APAC(アジア太平洋) M&A 事例 月次レビュー:2024年12月

2024年12月、APAC(アジア太平洋地域)における日本企業の M&A 件数は24件だった。取引類型別では買収が8件、出資が8件、売却が5件、一部譲渡が1件、その他が2件となっている。国別では中国が最大の6件だったがうち4件は売却案件であり、ベトナム(4件)、インドネシア(3件)が続いた。

大型案件としては、海外通信・放送・郵便事業支援機構によるシンガポールを拠点に東南アジア及びインドを対象地域として投資を行うファンド「BEENEXT ASIA FUND2」への最大280万米ドルのLP出資、スターゼンがオーストラリア牛肥育事業のBROAD WATER DOWNSを傘下に持つYORKRANGEを59.4百万豪ドルで買収することを発表した。

1)タイ

化粧品大手のコーセーは、化粧品・フレグランス販売などのPURI CO.,LTD.(以下、PURI社)の 79.89%の株式取得を発表した。PURI社は、化粧品、フレグランスの販売、スパ、ウェルネス事業を扱っており、タイを中心に化粧品ブランド「PAÑPURI(パンピューリ)」を展開している。コーセーは、外部との連携や外部アセットの活用を進めることで、ブランドポートフォリオの拡充やグローバルでの事業成長を目指しており、本件M&Aによりグローバル戦略を加速させ、ASEAN・インド市場での存在感の確立を図る。

PURI社はタイを拠点とするPE(プライベートエクイティファンド)であるLakeshore Capitalのポートフォリオの一社であった。今後、東南アジア経済の成熟化の過程でPEの存在感もより高まることが想定され、日本企業がM&Aを検討する際の売り手候補先の一つとして注目に値する。

2)ベトナム

ベトナムでは引き続き情報通信(IT)領域において、日系企業によるM&Aが複数観測された。

ベトナムを中心としたITオフショア開発事業を展開するハイブリッドテクノロジーズは、IT支援事業のベトナムNGS Consulting Joint Stock(以下NGSC社)の40%の株式取得にかかる基本合意書の締結に至ったことを発表した。取締役の指名権を持つことなどの条件を定めることで、実質支配基準によるNGSC社の連結子会社化を見込んでいる。

対象会社のNGSC社は、ベトナム国内でITコンサルティング、開発・導入支援、トレーニングやオペレーションサポートなど総合的なIT支援事業を展開している。ハイブリッドテクノロジーは顧客に提供するソリューションの拡大、及び日本国外マーケットへの進出を目指しており、また日本国内への事業展開を目指しているNGSC社にとってもハイブリッドテクノロジーが有する事業ネットワークとの協業が有効に機能すると見込まれ、成長戦略を相互にサポートできる有力なパートナーとなることを目指す。

また、大手業務用厨房機器メーカーのホシザキは、ベトナムにおいて産業用冷蔵・食品加工設備製造販売を行うASIA REFRIGERATION INDUSTRY JOINT STOCK COMPANY (以下、ARICO 社)の51%の株式取得を発表した。ベトナムにおけるコールドチェーンの発達を踏まえ、更なる事業成長に寄与するM&Aと位置付けられる。

ホシザキは海外事業の更なる成長を目指し、売上高および市場シェアの拡大に注力しており、特に成長が期待されるベトナムおよび東南アジア市場での商圏拡大に積極的に取り組んでいる。ARICO 社は、ベトナムにおけるフード加工業界において多くの実績を有し、産業用冷蔵及び食品加工設備の製造技術に強みとしている。ホシザキは ARICO 社の株式を取得することで、同社の市場知識、製造技術、製造拠点を活用しながら、東南アジア向け当社ブランド業務用冷蔵庫の生産拠点を設置し、これによりベトナムおよび東南アジア地域における製造基盤を強化し、更なる事業拡大を目指す。

観測日取引業界ヘッドライン
12/4買収オーストラリア食品スターゼン<8043>、牛肥育事業の豪BROAD WATER DOWNSを傘下に持つ豪YORKRANGEを買収
12/6売却フィリピン機械ユニバーサルエンターテインメント<6425>、フィリピン孫会社のAsiabest Group Internationalの全株式を譲渡
12/9資金調達ベトナム情報通信ベトナムで事業者向け食材Eコマース展開のKAMEREO、シリーズBで資金調達を実施
12/9出資香港情報通信DeNA<2432>、パブリッシュ事業の香港ファイブクロスと資本業務提携
12/9売却中国化学ニイタカ<4465>、中国子会社の新高(江蘇)日用品の全出資持分を中国嘉徳生物科技(江蘇)に譲渡
12/10出資ベトナム情報通信SBIホールディングス<8473>とベトナムのFPT社、GPUクラウドサービス提供のFPTスマートクラウドジャパンへの出資を検討
12/10買収タイ化学コーセー<4922>、化粧品・フレグランス販売などのタイPURIを買収 79.89%の株式取得
12/11買収シンガポール金融オリックス<8591>、リース事業のORIX Leasing Singaporeを完全子会社化
12/11一部譲渡オーストラリアエネルギーINPEX<1605>、豪州AC/RL7鉱区一部権益譲渡について発表
12/11出資インドネシア情報通信ラクス<3923>、会計を中心とするERP SaaS「Accurate」提供のインドネシアCPSに出資
12/13買収インドネシアエネルギー住友商事<8053>、鉱山向け大型ポンプレンタル事業のPT. Resource Equipment Indonesiaを買収
12/13買収インドパルプ・紙レンゴー<3941>子会社のトライウォール、重量物包装資材メーカーのプロンク・インド社を買収
12/16出資ベトナム情報通信ハイブリッドテクノロジーズ<4260>、IT支援事業のベトナムNGS Consulting Joint Stockの株式取得へ
12/19買収ベトナム機械ホシザキ<6465>、産業用冷蔵・食品加工設備製造販売のベトナムARICO社を買収 51%の株式取得
12/20出資シンガポール金融クールジャパン機構、デジタル金融プラットフォーム事業のシンガポールFunding Asia Groupに出資
12/20出資インドネシアエネルギー四国電力<9507>、再エネ発電事業者のインドネシアPT Hero Global Investmentに出資
12/23合弁香港金融日本アジア投資<8518>、アクセラレータープログラム企画の香港Brinc Groupと合弁会社を設立
12/23買収中国医薬品塩野義製薬<4507>、中国平安保険(集団)子会社との合弁会社2社を完全子会社化
12/24売却中国化学住友化学<4005>、大型液晶ディスプレイ(LCD)用偏光フィルム事業の中国子会社2社を譲渡
12/25売却中国ガラス・土石太平洋セメント<5233>、中国子会社の大連小野田水泥の全持分を吉林省鵬霖実業(集団)に譲渡
12/25売却中国食品ダイドーリミテッド<3205>、中国子会社の上海紐約克服装銷售の全出資持分を譲渡
12/26出資インド輸送用機器スズキ<7269>、バイオガス・プラント設置・運営管理の印NDDB Mridaに出資
12/27買収中国医薬品ニプロ<8086>中国子会社の尼普洛貿易(上海)、同国の透析用RO装置製造の純潔科技の70%の株式取得
12/27出資シンガポール金融海外通信・放送・郵便事業支援機構、「BEENEXT ASIA FUND2」に最大280万米ドルをLP出資

※1…本稿におけるAPACは東アジア、南アジア、東南アジア(ASEAN他)、オセアニアの各国及び地域を指す

※2…案件一覧は観測ベースで記載

※3…用語の定義

買収…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の取得 / 出資…対象会社(事業)にかかる過半数に満たない支配権の取得 / 売却…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の譲渡 / 一部譲渡…対象会社(事業)にかかる一部支配権の譲渡

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