
2025年にアジア太平洋地域(APAC)で日本企業が関与した情報通信領域のクロスボーダー M&A は65件となり、全業界の中で最も取引件数が多かった。 東南アジア・中国・韓国・台湾を中心に、ITサービス、クラウド、AI、コンテンツ、EC、小売DXなど多様な領域で取引が発生し、デジタル需要の拡大と事業モデルの転換が同時に進んだ一年となった。
シンガポール:デジタルサービス企業との協働とEXITが併存
シンガポールでは、ITサービス、データプラットフォーム、SaaS企業との協働や資本参加が進む一方、既存株主によるEXITも発生した。INCJは海洋データ・AI企業UMITRONの株式を同社経営陣へ譲渡し、ローカル主導での拡張フェーズへ移行した。デジタルマーケティングやB2B SaaS関連の案件も複数観測され、同国がAPACにおけるデジタル産業ハブとして機能し続けていることが示された。
インドネシア:コンテンツ×広告×SNSの成長に沿った投資が進展
インドネシアでは、デジタル消費市場の成長を背景とした資本参加が目立った。ベクトルは、IPコンテンツ企業bythenに出資し、SNSマーケティングとコンテンツ制作の強化を図った。同国はEC、ライブコマース、デジタル広告市場が重層的に拡大しており、消費者向けデジタルサービス分野が引き続き魅力的な投資領域となっている。
韓国:EC・アプリ領域の競争激化を背景に事業撤退が進む
韓国では、日系企業によるEC関連事業の売却が見られた。クルーズはEC事業子会社CROOZ SHOPLISTを韓国企業へ譲渡し、ローカル競争環境の激しさを踏まえた選択的撤退を進めた。韓国はモバイルアプリ・ECの両領域でローカルプレイヤーの競争力が高く、利益確保が難しい市場構造となっている。
ベトナム:オフショア開発能力を軸にITサービス提携が拡大
ベトナムでは、エンジニアリソースとシステム開発能力を背景に、ITサービス企業との協働が増加した。TISはITサービスプロバイダーNTQ社と資本業務提携し、APAC市場向けソリューション拡張とオフショア開発力の強化を同時に進めた。小売・外食向けソリューションなど業界特化型のvertical SaaS企業との連携も確認され、多様な産業でDX需要が集中した。
台湾:小売・外食向け業務システムへの需要増でSaaS投資が進む
台湾では、小売・外食などリアル産業の業務効率化に向けた投資が続いた。TISインテックグループのクオリカは、外食産業向けソリューション企業WiXtar社に資本参加し、APACでのリテール・外食DX需要の取り込みを進めた。
注目事例(2025年)
① INCJ → UMITRON(シンガポール)株式譲渡
AI・海洋データ企業の株主構成をローカル主体へ切り替え、拡張スピードを高めた象徴的事例。
② ベクトル(インドネシア bythen 出資)
IPコンテンツ×SNSマーケティングの高成長領域で、ASEAN市場接続力を強化。
③ TIS(ベトナム NTQ社との資本提携)
ベトナム開発力の活用と、APAC向けSaaS展開を同時に狙った協働モデル。
2025年情報通信M&Aの構造的示唆
1. SaaS・ITサービスは「日系×ASEAN」の中核領域へ
シンガポール(市場アクセス)、ベトナム(開発力)、インドネシア(消費市場)の組み合わせが定番化。
2. コンテンツ×広告×SNSが高成長の中心に
ECとSNS広告が完全連動する市場では投資が厚くなる傾向。
3. 中国・韓国では撤退・縮小が合理的選択に
ローカル競争力の高さとコスト構造を踏まえた再設計が進む。
4. 情報通信は各産業DXの“上流レイヤー”として最重要領域に
製造、物流、小売、外食、公共領域までDXが浸透し、ITサービス需要は広範囲に伸びる。
2026年の情報通信領域で注目すべきDXテーマ
2026年のAPAC情報通信市場では、2025年に形成されたテーマが一段と深化し、以下の領域が重点分野となる。
1. Generative AI の実装高度化
営業・顧客対応・ソフトウェア開発・品質管理など、産業の“現場”でAI利用が拡大。
2. SaaS × オフショア開発(ベトナム)の融合モデル拡大
受託開発から、ベトナム企業との共同SaaS展開へ進化。
3. 小売DX・OMO(Online Merges with Offline)の本格普及
在庫最適化、CRM統合、決済基盤、リテールメディアの需要が増大。
4. ロジスティクスDX(倉庫・配送の可視化・自動化)
在庫可視化、WMS/TMS統合、越境EC物流のデジタル化が進む。
5. サイバーセキュリティ・データガバナンスの強化
APAC全体の規制多様性を背景に、データ移転・個人情報保護・OTセキュリティへの投資が増加。
6. Vertical SaaS(外食・サービス産業向けDX)の成長
キッチンオペレーション、複数店舗管理、発注・在庫管理のSaaS化が進行。
7. Green Digital(環境・エネルギーのデジタル化)
再エネ予測AI、EMS、省エネ管理クラウドなど、環境データの統合管理需要が増大。
関連記事
【業界横断・完全版】アジア太平洋 クロスボーダー M&A レビュー:業界別・国別で読む2025年の動向と2026年への示唆