
日本の M&A は「事業承継型」が主役に
2024年、日本国内の M&A 件数は過去最多の4,700件(レコフデータ調べ)に達しました。これは2010年代から続く長期的な増加トレンドの延長線上にあり、リーマンショックや新型コロナによる一時的な減少を乗り越えて、M&Aは日本企業にとって一般的な経営戦略として定着しつつあります。
この増加の背景には、上場企業による事業ポートフォリオの見直し、スタートアップ買収、PEファンドの台頭など複数の要因がありますが、特に注目すべきは「事業承継型M&A」の急増です。中小企業のオーナー経営者の高齢化と後継者不足が深刻化する中、第三者への事業譲渡が現実的な選択肢として広がっています。
後継者不在がもたらす構造的課題
帝国データバンクの調査によれば、2024年時点で社長の平均年齢は60.7歳。60歳以上の経営者が過半数を占め、70代以上も25%を超えています。後継者不在率は52.1%と依然高く、特に地方や建設業などでは70%超の不在率も報告されています。
中小企業庁の推計では、2025年までに約245万人の経営者が引退適齢期に達し、そのうち127万人が後継者未定。いわゆる「2025年問題」が目前に迫っており、事業承継型M&Aはこの大量引退時代における社会的な解決策として注目されています。
黒字でも廃業? M&A が企業を未来につなぐ手段に
後継者不在による廃業は、黒字企業であっても避けられない現実です。2020年には「後継者不在」を主因とする倒産が452件、休廃業・解散は4万件超に達しました。こうした“もったいない廃業”を防ぐため、M&Aによる第三者承継が有力な選択肢となっています。
実際、後継者不在の黒字企業は全国に60万社以上あるとされ、買い手企業とのマッチングが活発化。現在の中小企業M&A市場は「売り手市場」とされ、複数の買い手候補から選べる状況も生まれています。
承継の選択肢は多様化、脱ファミリー化が進行
事業承継の形態は、親族内承継、社内昇格、社外招聘、第三者譲渡(M&A)など多岐にわたります。帝国データバンクの2024年調査では、「内部昇格」が36.4%で初めて「同族承継」(32.2%)を上回り、M&Aや外部招聘を含む「脱ファミリー承継」が約64%を占める結果となりました。
これは、オーナー経営者の意識が「血縁にこだわらず、最適な承継策を選ぶ」方向へシフトしていることを示しています。事業の継続と従業員・取引先の保護を重視する姿勢が広がり、M&Aは単なる売却ではなく、企業の未来を託す戦略的な決断となりつつあります。
M&A 成功の鍵は「専門家選び」と「準備の早さ」
事業承継型M&Aを成功させるためには、以下の要素が重要です:
- 早期の準備と計画立案:業績が安定しているうちに、後継者候補や買い手候補と出会う機会を設けることが理想です。
- 信頼できる専門家の活用:独立系アドバイザーは中立的な立場から、企業価値評価・買い手選定・交渉支援を行い、経営者の想いに寄り添った提案が可能です。
- 複数候補の比較検討:価格だけでなく、企業文化の相性やPMI(統合プロセス)への理解も含めて総合的に判断することが重要です。
- 従業員・取引先への配慮:事業承継は人に関わるテーマでもあり、社内外への丁寧な説明と信頼構築が欠かせません。
アドバイザーか、あるいは仲介か?選び方と注意点
M&A 支援を行う専門家の関与形態には大きく、「仲介」と「FA(ファイナンシャルアドバイザー)」の二つがあります。仲介とアドバイザリーの最大の違いは、誰の利益を代理するかという点にあります。アドバイザリー型は、売り手または買い手のいずれか一方に専属で付き、その利益を守る立場を取ります。一方、仲介型は「双方代理」として売り手・買い手の間に立ちますが、これはグローバルスタンダードではほとんど見られない構造です。
なぜなら、仲介には構造的な利益相反が存在するからです。売り手オーナーにとっては一度きりの人生の決断であるM&Aですが、仲介業者にとっては、今後も継続的な取引が期待できる買い手企業との関係の方が重要になりがちです。その結果、売り手の希望よりも買い手の条件に合わせて“落としどころ”を調整するインセンティブが働くことが少なくないことを理解しておく必要があります。
M&Aは企業の未来を託す重要な意思決定である一方で、仲介業者の選定を誤ると深刻なトラブルに発展するリスクもあります。近年、実際に複数の問題事例が報道されており、経営者として無視できない現実です。
M&A DX社:不適切な買い手紹介で登録取り消し
2025年1月、経済産業省はM&A DX社の「M&A支援機関登録」を初めて取り消しました。同社は、不適切な買い手であることを認識しながらルシアンホールディングス(後述)を含む譲渡企業に紹介し、M&Aを成立させたとされ、譲渡企業の資金を抜き取るなどのトラブルが多数報告されています。ずさんなデューデリジェンス、高額な手数料、情報開示の不透明性など、M&A仲介業者としての基本的責任を大きく逸脱した行為が問題視されました。
ルシアンホールディングス: M&A 後に資金吸い上げ、倒産続出
ルシアンホールディングスは、M&A仲介業者を通じて中小企業を買収し、買収後に資金を吸い上げて倒産に追い込むという悪質な手口が報道されています。買収された企業のうち11社が営業停止、5社が倒産。経営者には多額の個人保証が残され、従業員の雇用も守られませんでした。仲介業者は責任を負わず、創業者が泣き寝入りするケースも発生しています。
日本M&Aセンター:仲介最大手でも不祥事が発生
業界最大手の日本M&Aセンターでも、過去に成約件数を水増ししていた不正会計問題が発覚し、社会的な信頼を大きく損なう事態となりました。大手であっても、必ずしも透明性や中立性が担保されているとは限らないことを示す象徴的な事例といえるでしょう。
まとめ:事業承継は「まだ早い」ではなく「今から準備」
事業承継は、経営者にとって人生の大きな節目であり、慎重かつ戦略的な判断が求められます。「まだ早い」と思っているうちに選択肢が狭まり、望まぬ譲渡や廃業に至るケースも少なくありません。
M&Aは、企業と社員の未来を守る力強い手段です。まずは信頼できる専門家に相談し、自社にとって最適な承継の形を見つけることから始めてみませんか?
最後に:当社について
M&Aを検討し始めた際、まず相談する相手として顧問税理士/会計士が思い浮かぶ方も多いかもしれません。しかし、実際にはM&Aが顧問側の収益に直結しにくいことから、積極的な提案や支援が得られないケースも少なくありません。
また、銀行に相談することに対しても、「この会社は売却を考えている」と見なされ、今後の融資姿勢に影響が出るのではないかと懸念される経営者の声を多く耳にします。そのため、まずは利害関係のない独立系の専門家に秘密裏に相談し、方向性を整理した上で銀行など主要ステークホルダーに説明するという段取りを踏むことが考えらえ、実際にそうしたケースが多くあります。これは、経営者が安心して意思決定できる環境を整えるうえで非常に重要なポイントです。
だからこそ、利害関係のない独立系の専門家に、まずは秘密裏に相談することが重要です。Syntax Partnersは利益相反のないアドバイザリー型の支援に徹し、かつ、秘密厳守・初回相談無料でご相談を承っております。
「まだ本格的に動く段階ではないが、将来を見据えてまずは話だけでも聞いてみたい」という段階でも構いません。少しでも事業承継やM&Aに関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。