【事例分析】アジア太平洋 M&A 月次レビュー(2025年2月)

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2025年2月、APAC(アジア太平洋地域)における日本企業の M&A 件数は23件だった。取引類型別では買収が4件、出資が9件、売却が2件、一部譲渡が4件、その他が4件となっている。国別ではシンガポールが最大であり(6件)、インドネシア(3件)が続いた。

大型案件としては、三井物産が、鉱山大手リオ・ティントが開発・運営するオーストラリアのローズリッジ鉄鉱石事業の40%の権益を取得することで合意したと発表した。 ​この取引額は約8000億円と見積もられており、三井物産にとって過去最大級の投資案件となる。​ローズリッジ鉱山は、年間約7000万トンの高品質な鉄鉱石を生産する能力を持ち、アジア市場への供給拡大が期待される。​三井物産は、今回の権益取得により、資源分野での事業拡大と安定的な収益基盤の強化を図る。​また、リオ・ティントとの戦略的パートナーシップを深め、持続可能な鉱山運営や環境保護への取り組みを共同で推進する意向を示している。​一方、リオ・ティントは、今回の権益売却による資金を活用し、他の主要プロジェクトへの投資や株主還元を進める方針である。​この取引は、豪州政府の承認を経て、2025年内に完了する予定。

ベトナムにおける環境意識の高まり

丸紅は2025年2月7日、ベトナムのリサイクル企業Nguyet Minh 2 Trading-Services-Environment Joint Stock Company(NM2社)へ出資参画を発表。ベトナムは東南アジア最大の飲料缶消費国で、今後もアルミスクラップの増加が見込まれる。政府の拡大生産者責任(EPR)制度も導入され、リサイクルの重要性が高まっている。NM2社は飲料缶などのアルミスクラップを溶解し、環境負荷の少ない再生アルミを製造。その温室効果ガス排出量は新規生産の約3%に抑えられる。

丸紅は中期戦略「GC2024」でグリーン戦略を推進しており、今回の出資で資源循環型経済の実現と持続可能な社会への貢献を目指す。近年の環境意識の高まりにより、本事例のようなESG投資は拡大しており、今後も環境・リサイクル業界関連の投資が活発化することが予想される。

2)フィリピンでのエネルギー供給網の強化と低炭素社会の推進

東京ガスはフィリピン・バタンガス市の浮体式LNG基地(FSRU)を所有・運営するエフジェンLNG社の株式20%を取得した。これにより、同国のLNGインフラ整備とエネルギー供給の安定化に貢献する。本件は、東京ガスにとって初の海外LNG基地事業への出資となる。フィリピンでは電力需要の増加に伴い、政府がLNG導入を推進。国内ガス田の減少を補うため、LNG輸入インフラの整備が急務となっている。東京ガスは2018年からエフジェンLNG社の親会社と協力関係を築いており、今回の出資でLNG基地の運営ノウハウを活かし、事業拡大を図る。東京ガスは経営ビジョン「Compass2030」のもと、LNG事業のグローバル展開を加速。今回の出資を通じ、フィリピン市場でのエネルギー供給網の強化と低炭素社会の実現を推進する。

LNGは石炭や石油に比べて環境への負荷が少ないエネルギーであり、脱炭素社会の実現に貢献できる燃料として注目されている。東京ガスのフィリピン進出は、成長市場でのエネルギー供給網を確立する先行事例として注目される。

観測日取引類型対象国業界ヘッドライン
2/3買収タイ娯楽・余暇ラバブルマーケティンググループ<9254>新設子会社のインバウンド・バズ、タイTALONTRAVELからインバウンドメディア事業を譲受
2/3買収ベトナムヘルスケアあすか製薬HD<4886>、持分法適用関連会社で医薬品販売のベトナムHataphar社の株式を追加取得し子会社化
2/4出資シンガポール専門サービス統合型M&Aアドバイザリー事業のGIP、M&AコンサルティングのシンガポールAsia Business Creationと資本業務提携
2/5出資中国その他サービス学研HD<9470>、出版事業のポプラ社の中国現地法人と資本業務提携
2/6出資マレーシア金融ジャックス<8584>、カーディーラー・個人向けファイナンス事業のマレーシアCarsome Capitalの株式を49%取得
2/7一部譲渡シンガポール機械RYODEN<8084>、FA機器メーカーのシンガポールAkribis Systemsの日本法人の事業を譲り受け
2/7出資インド情報通信パーソルHD<2181>、インドで雇用主と人材紹介企業を繋ぐMaster Agency Platform提供の米Vahanに出資
2/10一部譲渡ベトナム電気機器トレックス・セミコンダクター<6616>、子会社でパッケージ製造工程展開のベトナムTVS社の持分を台湾PANJIT社に譲渡へ
2/12出資ベトナム資源丸紅<8002>、アルミリサイクル事業のベトナムNM2社に出資参画
2/13売却中国物流サンリツ<9366>、中国子会社の山立国際貨運代理(上海)の株式を上海宝京包装制品に譲渡
2/14合弁中国輸送用機器マークラインズ<3901>、中国の電子機器・ソフトウェアODMの華勤技術と合弁会社設立
2/14一部譲渡中国輸送用機器TOYO TIRE<5105>、中国のタイヤ生産子会社TOYO TIRE ZHANGJIAGANGの持分86%を譲渡
2/18買収中国情報通信エコミック<3802>、人事管理・給与計算アウトソーシング事業のエイチアールワンの中国子会社を買収
2/18その他オーストラリア卸売島津製作所<7701>、オーストラリアの販売会社2社を統合 「Shimadzu Oceania」を設立
2/19出資タイ金融伊藤忠商事<8001>とプレミアグループ<7199>、自動車販売金融会社のタイEastern Commercial Leasing Publicの株式取得
2/19出資フィリピンエネルギー東京ガス<9531>、浮体式LNG基地所有・運営のフィリピンエフジェンLNG社の20%株式を取得
2/19出資オーストラリア資源三井物産<8031>、豪Rhodes Ridge鉄鉱石事業の権益40%を取得 金額は約8000億円
2/20資金調達シンガポール食品コーヒー専門通販など提供のPOST COFFEE、シンガポール拠点のJoyance Asiaから資金調達を実施
2/21売却インドネシア不動産三菱HCキャピタル<8593>子会社の三菱HCキャピタルエステートプラス、インドネシア子会社の全株式をPT Daiwa Manunggal Logistik Properti等に譲渡
2/26出資シンガポール設備ヒビノ<2469>、シンガポールで音響・映像機器販売施工のSpectrum Audio Visualを子会社化
2/27合弁ベトナム不動産マーキュリアHD<7347>、不動産開発プロジェクト運営のベトナムGreen Land Binh An社の株式を49%取得
2/28一部譲渡シンガポール電気機器ショーケース<3909>、子会社ReYuu Japan<9425>の一部株式をシンガポールSeacastleに譲渡
2/28買収インドネシア輸送用機器ミツバ<7280>、子会社のPT.ミツバ・インドネシアを完全子会社化

※1…本稿におけるAPACは東アジア、南アジア、東南アジア(ASEAN他)、オセアニアの各国及び地域を指す

※2…案件一覧は観測ベースで記載

※3…用語の定義

買収…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の取得 / 出資…対象会社(事業)にかかる過半数に満たない支配権の取得 / 売却…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の譲渡 / 一部譲渡…対象会社(事業)にかかる一部支配権の譲渡

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