アジア太平洋 M&A 事例 月次レビュー(2025年1月)

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2025年1月、APAC(アジア太平洋地域)における日本企業の M&A 件数は23件だった。取引類型別では買収が3件、出資が14件、売却が4件、一部譲渡が1件、その他が1件となっている。国別ではシンガポールが最大であり(6件)、インドネシア(3件)が続いた。

大型案件としては、双日が豪州最大級のインフラ開発企業を約470億円(4.7億豪ドル)買収すると発表した。不動産開発グループであるLendleaseレンドリース Corporation Ltd(以下「Lendlease」)のグループ企業で、インフラ開発を行うCapella Capital Partnership(以下「Capella」)およびCapellaが管理する資産保有会社の株式を、豪州当局の許認可などの手続きをもって2025年6月までに取得を完了し連結子会社化する。本取引により双日はエネルギー・社会インフラ領域などにおける大規模プロジェクトの開発機能を強化し、案件の組成から資産管理まで一貫して手がけるビジネスモデルへ転換することを目指す。Capellaは、豪州の大手不動産開発グループの一つであるLendleaseとの協業実績を有しており、これまで病院や幹線道路、ライトレール(LRT)、地下鉄などのエネルギー・社会インフラ分野の大規模開発において、案件の組成からプロジェクトを主導するとともに、財務アドバイザーとしての役割を担ってきた。2009年の設立以降、プロジェクト受注実績は3.4兆円(340億豪ドル)を超え、2024年12月時点で豪州内において10件以上の社会インフラ開発プロジェクトを実行している。

目立つ売却事例

2025年1月は、売却件数が買収(※マイノリティ出資を除く)件数を上回った。

オリックスは、持分法適用会社であるGreenko Energy Holdings(以下「Greenko」)の全株式を、同創業者が設立した次世代エネルギー事業会社AM Green B.V.(以下「AMG」)の 100%子会社である AM Green Power B.V.に譲渡するとともに、AMGの100%親会社である AM Green (Luxembourg)S.à.r.l(以下「AMG Lux」)が発行する転換社債を引き受けることを決定し、株式売買契約および転換社債引き受けに関する契約を締結したと発表した。Greenko は、インドの大手再生可能エネルギー事業者を傘下に持ち、インド国内で太陽光発電、風力発電、水力発電など、設備容量合計7.3GWの稼働中プロジェクトを運営するほか、大型の揚水発電の開発を進めている。
オリックスは2021 年 3 月に Greenko へ出資し、事業成長を支援してきましたが、このたび、キャピタルリサイクリングの一環として、今後の脱炭素社会実現に向けて高い成長が見込まれる次世代エネルギー分野へ投資するため、当社が保有する Greenkoの全株式を売却し、同時に資金の一部を AMG Luxへ再投資することとした。

本事例のように脱炭素といったマクロ的テーマ、あるいは産業、地政学的動向を踏まえたポートフォリオの見直し、Exit(売却)を伴う戦略的な再配分(=キャピタルリサイクリング)が推進されることが日本企業によるM&A/海外投資のあり方として期待される。

観測日取引類型対象国業界ヘッドライン
1/6出資シンガポール情報通信INCJ、水産養殖向けデータサービス提供のシンガポールUMITRONの全保有株式を同社経営陣に譲渡
1/8その他タイ物流日鉄物流、タイ現地法人2社を事業統合
1/8出資シンガポール輸送用機器住友三井オートサービス、シンガポール拠点のカーシェア・レンタカー事業のTribecarに出資
1/8買収フィリピン資源住友金属鉱山<5713>、フィリピン子会社のコーラルベイニッケル社を完全子会社化
1/10買収タイ輸送用機器ニチダイ<6467>、タイ子会社のNICHIDAIとTHAI SINTERED MESHを合併
1/10出資シンガポール娯楽・余暇伊藤忠商事<8001>、没入体験型エキシビション展開のシンガポールNEON Groupと資本業務提携
1/10出資台湾機械新明和工業<7224>、台湾子会社を通じて機械式駐車設備メーカーの同国嘉ギョク機械を子会社化
1/15出資シンガポール電気機器デンカ<4061>、 CVCファンドを通じてウェアラブル電子聴診器開発のシンガポールAevice Healthに出資
1/15出資韓国金融GFA<8783>、韓国で釜山デジタル資産取引所「BDAN」運営の釜山デジタル資産取引所の一部株式取得へ
1/16出資台湾電気機器TOPPANホールディングス<7911>、台湾子会社の凌巨科技の全保有株式を現地企業に譲渡
1/20出資インドネシア情報通信ベクトル<6058>、インドネシアのIPコンテンツスタートアップのbythenと資本業務提携
1/20売却インドエネルギーオリックス<8591>、インドの大手再生可能エネルギー事業会社を傘下に持つGreenko Energy HDの全株式の譲渡等を発表
1/20売却韓国情報通信クルーズ<2138>、子会社でEC事業のCROOZ SHOPLISTの全株式を韓国MEDIQUITOUSに譲渡
1/21出資インド機械島津製作所<7701>、インドの計測機器と医用機器の販売会社2社を統合
1/21売却シンガポール専門サービスネオキャリア、シンガポール子会社で人材紹介事業のReeracoen Groupを売却
1/22出資ベトナム情報通信TIS<3626>、ITサービスプロバイダーのベトナムNTQ社と資本業務提携
1/22出資台湾情報通信TISインテックグループのクオリカ、外食産業向けソリューション企業の台湾WiXtar社に資本参加
1/23売却中国情報通信ソリトンシステムズ<3040>、中国子会社で通信情報機器等SI事業の索利通網絡系統(上海)の全持ち分を譲渡
1/28出資インドネシア金融独立系ベンチャーキャピタルのW、インドネシア人移民労働者向けにオンライン専用銀行提供のYourpayへ投資実行
1/29出資シンガポール娯楽・余暇シンガポールを拠点に課題解決ゲームプラットフォーム展開のDigital Entertainment Asset、ZUU<4387>子会社の組成ファンドから資金調達を実施
1/30一部譲渡インドネシア機械オルガノ<6368>、インドネシア子会社のPT Lautan Organo Waterの一部保有株式を合弁相手の子会社に譲渡
1/31出資フィリピン情報通信大阪ガス<9532>子会社のオージス総研、フィリピンで基幹業務システム(ERP)導入・運用支援のFasttrack Solutionsグループの全事業を取得
1/31買収オーストラリア公共サービス双日、豪州最大級のインフラ開発企業を買収

※1…本稿におけるAPACは東アジア、南アジア、東南アジア(ASEAN他)、オセアニアの各国及び地域を指す

※2…案件一覧は観測ベースで記載

※3…用語の定義

買収…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の取得 / 出資…対象会社(事業)にかかる過半数に満たない支配権の取得 / 売却…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の譲渡 / 一部譲渡…対象会社(事業)にかかる一部支配権の譲渡

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