【コラム】M&A成功の鍵は「買い手起点」──M&A巧者アメリカから日本が学ぶべき戦略 

日本のM&A市場では、8~9割が売り手起点といわれている。つまり、案件が市場に出てくるのを待ち、売り手企業や売り手FAからの打診(ティーザー、IM配付)を受けてから是々非々で検討を始める──これが大多数の買い手企業にとって一般的な流れである。


M&A in the United States image

一方、M&A先進国である米国では事情がまったく異なる。米ゴールドマンサックスの調査(2017年~2023年)によれば、買い手起点(buyer-initiated)で最初に買収提案した企業は、60%以上の確率でディールを獲得している。さらに、その取引が「オークション」(入札)に進まず、相対取引となった場合には勝率が約70%に上昇する。

このデータは、米国企業にとって「競争が激化する前にターゲット企業へ自らアプローチする」ことがいわば戦略的常識であり、成長戦略の一環として積極的にM&Aを仕掛ける文化が根付いていることを示している。


翻って日本において買い手起点のM&Aが少ない背景には、オーガニック成長を重視する企業文化や、M&Aに割ける人的リソースの不足があるだろう。特に海外M&Aの文脈においては、買収ターゲットとなりうる主要プレーヤーの把握すら難しいという声も多い。

日本において代表的なM&A巧者として知られる日本電産(現ニデック)の永守重信氏は、「毎年、買収したい先のオーナーに手紙を書く」と度々語っている。これは理想的な姿勢であるが、多くの企業にとって現実に模倣することは容易ではないだろう。多くの場合、M&Aは本業の延長線上にあり、また専任チームを持たないケースも少なくない(他業務に忙殺されている経営企画部門、財務部門に対応を求められることが多い)。特に海外市場では、主要プレーヤーの把握すら難しいのが現実である。

日本企業は、相対ベースで買い手から買収交渉を仕掛けることを苦手とする一方、入札プロセスにおいても、コンセンサス形成を重視した協議・稟議制度により、海外企業と比べて検討に大幅に時間を要する傾向がある。結果として、そもそも「良い案件」がやってこない、あるいは千載一遇のチャンスと焦りから高いバリュエーションを提示せざるを得ず、減損──いわゆるM&Aの失敗──という結果を招いてはいないだろうか。

日本企業は入札においても、また相対交渉においても、スピードと戦略性に課題を抱えている。では、どうすればよいのか。答えの一つは、アドバイザリーを活用した能動的な案件オリジネーションである。海外市場でのターゲット探索や初期交渉、バリュエーションや条件交渉──こうしたプロセスを外部の専門家に委ねることで、リソース不足を補い、戦略的な買収を実現できる。

日本企業が取るべきアクションは次の三つである。

  • 自社戦略に合致する企業のリストアップ、アプローチ、売却意向の確認を能動的に行う
  • ターゲットとなる企業の株主・経営陣と中長期的な関係構築を意識する
  • 一連のプロセスにおいて外部専門家(M&Aアドバイザー)を活用する

M&A先進国である米国の常識を、日本企業も自らの成長戦略に取り込む時である。