてグループに加わりました。売り手は創業家の北井敬人氏・北井啓之氏(各42.5%)とその他の親族(15%)で、価格は秘密保持契約により開示されていません。日東精工は、同じファスナーの領域で製品が異なるため、販路の活用、製品開発、製造での協働によるシナジーを見込むとしています。
日東精工のニュースレターによると、ケーエム精工の北井社長は、少子高齢化とグローバル化が進むなかで中小企業単独では資金力も人手も足りないと述べ、欧州のねじ業界がグループ化して補い合っていることを挙げています。
本案件は、(i)東大阪の創業家が全株式を保有するねじメーカーが、関西の上場同業に譲渡された、(ii)買い手が、同じ領域で製品の異なる会社を、販路・開発・製造の補完を理由に取得した、(iii)売り手の経営者が、単独での資金と人手の確保の難しさを譲渡の背景として語った、という点を示しています。
事例② スパークス系ファンド × メタルアート(2026年)— 大阪創業の鍛造メーカーの非公開化の試み
1916年に大阪で後藤鍛工所として創業し、現在は滋賀県草津市に本社と主力工場を置く精密鍛造のメタルアートは、2026年5月、スパークス・グループ傘下の運営会社が無限責任組合員を務めるファンドの買収会社Gerbera holdingsによる公開買付けに賛同を表明しました。条件は1株7,600円(公表日の前営業日である2026年5月13日の終値に対するプレミアム51.39%)で、筆頭株主のダイハツ工業(36.23%)は公開買付けに応募せず、メタルアートの自己株式取得に1株5,627円で応じたうえで、買収会社に3分の1を再出資する計画でした。メタルアートは、内燃機関部品からの転換期にあり、既存事業とモーター事業への柔軟な投資が必要であることなどを背景に挙げています。買付価格は7月に7,713円に引き上げられ、買付予定数の下限も引き下げられましたが、公開買付けは成立せず、東京証券取引所は7月30日付で、メタルアートの監理銘柄の指定を解除しました。
本案件は、(i)自動車向けの鍛造メーカーが、電動化の下での投資の必要を背景に、ファンドと大株主の事業会社の共同出資による非公開化を検討した、(ii)大株主の事業会社が応募せず、自己株式の取得と再出資で関与を続ける形が示された、(iii)約50%のプレミアムと価格の引き上げを経ても、公開買付けが成立しなかった、という点を示しています。
事例③ 神戸製鋼所 × 神鋼鋼線工業(2026年)— 尼崎の上場子会社の完全子会社化
神戸製鋼所は2026年5月、43.48%を保有する神鋼鋼線工業(兵庫県尼崎市)を株式交換で完全子会社化すると発表しました。神鋼鋼線工業は、PC鋼線、ばね用鋼線、ステンレス鋼線などの特殊鋼線とワイヤロープ、橋梁用ケーブルの部材を手がけ、2026年3月期の連結売上高は330億7,400万円です。株式交換の比率は神鋼鋼線工業1株に神戸製鋼所0.94株で、効力発生日は2026年9月1日とされました。神戸製鋼所は、資本面で一体化し、経営資源を相互に活用して迅速に意思決定することを理由に挙げています。
本案件は、(i)関西の素材大手が、線材の加工を担う上場子会社を、株式交換で取り込んだ、(ii)親子上場の解消が、金属加工の上場会社の再編の一つの形となっている、という点を示しています。
事例④ ミネベアミツミ × ツバキ・ナカシマのボールねじ事業(2024年)— 奈良の上場会社による事業の切り出し
奈良県葛城市に本社を置くツバキ・ナカシマは2024年2月、ボールねじとボールウェイの製造・販売事業を新設分割で新会社に移し、その全株式をミネベアミツミに譲渡すると発表しました。対象事業の2023年12月期の売上高は32億5,200万円で、価格は守秘義務により開示されていません。会社分割の効力発生日と株式の譲渡日は、2024年12月10日とされました。ツバキ・ナカシマは、事業の選択と集中の一環として、対象事業の技術力と顧客との関係を生かすには、ミネベアミツミのもとで事業を拡大するのが最適と判断したとしています。
本案件は、(i)関西の上場会社が、非中核の金属加工の事業を会社分割で切り出し、大手部品メーカーに譲渡した、(ii)売り手が、事業の技術と顧客関係を生かせる買い手であることを譲渡の判断の理由とした、という点を示しています。
事例⑤ 岩谷産業 × 太平工材・太平金属(2024年)— 兵庫のステンレス加工会社を商社が取得
岩谷産業は2024年3月、兵庫県姫路市の太平工材と兵庫県多可郡多可町の太平金属の全株式を取得すると発表しました。両社はステンレス・非鉄材料の加工・販売を手がけ、岩谷産業によると、兵庫県内で地域トップクラスのシェアを持ち、切断の即応性と短納期、営業力に強みがあります。岩谷産業は、主力のステンレス事業の強化と加工機能の拡充を目的に挙げ、ステンレスの一次問屋としての自社の機能と組み合わせるとしています。価格と対象会社の業績は開示されていません。
本案件は、(i)材料の商社が、川下の加工機能を持つ地域の会社を取得した、(ii)買い手が、対象会社の地域でのシェアと、切断・短納期の対応力を評価した、という点を示しています。
事例⑥ 事業承継型の持株会社による取得(2022年〜)— 技術承継機構、セレンディップ、影山グループ、オージック
製造業の事業承継を目的に、金属加工会社を続けて取得する持株会社があります。技術承継機構は、2022年7月に大阪府高槻市で産業機器の部品の切削加工を手がける京和精工を譲り受けました。同社は東証に上場しており、2025年12月期の連結売上高は149億6,100万円(前期比35.4%増)で、同期中に複数の会社を新たに連結の範囲に加えています。
セレンディップ・ホールディングスの傘下では、愛知県あま市の佐藤工業と三重県津市のイワヰが、いずれも自動車部品のプレス加工を中心とする会社として2025年4月1日に合併し、ユニクレアとなりました。同社は合併の目的に、経営効率と生産性の向上、設備投資の最適化、間接部門の集約を挙げています。静岡県沼津市の影山鉄工所を中心とする影山グループは、2024年12月にフジマシン(静岡県富士市、自動車部品の加工・溶接)、2025年2月に三協鋳造所(愛知県西尾市、工作機械向けの鋳物、売上高約6億円)、2025年11月にムラコシ(静岡県袋井市)の全株式を取得し、後継者のいない製造業の技術と人材を引き継ぐことを理由に挙げています。
東大阪市の株式会社オージックを取得の主体とするオージックグループは、2022年に広進工業(富山県滑川市、自動車部品の切削、2021年3月期の売上高17億700万円)の70%を、2023年にオイダ製作所(岐阜県大垣市、農機・船舶・航空機部品の金属加工、2022年3月期の売上高25億2,100万円)の全株式を個人株主8名から取得し、のれん2億4,100万円を計上しました。広進工業の取得では、事業承継に課題を抱える中小企業との戦略的な提携を理由に挙げています。
これらの案件は、(i)後継者のいない金属加工会社の譲渡先として、事業承継を目的とする持株会社が全国で取得を続けている、(ii)取得後に、同じ加工を手がける傘下の会社どうしを合併させる例がある(ユニクレア)、(iii)関西の会社が、他地域の金属加工会社の取得の主体となる例もある(オージック)、という点を示しています。
事例⑦ エンデバー・ユナイテッド × 柳河精機・ダイヤメット、児玉化学工業(2020〜2025年)— ファンドによる統合と、上場会社への承継
アルミダイカスト・鍛造の柳河精機(三重県亀山市)と焼結部品のダイヤメット(新潟市)は、エンデバー・ユナイテッド2号投資事業有限責任組合の傘下で、2023年11月に持株会社のメプロホールディングスにまとめられました。2024年3月期の連結売上高は、柳河精機が484億7,100万円、ダイヤメットが192億6,000万円です。樹脂加工の児玉化学工業は2025年2月、同組合からメプロホールディングスの全株式と、同組合がダイヤメットに持つ貸付債権を、合計10億円で譲り受ける契約を結び、4月1日に実行しました。同組合は児玉化学工業の筆頭株主でもあり、取引は特別委員会で審議されています。債権の額面は、譲受時に約34億2,000万円の見込みとされました。児玉化学工業は、規模の拡大、顧客の共通性、樹脂と金属の複合製品、海外拠点の活用を理由に挙げ、2026年3月期の連結売上高は827億700万円(前期比422.1%増)となりました。
本案件は、(i)ファンドが、異なる加工の自動車部品メーカー2社を持株会社にまとめた、(ii)その出口として、ファンドが筆頭株主である上場会社に、株式と貸付債権を合わせて譲渡した、(iii)買い手が、樹脂と金属の複合という製品の補完を理由に挙げた、という点を示しています。
事例⑧ アドバンテッジパートナーズ × ユナイテッド・プレシジョン・テクノロジーズ、インテグラル(2015〜2023年)— 同業の統合とファンド間の承継
アドバンテッジパートナーズのファンドは2015年、フォトエッチング加工の協成を傘下に収め、2017年にコーケン化学をグループに加えて、社名をユナイテッド・プレシジョン・テクノロジーズ(UPT)に改めました。インテグラルは、UPTがスマートフォンのカメラ向けの板ばね(VCM事業)で、世界的なニッチ分野の首位にあると説明しています。インテグラルは2023年6月、既存株主からUPTの株式を取得したと発表し、VCM事業で培った技術と国内外の大手企業との関係を基に、顧客の拡大と成長領域の開拓を支援するとしています。取得の比率と価格は開示されていません。
本案件は、(i)ファンドが、同じフォトエッチングの技術を持つ会社をまとめて規模を広げた、(ii)その出口が、別のファンドへの譲渡であった、という点を示しています。
事例⑨ アルコニックス × ソーデナガノ(2022年)ほか — 商社による精密プレスメーカーの取得
非鉄金属の商社と製造の会社群を持つアルコニックスは2022年4月、長野県岡谷市でリチウムイオン電池向けの金属精密プレス部品と金型を手がけるソーデナガノの全株式を、88億円で取得する契約を結びました。ソーデナガノの2021年3月期の売上高は34億4,700万円、経常利益は12億3,300万円、純資産は71億7,700万円です。売り手は代表取締役で、創業家(57.8%)、事業会社(33.3%)、東京中小企業投資育成(8.9%)の株式をとりまとめて譲渡しました。アルコニックスは、EV向けの電池部品の成長性、特許と高精度・高速プレスの技術、量産と品質管理の体制、国内の大手電池メーカーとの関係を理由に挙げ、グループのプレス会社とともに総合的なプレス加工のグループをつくるとしています。同社は2018年に富士カーボン製造所(80億円)、2022年にジュピター工業(岩手県宮古市、精密コネクタ用端子のプレス)も取得しています。
本案件は、(i)材料の商社が、製造の機能を広げるために、成長分野の部品を手がけるプレスメーカーを取得した、(ii)創業家、事業会社、公的な投資会社に分かれた株式を、経営者がとりまとめて一括で譲渡した、という点を示しています。
海外資本による日本の金属加工・素形材企業の取得(Out-In)
本稿の調査の範囲では、海外企業による関西の金属加工会社の取得は確認できませんでした。全国では、海外の投資ファンドが大手の素形材企業を取得した例があります。
事例⑩ ベインキャピタル × 日立金属(2021〜2023年)— 海外ファンドを中心とする連合による大手グループからの切り出し
日立製作所は2021年4月、上場子会社の日立金属をベインキャピタルを中心とする連合に譲渡すると発表しました。公開買付けは2022年9月に開始され、条件は1株2,181円です。日立製作所が保有する53.38%は公開買付けに応募せず、非公開化の後に日立金属の自己株式取得(1株1,674円)で売却する手順がとられました。買収会社への出資は、ベインキャピタル系のファンドが約77%、日本産業パートナーズ系が約14%、JIS系が約9%です。日立金属は、特殊鋼、素形材、磁性材料・パワーエレクトロニクス、電線材料の4事業を持ちます。日立製作所は、2020年11月から複数の候補に打診し、2021年4月に最終候補を選定しました。同社は非公開化の後、2023年1月に社名をプロテリアルに改めています。
本案件は、(i)海外のファンドが国内のファンドと連合を組み、大手グループの素形材を含む事業を取得した、(ii)親会社が公開買付けに応募せず、自己株式の取得で持分を手放す手順がとられた、(iii)親会社が複数の候補への打診を経て譲渡先を選んだ、という点を示しています。
4. クロスボーダーの金属加工・素形材業界M&A事例 — 国内企業による海外での取得
国内で売却や提携を検討するオーナーにとっては、国内の金属加工メーカーがどのような基準で何を買っているかが、自社が買い手からどう評価されるかを考える材料になります。国内外での買収を検討する事業会社にとっては、同業の投資の方向と取引の形の参照例になります。
事例⑪ STG × E-Cast Industries(2025年)— 八尾のダイカストメーカーによるマレーシアの同業の取得
八尾市に本社と工場を置き、マグネシウム・アルミのダイカストを金型から機械加工・組立まで一貫生産するSTGは、2025年9月、マレーシアのペナン州でアルミダイカスト部品を製造するE-Cast Industriesの全株式を、個人3名から20億6,500万円(5,900万リンギット)で取得すると発表しました。E-Castの2024年12月期の売上高は14億8,500万円、営業利益は3億6,200万円です。STGは、中期経営計画の成長の加速、電動化とサプライチェーンの再編によるマレーシアの成長性、E-Castのダイカスト部門に約50%の生産余力があること、2021年に買収したジョホール州の子会社との相互補完を、理由に挙げています。STGの2026年3月期の連結売上高は68億1,500万円です。
本案件は、(i)八尾の金属加工メーカーが、海外の同業を、自社の連結売上高の約3割(当社試算)にあたる価格で取得した、(ii)買い手が、対象会社の生産余力と既存の海外子会社との補完を理由に挙げた、(iii)売り手が個人株主3名であった、という点を示しています。
事例⑫ 日東精工 × Vulcan Forge(2024〜2025年)— 京都のねじメーカーによるインドの圧造部品メーカーの取得
日東精工は2024年2月、インドで圧造部品を設計・製造・販売するVulcan Forgeの株式を取得し、同社と子会社のVulcan Cold Forgeを子会社化すると発表しました。インドの関係当局の承認などに時間を要し、譲渡の実行は2025年3月13日となりました。取得比率は100%で、価格は相手先の意向により開示されていません。日東精工は、中期経営計画で掲げる成長国での販路の拡大の一環として、インド市場への本格的な進出を位置づけています。
本案件は、(i)日東精工が、事例①の国内での取得に続き、海外でも同じファスナーの領域の会社を取得した、(ii)現地当局の承認などに時間を要し、発表から約1年後に実行された、という点を示しています。
5. 金属加工・素形材業界M&Aで買い手が確認する業界固有の要素
金属加工・素形材業界M&Aでは、財務数値に加えて、業界に固有の要素が確認されます。事例の当事者が公表した取得・譲渡の理由と、第1章の制度をもとに、加工技術・設備、顧客・取引条件、人材・承継の3つに整理します。
- 加工技術・設備 — どの加工を、どの設備・金型で、どの精度と量で手がけているかです。事例⑨のアルコニックスは特許と高精度・高速プレスの技術、量産と品質管理の体制を、事例⑤の岩谷産業は切断の即応性と短納期を、事例⑪のSTGは対象会社の生産余力を、それぞれ取得の理由に挙げました。事例①⑦では、製品の品ぞろえや素材の補完が理由となっています。
- 顧客・取引条件 — 主要顧客と業種、特に自動車への依存度、取引条件と価格転嫁の状況です。事例⑨では国内の大手電池メーカーとの関係が、事例⑦では顧客の共通性が、取得の理由に含まれていました。事例②では、内燃機関部品からの転換が非公開化の検討の背景となっています。取適法の施行(第1章)により、代金の決定方法、支払手段、型の保管などの取引条件も確認の対象になります。
- 人材・承継 — 技能者と現場の管理者、経営者の承継の状況です。事例⑥の持株会社は後継者のいない製造業の技術と人材の引き継ぎを、事例①の売り手は単独での人手の確保の難しさを挙げています。オーナーが退任した後の技能の継承と、取引先との関係の引き継ぎが論点になります。
6. 金属加工・素形材業界の買い手の類型
本稿の事例に表れた買い手は、大きく3つに分けられます。類型ごとに、取得の理由と取引の形が異なります。
- 国内の上場メーカー・商社 — 日東精工(事例①⑫)、神戸製鋼所(事例③)、ミネベアミツミ(事例④)、岩谷産業(事例⑤)、児玉化学工業(事例⑦)、アルコニックス(事例⑨)、STG(事例⑪)。製品・素材の補完、加工機能の拡充、海外での生産能力の取得を理由に、オーナー企業、上場会社の事業、ファンドの保有先を取得しています。
- 事業承継型の持株会社 — 技術承継機構、セレンディップ・ホールディングス、影山グループ、オージックグループ(事例⑥)。後継者のいない金属加工会社を続けて取得し、傘下の会社どうしを合併させる例もあります。
- 投資ファンド — エンデバー・ユナイテッド(事例⑦)、アドバンテッジパートナーズとインテグラル(事例⑧)、スパークス系のファンド(事例②)、ベインキャピタルを中心とする連合(事例⑩)。異なる加工・同じ加工の会社の統合、上場会社の非公開化、大手グループからの切り出しで買い手となり、上場会社や別のファンドへの譲渡で出口をとっています。
7. 買収・提携を検討する事業会社・投資ファンドへの示唆
本稿の事例から、金属加工・素形材メーカーの買収・提携を検討する事業会社と投資ファンドにとっての論点を3つに整理します。
① 対象先の所在
事例の対象先は、大きく3つに分かれます。1つ目は創業家や個人が株式を保有するオーナー企業で、東大阪市のケーエム精工(事例①)、長野県のソーデナガノ(事例⑨)、事業承継型の持株会社が取得した各社(事例⑥)、マレーシアのE-Cast(事例⑪)がこれにあたります。2つ目は上場会社とその事業・子会社で、メタルアート(事例②)、神鋼鋼線工業(事例③)、ツバキ・ナカシマのボールねじ事業(事例④)、日立金属(事例⑩)が取引の対象となりました。3つ目はファンドの保有先で、柳河精機・ダイヤメット(事例⑦)とUPT(事例⑧)が上場会社や別のファンドに移っています。
東大阪市・八尾市には金属製品製造業の事業所が集まり(第1章)、その多くは非上場のオーナー企業です。非上場の企業は開示される情報が少なく、候補先の特定には公開データベースに頼らない調査と、オーナーや親会社への直接の打診が必要になります。
② 取引の形
事例には、オーナー企業の全株式の取得(事例①⑥⑪)、経営者が複数の株主の株式をとりまとめた一括取得(事例⑨)、過半数の取得(事例⑥の広進工業70%)、上場会社の事業の会社分割による切り出し(事例④)、株式交換による上場子会社の完全子会社化(事例③)、ファンドと大株主の事業会社の共同出資による非公開化の試み(事例②)、ファンドからの株式と貸付債権の一括の譲受(事例⑦)、ファンド間の譲渡(事例⑧)、大株主・親会社が公開買付けに応募せず、自己株式の取得で売却する形(事例②⑩)があります。開示された価格は、事例⑨が88億円、事例⑪が20億6,500万円、事例⑦が株式と債権の合計で10億円です。事例①④⑤⑧では価格が開示されていません。どの形をとるかは、親会社・オーナーの意向と、買い手の統合計画によって決まります。
③ 売り手が重視する点
ツバキ・ナカシマは、対象事業の技術力と顧客との関係を生かせることを、譲渡先の判断の理由としました(事例④)。事例①の売り手の経営者は、単独では資金力も人手も足りないことと、欧州の同業のグループ化を挙げています。日立製作所は、日立金属の譲渡先を複数の候補への打診を経て選んでいます(事例⑩)。事例②では、大株主のダイハツ工業が公開買付けに応募せず、再出資で関与を続ける計画でした。
これらの事実からは、事例の売り手が、譲渡後に事業の技術と顧客関係が生かされるか、必要な投資の資金と人手を確保できるかを重視し、大株主の一部は譲渡後も関与を続ける選択肢をとっていたことがうかがえます。
8. 金属加工・素形材メーカーのオーナー・親会社が検討すべき論点
売却や資本提携を検討するオーナー・親会社の側では、次の3点が検討の出発点になります。
① 買い手候補の範囲
国内の上場メーカー・商社(事例①③④⑤⑦⑨)に加えて、事業承継型の持株会社(事例⑥)、投資ファンド(事例②⑦⑧⑩)が買い手となっています。国内の上場メーカーは海外での取得も行っており(事例⑪⑫)、成長投資を進める先として候補に含まれます。海外のファンドが国内の大手の素形材企業を取得した例もあります(事例⑩)。買い手候補は、これらの先の中から、自社の加工技術・顧客・人材と補完関係にある企業を洗い出すことから検討します。
② 自社の資産の整理
第5章の3つの要素(加工技術・設備、顧客・取引条件、人材・承継)ごとに、自社のどの資産が、どの買い手にとって補完になるかを整理しておくと、買い手候補との協議で評価の根拠を示すことができます。主要顧客への依存度、とくに自動車の内燃機関部品の比率と、取適法の下での取引条件・価格転嫁の状況は、買い手の確認の対象になります。設備の更新の時期と必要な投資額も、あわせて整理が必要です。
③ 取引の形と時期
第7章②の取引の形のうち、どれが適するかは、承継の意向、従業員と取引先との関係、譲渡後の経営への関与の希望によって変わります。事例⑥のユニクレアのように、取得後に傘下の会社どうしが合併する場合もあるため、譲渡後の経営への関与の希望は、買い手の統合の進め方とあわせて確認することになります。株式が創業家、事業会社、投資会社などに分かれている場合は、事例⑨のように譲渡の前に株式をとりまとめる手続きも、検討の対象になります。
9. Syntax Partnersができること
Syntax Partnersは、M&Aのファイナンシャル・アドバイザー(FA)専業のアドバイザリーファームです。一つの案件では、売り手・買い手のいずれか一方のみを支援します。大阪に拠点を置き、東大阪・八尾を含む関西の金属加工・素形材の分野で、国内案件とクロスボーダー案件の双方に対応しています。
買い手側の支援
国内外での買収を検討される事業会社・投資ファンドに対し、貴社の戦略に基づく対象候補の調査・リスト化から、オーナー・親会社への直接の打診、交渉、取引の実行までを支援します。投資ファンドのアドオン買収や、大手グループからの切り出し案件の候補探索にも対応します。金属加工・素形材の分野では、公開情報の少ない非上場のオーナー企業が対象の中心となるため、候補先の調査とオーナー・親会社への直接のアプローチを当社が担います。海外の対象先については、日英を含む多言語で対応します。
売り手側の支援
売主様・オーナー様の利益を最大化するアドバイザーとして、事業承継と売却を支援します。投資ファンドが保有する企業の売却も対象とします。譲渡先の候補は国内の同業に限らず、商社、事業承継型の持株会社、ファンドに加えて、海外の金属加工メーカーなどの戦略買い手も対象とします。
- 買い手候補の探索:国内の同業、商社、事業承継型の持株会社、ファンド、海外の戦略買い手まで、貴社の加工技術・顧客・人材と補完関係にある先を洗い出し、直接アプローチします。
- 業界理解に基づく取引支援:加工の方法と設備、主要顧客と取引条件、価格転嫁の状況、技能者の構成など、金属加工・素形材業界固有の要素を踏まえて、買い手候補への説明と条件の協議を進めます。
- オーナーの意向を反映した交渉:従業員の雇用、取引先との関係、技能の継承、創業家の関与のあり方など、オーナーが重視する条件を明文化し、買い手候補との交渉に反映します。
事業承継、グループ再編、海外の買い手への譲渡、国内外での買収を検討されている経営者・オーナーの皆様からのご相談を承ります。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
本稿は、各社の公式発表・IR資料等の公開情報と、官公庁・自治体の統計に基づき、Syntax Partners, Inc. が業界動向を整理したものです。