アジア太平洋 M&A 事例 月次レビュー(2024年11月)

2024年11月、APAC(アジア太平洋地域)における日本企業の M&A 件数は21件だった。取引類型別では買収が8件、出資が10件、売却が3件となっている。国別ではベトナムが最大(5件)であり、シンガポールとオーストラリア(4件)が続いた。

大型案件としては、極東開発工業がオーストラリアの特装車メーカーSTG Global Holdings Pty Ltdの約101億円相当の買収、商船三井がシンガポールを拠点にアジア投資を行う物流ファンドへの合計約300億円相当の出資を発表した。

1)ベトナムにおける日系大手食品商社の投資拡大

ベトナムでは日系食品商社大手によるM&Aが複数観測された。旺盛な現地消費者市場の拡大を背景にしたものと見られる。

大手酒類卸の日本酒類販売は15日、ベトナム卸売事業者2社の株式取得を各75%取得し、連結子会社化すると発表した。ベトナムのホーチミンにある酒卸売会社2社を連結子会社化したと発表した。海外法人を対象とした株式取得は同社初となる。対象会社2社は「333(バーバーバー)」ブランドで有名なベトナムビール最大手、サイゴンビール・アルコール飲料総公社(サベコ)の商品を主に扱っている。成長著しいベトナム市場において現地の有力ディストリビューターをグループ化することにより、相互のノウハウを共有し、日本産酒類・食品の輸出先拠点として当社グループの海外事業拡大に繋げていく方針。

また、大手食品卸の加藤産業は8日、ベトナムの連結子会社である Nam Khai Phu Service Trading Production Co., Ltd.が実施する増資を引き受けることを決議した。約6億円相当の増資を引き受け、増資後の資本金は約16億円となる。本取引により、当該ベトナム子会社の資本金は加藤産業の資本金の 100 分の 10 以上に相当する特定子会社となる。加藤産業は2013年にベトナムの食品卸事業に進出。以降、2016年、2021年、2023年にそれぞれ現地企業をM&Aを通じて子会社化している。本取引により自己資本の増強により経営基盤の強化を図るとしており、成長が見込まれるベトナム市場に一層注力していく方針とみられる。

2)シンガポールはアジアの金融ハブとして高いプレゼンス

シンガポールでは日系大手事業会社・金融機関によるファンドへの資金提供が観測された。いずれも、シンガポールの金融ハブとしてのアジアに跨る情報及び知見の集積を活用した、今後のアジア展開への橋頭保としての位置づけを狙いとしていることがうかがえる。

商船三井はシンガポールに本社を置くキャピタランド・インベストメント(CLI)への出資を発表。CLIが運用する東南アジア初の物流不動産投資ファンドに1億3,000万シンガポールドルの出資を行い32.5%の出資持分を取得する。同ファンドはタイのバンコク首都圏に、延床面積19万平方メートルを超える同国最大の自動格納・検索システムを備えた常温・冷蔵冷凍倉庫の建設を進めており、2026年に初めに第1期が完成する。同社は、商船三井からの出資によって、同倉庫を含むさまざまな物流投資への展開を加速することが可能になるとしている。また商船三井子会社のダイビルはCLIのインド主要都市のビジネスパークに投資を行うファンドに1億3,100万シンガポールドルを出資し、25%出資持分を取得する。合計約300億円の大型資金調達となる。

また、日本政策投資銀行(DBJ)はシンガポールのKeppel Credit Fund Management運営ファンドへの出資を発表した。同ファンドは、APAC地域におけるインフラ系事業者・アセットを投資対象としており、メインスポンサーであるKeppelグループ、及び同ファンド投資チームが有する産業知見、事業ネットワーク等を活用しながら投資する方針。DBJは当ファンドへの出資を通じ、APAC地域におけるインフラ分野に対する先進的なノウハウを獲得し還元することで、東南アジアの大手財閥を主とした投融資業務の深耕、及び日系企業がAPAC地域で行うインフラ投資取組での連携機会を拡大することを目指す。

日付取引業界ヘッドライン
11/1出資シンガポール金融日本政策投資銀行、シンガポールのKeppel Credit Fund Management運営ファンドに出資
11/5出資シンガポール金融シンガポールに本社を置くキャピタランド・インベストメント、商船三井<9104>から2億6100万シンガポールドルの資金調達に合意
11/5売却韓国エネルギーコスモエネルギーHD<5021>、韓国HD Hyundai Cosmo Petrochemicalの全保有株式を合弁先のHD Hyundai Oilbankに譲渡
11/8出資ベトナム食品加藤産業<9869>、子会社のベトナムNam Khai Phu Service Trading Productionの増資引き受け 特定子会社に
11/8買収シンガポール建設清水建設<1803>、内装工事会社のシンガポールGrandwork Interiorを買収
11/12買収オーストラリア輸送用機器極東開発工業<7226>、特装車メーカーの豪STG Global Holdings Pty Ltdを約101億円で買収
11/18買収ベトナム食品日本酒類販売、ベトナム卸売事業者2社の株式取得(各75%、連結子会社化)
11/19買収シンガポールヘルスケア国内外の医療機関経営支援事業展開のSBCメディカルグループHD、美容医療ブランド展開のシンガポールAesthetic Healthcare Holdingsを買収
11/22出資中国電気機器精工技研<6834>中国子会社の杭州精工技研、自動化機器・スマート製造装置開発の同国Anzhun社の第三者割当増資を引き受け持分法適用関連会社化
11/22出資ベトナム農業住商アグロインターナショナル、ベトナムの農業資材販売会社に出資参画
11/22売却タイエネルギーJERA、タイの太陽光IPP発電事業について保有する全株式を同国Gunkul Engineering Public Companyに売却
11/25買収オーストラリアエネルギーKPPグループHD<9274>子会社の豪Spicers、産業包装・食品包装卸売事業等のニュージーランドLeightonsの事業譲り受け
11/26買収韓国機械中北製作所<6496>、バルブ製造販売の韓国ACE VALVEを買収
11/26出資タイ食品フジ日本<2114>、タイ証券取引所上場のThai Wah Public Companyと提携 キャッサバでん粉製造販売事業に参入
11/27出資オーストラリアエネルギー大阪ガス<9532>、次世代集光型太陽熱システム開発の豪FPR Energyに出資
11/27出資台湾金融固定利回り投資オンラインプラットフォーム運営のファンズ、金融サービス提供の台湾Asia Money Fintech Companyの株式取得
11/28買収オーストラリア卸売業オプティマスグループ<9268>、自動車販売会社の豪Ferntree Gully Auto Salesを買収
11/28出資ベトナム情報通信ベトナムのITアウトソーシング企業のRikkeisoft、住友商事<8053>と資本業務提携
11/29売却ベトナムパルプ・紙丸紅<8002>、ベトナム子会社で段ボール原紙製造・販売のKOAをMeico Managementに譲渡
11/29買収インド情報通信NTTデータグループ<9613>子会社のNTTデータ、クラウドエンジニアリングサービス提供の印Niveus Solutionsを買収
11/29出資バングラデシュ卸売業三井物産、バングラデシュ大手財閥ACIグループ傘下でモビリティ関連事業を展開するACI Motors Limitedへ出資参画

※1…本稿におけるAPACは東アジア、南アジア、東南アジア(ASEAN他)、オセアニアの各国及び地域を指す

※2…案件一覧は観測ベースで記載

※3…用語の定義

買収…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の取得 / 出資…対象会社(事業)にかかる過半数に満たない支配権の取得 / 売却…対象会社(事業)にかかる過半数の支配権の譲渡 / 一部譲渡…対象会社(事業)にかかる一部支配権の譲渡

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