
はじめに
EVシフトの加速、中国メーカーの急伸、そして東アジア~東南アジア全域で進むサプライチェーンの再編。
自動車業界はいま、100年に一度の転換期を迎えています。世界的に電動化が進むなか、従来の競争構造は急速に書き換えられつつあり、その中心にトヨタの動きがあります。
とりわけ東南アジア最大の自動車拠点であるタイでは、政府によるEV推進策(EV 3.0/EV 3.5、30@30)を背景に、中国勢の存在感が一段と強まり、EV市場全体の動きが勢いを増しています。主要部品のローカライズも進み始め、こうした変化は2026年に本格的に姿を現すと見られています。
本レポートでは、Syntax Partners の視点から、トヨタがタイで進める「EV Procurement Transformation」—中国サプライヤーからのEV部品調達の本格化—を手がかりに、自動車バリューチェーン全体で進む構造変化と日本企業への影響、そして2026年以降を見据えた戦略的示唆を読み解きます。
トヨタ の戦略転換:タイでの中国製部品調達
トヨタ自動車は東南アジア戦略の大転換を図ろうとしています。日本経済新聞の報道(2025年8月)によれば、トヨタは東南アジア最大の生産拠点であるタイ工場で中国部品メーカーからの本格調達を開始します。従来、この地域では日系サプライヤー中心の系列的な調達網を築いてきましたが、それを見直し価格競争力の高い中国製部品を積極活用する方針に舵を切ったのです。
具体的には、タイ有力部品メーカーのサミット・グループに対し、中国の内装材大手「蕪湖躍飛新型吸音材料(Wuhu Yuefei)」を紹介し、2025年1月にタイで合弁会社を設立させました。今後、現地に工場を設け同社からトヨタ向けに内装部品を供給する計画とのことです。日本車メーカーが主体となって中国部品メーカーの東南アジア進出を促すのは初めてのケースとみられます。さらにトヨタは、金型メーカーの浙江凱華模具や樹脂材料メーカーの金発科技といった中国企業の製品採用も、取引関係のある日系部品会社に働きかけています。中国系部品の採用拡大により調達コストを削減すると同時に、日系サプライヤーに対しても競争圧力をかけ、コスト低減を促す狙いがあると考えられます。
トヨタは2028年頃に東南アジアで投入予定の新型電動車を見据え、上記の戦略を進めています。その車両にはEVやハイブリッド車(HV)など複数の動力に対応する「マルチパスウェイ・プラットフォーム」を採用し、中国系部品の活用によって「コストを従来より3割削減」する目標を掲げています。この大胆なコストダウン目標は、中国市場向け低価格EV「bZ3X」での成功体験を東南アジアにも展開しようという考えに基づきます。実際、bZ3Xでは中国メーカー製の安価な部品を最大限活用し、約22万円(11万元)というトヨタ最安のEVを実現しました。同様の手法で、東南アジアでも**「安価で競争力ある電動車」を開発しようとしている**とトヨタ関係者は述べています。
また、トヨタは長年取引のある日系部品メーカーに対しても中国製品採用を促す姿勢を明確にしています。これは自社調達コストの削減だけでなく、既存サプライヤーの変革を促す圧力でもあります。タイには現在、約3,100社の部品メーカーが存在し、そのうち日系は約1,400社、中国系は約190社と少数ですが、中国系は2017年末比で4倍に増加しています。現地では「中国製部品は日系より2~3割安く、(日系企業の中には)撤退や事業縮小に追い込まれる所も出てくる」との指摘もあります。トヨタの決断は、東南アジア全域での日系供給網(ひいては日本の系列システム)の在り方に大きな転機をもたらす可能性があるのです。