
2025年にアジア太平洋地域(APAC)で日本企業が関与した物流業界のクロスボーダー M&A は17件となった。
タイ・中国・インドネシア・ベトナムを中心に買収・持分譲渡・事業統合が発生し、東南アジアにおける物流網再編と、フォワーディング・倉庫・コールドチェーンなど各領域の強化が鮮明に表れた一年だった。
タイ:フォワーディング・現地法人統合を通じた基盤強化
タイでは複数の取引が確認され、販売網・事業統合・フォワーディング強化が主要テーマとして浮上した。
日鉄物流は、タイ現地法人2社を統合し、国内外の事業運営を整理。増加する製造業向け物流に対応するため、ガバナンス統合と運営効率化を狙った動きといえる。
福山通運は、フォワーディング事業を展開するRenown Transport(タイ)を買収し、航空・海上輸送のネットワークを補強した。アセアン域内の多拠点展開を進める日本企業にとって、バンコクを起点とする東南アジア輸送は依然として重要な位置付けである。
中国:貨物代理・ローカル物流の再編が進行
中国では事業譲渡・組織再編が複数見られ、競争構造の変化に対応するための再配置が進んだ。
サンリツは、上海の貨運代理子会社山立国際貨運代理(上海)をローカル企業へ譲渡し、中国でのフォワーディング事業をスリム化した。中国ではローカル企業の競争力が高まり、価格競争が激化している領域である。
一方で、中国の物流市場は巨大であるため、機能ごとに「撤退」と「再投資」を分ける動きが多く、2025年も事業ポートフォリオの見直しが継続した。
インドネシア:現地物流企業の買収による輸配送力の強化
インドネシアでは、SBSホールディングスがPT TANGGUH JAYA PERKASAを買収し、現地輸配送網を強化した。
インドネシアは
- 都市間物流の非効率
- ラストマイルの複雑性
- EC拡大による配送量増
といった構造的課題がある市場であり、現地企業の取り込みは競争力確保に直結する。
日本企業は、現地企業のネットワーク・ドライバー供給・倉庫網を吸収する形での成長を志向する傾向が強まっている。
ベトナム:コールドチェーンの拡大と高品質物流への需要増
川西倉庫は、ベトナムの冷凍倉庫業TPL社を買収(51%) し、コールドチェーン物流を強化した。
同国では食品・外食・ECの拡大に伴い、温度管理が求められるサプライチェーンが急成長している。
また、輸出志向型の製造業拡大により、倉庫品質・動線管理の高度化ニーズも高まっている。
ベトナム物流は“量の伸び”は大きいが“質の高度化”が追いついておらず、日本企業にとって参入余地が広い分野となっている。
その他地域:マレーシア・フィリピン・ASEANで補完的投資
集計データでは、タイ・ベトナム・インドネシア以外にも、
- マレーシアでの案件
- フィリピンでの輸送系再編
などが観測され、ASEAN全体で物流機能の再配置が進んでいる。
特に2025年は、拠点統廃合・持分譲渡・フォワーディング強化といった「基盤のつくり直し」に関する案件が多く、物流領域全体が“再編フェーズ”にあることが確認できる。
2025年の物流M&Aに表れた構造的トレンド
以下は2025年の17件から導かれる、業界横断的な示唆である。
1. ASEANの需要増に対して“現地ネットワーク獲得”が最速の手段に
買収の中心は、
- フォワーダー
- 倉庫企業
- 冷凍・冷蔵倉庫(コールドチェーン)
- 輸配送会社
であり、既存ネットワークの獲得による市場参入速度の向上が主目的とみられる。
2. 中国市場では“選択的縮小”が現実解に
コスト競争の激化・ローカル企業の強さから、日本企業は
- 譲渡(サンリツ)
- 統合(複数事例)
など、“選択型の撤退”を進めている。
3. タイ・ベトナムでは製造業集積が物流需要を底支え
特にベトナムのコールドチェーン強化は象徴的で、
製造・食品・ECの三領域が物流高度化の牽引役となっている。
4. フォワーディング・倉庫・コールドチェーンに再編余地が大きい
物流は「量の拡大」が先行する市場であり、
- 拠点統合
- 事業譲渡
- M&Aによる能力補完
が続く環境にある。
2025年は、その“前半フェーズ”として見ることができる。
注目事例
日鉄物流(タイ)
タイ現地法人2社を統合し、ASEANでの物流基盤を強化。
福山通運(タイ)
Renown Transport買収によりフォワーディング網を拡大。
川西倉庫(ベトナム)
冷凍倉庫企業TPL社を買収し、ベトナムでコールドチェーンを強化。
SBS HD(インドネシア)
現地物流会社を買収し、輸配送力を獲得。
サンリツ(中国)
中国貨運代理事業をローカル企業へ譲渡し、競争環境に合わせて事業調整。
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